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とある地球外生命体が感情を知るまで

作者:えんぜ
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5 さびしい

 最近、なのはと遊ぶ日と時間が徐々に減りつつある。基本的にいつもは前日に明日に遊べなくなることを告知してくれているのだが、現在ではその告知すらなく来なくなっている日も少しずつ出てきた。

 一応、来た日にそのことについて色々事情を話してくれているわけであるのだが……胸がキュッとなる機会が非常に増えた。

 そして、ザワザワというかチクチクするというか……何と表していいのか分からないものが私を支配してくる。さらに、この現象はなのはと会うとこの現象は収まるのだ。

 私自身、この現象をあまり味わいたくないと感じている。そのため、原因解明も兼ねて、なのはが来なかった日は『としょかん』へと赴き、多くの『ほん』を見て文字等の勉強をしているのだ。

 今のところ成果はない。だが、あれほど多く『ほん』が存在するのだ。いつの日か何かしらの成果は得られるはずだ。

「……」

 そもそも私はまだここの文字を完璧に習得したわけではない。文字を完璧に習得できれば更なる『ほん』を読むことが出来、この現象についてのものにも繋がりやすくなるはずだ。

 今は地道にやっていくしかあるまい。感情を理解するのにもこの作業は必要になっていくだろうから無駄にはならないだろう。だが───


「……もう、いいや」


 ──何故か、このように読むことをすぐ辞めてしまう。必要なことだと分かっている。しなくては理解への道が遠回りになることも承知している。だが───なんだろうか、この感覚は。

「……」

『ほん』の位置を戻し、私は『としょかん』を後にする。これからどうする...『こうえん』にでも向かおうか。最近はあまり人は見なくなってしまったが観察しないよりはいいかもしれない。




 ──────────────────────




『こうえん』に着いた私は『べんち』に腰を掛けた。目をやるが、そこには誰一人としていない。完全に私だけの空間だ。

「……」

 胸に手を当ててみる。自身でその現象についてもう一度考えてみることにした。

 だが、考えてもそれははっきりとしない。形とならない。分かっているのは、キュッとなったとき何か空白が生まれたような感覚があることだけ。それから先には全然進めずにいた。

『ほん』でその現象について考察するのは現状不可。ならば実際に人間に聞くのが一番かもしれない。この現象が感情の一種である可能性もあるのだから。

 だが聞く相手など─────と思考を膨らませている時、


「あれ、あおいちゃん?」

「……はやて?」


 記憶に新しい声の持ち主──はやてと出会った。はやてはあの時と同様に車輪の着いたものに腰をかけており、それを手で動かすことにより前進をしてこちらにやってきた。何やら袋……いや箱?のようなものを持っている。

「奇遇やなぁ。あおいちゃんこの辺に住んでるん?」

「……ん」

「そうなんかー。わたしもこの辺なんよ。あ、この前はありがとな。そのお礼というか偶然2つ買ってたシュークリームあるんやけど1つ食べる?」

「『しゅうくりいむ』」

 また初めての単語……やはり地球人は知識量が多いのかと内心感心しつつ考察してみる。食べるという言葉から食物であることは明確……どんなものだろう。

 そういう間にはやては1つ取り出し、自身の口に頬張った。

「ん~! やっぱり翠屋のシュークリームは最高やな! ほら、あおいちゃんも食べてみてん!」

「……ん」

 勢いにおされ『しゅうくりぃむ』とやらを1つ受け取ってしまい、じっと見つめてくるはやての視線を受けつつ頬張る。

「……?」

 口に広がるよく分からない初めての感触。だが悪くない。というか口が『しゅうくりぃむ』を頬張るのを止めてくれない。

「おぉ! 凄い食いっぷりやなあおいちゃん! そんなに美味しかったん?」

「……おいしい?」

 なのはとの遊びでのみ使用していたこの言葉。真の意味は分からなかったが……そうか、これが……

「これが……おいしい」

「うんうん! 美味しいものは美味しいってちゃんと言わんと 折角の美味しいものも美味しくなくなるからな!」

「……ん」

 はやての言うことはよくは分からなかったが、やっぱりおいしいというのは必要なようだ。これが地球か。

「んで、あおいちゃん……なんか悩んでるん?」

「……ん?」

 唐突に話が変わり、はやてから告げられたその言葉に私は少し停止する。

「考えてることとかあるんじゃないん? ベンチに一人で座ってたあおいちゃん……なんか放っておけんかったんよ。わたしで良かったら話してみん?」

 おや、これは好都合かもしれない。丁度聞こうと思っていたことがあったのだ。

 更にはやては私においしいを教えてくれた。ということは今のところはやてにこれを聞いた方が理解しやすくなるのではないだろうか。

「……ある」

「え?」

「話したいこと、ある……いい?」

「う、うん! 聞かせて!」

 私は少しずつではあったが、自身に起こる体験を丁寧にはやてに語っていく。なのはのこと。初めてなのはと『おともだち』になったこと。でも最近なのはと会えなくなってきていること。そしてその時例の現象が起こるということ。

 はやてはこれに頷いたりしてしっかりと聞いてくれていた。なるほどなぁという声もたまに入れて腕を組みうーんと考えてくれた。

 そして私が話終わると、はやては結論を付けたように話す。

「そっかぁ……きっと、あおいちゃんはさびしかったんやね」

「……『さびしい』?」

『さびしい』……なのはと初めて会った日のなのはの感情。だがそれは一人だからというもとで発生していたはずだ。今ここには私のほかにはやてもいる...だが、若干だがこの現象が起こっている。『さびしい』の定義は一人だからではないのか?

「そうやね、さびしいんや。あおいちゃんはなのはちゃんって子ともっと遊びたいんやね」

「……『さびしい』」

 私は……『さびしい』のか? 『さびしい』の定義の範囲を勝手に決めてしまっただけで本当は『さびしい』の定義の範囲はもっと広く私はその内の1つに該当しているということ……なのだろうか。

 ……『さびしい』。妙にしっくり来る。初めて会ったなのはもこんな感じだったのだろうか。

「……私は、『さびしい』……」

「うん、絶対そうやと思う」

「……」

「んでな、あおいちゃんはこれをなのはちゃんに伝えた方がいいと思うで」

「……伝える?」

「はっきりちゃんと伝えんと、相手はわかってくれん。あおいちゃんがさびしがっとるとかわからんもんね」

 うんうん、と頷きながらはやては自身の意見に肯定的な態度を見せる。

「にしても、なのはちゃんって子も気付いてないのはおかしいと思うけどなぁ。会うのが二回目のわたしでも分かったんやし……忙しかったりするんかもな」

 まぁ本当に分かってないのかは知らんけどね、とはやては手首に着けてる何かを見て目を見開いた。

「あ! そろそろ行かな……名残惜しいけどもう行くわ」
「……ん」

「またなー、あおいちゃーん!」

「また……はやて」

 大きな収穫を得られた。また、ということはこれからも会うことになるかもしれない。

 はやてもなのはと同様に感情を理解するための道標のようになるだろう。現に、はやては私の中の現象を言い表してくれたのだから。

「……」

 ……また、静かになった。聞こえるのは風の音と、風に揺られ空を少し舞う葉の音ぐらいだ。これも『さびしい』のだろうか。

 やることもないし住みかへと戻るかと思っていたとき、『こうえん』の入り口の方から何やら音が聞こえてきた。


「ハッ……ハッ……あっ、あおいちゃん!」

「…あ、なのは」


 走って来たのか息を切らしたなのはがそこにいた。私の存在を確認すると、喜であろう表情を浮かべ私に突撃してきた。

「ギュ~っ!!」

 いつもより強めの抱きしめ。だが……妙に心地よかった。

「ごめんねあおいちゃん実はちょっとお家の手伝いとかお勉強とかしなきゃでねホントはすっごくあおいちゃんに会いに行きたかったんだけど家ではいい子にしてなきゃだしいやでも最近は皆なのはに構ってくれるようになって嬉しくなったんだよでもやっぱりあおいちゃんと会えるのが一番嬉しいなって後ね──」

「……なのは」

「ふぇ?」

 ギュっと、なのはのやり方よりも弱いが、私はなのはを抱き締める。

 そして……はやての助言をここで生かすことにした。

「……『さびしい』」

「え」

「……なのはと会えなかったのは……『さびしかった』」

「あおい、ちゃん」

 ……少し胸の中にある何かが取れた気がした。言うという作業だけでこんなになるとは……やはり地球人は知識量が豊富だな。

「……もう少し、このままでいい? あおいちゃん……」

「……いい」

 なのはからの提案だが、デメリットはないので受け入れた。なんだろう、ポカポカ?……する。心地よい熱を感じる。これも『さびしい』のようにある程度理解できる日はくるのだろうか…… 
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