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とある地球外生命体が感情を知るまで

作者:えんぜ
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裏1 なのは

 
前書き
「裏」はあおいちゃん以外の視点のみで進んでいくものです。
今回はなのはさんです。 

 
 あの日まではわたしはずっと一人だった。お父さんが怪我をして入院しちゃって、それでお母さんやお兄ちゃん、お姉ちゃんが必死になって働いていていたあの頃。私も皆の力になりたかった。なのはを、見てほしかった。

 だけど、まだ小さいわたしは自分に出来ることなど殆どないのだ、ということは分かってた。お父さんの分まで皆が頑張らないといけないから。わたしを見てくれる余裕なんてないということも分かってた。

 でも……それでも、わたしはさびしかった。一人は嫌だった。だけど家では良い子にしてないといけない。誰からも構って貰えなくても仕方ないと受け入れて、大人しくしていて家族に迷惑をかけることのない良い子に。

 唯一自分の感情が溢れてきていたのは時間が来るまで一人でいれる公園。そこのブランコに座ってる時だけはどんなに頑張っても涙が出てきてしまう。

 それに気がついた日から私は公園に行き、家で泣けない分思い切りそこで泣いて、帰る時間まで過ごしていた。泣けば少しだけスッキリするから。そうすれば誰にも迷惑になんてならないはずだから。

 そんな日々を続けていって、あの日がやって来た。わたしが一人じゃなくなったあの日が。

『……そこの嬢ちゃん』

 初めてのあの子からの声かけ。今思い出しても、ん? ってなるときがある。同年代のはずなのに、嬢ちゃんだなんてって。

 でも、そこからわたしの人生は変わったんだ。

『……何故、泣いてる? さっきからずっとそのまま。何でなのか、私は知りたい』

 本当に不思議そうに、あの子は聞いてきていた。初めはなんで知らない人になんて、なんて考えてたけど……その子の言葉を聞いた瞬間、吐き出したくなって、つい言ってしまった。

 ──さびしいから。

 たった一言。だけど、この時の私の一番の気持ちだった。もう一人は嫌だ。甘えたい。構ってほしい。そんな思いを一言で表したんだ。

 その返答に、あの子は更に不思議そうに返した。

『……何で、さびしい?』

 初めてその言葉を聞いたかのように言ってきたその子。わたしはここまで来たら引っ込めるなんて考えはなくて、もう言ってしまおうと考えてた。

 ──わたしは、一人だから。

 言ってしまってから改めて自覚しちゃって、更に涙が出てきてしまっていた。あぁ、止められない。もうすぐ帰る時間なのに。止めなきゃいけないのに。

 そんな時、あの子は言ってくれたんだ。


『……それは違う』


『私がいる。だから、一人じゃない』


 この言葉にどれだけ救われただろう。さも当然のように、ポンッと言ってくれたその言葉に。

 気付けば涙はまた溢れ出ていた。この場合、違う涙だったけど。

 結果的に、この子はわたしの初めての友達になってくれた。でも友達というものを知らなかったらしい。

 更に名前も無いと言っていた。そして名付けてほしいとも。
 突然のことでびっくりしたけど、名前はなんとか付けることが出来た。目の色が青くてキレイだったから『あおい』ちゃん。闇雲につけちゃったけど、しっくり来てる名前だと思う。

 その日帰ってからまた一人でいるときも、ずっとあおいちゃんのことを考えてた。

 また明日いっしょに遊べるかな。何をして遊ぼうかな。あおいちゃんと早くお話がしたいな。楽しみだな。なんてそんな事を。

 一人じゃさびしいから、とりあえずテレビを付けてご飯を食べてた時、ふとあるニュースが目に入った。


 捨て子問題。


 内容は、自分の子供を捨てた女の人が逮捕されたというもの。さらに、その女の人は虐待もしていたというのだ。

 何で自分の子供なのに捨てちゃったり虐待しちゃったりするんだろう。全く分かんないや。そう考えてた時、あおいちゃんのことが頭をよぎった。

 すごくボロボロだった服のこと。手入れしてないであろう髪のこと。所々に痣があったこと。公園に裸足だったこと。友達を知らなかったり、名前が無かったりしたこと。そういえば何か臭っていたこと。そして……全く変わらなかった表情のこと。

 その全てがやってたニュースへと繋がってしまい、ある結論に行ってしまった。

 ──あおいちゃんは、虐待された捨て子なの?

 考えれば考えるほどそうとしか思えなくなってきていた。

 服はないから着回してるから。髪は手入れ出来なかったから。痣は虐待の跡だから。裸足なのは靴がないから。友達を知らなかったのは触れる機会すら無かったから。名前が無かったのは名乗ることを許されなかったから。臭ってたのはそういう扱いを受けてたから。無表情なのは……虐待されて表情を消し去ってしまったから。

 一瞬、あおいちゃんがそういう扱いをされていた事を想像してしまい、ご飯を吐いてしまった。なんとかトイレで吐くことは出来たけど。

 その後、無性にあおいちゃんに会いたくなった。理由は分かんないけど、ただ会いたくなった。

 でも家では良い子のわたしはそうすることは出来ない。わたしは無力な自分に怒りを感じつつ、眠りにつくことした。

 明日から毎日公園に行こう。そしてあおいちゃんに会わないと。そう決意しながら。





 ──────────────────────





 次の日、わたしはいつもより少しだけ早く家を出て公園に向かった。とにかくあおいちゃんに会いたかったから。待ちきれなかったから。

 少し早足になりながら公園に急ぐ。もしかしたら、もう来てるかもしれないと思ったから。

 公園にたどり着いた時、わたしは自分が息を切らしてるのを自覚した。気付かないうちに走ってきてしまったらしい。いや、そんなのささいなこと。

 わたしは公園を見渡してあおいちゃんを探した。軽く見た限り発見出来なくて、ちょっと落ち込みかけたその瞬間──あおいちゃんを見つけた。

「ぁ……」

 嬉しくなって大声であおいちゃんを呼ぼうとして……止めた。なんで止めたのかはわかんなかったけど、止めちゃった

「…………」

 あおいちゃんはベンチに座って、近くの遊具で遊んでいる子どもを見てた。わたしにはその様子が昨日の考えと結び付いて、とっても痛々しいものに見えた。

 あおいちゃんとわたしは似ている。そう実感するまでそんなにかからなかった。あおいちゃんとわたしは違うけど、似てるんだ。

 本当はあおいちゃんもさびしいんだ。どうやって表すのか忘れちゃっただけで、わたしとおんなじなんだ。

 でも、わたしはもうさびしくない。あおいちゃんがいるから。だからあおいちゃんも……わたしでさびしさを感じないでほしいな。

「──あおいちゃーん!」

「……ん、なのは」

 さぁ、いっしょに遊ぼ! あおいちゃん! 
 

 
後書き
ボロボロな服→拾ったから
手入れしてない髪→手入れするという発想がない
所々に痣→転んだ跡が残ってた
裸足→靴なんてない
友達を知らない→初めてしった単語
名前がない→必要なかったから
臭ってた→ゴミあさってたから

えぇ…… 
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