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貧しさがどうした

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第三章

「そもそも貧乏でも身を立てた人なんてな」
「多いっていうの」
「親父みたいなのが駄目なんだよ」
 別れた彼の方がというのだ。
「むしろな」
「あの人ね」
「親父の家地主さんだっただろ」
 彼の実家はというのだ。
「そこの次男で」
「ええ、今も大きな土地持っていて山もでね」
「田畑あって林檎も作ってるだろ」
「お金持ちよ」
「それでも母さんに暴力振るって」
「浮気もギャンブルもね」
「最低だっただろ、大事なのはな」
 それこそというのだ。
「人間性だろ」
「そう言うのね、あんたは」
「事実だろ、貧乏が悪くないんだ」
 それよりもというのだ。
「大事なのはな」
「人間性ね」
「今度母さんもお家に招待されてるから」
 母もというのだ。
「絶対に来てくれよ、式だってな」
「来ていいの」
「引き摺ってでも連れて行くからな」
 こう言うのだった。
「いいな」
「そうなのね、貧乏でもなのね」
「そうだよ、来てくれよ」
「あんたがそこまで言うなら」
 母も頷いた、そして。
 保志に相手の家に連れて行かれた、家にある一番いい服を着ても粗末だと思った。だがそれでもだった。
 相手の両親はそんな彼女を笑顔で迎え入れた、そして言うのだった。
「保志君からお話は聞いています」
「保志さんを女手一つで育てられたんですね」
「立派な方と聞いています」
「これからも宜しくお願いします」
「保志さんからお話は聞いています」
 相手の女性からも言ってきた、黒髪を長く伸ばした小柄で楚々とした日本人形の様な外見だ。丈の長い洋服が似合っている。
「とても真面目でお仕事も家事も常にされている」
「それは当然のことでは」
「保志さんの学費も出された」
 実花にこう話した。
「立派なお母さんだと」
「当然では」
「そうではないと思います」
 これが彼女の返答だった。
「世の中よくない人もいて」
「そうしたこともですか」
「しない人もいますから」
 だからだというのだ。
「当然と言われることを出来る人は」
「立派です」
「保志さんが言われるだけはあります」
 相手の両親も言ってきた。
「本当に立派な方ですね」
「私達もそう思います」
「だといいですが」
「いいですがじゃないんだよ」
 保志も言ってきた。
「母さんがあって今の俺があるんだから」
「それでなの」
「そうだよ、胸を張っていいんだよ」
 貧しさに卑屈にならずにというのだ。 
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