MOONDREAMER:第二章~
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第三章 リベン珠
第22話 お留守番班Bチーム
妖怪の山の早苗の所に咲夜が助っ人として向かった時の話。こちらは紅魔館の存在する森の中のようである。
こちらにも蜘蛛型機械の、月の探査車が出現していたのだ。勿論それを黙って見過ごす手はないのである。ここではある二人の者が機体の対処に向かっていた。
「これは……、幻想郷では中々お目に掛からないものですね」
そう言いながら片方の一人は拳を突き出して探査車へと叩き込む。
彼女は紅美鈴。紅魔館の門番である。攻撃を加えた彼女は、反撃を受けないように探査車から距離をおきながら言う。
「全く、こんな朝早くから、こんな訳の分からない存在と戦わないといけないなんて参りますよ」
と、美鈴は愚痴をこぼしながらも、以前の大ナマズ……の姿をした中国妖怪の時よりはマシかとも思っていた。
何かと中国妖怪には厄災を招く危険な存在が多いのだ。それに対して麒麟のような強大な力を持った聖獣が存在する為に何とかバランスは保たれているのだ。
一方で、現状のこの蜘蛛型の機械は、所詮は機械であり、造られたものに過ぎない分、幾分対処が容易とも言えた。そして、あの時は自分一人で戦ったが、今は強力な助っ人がいるのである。
その者が、美鈴の攻撃により怯んだ探査車へと追撃の蹴りを一発かましたのだ。
そう、彼女は皇跳流。一度は勇美を破り、その後は彼女と良きライバル関係となっているバッタ集合体の、幻想郷ではまだ新参の妖怪である。
「何を言うておる、こういう非常事態に対応してこその門番というものじゃろうて」
このような老人めいた口調であるが、彼女の姿はれっきとした少女のものなのであり、これは彼女の癖のようなものなのである。ちなみに、同じ老人口調と言えば最近幻想郷に住み始めた狸の妖怪がいるが、彼女の場合は癖なのか本当に年寄りなのかは不明だが。
「手厳しい事言ってくれますね。でも、全くを以てその通りですから、私達で頑張りましょう♪」
「そうこなくてはのう」
そう言い合う二人の息はピッタリなのであった。
それは、まず二人とも体術を得意とするスタイルである所であろう。加えて、彼女達の特性がやや風変わりな事もあった。
まず、美鈴は中国拳法に精通し、その洗練された技術により人間相手なら強いが、自分と同じ妖怪等だとそこまで強くないのである。
そして、跳流は依姫の下で修行を重ねて力をつけた勇美を一度は破る程の実力を持つが、何分幻想郷では新参の妖怪であるが故にそのキャリアは短いのだ。
そのように、『技術と経験に長けるが、本人のスペックが中程度』の美鈴と、『本人のスペックは高いが経験不足』の跳流とでは馴染むものがあったという事だ。
美鈴は力の強い跳流と戦う事で鍛えられ、跳流の方も美鈴から格闘技術を学ぶ事でより強くなっていったのだ。正に、互いに足りないものを補い合うという良好な関係が誕生したという訳である。
そんな二人は敵機に見事な連携攻撃を仕掛けつつも言葉を交わし合っていた。
「やっぱり跳流さんはお強いですね。勇美さんが入れ込むのも頷けますよ」
「それは光栄じゃのう。しかし、お主も勇美からいい印象を受けておったぞ。人当たりが良い性格でとっつきやすいとか、お主に気を送り込まれると、とても心地良いとな」
「そこまで気に入ってくれていたんですね」
その事を良く思いはすれど、悪い気は全くしないなと美鈴はこそばゆい心持ちとなる。
「お主の操気術には、わしも興味がある所じゃのう。わしには出来ない術であるが故に羨ましい限りじゃ」
「光栄です。でも、跳流さんには跳流さんにしか出来ない事もあるじゃないですか?」
「わしに……っ?」
そう言い掛けた所で跳流は気付いた。先程から二人の攻撃を受け続けてある程度のダメージを負っていた筈の機械蜘蛛の損傷が、ものの見事に消え去っていたのだから。
「おしゃべりは程々にした方が良さそうじゃのう。こやつ、恐らく再生能力を有しておるわ」
「それは厄介ですね」
美鈴も跳流からの忠告を受けて身構えた。確かに自分の操気術も代謝を促し傷を癒やす事の出来る代物である。
だが、それを行うには集中力と精神力と時間を多く有さなければいけないのだ。だが、目の前の敵は何の造作もないといった様子でそれを軽々やってのけたのだ。
そう考えながら美鈴はこう提案した。
「少しペースアップしますか、敵には自己再生の隙を与えなければ大丈夫だと思われますし」
「そうじゃのう、ではスペルカードを使っていくとするかのぅ」
言って跳ねるは懐からスペルカードを取り出す。その後、こう付け加えた。
「お主、さっきはわしにしか出来ない事があると言ったのう。せっかくじゃから、それを実行させてもらうとするかの。【離符「オープングラスホップ」】♪」
その宣言の直後であった。何と跳流の体は綺麗に三等分され、三体の大きなバッタへと変貌したのだった。
これは、跳流の能力である『妖怪バッタの群れで肉体を形成する能力』を応用したものなのだ。普段は全ての群れを使って一人の少女の姿をとっているが、こうして群れを三組に分ける事で、擬似的に複数に分裂出来るのである。
「「「では行くとするかの♪」」」
三体に分裂した跳流は、一斉に言うと各々で敵へと向かっていったのだった。
そして、彼女等は見事に巧みな連携を取りながら時間差で間髪入れずに緑色のエネルギー弾を機械蜘蛛へと繰り出していった。
「やはり跳流さんは凄いですねぇ……」
その芸術的とも言える一人連携プレーを目の前にして、美鈴は思わず見惚れてしまうのだった。跳流はただ単にスペックが高いだけではなく、こうして奇抜な戦術も取れるのが魅力だと美鈴は感じていた。
だが、他人を羨んでばかりでは何も生み出さないだろう。なので、ここで美鈴は意を決してこう言い切った。
「跳流さん、一旦離れて下さい。続きは私に任せて下さい」
「うむ、そうか?」
大型バッタの一体は美鈴に言われてそう返した。このまま自分が攻めていけそうだと思われたのだが、美鈴が自信ありげにそう宣うのだから、それに賭けてみるのも悪くないだろう。
なので、跳流『達』はその場から離れたのだ。後に残ったのは、彼女達の一人人海戦術によりボコボコにされて歪になった機械蜘蛛であった。だが、早くしなければ敵は再び再生してしまうだろう。
チャンスは一瞬である。その一瞬を逃さない為に、美鈴はスペルカードを宣言した。
「【穿孔「緑の者の裂光照射砲」】ッ!!」
そう言うと美鈴は両手を腹部に持っていき、そこに力を入れるとグングンと美鈴に流れる気が集束していった。
そのエネルギーの流動は外部にも容易く認識出来る程に周りの空気をビキビキと震わせたのである。
「これは……」
「ちゃんと避難しておかなればわしらもマズそうじゃのう」
「そういう事じゃな」
三体の跳流の意見は見事に一致し、瞬く間にその場から距離を取ったのだ。
事はその後すぐに起こった。美鈴は腹部に溜め込んでいた大量の気のエネルギーを、両手を解放する事で一挙に解放した。すると、一直線状に極太の気のレーザーがほとばしっていったのだった。
その進路にいた機械蜘蛛は、見事にレーザーに巻き込まれ、半身を呆気なく吹き飛ばされてしまった。
そして、いつの間にか跳流は元の一人の和服少女に戻っていた。
「まさかお主にそんな大技がぶっ放せるとはのう。まるで魔理沙のマスタースパーク並じゃ」
「ええ、あなたに鍛えられているうちに私にもこんな技を使えるようになったんですよ」
跳流に褒められて、美鈴はいつもの謙虚な性格の彼女らしくなく、どこか堂々と胸を張って言っていた。
対して跳流はこう思った。「わしに鍛えられてって、そこまでわしの影響力って凄いの?」と。
だが、ここで跳流は思い直す事にする。美鈴がこのような荒技を使えるに至った経緯は納得出来なくも、彼女が大技を使えた事に不満は何一つないのだから。
「まあ……、何にしてもようやってくれた。後はわしに任せるが良い。【荷電「アバドンズジェネレーター」】!!」
跳流も美鈴に対抗して、大技の宣言をしたのだ。ここで一気に敵を吹き飛ばして事を終わらせようという魂胆だ。
だが残念。実現には至らず、魂胆に終わってしまったのだった。スペル宣言をしたにも関わらず、何も起こらなかったのである。
「跳流さん……?」
美鈴に疑惑の目を向けられて、ここで跳流は合点がいった。
「あ……ああそうじゃ。わしが生み出した『アバドンズジェネレーター』の核は勇美に渡してしもうたんじゃった♪」
跳流は悪びれずにそう宣った。擬音を付け加えるならこの場合『てへぺろ』が最有力候補であろう。
確かに跳流は高出力の放電攻撃を放つ事が出来たのである。だが、それには彼女の細胞から造りだされた『アバドンズジェネレーター』なる玉状の核が必要不可欠なのだ。そして、勇美にあげたその核が再び形成されるには向こう十年は掛かるのである。つまり、今は無理という事、それ以上でも以下でもないのだった。
「は~ね~る~さぁ~ん……」
「悪い悪い。じゃがそう責めんでくれ。間違いは誰にでもあるものじゃろう。それに、お主のさっきの極太レーザーがあればそれでカタが付くじゃろう」
「いえ、あんなの私には一日一回しかムリですって。連発なんてファンタジーやメルヘンや魔理沙さんじゃあないんですから」
とどのつまり、この二人の相性が良い理由はどちらもどこか抜けている所にあるかも知れないのだった。そうこうコント染みたやり取りをしている内に、半身吹き飛んでいた敵はものの見事に完全再生を成し遂げてしまっていたのである。
「あちゃ~、これで振り出しじゃのう……」
「まあ、地道にまたやりましょうよ」
そう二人は現実を受け止めているのか、現実逃避をしているのか分からない態度で宣っていた。
「やれやれ、見ていられないな……」
と、ここで二人の背後から声がしたのだった。美鈴にとって、その声はとても身近なものであった。
「あ、お嬢様。お目覚めになられたのでですか」
美鈴が指摘するとおり、その人物は紅魔館の令嬢たるレミリア・スカーレットその人であった。幸い、ここは深い森の中なので日光避けの日傘は必要ないようだ。
「まあね、ちょっと『朝ふかし』のついでに体を動かしたくなってね」
レミリアはそう珍妙な言い回しの言葉を紡ぎながら、さも当然といった様子で二人の戦列に加わる。
対して、跳流にとってはレミリアに会うのは珍しい事なのであった。基本的に昼夜逆転している吸血鬼と顔を会わせる機会というものは少なくなるだろう。
「お主と会うのは久しぶりじゃのう」
「そしてお前は跳流か。お前のお陰で門番が『割と』やる気になってくれたと咲夜が喜んでいたよ」
「わしか……?」
そう首を傾げながらも跳流は合点がいった。確かに自分とあったばかりの美鈴は何かというと昼寝ばかりしていて、お主はどこぞの青タヌキの友達かと思った程であった。
だが、自分と格闘技術を切磋琢磨に磨き上げていった結果、7割方くらいは仕事を真面目にやってくれるようになったとの事である。
「まあ何じゃ、それは光栄というもんじゃの」
また自分が与えた思わぬ影響を指摘され、跳流は満更でもないといった気持ちとなる。
彼女がそう思っている所へ、レミリアはこう言って来る。
「私より先に敵の相手をしていて疲れただろう。お前達は戻って休憩していていいぞ」
そのレミリアの態度は尊大ながらも、気遣いの念も見られるものであった。こういうさりげない気配りが出来るのも彼女の魅力なのである。
対して、その話は正に渡りに舟だったのは跳流だ。
「それじゃあ、わしは休ませてもらうかの。朝っぱらからの運動というのは少々疲れたからの。ちなみに、食後のおやつは稲の葉入りのケーキをご所望するぞい」
「そんなもんあってたまるか」
レミリアはぶんぶんと首を横に振りながらツッコミを入れた。普通バッタはケーキなんかは食べないので色々おかしいのだった。
「そうか、それは残念だの。ならば、お主の戦いっぷり、ちいとばかし見学させてもらっていいか?」
それは、純粋な跳流の好奇心であった。自分のライバルである黒銀勇美、その彼女が何かと一目置く存在たるレミリアの戦い方とはいかほどのものなのか興味が沸くのだ。
跳流のその要望に嫌な顔一つせずに快く承諾するのがレミリアであった。彼女は派手好きが故に周りの者をより魅せるのがモットーなのである。
「ああ、構わないさ。好きなだけ見ておくといい♪」
レミリアは人差し指を上に立てて、威厳たっぷりにそう言った。
「お嬢様の戦いが見られるのですね」
対して、我が主たるレミリアの戦闘が見られるとなって美鈴は心沸き立つのだった。彼女とて、自分の肉体を洗練させて鍛えていくのが流儀である。それが故に強大な力を持った吸血鬼たる主の戦いを見ても決して無駄にはならないだろう。
そして、乱入者の参入により、ギャラリーとなった二人の意見は一致していた。
「わしらはあやつの邪魔にならぬように身を引いておくとするかの」
「そうですね」
レミリアが思う存分戦える為の配慮をした跳流と美鈴。そして、ここにレミリアのフィールドが出来上がったのだ。
「まずは、小手調べと行きますか♪」
言うとレミリアはその跳躍力で一気に機械蜘蛛へと距離を縮めていったのだ。そこに彼女の蝙蝠のような翼は推進力を生み出す要因となっていた。断じてこれは飾りではないのである。
勢いに乗ったレミリアは、そのまま自前の爪で機械蜘蛛へと切り掛かったのである。それにより機体は甲高い音を立ててその表面に傷が付けられてしまう。
レミリアの猛攻はここから続いていった。爪の攻撃を右、左、右と次々に繰り出していったのだった。
これにより機体からは激しく火花が飛び散る。そして、その動きに鈍りが見えてきた。
ここで、レミリアはその猛攻を止めた。
「ちょっと疲れたね」
さすがのレミリアと言えど、生物である以上、その動力には限りがあるのだ。世の中には生物ではないが故に無限の力を有する『不死者としての吸血鬼』もいるが、レミリアとその妹のフランドールは『悪魔としての吸血鬼』なのだ。つまり、彼女達はれっきとした生き物であるという事だ。
「お嬢様、お気を付け下さい」
「そいつは再生能力を有しておるが故に、隙を与えてはいかんぞい」
端から見ていた美鈴と跳流はそのレミリアの様子を見て些か慌て出した。ここでまた敵に自己再生の機会を与えてしまっては、いかにレミリアと言えども対処が難しくなってしまうだろう。
だが、レミリアは如何にも余裕といった態度を崩さない。
「まあ、安心してもらおうか。少し息を整えただけだ。こいつの好きになど私がさせると思うか?」
「おおう、その威厳。さすがはカリスマじゃのう」
「お嬢様、素敵です」
二人に言われて、レミリアは「意外に結構ウケが良かったわね」と、内心喜んでいたのだった。
「まあ……何だ。ここからはスペルカードを使うからよく目を凝らして見ておくといい」
そう言ってレミリアはここに来て始めてのスペルカードを懐から取り出し、宣言する。
「【冥凶「蒼のランプ」】……」
宣言後、レミリアの右手に青白い炎の塊が現出していた。それを見て美鈴が驚きの声をあげる。
「お嬢様が……赤くないスペルを使った……?」
「そんなに珍しい事なのかのう?」
「ええ、それは勿論。お嬢様ってば何かって言うと赤ばっかりにして。紅魔館見て貰えば分かるでしょう? 外観から内装まで赤、赤、赤ってどこぞの通常の三倍のスピードで動く人かって思いますよ」
「……美鈴、全部聞こえているから……」
こうも露骨にダメ出しをしなくてもいいじゃないかとレミリアは項垂れた。ここまでハッキリと言われては、地獄耳でなくても嫌でも聞こえるというものである。
だが、ここでレミリアは気を持ち直す事とする。彼女は増長した性格だが、それが故にメンタルは強く出来ているのだ。これしきの事でくよくよしているレミリアなどレミリアではないだろう。
ともあれ、まずは今しがた発動したスペルの効力を使うまでである。レミリアは手にした蒼い炎を敵に目掛けて振りかざすと、その勢いのまま鞭のように機械蜘蛛へと向かっていったのだった。
それにより、機械蜘蛛の表面はその攻撃に抉られてしまった。そう、溶けるではなく、抉られたという表現になるのだ。
どうやら、この炎は普通の炎ではないようで、闇の領域にある魔の炎であるようだ。
確実に敵には効いているようだ。これに気を良くしてレミリアは更に闇の炎の洗礼を機械蜘蛛へと浴びせていった。
「おおー」
「凄いですね……」
その光景を見ていた二人は、攻撃の芸術性と威力に目を見開いていた。美しさと強さを兼ね備えたそのスペルは、正に弾幕ごっこに相応しいポテンシャルを秘めている事を実感したからだ。
外野の反応もまずまずであったので、レミリアは実に満足であったようだ。だが、ここでその興をぶち壊す発言をする者がいたのだった。
「凄いのうお主、まるで『吸血姫美夕』じゃ」
「んなあぁぁっ……!!」
レミリアは妙ちくりんな叫び声を漏らしながら、盛大にむせてしまった。
「げふんげふん……、それは大人の事情の関係でマズから止めるように」
「いいと思ったんじゃがのう。吸血鬼で炎を操るなんて正にそれじゃないかの」
「だからやめなさいってば……」
レミリアはそうツッコミを入れつつ思った。寧ろ、あのヒロインと風貌的に似てるのは跳流の方だと。ミニ丈の和服に裸足ってかなり思い切った事だからこっちの方が被るのが稀なんじゃないかと。
一方で、闇の炎にその身を抉られた機械蜘蛛は動きが鈍っていた。どうやら、想定されていない破壊のされ方をして、再生がうまくいかないようである。
と、ここで彼に動きがあった。突如として、彼の胸部が開いたのである。
そして、そこにあったのは大型の砲門であった。ここから行われる事は想像に難くないだろう。
予想通りの展開が起こった。機械蜘蛛が展開した砲門から、高出力のレーザーが照射されたのだった。
「何と!」
「お嬢様、お気を付け下さい!」
この展開には、外野の二人も驚愕しながら注意を呼び掛けるのだった。ただ、再生能力に長けるだけでなく、このような大それた攻撃手段まで持つとはと。
だが、レミリアは至って落ち着いていた。寧ろ今の状況は好都合と言えるのだった──『あれ』を試すには持ってこいの展開だと。
迫り来るレーザー。そしてそれを前にしても不敵な笑みを絶やさないレミリア。その後、事は起こった。
「【解剣「レミリアソード」】♪」
そうレミリアが宣言すると、彼女の手には大振りの紅い刀身の剣が握られていたのだった。それを彼女は迫って来たレーザーの前へと翳した。
すると、そのエネルギーはみるみる内に刀身へと吸い込まれていったのだった。そして、その剣は見事にレーザーを吸い尽くしたのである。
後に残ったのは、高密度なエネルギーを携えて激しく火花と光を漏らす剣であった。
その剣を敵に向けながらレミリアは言う。
「はい、お返しするわよ」
言うと彼女は刀身を一気にその場で振り降ろしたのである。すると、そこから先程貪欲に奪い取った光と熱のエネルギーが、再び外へと解放されていったのだ。
そして、勿論その進路は、先程レーザーを出した張本人たる機械蜘蛛であった。突然の事態の為、彼のプログラムが対処出来ずに慌てふためいているようだ。
そんな彼に容赦なく盗品のレーザーが返品される形となったのだ。──勿論そのような物は返してもらう事を視野には入れていない為に、為す術なく機械蜘蛛はその自らが放った奔流に飲まれる事となった。
そして、彼は見事に爆散してしまったのだった。辺りに金属片が飛び散ったが、どうやらもうダメージが再生可能な範疇を越えているが為に元に戻る事はなさそうだ。
「思った通りね、攻撃の後ってのは誰でも防御がおろそかになるようね。例えそれが生物でなくてもね」
今しがた大物の敵を倒したレミリアは、自分の考えた作戦が見事に理に適っている事に自負するのだった。
「これはいつか依姫と戦う時の奥の手って訳よ。それを見られたんだから光栄に思いなさい♪」
意思を持たない機械に言ってもしょうがないかもしれないかと、レミリアは自嘲気味に心の中で自分にツッコミを入れた。
ともあれ、この紅魔館周辺の方もこれにてカタが付いたようだ。
「加勢にいった咲夜の方もうまくやっているでしょう。後は……」
もう一つの勢力の事を思い、レミリアは呟いた。
「お嬢様、凄いですよ今のスペル」
「お主にそんな事が出来たとはのう」
外野で今までの一部始終を見ていた二人は、事が済んだのに安堵してレミリアの元へと駆け寄ってきたのだった。
「まあね、私とてあいつに負けっぱなしというのは腑に落ちないからね。対策の一つや二つってものは用意させてもらうわよ」
そう言ってレミリアは胸を張ってふんぞり返っていた。紅魔館の主と言えども、こういう所が実に子供らしいのである。
「お主の事見直したぞい。てっきりわしはお主を脳筋だと思っていたのじゃがな」
「あん?」
ここで、興が乗っていたレミリアが一変した。今の言葉はデビルイヤーでなくても聞き逃せなものがあったのだから。
結果から言おう。お嬢様の逆鱗に触れてしまった跳流は今、絶賛彼女にその裸足の足裏をくすぐられる刑に処されているのだった。
「あひゃひゃひゃアッー! やめて、やめ。お主、裸足の少女への気配りがなっていないぞ」
「黙らっしゃい、普段から屋外でも平気で裸足のお前が悪い。これはその報いだと思え」
「センキューサー! ……じゃなくて、美鈴お前もわしを羽交い締めにしていておかしいぞ」
「いえ、裸足の女の子が足をくすぐられるなんて、最高に絵になるじゃないですかぁ♪ そんなオイシイ場面をみすみす逃す手はありませんよ」
「……」
わし、また美鈴に変な影響を与えてしまったか。そう思いながら跳流は、決して楽しさからではない笑い声を森中に響かせるのだった。
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