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おぢばにおかえり

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第六十六話 好き嫌いその四十四

「よくないかもね」
「えっ、積極的にって」
「私はそうしてもいいけれど」
「あの、僕とてもそんなことは」
 阿波野君はお母さんにかなり驚いたお顔で答えました。
「出来ないです」
「そうなのね」
「はい、今で精一杯ですから」
「それじゃあ困るのよね」
「何が困るのか」
「わからないことがもう駄目なのよ」
「そうなの?」 
 言われてもわかりませんでした。
「私は」
「ええ。もう大学生なのにね」
「大学生なのが関係あるの」
「箱入り娘って訳でもないのに」
「教会にいて箱入り娘もないでしょ」
 私はすぐに返しました。
「それも」
「ええ。だから言ってるのよ」
「大学生なのにって」
「そう。随分色々な人とも会ってきているでしょ」
「それはね」
「それでこうしたことは全く気付かないし鈍いしで」
 随分な言われ様なのは私もわかりました。
「どうしたものかしらね」
「どうしたものって」
「高校で変わるかなって思ったら変わらないし」
 何がどう変わるのかも私もわかりませんでした。
「そんな中でいい子が来てくれてよかったわ」
「誰がいい子なのかわからないけれどとにかくね」
 それでもでした。
「お家には帰ったから」
「もう只今は言ったわよ」
 お母さんもお帰りなさいはです、二人共挨拶はしました。挨拶は忘れたらそれだけでよくないでしょう。
「それはね」
「違うわよ、もっとね」
「もっと?」
「そう、もっとその子とお話しなさい」
「阿波野君となの」
「そうしてあげなさい。お茶とお菓子出すから」
「有り難うございます」
 阿波野君はお茶とお菓子と聞いて笑顔で言いました。
「それじゃあ」
「千里のこと宜しくね」
「そうさせてもらいます」
「何で私のことを宜しくなのよ」
 このこともわかりませんでした。
 結局春休みの間ずっと阿波野君は神戸にいて毎日うちに来ました、そうして私にやたら馴れ馴れしかったです。


第六十六話   完


                    2020・7・30 
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