物語の交差点
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とっておきの夏(スケッチブック×のんのんびより)
具、そして池
空:ごちそうさまでした。
一穂「お粗末さま。レトルトのカレーなんて久しぶりに食べたけどなかなかよくできてるもんだね」
レトルトカレーとコンソメスープ(こちらは手作り)というお手軽メニューで昼食を済ませた一行。レトルトカレーということもあり1人1杯ずつではあったがそれでも空腹を満たすには充分だった。
ガサガサ
小鞠「ん?」
庭の茂みが揺れだしたことに小鞠が気づいた。
小鞠「れんげ、庭に何かいるみたいだよ?」
れんげ「あらホント」
狸「」ヒョコッ
やがて1匹の狸が這い出てきた。
樹々「わあ、狸だ」
れんげ「あの狸、家に棲みついてるん」
渚「家に?」
れんげ「そうなん。今では人獣水入らずの関係なのん」
ケイト「仲良しさんナンデスネー!」
空:その狸って飼ってるの?
れんげ「名前もつけましたけど」
葉月「どんな名前?」
れんげ「具」
なっちゃん「OH! サイケデリックネーム!」
れんげの話しにスケブ勢は興味津々である。
なっつん(なっちゃんの反応がウチと全く同じだ…。)
小鞠(このやり取り、前にも見たような…。)
蛍(奇遇ですねセンパイ、私もそう思っていたんですよ!)
小鞠(あ、やっぱり蛍も?ーーーって…。)
小鞠「なんで私の思考が読めるの!?」
卓「!?」ビクッ
蛍「あ、バレちゃいました?」
一方、のんのん勢は既視感に囚われていた。
れんげ「具は芸もできるん!」
朝霞「へえ、すごいですねー!」
れんげ「今からウチが口笛を吹くから具に注目してほしいのん!」
れんげ「」ピー!
具「」
スケブ勢はしばらく具を見ていたが、具はまったく動かなかった。
空(まるで具の周りだけ時が止まってしまったかのようだ・・・。)
渚(具が微動だにしない・・・!?)
木陰(これも芸なのかしら・・・?)
朝霞(“待て”ができる狸ですか、賢いですねえ。)
れんげ「」ドヤ!
れんげはすっかり得意顔である。
葉月「れんげちゃん、野生の狸に芸を覚えさせるなんてすごいわね」
れんげ「ウチと具はもうすっかり気心知れた仲なん」
渚「へえ、そうなんだ」
なっちゃん「そういや高嶺から聞いたっちゃけど、部長さんはそこにおるだけで猫が寄ってくるとげなね」
なっちゃんが同じ1年生の美術部員、小木高嶺から聞いたことを話し始めた。
ケイト「ソーナンデスカー?」
葉月「ええ。私もその場に居合わせたんだけど、餌付けも何もしていないのにものすごい数の猫が集まっていたのよ」
空:羨ましい…。
なっちゃん「そういうのも『気心知れた仲』っていえるとかいな?」
ひかげ「話しを聞く限りだと気心知れた仲だっていえるんじゃない?」
れんげ「ウチもひか姉と同意見なん。どれだけ動物に好かれているかが大事になってくるんなー」
木陰「それなら私だって森の中で蚊がたかってきたことあるわよ」
ひかげ「それは違うでしょ」
ひかげは『ないない』とばかりに手を横に振った。
木陰「でもどれだけ動物に好かれているかの話しでしょ?私、蚊に好かれているわけだし」
れんげ「で、その蚊をどうしたん?」
木陰「ばちん!」パン!
木陰は手を叩いた。
ひかげ(やっぱり違うやつだ…。)
れんげ「空閑っち、それは『好かれている』とは言えないん」
木陰「そうね、私も薄々気づいていたわ。蚊は私の血を吸いに来ただけで私も蚊が嫌だから叩いて潰しただけ」
木陰「動物と人間って分かり合えないものね」ハァ
ため息をつく木陰。表情に乏しい彼女だがどこか物憂げに見えた。
一穂「そろそろいいかな?出発するよー」
一穂が皆に言った。
ひかげ「14時30分かあ。思った以上に時間経ってたんだなー」
なっちゃん「ホントやね、あっという間ばい」
蛍「次は池に行くんでしたね」
れんげ「姉ねぇ、安全運転でお願いするん」
一穂「あいよー」
一行は再びトラック(の荷台)に乗り込んだ。
ー
ーー
ーーー
-池-
池にはれんげの家から20分ほどで着いた。
一穂「池まで道が通じとらんから少し歩くことになるけどいい?」
池の土手に軽トラを停めた一穂が言った。
朝霞「もちろんですよ!ありがとうございます」
土手を下ること数分、眼前に大きな池が見えてきた。
樹々「あら、ずいぶん広い池ねえ。まるで湖みたい」
れんげ「なっつんはここで“ヒカリモノ親方”を釣り上げたん」
空:ヒカリモノ親方?
なっつん「ウチの家の池に鯉がいたっしょ?あれのこと」
木陰「夏海ちゃんは鯉を飼っているのね。羨ましいわ」
なっつん「え、そうかなー?」
木陰「そうよ。だってその気になればいつでも鯉コクが楽しめるじゃない」
なっつん「そっち!?」ガーン
なっちゃん「空閑先輩、ヒカリモノ親方は観賞用ですけん…」
葉月(春日野先生のピーちゃんといい、なぜ皆は動物の話題になるといちいち食べる方向に話しを持っていくのかしら・・・?)
葉月は不思議に思った。
蛍「そういえばさっき樹々さんが『まるで湖みたい』って言ってありましたけど、池と湖の違いってなんなんですか?」
渚「実はね。湖や沼、池に明確な違いというものはないんだよ」
れんげ「そうなん?」
渚は頷くと『話せば長くなるんだけど』と前置きしてから話し始めた。
渚「環境省の定義によると湖は『水深が深く植物は湖岸に限られ、中央の深いところには沈水植物ーーー平たく言うと水草のことだねーーーが見られないもの』、沼は『湖より浅く、最深部まで沈水植物が繁栄するもの』、池は『通常、湖や沼の小さなものをいい、特に人工的に作ったもの』とされているんだ」
小鞠「じゃあ、水深が深くて水草が育たないのが“湖”で湖より浅くて水草が育つのが“沼”、湖や沼より小さくて人工的に造られたのが“池”なんですか?」
渚「そういうことになるね」
ひかげ「あれ?でもさー、ダム湖にはだいたい“〇〇湖”って名前がついてんじゃん。あれって池じゃないの?」
渚「うん。ダム湖は定義的には“池”なんだけど、池より大きいものが多いからという理由で“湖”に分類されているんだ」
空:曖昧でとても分かりにくい…。
渚「そう思うだろう?私も初めは分類の定義は水深かと思っていたんだけど、群馬県の菅沼は“沼”のくせに水深が一般的な沼よりもずっと深い92mもあって環境省の定義から外れているし、とにかく分かりにくいんだよ」
渚「だけど面積だけでいえばこの定義はしっかり守られているんだ」
一穂「ふーん」
渚「分かりやすいように紙に書き出してみましょうか」
そう言って渚は紙とペンを取り出した。
渚「まず湖の面積日本一は言わずと知れた滋賀県の琵琶湖で面積が269㎢、同じく沼は千葉県の印旛沼で9.4㎢、池は鳥取県の湖山池で6.9㎢、人造湖は北海道の朱鞠内湖で23.7㎢…と」サラサラ
渚「ね?きちんと定義どおりに分類されているでしょう?」
なっつん「おお、本当だ!」
渚「まあ実際のところは昔からの呼び名が環境省の登録名になったケースがほとんどみたいだし、分類の定義に囚われずもっと柔軟に考えていいんじゃないかと思うよ。昆虫の名前だってそういうことが多いしね」
渚「どうかな、蛍君。分かったかい?」
蛍「なるほど、よく分かりました。解説ありがとうございました!」ペコ
蛍は深々と頭を下げた。
渚「いえいえ、どういたしまして」
なっちゃん「相変わらず栗原先輩の知識量って凄かですよね」
渚「ビオトープ管理士を目指しているからね。これぐらい知ってて当然だよ」
渚「それにしてもこの池は自然との調和がとれていて実に美しいねえ。まさにビオトープのお手本みたいな池だよ」
ひかげ「栗ちゃん、この池が人工のものだって知ってたの?」
渚「蛍君の家にあったガイドマップを読んだからね」
小鞠「え、そうなの!?」
渚「うん、元は灌漑を目的として造られた溜池だったらしいね」
一穂「ウチも知らなかった…」
渚「一穂さん、ちょっと池の周りを散策してきていいですか?」
れんげ「ウチも行きたいん!」
ひかげ「私も!」
一穂「いいよー。ウチはここで昼寝しとくわ」
渚「ありがとうございます。行くよ、樹々君!」
樹々「はいはい」
渚は樹々たちと連れ立って散策に出かけた。
なっつん「そういえばウチ、釣竿持ってきてたんだった」
ケイト「Oh! ケイトも参加していいデスカー?」
朝霞「私も見学したいです!」
なっつん「いいよ!じゃあ軽トラに釣竿と網とバケツがあるから取りに行こうか」
そしてなっつんたちも釣りに行った。
小鞠「あっ、葉月さん!あっちに猫がいますよ!」
葉月「猫!?どこどこ?」
小鞠「こっちです!」
空:ワタシも行く…。
さらに小鞠たちも猫を追いかけ、グループを離脱した。
蛍「みんなバラバラになってしまいましたね」
なっちゃん「そげねー。空閑先輩は一穂さんと一緒に寝とるし」
卓「」ウン
蛍「夏海さんはどうします?」
なっちゃん「あたし?せっかくやしスケッチでもしようかねえ」
蛍「いいですね!私も見学させてもらっていいですか?」
なっちゃん「そうたい!画板と画用紙ば持ってきとるんやった。もし良かったら蛍ちゃんも一緒に描かん?」
そう言われた蛍は驚いたように目を瞬かせた。
蛍「え、いいんですか!?」
なっちゃん「よかよか!1人で描くより2人で描いたほうがずっと楽しいけんね」
卓「」ウン
蛍「ありがとうございます!」
野外活動の楽しみ方は無限大。
ーーーそれぞれが思い思いの時間を過ごした。
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