覚えていた二匹
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第一章
覚えていた二匹
リンダ=コーグナーダークブラウンの髪の毛を後ろで束ねやや肉付きのいいきりっとした顔でグレーの目の光も確かな彼女は今は。
難しい顔でだ、周りに話した。
「これも医学の進歩の為ですが」
「実験に使うことは」
「このことはですね」
「やっぱりどうかとなりますね」
「チンパンジー達をそうすることは」
「はい」
周りのスタッフ達、医学の進歩の為に動物実験を行う施設で勤めている彼等に答えた。その顔は暗かった。
「どうかともなりますね」
「どうしてもですね」
「チンパンジーは人に近いですし」
「同じ霊長類ヒト科で」
「そうなりますね」
「ですから」
それ故にとだ、リンダも頷くしかなかった。
「実験の素材としてはです」
「最適ですから」
「どうしてもそうなります」
「可哀想ではありますが」
「そうなっていますね」
「マウスでもモルモットでも」
リンダはげっ歯類である彼等についても想った。
「同じですね」
「命あるものを実験に使っていいか」
「医学の進歩の為とはいえ」
「難しい問題ですね」
「このことは」
「犠牲になる子達のことを考えて」
実験材料になってというのだ。
「やっていかないといけないですね」
「そうですね」
「同じ命ですから」
「このことはいつも頭に入れてです」
「実験をしていきましょう」
「そして犠牲になる子達も大事にしていきましょう」
スタッフ達も難しい顔だった、そうした話をしつつだった。
リンダはそこで働いていった、そうして。
常にチンパンジー達のことを考えていた、その中で実験から引退した彼等を野生に戻すこともしていたが。
「やっぱりね」
「ずっとここにいますから」
リンダは上司に応えた。
「自然、野生にはです」
「馴れていないからね」
「全く」
「それでね」
上司はさらに話した。
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