物語の交差点
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とっておきの夏(スケッチブック×のんのんびより)
ピカソの頭はピッカピカそ
空:ごちそうさまでした。
このみ「おいしかったねー!」
皆で食べる美味しさも手伝ってか、一人一枚ずつのピザトーストはあっという間に無くなってしまった。
蛍「みんなで食べると不思議と美味しく感じるんですよね」
木陰「そうね。私も文化祭の前日にみんなで食べたあのラーメンの味が忘れられないわ」
なっちゃん「ああ、春日野先生の奢りでラーメン屋に行ったとき食べたラーメンですね」
渚「懐かしいなあ。奢りとは言うものの一人につき500円までだったから、結局みんな普通のラーメンしか選べなかったんだよね」
一穂「春日野先生っていうのは美術部の顧問の先生?」
渚「はい。元気で明るい人なんですけど飽きっぽくてわがままだったりちょっと頑固だったりと、どこか子どもじみたところがあるんですよ」
渚「ちなみに先生は“ピーちゃん”という名前の鶏を飼ってあって、いつも学校に連れてきていますね」
なっつん「ピーちゃん?鶏なのに?」
朝霞「ええ、名前の由来は『ひよこの時にピーピー鳴いていたから』だそうです」
れんげ「なかなかいいネーミングセンスなんなー」
木陰「そしておっちょこちょいよね。よく転んで石膏像を割ってるし」
樹々「そうねえ、いったい今までにいくつ石膏像が犠牲になったことか…」
蛍「そんなにですか!?」
葉月「先生が石膏像を割ったときに『ブルータス、お前もか!』と叫ぶのもお約束になりましたね」
小鞠「まさかのダジャレ!?」
空:あと、美術準備室も私物化してる...。
このみ「えっ!?」
なっちゃん「そうそう!ガスコンロとか土鍋とか
、果てはTVまで持ち込んどんしゃあと(持ち込んであるん)ですよ」
ケイト「デモまあご本人はドコ吹く風で気にいってイルみたいですケドねー」
ひかげ「それは先生としてどうなんだろう...」
空「」ハッ!
ここで空はタガメのことを思い出した。
空:そうだった、タガメ...。
なっちゃん「そうたい!空、『スケッチする』って言いよったもんね」
ひかげ「ああ、そういえばそうだったね……っと、はい」
ひかげはケータイを取り出し、タガメを持ったれんげが写っている画像を開いた。
このみ「へー!れんげちゃんタガメ捕まえたの?」
れんげ「そうなん!」
空はスケッチブックと鉛筆を取り出し、スケッチに取りかかった。
葉月「せっかくだし私たちもスケッチする?麻生さん、スケッチブック持ってきてるでしょう?」
なっちゃん「そうやね!空、あたしたちも隣で描いてよか?」
空「」ウン
このみ「いいなあ、私もスケッチしたい!」
ケイト「ソレなら私のSketch Bookを貸してアゲマース!」
このみ「いいの?ありがとうケイトちゃん!」
ケイト「イエイエ、礼には及びませんヨー」
ケイトからスケッチブックを受け取って表紙をめくる。最初のページに「毛糸」と大書してあった。
このみ「ケイトちゃん、この『毛糸』ってなに?」
ケイト「ワタシのお名前デース!自分の持ち物にはお名前を書くのが決まりナノデ書いているのデスヨー!」
このみ「すごい、ケイトちゃん漢字書けるんだ!」
ケイト「モチロンです!ちなみにアナタのお名前はぁ…こう書きマース!」
ケイトはもう1冊スケッチブックを取り出してまっさらなページを開き、そこに「許斐」と書いた。
このみ「これで“このみ”って読むの?」
ケイト「ソウデース!」
小鞠「ケイトさんって何でも知ってるんですね!すごいなあ…」
横で見ていた小鞠が言った。
このみ「さて、私も描こーっと!」
ー
ーー
ーーー
空:よし、描けた...。
40分後。
ようやく空が手にしていた鉛筆を置いた。
なっつん「どれどれ、ちょっと見せてよ」
なっつんが覗き込むと、ケータイの画像と同じようにタガメを持って誇らしげな顔をしているれんげが描いてあった。
なっつん「すっげー!れんちょん、空ちゃん絵ぇめちゃくちゃ上手いぞ!」
れんげ「おおー!お見事なんなー」パチパチ
空:ありがとう。 ニコッ
れんげの拍手に空は微笑んだ。
一穂「なっちゃんも上手いなあ。さすが美術部員って感じだねえ」
なっちゃん「あはは、そげなことなかですよー」
小鞠「葉月さんもとても上手ですね」
葉月「そう言われるとちょっと恥ずかしいわね…」
ひかげ「かず姉、このみ姉も負けてないよ」
一穂「おー?」
このみの描いた絵を見る。構図はそのままに、可愛くデフォルメされたれんげが描いてあった。
朝霞「このみさんも美術部員と見紛うぐらい上手ですねえ」
このみ「ありがとう朝霞ちゃん」
なっつん「でもまあ、ウチらの中で一番絵が上手いのって実はれんちょんなんだよねー」
樹々「そうなの?」
小鞠「絵心があるのは確かです。かなり独創的…というか奇抜な絵ばかり描いてますけど」
れんげ「そんなことないん!みんなのセンスがウチに追いついていないだけなん!」
いやいや、とひかげが手を振った。
ひかげ「れんげ。前に肖像画を描いてもらったときにさ、私が真ん中でぽつんと立ってて周りを無数の目が囲ってるみたいな絵描いてたじゃん?」
れんげ「もしかして『苦悩』のことなん?」
ひかげ「たぶんそれ。あれが何を表した絵なのか私いまだに分からないんだけど」
れんげ「あれはひか姉が自身の心に内在する無数の悩みや苦しみに囚われながらも必死に己と向き合おうとするさまを描いたん!」
ひかげ「なにそれ、まるで私がナイーブな奴みたいじゃん!私れんげにそんな目で見られてたの!?」ガーン
れんげの解説にひかげは軽くショックを受けた。
蛍「ーーーとまあ、こんな感じで世界観が独特なんです」
樹々「へえ、現代のピカソになれるかもしれないわね」
なっちゃん「そういや空閑先輩もたまに奇抜な絵を描きますよね。キャンバスば真っ黒に塗り潰しよったこともあったし」
木陰「違うわ、あれは『闇夜』よ」
蛍「闇夜…ですか?」
木陰「そう、闇夜。闇がもたらす混沌の世界を描いたの」
れんげ「興味深い...。空閑っちの感性はうちと合いそうなんなー」ウンウン
れんげが頷きながら言った。
木陰「ええ。私たち、タッグを組めば大作が描けるかもしれないわね」
れんげ「ウチ、いつか空閑っちと組んで大作に挑むのん!」
木陰「ええ、頑張りましょうね」
れんげは俄然やる気のようだ。木陰も静かに闘志を燃やしているように見える。
この2人がタッグを組む日もそう遠くないのかもしれない。
小鞠「そういえば蛍と朝霞さんに机を運んでもらったとき思ったんですけど、朝霞さんってけっこう力ありますよね。あの机、だいぶ重たいんですけど大丈夫でしたか?」
朝霞「いやいや全然。あれぐらいなら余裕で運べますよ」
木陰「部長さんから聞いたところによると、神谷さんは石膏像をダンボールで梱包して引きずって運んだこともあるそうよ」
樹々「そうなの?あれって40kgはあるような…」
このみ「それはすごいねー!」
なっつん「ほたるんだって負けてないよ。腕力に自信があるウチの腕を腕相撲で“ぱにぃっ!”って粉砕したんだから」
『ぱにぃっ!』という擬音に美術部メンバーは驚愕した。
渚「ええっ!? それ、大丈夫だったの?」
なっつん「なんとかね。でももう少し力が強かったらやばかった」
蛍「夏海センパイ、あのときは本当にすみませんでした!」
なっつん「いいって、あれでウチもほたるんの実力を知れたんだしーーーあ!」ピコーン!
なっつんが何か思いついたようだ。
なっつん「そうだ!ほたるんと朝霞ちゃんで腕相撲対決してみてよ!ウチ、どっちが勝つか見てみたい!!」
ひかげ「おお、面白そう!」
蛍「えー!高校生と勝負するんですか!?」
なっつん「大丈夫だって!ほたるんはウチを負かすぐらい強いんだから!!」
一穂「ウチもほたるんが高校生に敵うかどうか見てみたいな」
なっちゃん「あたしも神谷先輩がどこまで善戦できるか見たかです!」
朝霞「えっ!? 小学生相手にかあ、参ったな…」チラッ
何気なく朝霞が視線を横にやると。
れんげ「」ジー
期待の眼差しで朝霞を見つめるれんげの姿があった。
朝霞(き、期待されてる...。)
朝霞「……いいでしょう!蛍ちゃん、勝負です!!」
蛍「え…えーっ!?」グルグル
よもや勝負を挑まれると思っていなかった蛍は困惑した。
蛍「れんちゃん、どうしよう!?」
れんげ「そうなー。もしほたるんが負けたら、前にほたるんがやった鬼のモノマネをまたしてもらうん!」
蛍「れんちゃん!?」ガーン
小鞠「蛍、れんげも期待してるんだし勝負しなよ。私も蛍のこと応援するからさ!」
小鞠が笑顔で蛍に言った。
蛍(小鞠センパイ...。)
蛍「……仕方ありません、やりましょう!朝霞さん、手加減なしでお願いします。やると決めたらとことんやりますよ!」
朝霞「コテンパンにしちゃいますよー!? いいんですかー?」
蛍「ふふふ...。その言葉、そのままそっくりお返しします」
バチバチと見えない火花を散らす二人。
このみ「いいねえ!その熱い感じ。いい勝負を期待するよー!」
空(おお…。二人ともやる気まんまんだ。)
闘いが始まる前から漂う緊迫した空気。
ーーー大抵こういう場面ではギャラリーも雰囲気に呑まれて緊張してしまうものだが、一同はもはやその緊張感さえ楽しんでいるように見えた。
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