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壁を向いたままの犬

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第一章

                壁を向いたままの犬
 その犬、エンジェルという名前の茶色の毛の垂れ耳の大型犬を診察してだった。獣医は彼を保護している施設の人達に話した。
「こんな子ははじめてです」
「そうですか」
「ここまで酷いことはですか」
「はじめてですか」
「生きものも虐待を受けると心を閉ざしますが」
 それでもというのだ。
「この娘まではです」
「そうですか」
「なかったですか」
「これまで」
「あまりにも酷い虐待を受けていたのですね」
 このことは間違いないというのだ。
「以前の飼い主に」
「はい、あまりにも酷く」
「それで逮捕されています」
「動物虐待で」
「そうなっています」
「そのせいで」 
 それでというのだ。
「こうなっています」
「そうですか」
「それで、ですか」
「ずっと壁を向いてですか」
「人を避けていますか」
「心を換算に閉ざしています」
 見れば実際にずっと壁を向いている、誰も見ようとしない。
「それで、です」
「そうですか、では」
「どうしたらこの子は助かりますか?」
「心を開いてくれますか?」
「そうしてくれますか?」
「わかりません」
 お手上げ、そうした言葉だった。
「残念ですが」
「そうですか」
「どうしたらいいんでしょうか」
「本当に心を閉ざしていて」
「食べることも殆どしません」
「誰かが見ていると」
 スタッフの人達も困り果てた、兎角だ。
 エンジェルはずっと壁の方を見て座り人を見ようともしない、そうしてだった。
 人を怯えて近寄ろうとしない、食事も人が見ていると食べようとしない、そうした日々を送っていたが。
 あるスタッフがこう言った。
「友達を用意しましょうか」
「ああ、犬の友達か」
「僕達を怖がってるならか」
「犬の友達を紹介して」
「そうしてか」
「心を癒してもらうか」
「そうしましょう」
 こう言うのだった。
「ここは」
「そうだな、じゃあどの子がいいか」
「優しい子がいいな」
「エンジェルをいつも気遣ってくれる様な」
「そうした子がいいな」
 スタッフ全員でエンジェルの友達は誰がいいかと考えた、そして。
 施設にいる黒く光沢のある毛の雄の大型犬、シェリーという名前の犬がいいとなった。この犬はどういった性格かというと。
「あんな性格のいい子はいない」
「大人しくて優しい」
「僕達も思いやってくれて」
「絶対に吠えたり噛んだりしない」
「どんな犬にも優しい」
「犬以外の生きものにも優しい」
「それならだ」
 是非にというのだった。 
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