袖引き小僧
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第二章
「それは」
「そうですわね」
「俺の左手がそこまで伸びるか」
それはというのだ。
「流石に」
「ですが今」
「右の袖引かれたか」
「そうですの」
「周りに誰もいないな」
太一はここで実際に自分の周りを見回して言った。
「そうだな」
「ですわね、今は」
「ああ、じゃあ誰だ」
太一は周りを見回してまた言った。
「今袖を引いたのは」
「どなたかおられたら痴漢や悪戯と思いますけれど」
「わからねえな」
「ええ、これは」
二人で帰る時にこれがどういったことかと首を傾げさせた、そのうえで二人で一緒に帰った。言い合うことはしても仲はよかった。
この時から数日後だった、二人は今度は登校していた。帰宅はもう暗かったが今は朝だった、その朝にだった。
薫子は今も手をつないでいる太一に話した。
「この前の袖のことですけれど」
「ああ、引っ張られたな」
「あれは妖怪の仕業でしたわ」
「妖怪か」
二人が通っている学校は妖怪や幽霊の話で満ち満ちている、保育園から大学、学園の施設を合わせると百は普通に超えている。それで彼も妖怪と聞いても否定しなかったのだ。
「そっちか」
「そうみたいですわ」
「そうなんだな」
「ええ、袖引き小僧と言いまして」
「はじめて聞く妖怪だな」
「袖を引く妖怪とのことですわ」
「名前そのままだな」
太一はその名前を聞いて即刻こう言った。
「何か」
「そうですわね」
「それでその袖引き小僧がか」
「あの時わたくしの袖を引いたそうですわ」
「そうだったんだな」
「ええ、それで」
薫子はさらに言った。
「もう一つありますわ」
「もう一つ?」
「姿は見えないとのことですわ」
「それ妖怪のあるあるだな」
「どうやら」
「姿はあるだろ」
ここで太一はこう言った。
「絶対に」
「妖怪かと思って学校の図書館で調べましたらまさにそう書いてありましたけれど」
「じゃあ姿見えないで何で小僧ってわかるんだ」
太一はこのことを指摘した。
「どうしてだ」
「言われてみますと」
「前に誰か見てな」
「小僧さんとわかりましたので」
「わかったんだよ」
こう言うのだった。
「そうだろ」
「ですわね」
「だからな」
それでというのだ。
「ここはな」
「どうにかすればですわね」
「小僧ってわかるだろ」
「そうですわね、ではどうしましょうか」
「考えがあるさ」
太一は薫子に真面目な顔で言った、そして。
この日も二人で下校して神戸から大阪までの電車から二人の家の近くまで一緒に帰った、部活は二人共ハンドボール部なので帰る時間の調整は楽だった。
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