| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

MOONDREAMER:第二章~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四章 ダークサイドオブ嫦娥
  第9話 半月の塔 SIDE:R 後編

 半月の塔にて突如現れた飛び石の仕掛けを鈴仙は難なくこなしていった所であった。
「ふぅ……、間に合ったようね……」
 無事に突如現れた関門をクリアした鈴仙は、そこで一息つくのであった。そして。
「うん、幻想郷に来てからも鍛錬を怠ってなくて良かったわ……」
 と、このように独りごちながらしみじみとその事を噛み締めたのである。
 だが、ここで彼女は踏み入ってはいけない領域に足を踏み入れる事となる。
「でも……、そもそも足場が無くなっても私は飛んで行けば良かったのでは……」
 それは禁句であった。この話において、彼女のような幻想に生きる者のほとんどが飛行能力を持っている事は持ち出してしまえばおかしい事になるだろう。
 なので、鈴仙はそれ以上考えるのをやめる事にしたのだった。

◇ ◇ ◇

 そして、飛び石の先のキーを作動させた鈴仙は先程来た道を戻りながら、次に行くべき場所へ思いを馳せているのだった。
 確か、扉の前に行く前に、今とは別の分岐点があった筈。という訳で、彼女は次にそこを目指す事としたのであった。
 そうして鈴仙はその分岐点の前に来ると、思わず呟いたのである。
「……何か、潮の流れが強くなってる……」
 それが彼女が思う所であった。どうやら、この分岐点の先からそう彼女に感じさせるようなものがあるらしい。
 今までとは様子の違う場所に出るかもしれない。だが、ここで立ち往生していても始まらないので、彼女はその場所へと向かう事とするのであった。
 その道筋は完全な一本道であって、迷う方が不可能な構造であった。それ故に鈴仙は気兼ねなく進む事が出来たのである。
 そして、鈴仙がその道の行き止まりに見える場所に着いてから、彼女は納得する所なのであった。
「成る程、どうりで潮の流れが強く感じられる訳ですね……」
 そう彼女が呟く視線の先には、見事に開けた水の領域があるのだった。今までの水路のような狭い場所を通る水ではなく、広く開けた場所なのであった。
 これならば、思う存分水面を走行して進めるだろうと言わんばかりであった。だが、ご都合主義とでも言うべきか、ここにはそれを可能とするような乗り物は存在してはいなかったのであった。
 だが、鈴仙は取り乱しはしなかった。それは、『今は』そのような物が現れていない事は彼女には予測出来る事だったからである。
「これも、『さっきのように』ですか……」
 鈴仙はそう呟くや否や、早速と言わんばかりに行き止まり付近にある水場へと自身の月の住人としての波長を宛がうのであった。
 すると、お約束と言わんばかりに、そこに水の中から足場が浮上して来たのであった。
 だが、今回は先程の飛び石とは些か様相が違うようであある。前回のは完全に足場としてしか役割を果たしていない石の塊であったが、今現れたそれは、明らかに別物となっていたのである。
 それは、一目瞭然だろう。今回現れた足場は、先の無骨な石とはまるで違い、幾何学的な未来の産物といった機械仕掛けの物体なのであったのだから。
 その事から、察せられる事は一つだろう。鈴仙はその答えを口にする。
「これに乗って水の上を走行していけって事ですね……」
 そう、これは飛び石のような完全な足場だけの役割の物とは違い、立派な『乗り物』のようなのであった。そして、鈴仙は迷わずに決める。
「それじゃあ、早速これに乗っていかないといけませんね」
 そう言うや否や鈴仙は、早速といった風にその機械仕掛けの物体に自らの足を、そして体を預けたのである。
 だが、その機械はすぐには動き出さないようであった。当然だろう。どのような乗り物にも、絶対に『動力源』を確保しなくてはならないのだから。
 そこで、ふと鈴仙はある事に想いを馳せるのだった。それは、今では彼女の仲間にして最大の親友たる、黒銀勇美その人であった。
「確か、あの子、自分の能力の動力源の事で悩んでいた事がありましたね……」
 そして、それが依姫との出会いにより彼女の神降ろしの力を借りる事で解消された事も。
 鈴仙にとって何とも皮肉な事実であろう。鈴仙は依姫の下から去る選択肢を選んだというのに、あの子は自ら依姫の下へ寄り添う事を選んだのだから。
 そして、その事実があろうとも、自分と彼女では状況が違ったのだからと気遣ってくれ、そして自分の事を仲間と認めてくれる勇美には、鈴仙はただただ感謝するしかなかったのである。
「今頃勇美さん、うまくやっているでしょうか……?」
 そう呟きながら、鈴仙はその考えを改め直すのであった。
 ここで勇美の事を過剰に気に掛けてしまえば、勇美のためにも、自分のためにもならないだろうと。
 まず、勇美の事を信用しないという彼女への少しばかりの侮辱になるし、第一気に掛ける余りに自分が実力を発揮出来ないような事になれば本末転倒というものなのだから。
 だから、彼女は今自分に出来る事に目を向ける事にするのだった。
「本題に入って、この機械を動かす事ですね」
 そう言う彼女ではあったが、最早答えなど出ていたも同然なのであった。
 彼女は再度自分の波長を、その機械へと浴びせたのである。すると、その機械は見事と言わんばかりにブート音を上げながら起動を始めたのである。
「ビンゴ……ですね♪」
 そう鈴仙は得意気になるのであった。こうも自分の行動がスムーズに事を進めている事に爽快感を感じていたのだから。
「でも、この先は些か今まで味わった事のない内容でしょうし、気を引き締めていかないといけませんね」
 そう彼女が呟くと、改めて自分の脳内で発車のイメージを思い浮かべたのである。
 すると、機械はその意思に従うように水面を走行し始めたのであった。いよいよを以って鈴仙の水上走行の旅は始まったのであった。

◇ ◇ ◇

「凄い光景ですねぇ……」
 彼女の視覚、感覚に飛び込んで来るもの全てに彼女は心の中で舌鼓を打つかのような高揚した気分へと押し上げられていった。
 まず、目に飛び込んで来る光景はスピード溢れ目まぐるしく動くものであった。
 それは、自身の飛行能力では味わえない体感であったのだ。飛行の際は幾ら速くても、あくまで自身の力量の下での行動故に無茶は自然と避けられるようになっていたのだ。
 だが、今は機械という自分とは別の代物に行動を委ねている状況なのだ。故に自己責任だけでは賄い切れない危なっかしさがそこには存在しているのだった。
 そう鈴仙が思っている間にも、辺りの様子に変化が見られていったのである。
 鈴仙の目に飛び込んできたのは、水面に浮かぶ三角形のブイであった。それを彼女は咄嗟の判断で機体を横へずらして回避に成功するのであった。
 そう、彼女は今しがた目の前に現れた障害物の回避を、この機体に乗りながらにして成功させたという事なのである。
 つまり、今鈴仙は機体を自分の意思により思いのままに操れている訳である。機械仕掛けの物体が自分の意思により動く、それは地上のSFにあるような産物ではないかと鈴仙は思うのだった。
「よし、回避成功……っと」
 思いながらも鈴仙は得意気に目の前に現れた驚異の回避に成功した事に振る舞うのだった。そして、彼女は『段々コツは掴んできた』と気分は上々となってきたのである。
 そう気分を良くしながら鈴仙は走行を続けていった。だが、こういうシチュエーションにて起こりうる障害は当然これで終わりではないのである。
 ここで鈴仙は思い返すのだった。勇美から貸してもらいプレイしたビデオゲームの内容を。
 今の状況は『アクションゲーム』における、乗り物を操り動かすという特殊な操作を要求される区画そのものではないかという事。そして、そのような局面で壁となってくるのは何も障害物だけではないのである。
 そう鈴仙が思い至るのと、『それ』が起こるのとはほぼ同時期であったようだ。
「敵発見!」
「おちろー!」
 勿論これは鈴仙が発した言葉ではないのである。それは他でもない、今しがた彼女の行く手を阻む為に現れた玉兎達であったのだ。
 そう、鈴仙が思っていた事はこれであったのだ。アクションゲームで乗り物を使った移動時に立ちはだかってくるのは、こういった配備された『敵キャラ』も存在するというものなのだ。
 しかし、これは今現実に起こっている事である。何せその敵と対峙するのはコントローラーで操れるゲームのプログラムではなく、生身の自分自身なのだから。その体感はゲームとはまるで別物であったのだ。
 だが、鈴仙は断じて動じる事などなかったのである。寧ろ自らの鍛練を積んだ彼女にとって、これはビデオゲームよりも手馴れた事であるのだった。
 鈴仙は周りが目まぐるしく動く中でも冷静に自分の懐からある物を取り出したのだ。──それは先の月の異変解決の際に大いに役に立った代物、彼女の自慢の銃であるルナティックガンであった。
 そして、その銃口をすかさず玉兎の一羽に向かって向けるや否や、間髪入れずに引き金を引いたのである。
 すると、エネルギーの弾丸が射出され、見事にその玉兎へと命中したのだった。
「ほぎー」
 攻撃を受けた玉兎は、堪らずにそう呻き声を出しながら水の中へと見事にダイブしたのである。まあ、彼女達は泳げるだろうし、問題はないだろう。
 そして、鈴仙は残りの一羽の事も忘れてはいなかった。
「次はあなたですよ♪」
 すかさず彼女に対しても引き金を引いた。そして命中するエネルギーの弾丸。
「ぴぎゃー」
 そして、二羽目も敢えなく墜落して水の中へとドボンしたのであった。
「ちょろいものですね」
 やはり鈴仙は鍛練を抜かりなく積んだ身であるようだ。故に他の一介の玉兎など歯牙にも掛けないようであった。
「この調子で行きますか♪」
 そう鈴仙は言いながら水上の冒険を続けていったのだった。

◇ ◇ ◇

「あくー」
「ひげー」
「ほびー」
「むきゅー」
「ぎゃふん」
 哀れ、次々と鈴仙に落とされて水の中へと数多の玉兎達は沈んでいったのだった。やはり鈴仙と他の玉兎では如何ともし難い実力の差があるようであった。
 だが、鈴仙は油断してはいなかった。こういうアクションゲームで一番厄介になるのは、作品にもよるが敵キャラではない事が定番なのだから。
 そう鈴仙が想いを馳せていると、タイミングが良いかと思われる位に『それ』は現れたのであった。
「いよいよ来ましたね。こういう局面ではお約束のものが」
 そう呟く鈴仙の眼前に現れ始めたのだ。目の前の水路が急に傾斜になっているのが。
 それを見ながら鈴仙は気を引き締める。これこそ乗り物エリアの真骨頂であり、醍醐味だと噛み締めながら。
 そして、とうとう機体はその傾斜へと踏み込んだのであった。それによりまずはガクンと落下感が鈴仙を襲ったのである。
 続いて彼女に飛び込んできたのは当然のように速度の上昇であった。鈴仙はその洗礼に身を打ちひしがれる事となる。
「っ……」
 思わず息を飲む鈴仙。訓練を積んだ彼女とて、乗り物を操る経験は少ないのだ。ましてや、それを用いて急な坂を下るという体験など初めてもいい所なのであった。
「けど……」
 ここで鈴仙は怯む事はしなかったのだから。こうしている間にも無二の親友たる勇美や、新たなる仲間のヘカーティアが別の場所で戦っているのだから。
 そして、彼女はもう逃げ道は作らないと心に決めているのだから。故に鈴仙は立ち向かう以外の選択肢は自分には用意してはいないのであった。
 そして、鈴仙には浮遊感が襲って来たのだった。その感覚は永琳が造った高性能の仮想現実で組み上げた『ジェットコースター』に似ていると感じる。
 思えば、それに半ば実験体として体感させられたっけと鈴仙はどこか遠い目で思い返すのであった。だが、その事は今は話題の隅に置いておく事にしたのだった。悲しくなるだけだから。
 それはそうと、ジェットコースターのそれは怖いながらも数々の安全対策が施された、生きるのに必要な『保証された恐怖を補充』させる代物であり、謂わば温室内でホラー映画を観るようなものだったのである。
 だが、今の状況はどうだろうか? 機体の上に乗り生身の肉体を曝け出している、保証されたとは程遠い状態なのであった。一瞬の判断ミスが大惨事へと繋がるだろう。
 だが、意外にもここにきて鈴仙は冷静であったのだ。人間はここぞという時に集中力が高まるが、兎といえど妖怪と化して人型へと変貌した鈴仙にも同じような感性が備わっているのかも知れなかった。
 故に、彼女は傾斜の中で突き出た石や小島といった障害物に何度出くわそうとも、それを適格に回避していく事が出来たのであった。
 そのようにして、鈴仙は無事に水上の旅を終える事が出来たのであった。
 彼女を乗せた機体は、徐々にその速度を落とし始め、気付けばとある小島へと停泊をしていったのである。
「どうやら、ここが終着点のようですね……」
 そう独りごちながら、鈴仙は漸く一仕事終えたなという達成感をひしひしと感じるのであった。
 そして、今いる小島を見渡せば、その自然の産物には些か不釣り合いな機械仕掛けの装置が島の中央に鎮座していたのである。
 最早、答えなどは決まっているだろう。鈴仙は早速その装置の目の前まで赴いたのである。
 そして、やはり予想通りであったようだ。そこには、先の飛び石のエリアの先にあったようにキーとなるランプが存在したのだから。
 鈴仙は先程と同じように自分の波長をそのキーへと向けたのである。すると、同じようにそのランプは点灯をしたのであった。
 そして、次の瞬間であった。何やら遠くで地響きにも似た物音が奏でられたのである。それを聞いて鈴仙は確信する。
「これで、あの扉が開いたという事ですね」
 これにて第一関門は突破した。そして、その先には何が待ち構えているのかと鈴仙は不安と期待の入り雑じった感情で身を委ねるのであった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧