八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第三百二十三話 お餅つきその九
「酷い人でした」
「ええ、それじゃあお話が早いけれど」
「そんなこと普通言わないですよ」
僕は嫌な顔になって言った。
「自分を尊敬しろとか」
「本気でね」
「恥を知っていたら」
「自分を振り返ることをしたらね」
「絶対によくないことしてきてますから」
人間はだ。
「生きていれば後悔もしますし」
「汚れちまった悲しみってあるわね」
ここで中原中也の言葉も出してきた。
「そうでしょ」
「ですよね」
「生きているとね」
「絶対にありますね」
「それがあったら」
汚れちまった悲しみがだ、中原中也自身酒乱だったし放蕩息子でジゴロみたいな生活もしていたしこの言葉に重みがある。
「もうね」
「それこそですね」
「そんなこと言わないわ」
「自分を尊敬しろとか他の人に言うことは」
「ないわ、叔母さんだってね」
「しないですね」
「恥ずかしくて出来ないわ」
恥、それを知っていてだ。
「本当にね」
「僕だってそうです」
「そんなこと言ったら」
それこそというのだ。
「言った人に軽蔑されるわ」
「絶対にそうなりますね」
「愚かの極みっていうのはね」
「そうした人のことですね」
「そうよ、叔母さんも言わないし」
それにというのだ。
「止君もでしょ」
「親父自分なんか尊敬するなって言ってます」
「そうした子よ、昔からね」
「尊敬出来ると思いますけれどね」
そうした部分が多いのも事実だと思う。
「あれで」
「そうでしょ」
「尊敬するなって言うからには」
「それだけ恥を知っていてね」
「自分も振り返っていますね」
「勝海舟さんのお父さんもだったのよ」
幕末に活躍したこの人のというのだ。
「もう止君より遥かに凄い人だったのよ」
「みたいですね」
「趣味は喧嘩と道場破りでね」
二つ共無茶苦茶な趣味だ。
「働かないでそういうことばかりしていて」
「剣道は凄かったんですよね」
「そうだったけれど」
働くことは嫌いでだ。
「もうそうして生きていって」
「それで、でしたね」
「その一生を書いたけれど」
「それでもでしたね」
「痛快でね」
ご本人は自分程つまらない人生を送った人間はいないと書いている、現代語訳は坂口安吾がしたがこの人も相当なものだ。
「それで自分みたいになるなってね」
「言ってましたね」
「こう言う人程ね」
「案外ですね」
「尊敬出来るのよ」
「実際勝海舟さんはでしたね」
「尊敬していたみたいな」
その実のお父さんをだ。
「家族には物凄く優しかったらしいし」
「卑怯でもなくて」
「ただ破天荒過ぎただけよ」
「親父に似てますね」
親父は喧嘩も道場破りもしないけれどだ。
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