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おっちょこちょいのかよちゃん

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177 少年を連れて行った者

 
前書き
《前回》
 東アジア反日武装戦線の組織「さそり」との戦いを続けるかよ子達は杖を取られかけそうになったものの、かよ子の杖で砲弾を操る能力を行使、さらにのり子の人形を利用して彼らの異能の能力(ちから)を出す機械を破壊する。形勢逆転に成功し、捕えようとするも戦争を正義とする世界の主の声が聞こえる。それがかよ子の夢の中で聞こえた声と一致していると解ると、声の主は黒川達を離脱させてしまう。そして護符の奪取および領土の侵攻に失敗したエルデナンドは仲間のピサロと共に杯に狙いを定め・・・!? 

 
 レーニンは東アジア反日武装戦線の黒川芳正、宇賀神寿一、そして桐島聡を本部に戻した。
「レ、レーニン様!」
「構わぬ。私も少し奴等の事を甘く見ていた。だが、この地に奴等が近くなればなる程劣勢になるという訳だ」
 レーニンに取り込んだ少年が心の中で思う。
(本当に欲しいのか・・・)
 その時、一人の女性が現れた。
「レーニン様」
 妲己だった。
「妲己、何の用だ?」
「私や紂王様の屋敷で保護している少年についてですが」
「あの少年がどうかしたか?貴様に任せているのだから相談する必要もあるまい」
「いえ、私の所の遊び相手の娘を嫁にしてやるとは言ってもなかなか選べていないのです。もしかしたらと思い、今敵と協力している人間を誰か生け捕りにして嫁に迎えてやろうかと考えていた所です」
(少年・・・?もしかして・・・)
「それって藤木の事か?」
 レーニンの声が変わった。
「はあ?」
 妲己も声が変わったので変に驚いた。
「失礼。急に同化している少年が現れるのだ。構わぬ。但し、反撃に出られる可能性はあるぞ。気をつけよ」
「御意。それからもう一つ質問が」
「何だ?」
「レーニン様は氷の上で滑る遊びをご存じでしょうか?確か『すけーと』とか言っていましたが、あの少年がやりたいと言っているのです。必要な道具とかはありますか?」
「専用の靴がある。こちらで用意するので待っておれ」
「これはこれは、ありがとうございます」
 レーニンと同化する少年はこの時、確信した。
(スケート・・・。間違いねえ、藤木はこいつの屋敷の中にいる!)
 何しろスケートを好む男子と聞いて思い当たるのが背が高く、紫色の唇で学校では卑怯者として有名なあの男子しかいない。レーニンは別の場所へと移動する。砦を出て、工場のような所に辿り着いた。
(レーニン、何をする気だ・・・)
 工場でレーニンが機械の前で行う操作を少年は自分の事のように感じていた。終了のレバーを引くと、ベルトコンベアーから幾つものスケート靴が出てきた。そしてそれらは一足ずつ箱に収められる。30分程時間が経って作業が全て終わるとレーニンは二人の人間に箱入りのスケート靴を馬車に乗せて運ばせた。そしてレーニンは戻る。
「レーニン、スケート靴をなぜそんなに用意するんだ?」
「杉山さとしよ、妲己は保護している少年を哀れんだつもりでこの世界に連れて来た。事情を聞くと『向こうの世界』で想っていた娘に愛想を尽かされたとの事でな。妲己は今、自分の住む屋敷にてその少年を多くの遊女達と遊ばせて楽しく暮らさせているのだ。妲己はその遊女達を嫁にしていいとは言っているが少年はどうも気が多くて全く選べていないのだ」
「そういう事か・・・」
 レーニンは本部へと戻り、馬車を引いたスケート靴の運送者から靴の箱を貰い、それを妲己の元へ持って行き、渡した。
「これで楽しめるであろう」
「ありがとうございます。では失礼」
 妲己は去って行った。
(あの女の所に動けばな・・・)

 かよ子は東アジア反日武装戦線の組織「さそり」との戦いでまた疲弊してしまっていた。
(それにしてもあのレーニンって声・・・)
 かよ子はその声の主が夢の中で出てきた人物の声と同じであると既に確信している。もしあの夢が正夢だとしたら・・・。
(杉山君は赤軍達と協力してる・・・!?)
 かよ子はそうとしか考えられなかった。
「それにしても確かに藤木は長山の眼鏡で見せて貰った通り、今の生活に満足してるかもしれねえな」
 大野は推測した。
「確かにのお、儂もまる子とゆっくり温泉に入りたいもんじゃ!」
 友蔵は呑気に言った。
「だが、どうにせよ、その藤木君という少年は自分が人質になっている事や政府との取引の道具として利用されている事に気付いていないと考えられるな」
 椎名もそう推測する。
「でも、やっぱり、藤木君に本当の事伝えないと、駄目だよね?」
 かよ子は聞く。
「ああ、そうだな」
「私はそれでも藤木君を連れ帰さないとって思うんだ。さっきはおっちょこちょいしちゃったけど、藤木君が嫌だって言っても藤木君の言う事をあっさり聞き受けるなんておっちょこちょいはしたくない・・・!!」
「オイラも同じだブー!」
「アタシもだよ!あの逃げてばっかの卑怯者をガツンと言わせてやんなきゃね!」
「おお、まる子、カッコいいぞい!」
 友蔵が孫を褒める。
「えっへん!」
 まる子も褒められて少しいい気になっていた。だが、かよ子は藤木の事と同時にもう一つ自分の好きな男子の事が頭に浮かぶのだった。

 エルデナンドとピサロは杯を奪いに赤軍の人間と共に向かう。
「だが、女のガキも連れと共に動いているのが厄介だ。それに神を使う奴だから別の奴も連れて行きたかったんだがな・・・」
 山田義昭は本心では聖母マリアを召喚できる岡本公三も加えればアイヌの神とやらを扱う女と互角に戦えるはずなのだが、生憎岡本は別の仕事に回っている為、呼び寄せる事はできなかったのである。

 こちらは領土攻撃班の一員である杯の所有者の部隊。安藤りえ達は杉山さとしを追う為に進む。今は戦争主義の世界に占領された平原に来ていた。
(杉山君、あんた、赤軍に殺されたいの・・・?ホント、バカねっ!!)
 その時、銃弾が大量に飛んできた。
「何だ!?」
 幸い、ありや悠一達の武装の能力(ちから)が働いた為、まともに喰らう事はなかった。
「いい餌がお出ましだな」
「あの女のガキ、杯を持ってるぞ!」
 りえ達は顔を上げた。
「どれどれ・・・」
 軍の長ともいえる人物が顔を出した。頭は少し禿げており、ロシア人のような出で立ちだった。
「杯はレーニン様の手に渡っていないと聞いたが、これは丁度いい」
「これを貰おうって言うのっ・・・!?」
「それは勿論、このツェサレーヴィチ・コンスタンチンの名誉になるからな!かかれ!」
 ツェサレーヴィチ・コンスタンチンの兵がりえ達を砲撃する。普通の銃撃と異なり、火山のような爆発に電撃のような攻撃が来る。
「迎撃せぬと黒焦げになるぞ!」
「ち・・・!」
「冬田さん、私達を降ろして」
「え、ええ!」
 冬田は遠くでりえ達を降ろした。そして悠一はテクンカネを発動する。

 その頃、本部ではかよ子の母達がそれぞれの動向を確認していた。
「・・・む?」
「どうしたの、イマヌエル?」
「どうやら、安藤りえ君達が厄介な軍と相対したらしい。それに煮雪悠一氏の道具が私を呼んでいる。失礼するよ」
 イマヌエルは瞬間移動のように消えた。
「りえ・・・!!」
「りえちゃんとなると奈美子ちゃんのとこのありちゃんもいるはず・・・」
「そうね」
「イマヌエルが加勢しますとなりますと大丈夫でしょう。それに羽柴奈美子さんの次女の煮雪ありさんもアイヌの(カムイ)を操ります者ですから、形勢逆転の可能性もあります。現に東京で東アジア反日武装戦線の人間が杯を狙おうとしました時も」
 フローレンスは弁解する。
「しかし、本当はあまり私やイマヌエルが前線に出向きますのはあまり宜しき事ではありませんのですが」
「どうして?」
「この世界は私とイマヌエルが創り上げました世界あり、その創造主が倒されますとなると、この世界は完全に劣勢となり、滅亡は確実に近くなります。それに敵達は羽柴奈美子さんの甥の三河口健さんの能力(ちから)をそのまま複製しました機械を使っていますとなりますと・・・」
「イマヌエルにも危機が起きる・・・!?」
 まき子は懸念した。
「はい」

 りえは電撃に対して杯を向けた。雷を操る精霊が現れた。雷の精霊はツェサレーヴィチ・コンスタンチンの軍にそのまま電撃を返す。しかし、弾かれた。
「フハハハ、攻撃が通用するか!」
(いや、あの機械を持っているはず・・・。それを壊せればっ・・・!!)
 りえはそう思った。ありもアイヌの(カムイ)をタマサイで召喚した。男と女、二人の(カムイ)が生まれた。二人の神は五色の雲を作り出した。(カムイ)が黒い雲を投げる。
「な、何だ!?この暗闇は!?」
 黒い雲は闇となり、兵を飲み込んでいく。
「ちい、上手く行かぬか!」
 ツェサレーヴィチ・コンスタンチンは劣勢に感じるが、怯む訳に行かないと攻撃を続ける。みゆきがブーメランを投げて迎撃する。投げたブーメランから光線が出て爆発が起きる。だが、向こうも電撃と爆撃で攻撃した。
「おし、これで近づけるぞ!」
 だが、そこにまた新たに一名、現れた。
「貴様、機械を複数持ってるな?」
「イマヌエルさんっ・・・!?」 
 

 
後書き
次回は・・・
「同じ顔の女」
 ツェサレーヴィチ・コンスタンチンと交戦するりえ達にイマヌエルが加勢する。その闘いの果てはどうなるか。だが同じく杯の奪取を狙うエルデナンドとピサロも赤軍の山田と共にりえ達の元に着々と接近していた・・・!! 
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