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壁を向いたままの犬

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第二章

「あの子に友達になってもらおう」
「そうして救ってもらおう」
「そうなってもらおう」 
 こう話してだった。
 エンジェルにシェリーを紹介した、この時。
 エンジェルは壁を見ていた、だが。
 シェリーはその彼の傍に優しい目でずっといた、すると。
 エンジェルは彼を少し見た、そして。
 少しずつ彼との距離を縮めた、そこからだった。
「仲良くなったな」
「シェリーがいつもエンジェルを気遣ってくれて」
「それで優しくしてくれて」
「エンジェルも動く様になった」
「もう壁に顔を向けなくなった」
「歩く様になった」
 少しずつそうなってきたのだ。
「僕達にも打ち解けてきた」
「僕達が見てもご飯を食べる様になった」
「シェリーと一緒に散歩にも行く様になった」
「よかったよ」
「本当にな」
「そうなって何よりだよ」
「しかし」
 ここでだ、スタッフ達はこうも話した。
「エンジェルの里親を探すにしても」
「一体どうしよう」
「あの子だけじゃどうなるか」
「やっぱりトラウマはあるし」
「あの子だけだと心配だな」
「飼い主を恐れないか」
「シェリーと一緒だからどうにかなってるけれど」
 それでもというのだ。
「どうしよう」
「あの子だけだと」
「エンジェルだけだと」
「いや、待て」
 ここで彼等は気付いた、どうすればいいのか。
「シェリーと一緒ならいい」
「あの子も一緒なら問題ない」
「シェリーがいるなら」
「それならエンジェルも大丈夫だ」
「あの子も一緒なら」
 それならと話してだった。
 エンジェルだけでなくシェリーもだった。
 一緒に里親を探してもらうことになった、二匹一緒に家族に迎えることが里親になる条件になった。すると。
 理解ある人がそれならと申し出た。
「それでお願いします」
「いいですか、二匹で」
「二匹一緒で」
「それでいいですか」
「はい」 
 まさにというのだ。
「宜しくお願いします」
「わかりました、では」
「この子達をお願いします」
 スタッフの人達も是非にと言った、そして。
 その人はエンジェルとシェリーを迎える時に彼等に笑顔で声をかけた。
「これから宜しくね」
「ワン」
「ワンワン」
 もうエンジェルは人を怖がっていなかった、そして。
 シェリーはその彼の横にいた、その彼に行こうという顔になってだった。
 新しい飼い主のところに歩いていった、スタッフの人達はそんな彼等を見送って笑顔で話した。
「すっかり心を閉ざしていたけれど」
「優しい友達に出会えたし」
「そして心が救われて」
「その友達と一緒に新しい家族に迎えられた」
「本当によかったよ」
「これからは幸せに」
「友達とずっと一緒にいるんだぞ」
 こう言うのだった、尻尾を振って旅立ったエンジェルを見て。
 家族からは施設に定期的にエンジェルとシェリーの状況が伝えられた、そこにいる二匹はとても仲がよく幸せそうだった、もうそこに悲しみはなかった。
 

壁を向いたままの犬   完


                 2021・4・24 
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