提督はBarにいる・外伝
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提督のBlackOps遍
訪問
伊良湖に情報収集を依頼して、3日。駄目元で頼んでいたんだが……
「まさか探り当てるとは」
「えへへ、やりました!」
と照れながらもVサインをしている。可愛い。
「で?問題の賊は何処の阿呆だ」
既に戦闘モードになりかけているのか、武蔵が強い口調で尋ねる。
「ブルネイから西に暫く行った所にある、リアウ諸島の島の1つみたいですね。小さな島で、島1つまるごと要塞化された中規模の鎮守府だと」
「そうなると、正面からの突撃は厳しいですね……」
「赤城さん、突撃する気だったの?」
「え!?突撃、駄目ですか?」
呆れたというより、ビックリした様子で赤城に尋ねる雲龍。赤城も今は空母とは言え元々は戦艦。その上血の気の多い司令官の下で過ごしてきたせいか若干……いやかなり、興奮すると武闘派ヤ〇ザの様な思考に傾きやすくなっていた。
「駄目に決まってんだろアホゥ。今回の目的はあくまで調査と是正勧告だ、それで相手に是正の意思が無ければ……って話なんだぞ?ハナからカチコミ掛けてどうするよ」
「でもでも、怒られて止める位なら海賊行為なんて最初からやらないっぽい」
「そうだよね。資源不足なら他の鎮守府に頭を下げるとか、他のやり方もあったハズさ」
「いや、そりゃそうなんだが……」
それでも、取り敢えずはカチコミしてもこっちが問題にされない体裁は整えないといかん。何しろカチコむとなれば、正々堂々と行こうが闇討ちしようが端から見れば完全な内ゲバ。それをマスゴミだの艦娘反対派の連中に嗅ぎ付けられでもしてみろ?矢面に立たされるのはウチ……最悪蜥蜴の尻尾にされかねん。
「ふむ、ならばどうする?是正勧告をするにしろ事前調査は必要だろうに」
「それならば問題ありません」
「霧島?何か策があるのか」
「ええ、勿論。提督の権利を使いましょう!」
どや顔でそう宣言する霧島に、提督を含めて『?』と首を傾げる一同。
「提督は、ブルネイに存在する大小様々な鎮守府の纏め役のお立場にいらっしゃいますよね?」
「そうだな」
「で、調べました所提督と同じ立場の方々には自分の担当する地方の鎮守府に限り、立ち入り調査をする権限が与えられているそうですよ?」
「あ~……何かあったなぁ、そんな制度」
イチイチ出向くのが面倒で、ウチに提督を呼び出して聞き取り調査(と、ロクでもない連中の捕縛)をしてたんだった。1度も使った事の無い制度だったもんで、すっかり忘れてたぜ。
「提督よ、流石にそれは……」
「仕事はちゃんとしてください?司令」
「てーとくさんはおマヌケさんっぽい?」
「流石に駄目だと思うよ?提督」
「…………職務怠慢」
「まぁ、今回は擁護も出来ませんね」
「すまん」
ちくしょう、ぐうの音も出ねぇ。
「兎に角、その制度を利用して堂々と件の鎮守府に入って、海賊行為の証拠を掴む。そういう事ですね?」
「だな。そうなると……」
「ふっふっふ、そういう事なら青葉にお任せです!」
「やっぱりいたよ」
「呼ばれなくてもジャジャジャジャーン!……って、ネタが古いですかねぇ?」
「ハ〇ション大魔王はちと古いな」
と、苦笑いを交わす一同。場を和ませるユーモアというのはどの様な場でも一定数必要だ。TPOを弁える必要もあるが、笑える余裕の無い職場に未来はないと言うのが提督としての信条でもある。
「メインの司令部での情報収集は俺と青葉。他の連中には鎮守府内の情報を探ってもらいたい」
「しかし……そんなに簡単に内情をばらしてくれるでしょうか?」
「そこはほれ、『馬車馬』に『ニンジン』を用意してやるのよ」
そう言って提督はニヤリと笑った。
---その日、日本国海軍ブルネイ地方分遣隊所属・第47号鎮守府にとある通信が入った。発信元はブルネイ第1鎮守府。ブルネイ地方に存在する日本国海軍の艦娘運営部隊・通称『鎮守府』の総纏めを担っている巨大組織からである。内容は至って単純、『そちらの鎮守府に内乱の疑いアリ。至急調査に向かう為、協力されたし』という物だ。当然連絡を受けた鎮守府は寝耳に水と大騒ぎ……かと思えば、淡々と『了解』の返信を送り返して来た。
「これは自分達がそんな事はしていません、との自信の現れなんですかね?」
「いやぁ。探られると痛い腹を探られたくないから、大人しくしとこうってトコじゃねぇの?多分」
移動用に引っ張り出してきた護衛艦を改装した指令船の甲板上で、件の要塞島を眺めながら煙草をふかす提督と青葉。何しろ相手は身内の組織相手に海賊行為をやらかしている連中。叩けば埃が出るどころか、犯罪の証拠がポロリと落ちる。ならば大人しく指示に従っているフリをして、無難に遣り過ごそうとしているというのが提督の見立てである。
「しかしまぁ、今回はよく金剛さんが大人しく送り出しましたね?」
「あ~、出がけまで散々ゴネたがな。何とか代わりを付ける事で納得されたよ」
「それが私、という訳ですね」
そう言って甲板に姿を見せたのは、鎮守府きっての提督LOVE勢でもあり錬度に於てもNo.2の実力者である空母・加賀である。
「あ~、成る程。加賀さんなら提督の護衛には最適ですか」
青葉も納得したのかしきりに頷く。最近、加賀は第二改装を受けて更にコンバート改装を受けた。その結果艦載機の搭載数は落ちたものの、索敵能力等の艦娘自身としての身体能力が向上。元々提督に鍛えられていた対人能力が飛躍的に伸びていた。更に、標準装備として元戦艦である膂力を活かす為か刀を妖精さんから授かった。これも当然の如くウチの特産品(?)の深海鋼製の刃に変更済みである。掠るだけでも深海棲艦と艦娘の両者に致命傷を与える刀を、バーサーカーの様な彼女に持たせる。これは敵対者にとってみればただの悪夢か悪い冗談だろう。事実、第二改装を施された後の加賀は陸上に於てではあるが金剛を圧倒するだけの実力を示して、第二秘書艦ここにアリと鎮守府内に知らしめていた。
※なお、負けた筆頭秘書艦が旦那に泣き付き一晩中慰められた(意味深)のは内緒。
「今回は事前調査だから、ドンパチはしねぇと言ったんだがなぁ」
「私は提督の盾よ。常に傍に控えて護るのが仕事」
「とまぁ、本人が張り切っててなぁ」
「盾?鉄砲玉の間違いでは?」
「頭に来ました、その首落としてあげるわ」
冗談半分に軽口を叩く青葉に、そう言って腰に差していた刀に手を掛け、鯉口を切る加賀。
「ヒェッ……」
「冗談に聞こえねぇから止めろ。何かお前嫉妬深くなってねぇか?」
「…………気のせいよ」
ぷいっとそっぽを向く加賀。しかしその耳は真っ赤に染まっている。ポーカーフェイスと言われる加賀の数少ない感情の変化の指標である。
「やれやれ、これから敵の懐に飛び込もうってのに緊張感がまるでねぇな」
「油断はしてませんよ?これは余裕って言うんです」
「そもそも、貴方の鍛えた私達がそこらの艦娘に負けるとでも?」
「……だな。杞憂だったわ」
艦娘達は弛んでいる様に見えるが、これは敵に対して力むでもなく臆するでもなく平常心。そもそも、提督が自ら納得のいくまで鍛え上げた精兵。その力を疑うのは彼女達にも自分自身にも失礼だ。提督は再び煙草を咥え、火を点ける。紫煙を深く吸い込み、フーッと吐き出した。
「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか……楽しみじゃねぇの?」
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