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とある地球外生命体が感情を知るまで

作者:えんぜ
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2 おともだちできた

 地球で暮らしてきて早1ヶ月。この姿にもこの生活にもようやく慣れが来た。更に地球での文字──どうやら地域によって使われている文字は異なるらしいが──日本語とやらの平仮名、カタカタと呼ばれているもののみだが少し読めるようになった。

 当初の目的、感情への理解だが、やはり長い年月を掛けないとダメのようだ。掴めそうで掴めない。後もう少しのところから進めない。そんなもどかしい状況にある。まぁ時間はあるから構わないのだが。

 前の星でエネルギーは大量に摂取したから後80年は持つ。予想以上に質量が大きかったからこれを始める前のエネルギーよりも上回ってしまった。良いことだ。

 ブラッド族、もとい私はエネルギーさえ補給出来ればほぼ死ぬことはない。だから人間などが行っている食事、睡眠はほぼ必要はない。だが食べれなかったり眠れなかったりするわけではない。星のエネルギーと比べると足しにはあまりならないが。

 それはさておき、私は現在路地裏のゴミ捨て場という所にて食糧の確保を行っている。あの者達……ホームレスと言ってたっけ。ホームレスというのはこうやって食糧を獲得して生活をするものらしい。

 1ヶ月生活してきて理解したことは、人間というものは非常に脆いということ。毎日最低一回何かしらの食糧を口にし、且つ水を適度に摂取しないといけないらしく、出来なければ死あるのみだそう。これは推測だが、物理的にも脆そう。私が少し力を出せば今すぐにでも滅ぼせそうな種族だ。

 一時期本当に大丈夫だろうかと思ったが、地球には『儚いものほど美しい』という言葉があるらしい。人間は儚いが美しい何かを秘めているということだろう。それが感情であるということか。

「……こんなものかな」

 集めるべき食糧を集め終わり、出来るだけ人目につかないよう住みかへと戻る。何やらこの行為はあまり人目についてはいけないらしい。地球のことは地球人が詳しいから従うのが吉だろう。

「……戻った」

「お、嬢ちゃんおかえり。どうだった?」

「……これ」

「おぉ! 大量じゃねぇか!」

「流石だなぁ……今日の食糧に関しては心配しなくても良さそうだ」

「お疲れさん」

「んっ……」

 人間は子供に対して、与えた役割を果たす等したら何故か頭部の頂点を撫でる傾向がある。最初は戸惑いしか無かったが……うん、悪くない。

「…じゃ、私いく」

「おう、いつもの散歩か」

「何かあったらすぐ帰ってこいよ?」

「ん」

 子供だからか、ここに住む他の人間よりも私のやるべき役割は少ない。そのため空き時間がある程度出来る。その時間に私はあの場所──『こうえん』って言う名前らしい──へ向かい、そこの人間達を観察する。

 始めは私が出歩くことをあの者達は眉間に皺を寄せて止めていたのだが、いつの日か普通に出歩くことを許可してくれてた。だが、いつも必ず何かあったら帰ってこいと言われてしまうのは何故だろうか。たまに人間のことがよくわからなくなることがある。

 さて、今日も『べんち』とやらに座ってじっくり観察をしよう。あまり一人をじっと見るのはいけないらしいから適度に観察対象を変えておかねばならない。面倒だ。

「……ひっく……ひっく……」

 ん? あの『ぶらんこ』とやらにいる少女……涙を流しているのか? どういうことだろう……この『こうえん』では皆泣くことはほぼない。あることはあってもすぐ泣くことを止め笑みを浮かべまた自由奔放に過ごし始めていた。

 だがあの少女はどうだろう。先ほどからずっと泣くのを止めてないではないか。ずっと涙を流しているということは……哀、なのか? いや他の子供は笑みを浮かべながら涙を流していたこともあった。あれが哀とは思えない。

 涙程度では感情の識別は出来ない。感情というのはやはり深い……。

 ……拉致があかない。あの少女は他の子供とは違いあそこから動くつもりは無さそうだ。分からないことは聞くしかない。

「……そこの嬢ちゃん」

「ひっく……んぇ、わ、私?」

「……ん」

 一ヶ月程前に学んだこの星での女の子に対する声かけを実施する。こちらに気がついたということはやはりこの声かけは正解だったのだろう。

「……何故、泣いてる?」

「ぇ……」

「……さっきからずっとそのまま。何でなのか、私は知りたい」

 えっと、えっとと言葉を詰まらせている目の前の少女。私が答えるのを待っていると、小さな声で答えた。

「……さびしい、から」

「寂しい……」

 なるほど、寂しいと涙が出るものなのか。参考になった。だがそうとなれば……。

「……何で、さびしい?」

『さびしい』とは何だ? 何が原因で起こる? おそらくこの『さびしい』も感情の一つだろう。後学のためにも知っておきたい。

「……わたしは、一人だから」

「……」

 一人になると『さびしい』と感じる……のか? ならずっと一人であった私は『さびしい』ということか。いや、私は一人でいることに対して感じることは無かった。ふむ、分からない……

「……?」

 私はふと、あることに疑問を抱いた。今、目の前の少女は一人だと言ったが……。

「……いや、それは違う」

「んぇ……?」

 何故ならば──



「私がいる。だから、一人じゃない」



 この場には少女だけでなく私がいる。それならば寂しいという事象は起こらないはずだ。

 その場合、間接的にこの少女は涙を流していることはおかしいことになるのだが……何故、この少女は涙を流しながら私を見ているのだろう。

「わ、わたしと……いっしょに居てくれるの……? おともだちになってくれるの……?」

「……『おともだち』?」

『おともだち』……『おともだち』とは何だ。また新しい単語が出てきた。
 ……考えても仕方がない。聞くしかないだろう。

「……『おともだち』って、なに?」

「え?! えっと……」

 ……返答に困っている様子だ。もしや『おともだち』とやらは一種の概念のようなものだろうか。

「えっと……いっしょに遊んだり、いっしょにお出掛けしたりできる……みたいな?」

「……なるほど」

 つまり『おともだち』ではないと人間は並んで遊ぶことが出来ないのか。

 ……人間の認識を改めなくてはならないかもしれない。子供が私の知らない単語を多く知っているということは、ブラッド族よりも賢いのかもしれないからだ。

 聞く限り、この『おともだち』になるデメリットは無さそうだ。口先だけで交わせる間柄というわけだろうか。

 一緒に遊んだり……なるほど、私が遠くからではなく近くから人間達を観察するという考えはなかった。確かに直接接触できた方が感情をよりよく知れるのかもしれない。

 そう考えれば、この申し出はかなり有難いことなのだろう。受けるしかあるまい。

「……なる」

「! ホント!?」

「ん」

 少女は今まで見た中でも凄まじい笑みを浮かべ、何故かぴょんぴょんとその場を跳ね、私の手をぐっと握ってきた。

「わたし! 高町なのは! なのはって呼んでね! ねぇ、あなたの名前は?!」

「名前……名前……」

 ……そういえば、私の名前はないままだった。あの者達からはいつも『嬢ちゃん』と呼ばれてたから……

 どうやら、名前が無いとこの先不便になりそうだ。折角だ。付けて貰おう。

「……名前、ない」

「え……?」

「だから、好きに呼んで。それが今日から私の名前」

「えぇー!? えーっと……えっと……」

 表情をコロコロ変えながらうなり続けるなのは。彼女はどんな名前を私に与えるのだろう。

「じゃあ……あおいちゃん!」

「……『あおいちゃん』」

 ……『あおいちゃん』か。なるほど、今日から私は『あおいちゃん』だ。

「よろしくね! あおいちゃん!」

「よろしく、なのは」

 この挨拶の後、なのはは帰る時間と言ってその場を去っていった。去り際に、また明日と言っていたので明日も来るのだろう。

 今日だけで新しい単語を二つも覚えた。『さびしい』と『おともだち』。なのはと居ればまた沢山知らないことが知れるかもしれない。大収穫だ。

「……戻った」

「お、嬢ちゃんおかえり。楽しかったかい?」

「……ん、違う。『嬢ちゃん』じゃない」

「お? そりゃどういうことだい?」

 それは当然───

「……私は今日から『あおいちゃん』。『おともだち』のなのはに付けてもらった」

「な、な、な……!!」

「嬢ちゃんに友達が……!!」

「……違う、『あおいちゃん』」

「おぉ! 今日は嬢ちゃんに友達出来た記念パーティーだ!」

「お前ただ騒ぎてぇだけだろうが! 嬢ちゃん困ってるぞ!」

「……だから違う、『あおいちゃん』」

 おかしい、話が通じないぞ。定期的にこうなるから……人間は分からない。

 しかし、『おともだち』か……うん、なんだろう。少し……暖かい? 気温は昨日と大差ないはず……でも何故か暖かい……。

 だが、悪い気は全くしない。これはなんだろう……不思議なものだ……。 
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