DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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スタートライン
前書き
夏の甲子園大会の予選が地元でも始まりましたが、母校は早々に負けてました( ノД`)ハヤスギル…
第三者side
入学式から一週間後……生徒たちがまばらな朝早い時間。3-Aと表記されている教室に数人の少女たちが集まっていた。
「陽香ちゃん、一年生いっぱいやめちゃったけど大丈夫なの?」
「先輩をちゃん付けで呼ぶなよ、優愛」
赤髪の少女を背の高い黒髪の少女が注意する。机に座っている優愛と呼ばれた少女はそれに不満げな態度を見せていた。
「えぇ?陽香ちゃんがいいって言うならいいじゃん!!みんなの前ではしっかり敬語だし」
「私たちはみんなの中に入ってないのか?」
足をジタバタさせている優愛を見て頭を抱える高身長の少女。そんな彼女の肩に、金色の長い髪をした少女が手を置く。
「いいよ明里。優愛は言っても聞かないだろうし」
「そ……そうですね」
渋々といった様子で自分を納得させる明里。それに笑顔で頷いた金髪の少女は、隣にいる二人の少女の方へ視線を向ける。
「それで、どうするの?陽香」
「どうするって……何を?」
金髪の少女の問いに対して首を傾げる陽香。それを受けて思わず彼女はタメ息をついた。
「一年生たちのことだよ。だいぶ人数も限られてきたし、そろそろ全体練習に混ぜてもいいんじゃないってことでしょ?」
「え?それを私に振るの?」
この日集まったのは一年生のこれからについて……と聞いていた彼女は陽香の隣にいた銀髪のセミロングヘアの少女に確認するが、彼女は話を聞いていなかったらしく目を白黒させている。
「あぁ、そのことか」
それを聞いて陽香が納得したように頷く。彼女は机の中を漁ると、一枚の紙を取り出す。
「陽香さん、それは?」
「監督から渡された一年生の今後の練習メニューだな」
「へぇ、それであんなに走らせてたのか」
「あぁ、部員も多かったしな」
昔ながらの風習が残りやすい野球というスポーツ。人気も高く部員が多くなりやすかったゆえに《新入部員を走らせる》というメニューを多用する学校が多かった。
人数も多く練習も辛いとなれば辞めていく部員は必然的に多くなる。生徒指導の要素も含まれている学生野球に置いては、極力全員を試合に出してあげたいという親心なのだろうが、それが原因で《高校野球はキツイ》というイメージを世間に与えてしまっている節がある。
「それで?なんて書いてあるの?」
「部員が15人を切ったらキャッチボールから入っていいみたいだな」
「えぇっと……今は……」
「14人だよ、優愛」
指を折りながら残っている一年生の人数を数えている優愛。それにすぐさま明里が回答し、彼女は怒ったように頬を膨らませた。
「もぅ!!わかってたのにぃ!!」
「はいはい、わかったわかった」
なでなでとあやすような素振りを見せる明里。二年生コンビの仲睦まじい姿に3人は思わず笑みを浮かべている。
「そのメモの通りだと今日からグラウンドでやらせるんだね?」
「そうだな。ただ……」
「ただ?」
「いきなり硬球なんて大丈夫か?」
キャプテンの口から出てきた予想外の言葉に全員が顔を見合わせる。しばらくの沈黙の後、全員が吹き出した。
「大丈夫も何も、硬球じゃなきゃ慣れる意味ないじゃん」
「経験者は経験者同士で組ませれば問題ないよ」
「そ……そうか?」
両サイドを陣取った二人の少女に言われ、まだ不安げな様子を覗かせながらも納得したような反応をする陽香。
「じゃあ……最初は優愛と明里に練習見ててもらうね」
「やったぁ!!練習お休みだぁ!!」
「休みじゃない!!指導だからな、指導!!」
金髪の少女に指名されて万歳する優愛と彼女を押さえつける明里。陽香は本当に彼女たちに任せて大丈夫なのかと心配で、顔をひきつらせていた。
莉愛side
「は~い!!集合!!」
いつもよりも少なめなランニングメニューが終わったかと思うと、手をブンブン振ってこちらを見ている優愛ちゃん先輩とその隣で頭を抱えている明里さんに呼ばれ、駆け足でその周りに集まる。
「みんな……今日まで一週間よく頑張ったね」
「優愛……そう言うのいいから」
泣いているかのような仕草を見せながら話し出そうとした優愛ちゃん先輩にチョップを入れる明里さん。いつ見ても滑らかな突っ込み具合に、思わず私たちは笑わざるを得ない。
「今日からはみんなにもボールを使って練習してもらいま~す!!」
「「「「「やったぁ!!」」」」」
キツかった基礎練習からようやく解放されることに私たち全員が大喜びする。それを見て優愛ちゃん先輩も満足げに笑みを浮かべていた。
「よしよし、それじゃあ初めて野球をやる子もいるだろうから、お姉さんたちが優しく教えてあげるからね」
「はぁ……調子に乗って……」
二年生に上がったばかりで、後輩ができたことがよほど嬉しいらしく、先輩節が止まらない優愛ちゃん先輩。でも、自慢気な彼女の姿を見ていると、背が高くないこともあり可愛らしく感じてしまうのが申し訳ない。
「じゃあ明里、向こう行って」
「はいはい」
全員がグローブを持ってきたところで、優愛ちゃん先輩と明里さんが距離を取る。ある程度明里さんが離れたところで優愛ちゃん先輩が手に握られた白いボールをこちらへ見せる。
「まずは握り方です!!ボールはこのように握ります!!」
親指と人差し指と中指の三本の指で握られたボール。私たちはそれを真似しながらボールを握ってみる。それをまた満足げな優愛ちゃん先輩は、そのまま明里さんを指差す。
「投げる時は相手に向かって足を踏み出して……」
軽く左足を上げ、その足を遠くにいる明里さんに向かってまっすぐに踏み出すと……
「ビュッていいながら投げる!!」
本当にビュッと言ったタイミングでボールが手から離れたかと思うと、それはまるで糸を引くかのような真っ直ぐな軌道で、明里さんが構えているグローブに吸い込まれる。
「「「「「おぉ~!!」」」」」
私たちのほとんどがこんな間近でボールを投げているのを見たことがなかったので思わず拍手をする。それを受けて優愛ちゃん先輩はどや顔になっていた。
「よしよし、じゃあ私と明里が見ててあげるから、今日はキャッチボールからやってみよう!!」
「「「「「は~い!!」」」」」
初めてのボールを使っての練習とあってみんな楽しそうにしている。
「瑞姫!!やろう!!」
「いいよ」
「あぁ!!待って待って!!」
一年生は14人。偶数なのでキャッチボールのペアも作りやすい。なので、一番仲のよい瑞姫に声をかけたんだけど、優愛ちゃん先輩に止められる。
「え?どうしたんですか?」
「今回は経験者は経験者と組んでほしいんだよね!!」
「え?でも……」
先輩方からの配慮なんだろうけど、実は今の一年生は半分が経験者で、半分が私みたいな未経験者。つまり、7人と7人で別れてしまってて……
「あれ?そっか!!じゃあいいや!!」
「え?いいの!?」
それを聞いた途端に優愛ちゃん先輩が納得したような反応を見せ、明里さんがそれにビックリしていた。でも、許可が出たこともあって私たちは喜びながらキャッチボールへと移っていく。
「え?莉愛待って」
「何?瑞姫?」
みんなキャッチボールを始めようとしたタイミングで相手の瑞姫がなぜかこっちに向かってくる。何かなと近付くと、私の持っているミットを手に取る。
「キャッチャーミット買っちゃったの?」
彼女が気になっていたのは私の手にはめられた手にキャッチャーミットのことだったみたい。なので私は、嬉々として答える。
「うん!!だってやりたいんだもん!!」
甲子園で見たあのキャッチャーの人がいまだに忘れられない。久々の登板だったピッチャーの人の投球を一球も後ろに逸らすことなく受け止め続け、チームを牽引するあの姿に憧れて野球をやってみようと思った。だからその姿を追い求めたくて、形から入ろうと同じメーカーの同じものを買ってみた。
「あぁ……あとで後悔しても知らないよ……」
頭を抱えながら先程までの位置へと戻っていく瑞姫。なぜそんなことを言っているのかわからず首を傾げるけど、ようやく始められる野球への楽しみの方が上回っており、すぐに元の位置へと着く。
「行くよ!!それ!!」
あの日から瑞姫に教えてもらいながら少しずつ様になってきた投げ方。しっかりとボールの重さを感じながら、始まりの一球を投じた。
後書き
いかがだったでしょうか。
上級生の主要キャラたちも少しずつ出てきました。二人名前を出すタイミングがなかったのはご愛敬ということで( ̄▽ ̄;)
次からはもっと進めていきたい。できればもっと早く更新したい|ョω・`)ジカンガタリネェ
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