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美少女超人キン肉マンルージュ

作者:マッフル
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第1試合
  【第1試合】 VSグレート・ザ・屍豪鬼(3)

「驚きましたですねえ! これは大変なことになりましたよ! アシュラマンと言えば、キン肉マンと2度の対戦をし、正義超人を壊滅寸前にまで追いやった超人ですよ! その後は正義超人として活躍したこともありましたが、最近になって再び悪魔超人として登場し、キン肉マンの息子であるキン肉万太郎と戦ったのは、皆様も記憶に新しいことでしょう! 結果こそ、アシュラマンはキン肉マン、キン肉万太郎に負けを喫していますが、その試合内容は、むしろアシュラマンの方が、圧倒的な試合運びをしていたのです!」

 解説の中野さんは、アナウンサー以上に興奮している。

「今のグレート・ザ・屍豪鬼選手は、アシュラマンの能力をすべて受け継いだ超人です。つまり……キン肉マンの能力を受け継いでいるキン肉マンルージュ選手と同等か、それ以上の実力を持った超人だと言っても、過言ではないでしょう!」

 観客は中野さんの解説を、静かに聞いていた。観客はアシュラマンという伝説超人の突然の登場に、驚き、戸惑い、不安を感じている。それほどまでにアシュラマンは有名で、圧倒的な強さを誇った超人である。

“アシュラマンはやばいって……キン肉万太郎と、ケビンマスクを苦しめまくった、あのベテラン超人だろ?”

“キン肉万太郎とケビンマスクって言ったら、超人オリンピックのファイナリスト、事実上の新世代超人のツートップだぜ……そんなふたりに、勝ちそうだったんだぜ、あのアシュラマンってさあ……”

“いくらなんでも、キン肉マンルージュちゃんには……相手が悪すぎるよ……”

 先ほどまでのキン肉マンルージュ優勢という雰囲気が、いっきにグレート・ザ・屍豪鬼優勢へと変わってしまった。
 そんなどんよりと意気消沈した雰囲気の中、アシュラマンに変身したグレート・ザ・屍豪鬼は、自陣のコーナーポストまで戻っていく。そして準備運動をするかのように、全身を脱力させながら、ピョンピョンとその場で跳ね上がる。

「カーカカカ! さあ、仕切りなおしじゃわい! 今度はこの、アシュラマン・ザ・屍豪鬼が相手じゃい!」

 まるで第2試合が始まるかのように、リング上では両選手がコーナーポストまで戻り、体勢を整えている。

「どうしよう……ミーノちゃん、マリお母さん……」

 消え入りそうな声で、キン肉マンルージュはセコンドにアドバイスを求める。

「アシュラマン・ザ・屍豪鬼……とんでもない強敵ですぅ……強敵ですが、キン肉マンルージュ様はアシュラマンの試合を何度も何度も、見ていらっしゃるのですぅ?」

「う、うん……見たよ、たくさん……たくさんたくさん……」

「ええと、うまく言えないのですがぁ……アシュラマン攻略の鍵は、キン肉マンルージュ様ご自身の中にある気がしますですぅ」

「わ、わたしの中に?! ……ウソだよ、そんなの」

 弱気になっているキン肉マンルージュは、顔をキャンバスに向けたまま、身を震わせている。

「アシュラマンって言えば、誰でも知ってるくらい有名な伝説の悪魔超人だよ……超がつくほどのスペシャルな超人なんだよ……そんな超人相手に、わたし……戦えないよ……」

 不安がピークに達したキン肉マンルージュは、ぽろぽろと涙をキャンバスに落とす。

「うええぇぇん……こわいよお……たすけてよお……」

 キン肉マンルージュは泣きながら、ぶるるんと身を震わせる。

「ふええぇぇん……おしっこ……おしっこ漏れちゃう……こわくてこわくて……おしっこ出ちゃう……」

 身をもじもじと揺らしながら、顔を涙で濡らしているキン肉マンルージュは、自分の気持ちを真っ正直に話す。

「無理だもん……アシュラマンのこと、たくさん知ってるから、わかるもん……本当に強いんだよ、アシュラマンって……無理だよお、絶対に無理……無理なんだもん……おもらししそう……しちゃうよお……」

 “パンッ!”

 突然、手を打つ音が周囲に響く。キン肉マンルージュは驚いて顔を上げた。

「凛香ちゃん、大丈夫よ」

 マリが真っ直ぐに、キン肉マンルージュを見つめている。凛とした強い眼差しが、キン肉マンルージュを見つめる。

「お母……さん……」

「絶対に大丈夫、自分を信じなさい、凛香ちゃん」

 マリの言葉を聞いたキン肉マンルージュは、いつの間にか身体の震えが止まっていた。不安な気持ちは、一瞬で勇気に変わった。

「……おしっこ、止まった」

 そう呟くと、キン肉マンルージュは勢いよく立ち上り、アシュラマン・ザ・屍豪鬼を睨みつけた。

「カーカカカ! いい目じゃわい! ションベンガキ超人! そうでなくては面白くないわい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュを睨み返す。

「凛香ちゃん、ミーノちゃんが言っていたけれど、アシュラマン攻略の鍵は凛香ちゃんの中にあるわ。凛香ちゃんが知っている、アシュラマンに関する情報を総動員して、思い切り戦いなさい」

「うん! マリお母さん!」

 キン肉マンルージュはアシュラマン・ザ・屍豪鬼を睨みつけたまま、アシュラマン・ザ・屍豪鬼に突進する。

「カーカカカ! アシュラマンの恐ろしさ、とくと見せてくれようぞい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は高らかに笑い上げながら、キン肉マンルージュを迎え撃つ。

“ひゅん”

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の目の前で、キン肉マンルージュは体勢を思い切り低くした。そして、キン肉マンルージュはアシュラマン・ザ・屍豪鬼の真横を、すり抜けようとする。

“がしぃ”

 突然、キン肉マンルージュの動きが止まってしまう。アシュラマン・ザ・屍豪鬼の真横にまで移動したキン肉マンルージュは、ユニフォームの背中の部分をアシュラマン・ザ・屍豪鬼に掴まれていた。

「カーカカカ! 残念だったなあ! 儂の6本の腕に、死角は存在せんのじゃあ!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュを掴んでいる腕を強引に振り上げ、真上へと持ち上げた。そしてアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、頭上にいるキン肉マンルージュを、勢いをつけてキャンバスに投げ落とした。

“ずだぁん”

 キン肉マンルージュはキャンバスに叩きつけられ、まるで空気の抜けたゴムボールのように、鈍くバウンドする。

“ずばきぃ”

 バウンドして宙にいるキン肉マンルージュを、アシュラマン・ザ・屍豪鬼はサッカーのシュートのように、思い切り蹴り込んだ。
 キン肉マンルージュはとっさにキックをガードしたが、アシュラマン・ザ・屍豪鬼のキック力は凄まじく、キン肉マンルージュはガードしたまま、蹴りの勢いで吹き飛んでしまう。

“ずがしゃあ”

 キン肉マンルージュの身体は、コーナーポストというゴールにぶち当たった。キン肉マンルージュの身体が、容赦なくコーナーポストの支柱にめり込む。

「かはぁぁッ」

 キン肉マンルージュはゆっくりと、力無くリングに沈んだ。

「ああああっとおぉ! キン肉マンルージュ選手! ついに! ついについに! 攻撃を受けてしまったあ!」

「大丈夫でしょうか、キン肉マンルージュ選手。かなりまともに、攻撃を受けてしまったように見えましたが」

 アナウンサーと中野さんが、心配そうに解説をする。
 ぴくりとも動かないキン肉マンルージュを見て、ミーノは青ざめた。

「あ、あ、あ、マリ様ぁ……き、キン肉マンルージュ様が……そ、そんな……あれでは、絶命した……かもですぅ……」

 うら若き少女であるキン肉マンルージュが、悪魔超人の情け容赦ない蹴りを受け、コーナーポストに激突した。
 細く華奢な身体の少女が、無残にも吹き飛ばされ、そして大激突。
 女の子が一瞬にしてすたぼろにされるというシーンを、目の当たりにしてしまった……ミーノは卒倒しそうなほどに、ショックを受けた。

「ひ、ひどい……ひどすぎますぅ……あんまりですぅ……」

 倒れているキン肉マンルージュを見つめながら、うちひしがれるミーノ。そんなミーノの肩の上に、マリは優しく手を置いた。

「大丈夫よ。ミーノちゃん、冷静になって。キン肉マンルージュはキン肉マンさんの能力を受け継いでいるのよ。だから、いま攻撃を受けたのは、か弱い女の子ではなく、身体を鍛え抜いた超人なのよ」

 マリの言葉を聞いて、ミーノはハッとした。キン肉マンルージュがキン肉マンと同等の身体能力を受け継いでいるという事実が、すっかり頭からとんでしまっていた。それほどまでに、キン肉マンルージュがやられた光景は、衝撃的で凄惨なものであった。

「うっ、ううう……いったあぁぁい……」

 キン肉マンルージュはむくりと身体を起こし、コーナーポストに身体を預けながら、ずりずりと立ち上がる。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の猛烈な蹴りを受けたキン肉マンルージュであったが、蹴りの瞬間に受け身をとり、完全にガードしていた。その為、思いのほかダメージは小さいものであった。
 しかしそれでも、脳震盪を起こすくらいにはダメージがあった。

「あ、やば……」

 コーナーポストに寄り掛かっているキン肉マンルージュは、ふらりと倒れそうになる。目の前が揺れている。目の焦点が定まらない。

「カーカカカ! いくら完璧なガードをしようとも、超人の蹴りをまともに受ければ、それ相応のダメージってものがあるわい! アシュラマンの蹴りは、鉄柱を真っ二つにへし折ってしまうほどの威力があるからのお。たとえ貴様がキン肉マンの身体能力を持っていようとも、完璧なガードをしようとも、脳が揺らされてしまうくらいのダメージは、そりゃあ、あるわい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュの真正面に立ち、無造作に手を伸ばしてキン肉マンルージュを掴もうとする。

「ッ!」

 キン肉マンルージュはアシュラマン・ザ・屍豪鬼の気配を瞬時に感じ取り、横へ飛ぼうとする。

「ひあぅッ」

 飛ぼうという意思に反して、キン肉マンルージュの足は動こうとしない。上半身は飛ぶ体勢になっているにもかかわらず、足はもつれ、絡まってしまう。

「カーカカカ! 脳がまともに働いていないからのう。当然、まともに動けるわけもないんじゃい!」

 キャンバス目掛けて倒れこんでいくキン肉マンルージュ。アシュラマン・ザ・屍豪鬼は片腕で、キン肉マンルージュをがっしりと掴んだ。

「カーカカカ! またリングに叩きつけもいいのじゃがのう。それでは芸が無いわい。せっかくじゃから、派手な技で観客にサービスしてやるとするかのう」

 そう言ってアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、腕一本でキン肉マンルージュを真上に放り投げた。

「喰らえい! 竜巻地獄!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は6本の腕を高速で振りぬき、竜巻を発生させた。竜巻は落下するキン肉マンルージュを待ち受けているかのように、キン肉マンルージュの真下で、ごうごうと渦巻いている。

「きゃぅあああぁぁぁッ!」

 キン肉マンルージュは竜巻に飲まれ、物凄い勢いで身体を回転させられる。

「く……くるしい……息……できない……いたい……全身がいたいよぉ……」

 超高圧で超回転する竜巻に巻かれ、キン肉マンルージュはあまりの苦しさに涙ぐむ。涙は目から流れ出たのと同時に、風に巻かれて吹き飛ばされてしまう。

「カーカカカ! こんな竜巻はまだまだ序の口、子供だましよ! 本当の地獄はこれからじゃい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は竜巻の回転に合わせ、6本の腕を振りぬく。すると竜巻は回転を増して、渦が大きくなっていく。

「そおーれ、それそれい! 死ぬほど、そおれい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は容赦なく腕を振りぬき続け、竜巻を巨大化させていく。

「きゃああぅあああぁぁぁううあああッ」

 巨大竜巻の中で、キン肉マンルージュは縦横無尽に吹き飛ばされている。

「カーカカカ! まだ叫ぶ余裕が残っておるのか。それでは本当の地獄というやつを、存分に味あわせてやるわい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は巨大竜巻に抱きつくかのように、6本の腕で竜巻を掴む。そして、ぎゅうぎゅうと竜巻に力を加え、竜巻を小さくしていく。
 解説席にいるアナウンサーは、その様子を不思議そうに見つめていた。

「あああっと、これはどうしたことか? まるで台風を思わせるほどの凶悪な竜巻が、どんどんと小さくなっていく! 大きくしたかと思えば、今度は竜巻を小さくするアシュラマン・ザ・屍豪鬼選手! いったいこれは、どういうことなのか?!」

 アナウンサーの疑問を聞いて、マリは静かに言った。

「確かに大きさは小さくなっていくけれど、竜巻の威力は大きくなっていく……その証拠に、竜巻の中にいるキン肉マンルージュが、前にも増して激しく飛ばされているわ」

 最初に発生させた竜巻と同じくらいの大きさまで、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は竜巻を小さく縮めた。しかし大きさに反比例して、竜巻の威力は何十倍にも増している。

「カーカカカ! どうじゃい、もう声も出せんじゃろう。それどころか、息は全くできん、身体は激しく捻じ曲がる、風圧で肌は切り刻まれる。これぞ真の竜巻地獄じゃい!」

 濃縮竜巻の中で、ずたずたにされていくキン肉マンルージュ。そんなキン肉マンルージュの姿を見て、ミーノは思わず叫んだ。

「キン肉マンルージュ様! 竜巻の中心に移動してくださいですぅ! そして渦の流れに逆らわず、竜巻と同じ方向に回転するのですぅ!」

 ミーノのアドバイスを聞いたアナウンサーは、首を傾げながら疑問を声にする。

「あああっと! これはミーノちゃん、どうしたことでしょう? 竜巻の中心は一番威力がある危険な位置! 竜巻と同じ方向に回ったら、身体への負担が倍増必至! どう考えてもミスアドバイスだあ!」

 アナウンサーの疑問に、観客達が同調する。

“ミーノちゃん、どうした? あせりすぎ? 気が動転中? やばい方向まっしぐら?”

“それじゃあ、逝きそうなルージュちゃんが、本当に逝っちゃうよう?!”

 ミーノを疑う声が飛び交うなか、マリはミーノの頭を撫でた。

「それでいいのよ、ミーノちゃん」

「はいですぅ!」

 マリとミーノは、真っ直ぐにキン肉マンルージュを見つめる。そんなふたりの眼差しに気がついたキン肉マンルージュは、小さく頷いた。

「くうぅ……ぅぅううう……」

 キン肉マンルージュは動かない身体を無理やりに動かし、竜巻の中心にまで移動した。身体を風に刻まれながらも、歯を食いしばり、全身に力を溜める。

「48の殺人技のひとつ、マッスルトルナード!」

 キン肉マンルージュは溜めた力を一気に解放し、竜巻と同じ方向に全身を回転させる。

“ぎゅうるるるるるる”

 キン肉マンルージュの身体は、竜巻以上の速さで回転する。そして竜巻の中心で超高速回転するキン肉マンルージュは、竜巻の上部から飛び出した。

「おおおっと! キン肉マンルージュ選手、竜巻地獄から生還だあ! いったいどういうことなのか!?」

 驚くアナウンサーの横で、中野さんは不自然に髪をたくし上げながら、口を開く。

「キン肉マンルージュ選手は、竜巻の中心に移動をしたことで、渦の中心に入り込んだのですねえ。渦の中心ということは、当然キン肉マンルージュ選手は、その身を渦に回転させらてしまうわけですねえ。このときにですね、中心の位置でキン肉マンルージュが自ら回転をすると、身体の回転は加速度的に速度を増し、竜巻よりも速いスピードで回転することができるのですねえ。こうなると、キン肉マンルージュ選手は竜巻の回転の影響を受けず、そして竜巻から脱出することが可能になるのですねえ」

 中野さんの解説を聞いた観客は、一気に沸き立つ。

“すげえぜルージュちゃん! あのアシュラマンの得意技を破っちまったぜえ!”

“ミーノちゃん、ナイスアドバイス! ミートくん顔負けの正確かつ的確なアドバイスだったぜえ!”

 観客がキン肉マンルージュとミーノを称賛する中、キン肉マンルージュは上空から、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の姿を探していた。
「いない? アシュラマン・ザ・屍豪鬼が、どこにも?」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼を探すキン肉マンルージュの背後から、悪魔の声が聞こえる。

「カーカカカ、いくら探しても見つかりはせんわい」

“がしぃ”

 キン肉マンルージュは宙で、アシュラマン・ザ・屍豪鬼に抱きつかれ、そのまま肩の上に担がれた。

「貴様が竜巻地獄から飛び出してくるのは、はなから計算の内じゃあ! 上空で待っておったら、案の定、儂のところにまで飛んできおったわい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は6本の腕で、キン肉マンルージュにボディスラムを繰り出す。

「トリプルボディスラム!」

 通常の超人によるボディスラムの3倍の威力を持つとされるトリプルボディスラム。これを上空から放たれる。
 キン肉マンルージュは高速でリングに向かって落下する。

「きゃあああぁぁぁう!」

 落下するキン肉マンルージュを追いかけるように、アシュラマン・ザ・屍豪鬼も落下する。そして、宙でキン肉マンルージュの身体を捕まえた。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は、真っさかさまに落下するキン肉マンルージュの足の上に、自らの膝を乗せ、全体重をかける。

「阿修羅稲綱落とし!」

 トリプルボディスラムの威力が加わった阿修羅稲綱落としは、相手に返し技を繰り出させる余裕を全く与えず、一直線にキャンバス目がけて落下する。

“ずがぎゃぁぁあああッ”

 キン肉マンルージュは受け身らしい受け身をとることが出来ず、後頭部をもろにキャンバスへ打ちつけた。
 後頭部、背骨、下半身、ほぼ全身に凄まじい衝撃が走り、キン肉マンルージュは苦痛の言葉すら漏らすことが出来ない。

「カーカカカ! 今はやりのコラボ技ってやつよ! 破壊力倍増、見た目の派手さも倍増で、一石二鳥ってやつじゃあ!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は高らかに笑いながら、キン肉マンルージュの足の上から飛び退いた。
 キン肉マンルージュはバランスを失い、無残な姿でキャンバス上に倒れ込んだ。

「キン肉マンルージュよ、いくら貴様がキン肉マンの能力を授かっているとはいえ、魔界のプリンス、アシュラマンの得意技を3つも喰らったんじゃあ。もう立ちあがることは出来ん。それどころか、心の臓が止まりかかっていて、絶命寸前じゃろうて」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は見下すように、倒れているキン肉マンルージュを眺めている。

「死にかかっているからこそ、完全に息の根を止める! それでこそ悪魔というものじゃわい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は6本の腕を振りぬき、竜巻を発生させる。

「喰らえい! 竜巻地獄!」

 竜巻はキン肉マンルージュを飲み込み、真上に向かって弾き飛ばした。

「もういっちょう、阿修羅稲綱落としを喰らわしてやるわい! これで完全に絶命じゃあ!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュを追いかけるように上空へ飛び、キン肉マンルージュの身体を掴もうとする。

「48の殺人技のひとつ、マッスルトルナード!」

 突然、キン肉マンルージュの身体が高速で回り出した。そして、アシュラマン・ザ・屍豪鬼に向かって突進する。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は突然のことで、完全に虚をつかれてしまう。成すすべ無く、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は高速回転するキン肉マンルージュを、まともに腹で受け止めてしまう。

「ぐぎゃあああッ」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は苦悶の表情を浮かべながら、真っさかさまに落下する。
 キン肉マンルージュはすかさず、落下するアシュラマン・ザ・屍豪鬼の足の上に膝を乗せ、全体重をかける。

「喰らいなさいッスル! マッスル稲綱落とし!」

 腹部にダメージを負ったアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、無抵抗なまま技を受け、そのままキャンバスに向かって落下していく。

“ずぎゃがぁぁあああッ”

 キャンバスに後頭部を打ちつけたアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、ぴくりとも動かない。
 キン肉マンルージュは膝立ちのまま、後方に飛び上がって回転する。そしてストンと、キャンバス上に着地した。

“うおおおおお! 返した! 華麗に返した! アシュラマンの大技を、そのまま返したあ! マッスル稲綱落とし、ヤバすぎる!”

“必殺、死んだふり? あれって相手を油断させる芝居だったのかあ!”

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の技を見事なまでに返したキン肉マンルージュに、観客が沸きに沸き立った。

「違う、わね」

 沸き立つ観客を尻目に、マリは静かに口を開いた。

「凛香ちゃんは、本当に瀕死の状態だった。でも、相手の技を受ける直前に……絶体絶命のピンチの状態になって、凛香ちゃんは力を取り戻した……ように見えたわ」

 マリの言葉を聞いて、ミーノはハッとする。

「そ、それって、もしかして、ですぅ」

「確かに、凛香ちゃんはキン肉マンさんの能力を受け継いでいるけれど……まだわからないわ……本当に、あの力なのかどうかは……」

 ふたりが話しているのを尻目に、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は首の力だけで身体を真っ直ぐにし、脳天で倒立をする。

「カーカカカ! さすがはキン肉マンの能力を授かっているだけのことはある! まるでキン肉マンと戦っているようじゃわい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は首に力を込め、首だけで身体を飛び上がらせ、立ち上がった。

「マッスル稲綱落とし、大したもんじゃあ! それなりにダメージもあったぞい! じゃがのう、所詮は付け焼刃! 本家アシュラマンには、ほとんど効かんわい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はリングの真ん中で笑い上げる。対するキン肉マンルージュは、負傷した個所に手を当てながら、ぼろぼろにされた身体をかばうように身構える。
 ダメージは明らかに、キン肉マンルージュの方が大きい。ミーノは苦心の表情を浮かべながら、何かアドバイスはできないかと、頭を悩ませる。

「ミーノちゃん、今は凛香ちゃんを信じましょう。苦境を苦境としない、むしろ力に変えてしまうのが正義超人でしょう。凛香ちゃんなら大丈夫。きっと大丈夫よ」

 悩んでいるミーノに、マリは優しく声を掛けた。マリの声を聞いて、ミーノは少しだけ力を抜くことができた。
 ミーノはふと、マリの方に顔を向けた。そこには、冷静すぎるほど冷静なマリがいた。

「ッ!」

 しかし、ミーノは気づいてしまった。マリの手の平から血が流れているのを。マリは手を強く握り過ぎて、爪で手の平を切り裂いていた。

「マリ様! 手が! ……そうですよね、凛香様はマリ様の娘なのですぅ……心配じゃないはずがないのですぅ……今、一番に心配しているのは、他ならぬマリ様なのですぅ……」

 気丈に振舞うマリを見て、ミーノの目に力強さと勇気が宿る。キン肉マンルージュの力になりたい、そのいっしんで、ミーノはリング上で戦っているキン肉マンルージュを見つめる。

「カーカカカ! キン肉マンルージュよ! デヴィルジュエルがマッスルジュエルに劣るじゃと? 笑わせるな! いくら貴様がキン肉マンの能力を授かっていようが、膨大な超人の情報を頭に詰め込んでいようが、デヴィルジュエルで変身した儂には手も足も出ないではないか! 現に敵わぬではないか! マッスルジュエルの適合者が、デヴィルジュエルの使用者であるこの儂に! これが現実ってもんじゃい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は馬鹿にするように笑い上げながら、キン肉マンルージュの方に向かって歩き出した。

「さて、貴様も正義超人だとぬかすのであれば、この絶望的な状況を、ひっくり返してみせい! 見事、逆転してみせい! この儂を倒してみせい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュの目の前にまでくると、無造作に腕を振り上げ、キン肉マンルージュに殴りかかる。

「ッ!」

 キン肉マンルージュは動きが鈍くなった身体を無理やり動かし、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の拳を寸でのところで避けた。そして、キン肉マンルージュはすかさず、伸びきったアシュラマン・ザ・屍豪鬼の腕に、肘を打ちこんだ。

「ぐぎゃああああ! ……なんて、言うと思ったかいのう。効かん効かん! 全く効かん! そんな力の抜けた肘打ち、腕つぼマッサージかと思ったわい!」

 そう言ってアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、キン肉マンルージュの頬を裏拳で殴りつけた。

「きゃうあッ」

 裏拳の勢いで、キン肉マンルージュは吹き飛ばさる。そして、キャンバスに倒れ込む……寸でのところで、キン肉マンルージュは足をキャンバスにつけ、着地した。

“ずざざざざぁぁぁ”

 しかし、それでも裏拳の威力のせいで、キン肉マンルージュはコーナーポストまで滑らされた。
 キン肉マンルージュはコーナーポストに寄り掛かりながら、乱れて荒くなった息を整える。

「はぁ、はぁ、はぁ……やっぱり強い……アシュラマン、強すぎだよ……でも、やるだけやってみる……なにがなんでも、やりとおす……」

 キン肉マンルージュはロープに飛び乗り、そしてロープの反動を利用して、アシュラマン・ザ・屍豪鬼に向かって飛び出す。

「カーカカカ! バカめ! 返り討ちにしてくれるぞい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は身体を横に向け、キン肉マンルージュを抱きかかえようと待ち構える。

「48の殺人技のひとつ、マッスルトルナード!」

 キン肉マンルージュは、宙で身体を高速回転させる。さらに横を向いたアシュラマン・ザ・屍豪鬼の正面に移動するように、軌道を変える。

「くっ、こしゃくなあ!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はとっさに6本の腕でガードをし、真正面からマッスルトルナードを受け止める。

“ずぎゅるるるるるぅ”

 マッスルトルナードはアシュラマン・ザ・屍豪鬼に着弾しても勢いが衰えず、高速回転しながらアシュラマン・ザ・屍豪鬼を押し込んでいく。まるでガードしているアシュラマン・ザ・屍豪鬼の腕を削るように、マッスルトルナードは回転数を増していく。

「ええい、しゃらくさい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はガードをしている一番上の2本の腕を真上に伸ばし、手を組む。そして組んだ手を、キン肉マンルージュ目がけて振り下ろす。

“ずばきゃぁああッ”

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の手は弾かれ、真上に戻されてしまった。
 マッスルトルナードは加速度的に威力を増し、回転を上げていく。アシュラマン・ザ・屍豪鬼の腕は切り裂かれ、血が飛び散る。

「カーカカカ! 力任せが駄目なら、論理的かつ冷徹に対処してやろうぞ!」

 そう言うと、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の頭が、ぎゅるりと回転した。

「フェイスチェンジ、冷血!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の顔が、笑い面から冷血面に変わった。冷たい目だけの顔は、不気味なほどに心を冷たくされる。

「マッスルトルナードは技の性質上、渦の上部かつ中心に……」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はぶつぶつと呟きながら、マッスルトルナードの中心に正拳突きを放った。

“がずぅッ!”

 鈍い打撃音が周囲に響く。

「きゃああぁぁああぁぁッ」

 マッスルトルナードの中から悲痛な叫びが上がり、キン肉マンルージュは頭を抱えながら、リング上を転げ回る。

「マッスルトルナードは渦の中心上部に、頭が位置している。阿修羅稲綱落としでダメージが残っている頭部は、格好の狙いどころ」

「いたい! いたい! いたいよお! いたいぃぃ……すごくいたいぃぃぃ……」

“どずぅ”

 叫び、転げ回るキン肉マンルージュを、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は踏みつけにして、身動きをとれなくする。そして腰をかがめ、6つの手でキン肉マンルージュの脳天に掌底を繰り出す。

「阿修羅蓮華打ち」

 負傷している頭部を、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は容赦なく打ちのめす。

「きゃああやああぁぁやああぁぁッ」

 激しすぎる掌底の乱れ打ちは、キン肉マンルージュに甚大なダメージを与え、蓄積していく。頭頂部は割れてしまい、キン肉マンルージュの額に、血が垂れ流れる。

「ま、マッスルトルナード!」

 キン肉マンルージュは踏みつけにされたまま、高速で回転する。回転の勢いで、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は弾き飛ばされる。

「くぅッ」

 頭部の痛みに耐え兼ね、キン肉マンルージュはマッスルトルナードを解いた。キン肉マンルージュは頭を押さえながらロープに寄り添い、身体を預ける。
 額を流れ伝っていた血は、マッスルトルナードの回転によって吹き飛ばされた。しかし、頭頂部にある傷から新たに血が流れ出て、額に垂れてくる。

「んぅッ」

 キン肉マンルージュは腕で、額の血を拭う。その一瞬の隙をつき、アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュが寄り掛かっているロープに体当たりをする。

「きゃうッ」

 ロープがうねり、キン肉マンルージュはロープに弾かれる。その勢いで、リング中央に向かって走らされてしまう。
 リング中央には、アシュラマン・ザ・屍豪鬼が腕組みをして待ち受けていた。アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュを冷たい眼差しで見つめ、拳を握る。

「今度は拳で、頭部を打ちのめしてやろう」

 キン肉マンルージュは走るのを止められず、成すすべ無くアシュラマン・ザ・屍豪鬼に激突する……寸でのところで、キン肉マンルージュはジャンプをし、ダブルニードロップの体勢でアシュラマン・ザ・屍豪鬼に突っ込んでいく。

“ずがぁッ”

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は真ん中の腕だけ腕組みをしたままで、キン肉マンルージュのダブルニードロップを、その腕で受け止めた。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は表情を変えること無く、無言のまま、キン肉マンルージュを冷たく見つめている。そして、一番上の腕でキン肉マンルージュの腕を掴み、一番下の腕で足首を掴んだ。
 キン肉マンルージュの身体は真上に持ち上げられ、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の下の腕が、キン肉マンルージュの脚を開く。アシュラマン・ザ・屍豪鬼は開かれた脚の間に頭を突っ込み、そのままの体勢で飛び上がる。そして、パワーボムの体勢になる。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は上の腕で、キン肉マンルージュの身体をキャンバスに投げつけた。投げの勢いが加わり、パワーボムの威力は倍増する。

“ずぐぁあん”

 キン肉マンルージュは、頭部をキャンバスに激しく叩きつけられた。

「あああっとお! また頭部だあ! アシュラマン・ザ・屍豪鬼選手、執拗なまでに頭部を攻める! 相手の弱点を見極め、無慈悲にもその部分を集中的に狙う、アシュラマンの冷血面! キン肉マンルージュ選手、ダメージ甚大ぃ! はたして、立ち上がれるのかあ?!」

 アナウンサーの興奮した声が、会場中に響き渡る。

「キン肉マンルージュは立ち上がる。まだそのくらいの余力はある」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼がそう呟くと、キン肉マンルージュはふるふると身体を震わせながら、ふらふらと立ち上がった。

「……負けない」

「んん? 何か言ったか?」

「……負けないって、言ったの」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は腕を組み、見下すように顎を上げる。

「負けない、か。その気持ちは立派なものだが、貴様の体力はお粗末なものだ。もし次に、一撃でも攻撃を受けたら、貴様はもう二度と立てはせぬ。つまり、次にダウンしたら、貴様の負けだ」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は素早く動き、一瞬の間にキン肉マンルージュの目の前にまで移動し、間合いを詰めた。

「ッ!」

 キン肉マンルージュはとっさに頭部を守る。これ以上、頭を攻撃されたら、脳天が砕け散ってしまう。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は、頭部をガードしているキン肉マンルージュの真横に移動し、裏拳を放った。

“どずぅ”

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の裏拳は、ノーガードであるキン肉マンルージュの背中にヒットする。裏拳の勢いで、キン肉マンルージュは前に押し出される。

“どぼぉ”

 押し出されたキン肉マンルージュを待っていたかのように、硬く握られたアシュラマン・ザ・屍豪鬼の拳が、キン肉マンルージュのみぞおちにめり込む。

「ッはぁ」

 苦悶の表情を浮かべるキン肉マンルージュは、口角からよだれを垂れ落とす。

「貴様はもう半分死んでいる状態。わざわざ頭部を狙う必要はない。どこに攻撃を放っても結果は一緒だ。私の勝利という結果は変わらない」

 キン肉マンルージュは膝をがくがくさせ、キャンバスに倒れ込んでいく。

「これでダウンすれば、貴様はもう二度と立てぬ。貴様にはもう余力がない。貴様の負けだ」

“だあぁぁん”

 キャンバスが目の前にまで迫った、その時。キン肉マンルージュは足を踏ん張らせ、キャンバスを踏み叩いた。

「……負けない……わたしは……絶対に負けないッスルううぅぅぅうううッ!」

 熱い気持ちが込められたキン肉マンルージュの叫びが、周囲に響き渡る。

「意地でも倒れないつもりか。だが、この場に立っていれば立っているだけ、貴様は地獄を味わうことになるのだ」

 キン肉マンルージュは目を見開き、熱く燃える眼差しでアシュラマン・ザ・屍豪鬼を睨みつける。

「負けないと言ったら、負けないッスル! あきらめない……絶対にあきらめないッスル! 試合の途中で負けを認めるなんて、そんな無責任なこと……正義超人は、絶対にしないッスル!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は冷たい眼差しのまま、キン肉マンルージュを見つめている。

「キン肉マンルージュよ。それほどまでに暑苦しい目を、この私に向けるのであれば、私も熱くたぎった地獄で、貴様を迎え撃ってくれよう」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の頭が、ぎゅるりと回転する。

「フェイスチェンジ、怒り!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の顔が、冷血面から怒り面に変わった。怒りに満ち満ちたその顔は、見る者全てを怯えさせてしまうほどに、恐ろしい。

「カーカカカ! 怒りこそ我が力! 憎悪こそ我が糧! 燃えたぎる地獄の業火を、存分に味わうがよいぞお!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は6本の腕を、思いきり振り切った。

「竜巻地獄!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は竜巻を発生させたのと同時に、キン肉マンルージュに向かって走り出した。
 キン肉マンルージュは瞬時に横へ跳び、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の突進を避ける。

「逃がすかあ!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は腕を振り回し、キン肉マンルージュに掴みかかる。しかしキン肉マンルージュは、掴みかかってくる腕にかかと落としを喰らわせ、腕を弾き落とす。そして姿勢を低くして、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の腕をかいくぐる。

“がしぃ”

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の下の腕が、キン肉マンルージュのツインテールを掴んだ。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の腕は、まるで目がついているかのように、キン肉マンルージュの動きを完璧に捕らえていた。

「きゃあぅッ! いたい! いたぁぁああい!」

 大きく束ねられたツインテールを引っ張られ、キン肉マンルージュの顔が悲痛に歪む。

「カーカカカ! 痛いのはこれからじゃい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュのツインテールを掴んだまま、ごうごうと巻き上がる竜巻の中に突っ込んだ。

「きゃああぁぁああぁぁッ!」

 ツインテールを掴まれ、髪だけでぶらさがるキン肉マンルージュの身体が、竜巻の中でもみくちゃに吹き飛ばされる。

「カーカカカ! 今度はお空に飛んで行けい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は、急に手を離した。キン肉マンルージュの身体は竜巻に巻かれ、そして竜巻上部から弾き出される。
 真上に飛んだキン肉マンルージュを、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は上空で待ち受けていた。

「そおれ! 今度は地上に真っさかさまじゃい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュをキャッチし、そのまま抱きかかえる。そして、6本の腕で真下に放り投げた。

“ずがががががあ”

 リング上では、竜巻がごうごうと風巻いている。落下するキン肉マンルージュは竜巻に飲み込まれ、竜巻の中で再びもみくちゃに吹き飛ばされる。

「カーカカカ! またお空に飛んでこい!」

 竜巻上部から、再びキン肉マンルージュが弾き飛ばされる。そして、待ち受けるアシュラマン・ザ・屍豪鬼に、一直線に飛んでいく。

「キン肉マンルージュ! 貴様を魚雷で打ち落してくれるわい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は身体を錐揉み回転させながら、飛んでくるキン肉マンルージュに向かってフライングパンチを放つ。

「喰らえい! 阿修羅魚雷!」

 キン肉マンルージュに魚雷が襲いかかる。しかし、キン肉マンルージュも負けてはいない。

「48の殺人技のひとつ、マッスルトルナード!」

 キン肉マンルージュは身体を高速回転させ、阿修羅魚雷を迎え撃つ。

“ずがががががあああぁぁぁ”

 魚雷とトルナードがぶつかり合い、お互いを弾き合う。凄まじい超高圧の超回転同士が衝突したため、周囲に暴風が吹き荒れる。

「ふたりとも凄まじすぎですぅ。このままでは、お互いに無事ではいられませんですぅ」

 暴風に巻き込まれながら、ミーノはぶつかり合う大渦を見つめている。

“ぴしゃり”

 ミーノの頬に、水滴が飛んできた。ミーノは手の平で水滴を拭う。

「あ、赤い?! これは……血ですぅ!」

 ふたつの大渦から、まるでにわか雨のように、赤い水滴が降り落ちてくる。

「ぐうおおッ」

「きゃあうぅ」

 ばちぃっ、という破裂音とともに、ふたつの渦が消失する。そしてキン肉マンルージュとアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、キャンバス目がけて落下する。

“ずがだああぁぁんッ”

 ふたりはキャンバスに身体を打ちつけた。ふたりの身体はリング上で、大きくバウンドする。ふたりはその勢いを利用して、キャンバスに着地した。しかし、それでも落下の勢いはおさまらず、ふたりはキャンバス上を後ろ向きに滑らされながら、お互いの自陣のコーナーポストに激突する。

「ぐはあッ」

「きゃふぐぅッ」

 ふたりはコーナーポストに身体を預けながら、荒くなった息を整える。

“きゃああああッ!”

“ひ、ひでぇ……”

 観客席からは悲鳴が上がり、青ざめた吐息が漏れる。
 キン肉マンルージュは頭部からの出血がいっそうにひどくなり、明るい赤色のコスチュームに、鮮やかな赤色の点と線が、鮮烈に描かれていた。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は手の甲全体が破け、大出血している。更に腕全体の筋肉が所々断裂し、6本全ての腕がびきびきに緊張して、感覚が無くなるほどに痺れていた。

「ぐぬおおお……な、なぜじゃあ……確かに、儂の阿修羅魚雷と、貴様のマッスルトルナードがぶつかり合えば、大ダメージは必至じゃわい……じゃが、それでも……いくらなんでも、このくらいのことで……儂の腕がここまで酷く負傷するとは……ふ、腑に落ちんわい……」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼がぶつぶつと呟いている間に、キン肉マンルージュはスカートをびりびりと破り、頭部の傷を覆うように頭に巻きつけた。
 戸惑うアシュラマン・ザ・屍豪鬼に対し、キン肉マンルージュは冷静に傷の対処をしている。そんなキン肉マンルージュを見て、マリが口を開く。

「アシュラマン・ザ・屍豪鬼の腕は、いきなり壊れてしまったわけではないわ。凛香ちゃんは攻撃対象を6本の腕に絞って、ひたむきに、集中的に、腕を攻撃し続けた。腕が壊れたのは、凛香ちゃんの攻撃の蓄積による結果であって、突発的に腕が破壊されたわけではないわ」

「そのとおりなのですぅ。キン肉マンルージュ様は、どんなにアシュラマン・ザ・屍豪鬼に激しく攻撃されようとも、ひたすらに腕を攻撃していましたですぅ。でも……その代償は大きいのですぅ……」

 ミーノは身を震わせながら、キン肉マンルージュを心配そうに見つめる。

「凛香ちゃんは頭を、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は腕を……ふたりとも、ダメージは甚大だわ……ここからは肉体的ではなく、精神的な強さが求められる戦いになっていくわね」

 マリとミーノがふたりを見つめる中、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は大きく笑い上げた。

「カーカカカ! カーッカッカッカッ! これしきの傷、負傷とは呼べんわ! 正義超人にしてみれば致命的な負傷でも、悪魔超人の儂にとっては、ただのかすり傷じゃわい!」

 そう言ってアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、6本の腕に力を込めながら腕を曲げ、力こぶを作ってみせる。力を込めたことによって、手の甲からは血が噴き出し、腕からは筋肉が断裂する音が鳴り響く。

“きゃああああッ、や、やめてぇ! 恐い! 恐いよぉ!”

“いてえ、いてえよぉ……見てるこっちがイタ苦しいぃ……”

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は、怒り狂った顔で卑しく笑いながら、血まみれの手でキン肉マンルージュの頬をさすった。

「カーカカカ! どうじゃい、これが悪魔超人じゃい! 自らの身体を案ずるほど、悪魔は甘ったれておらぬのじゃい! とにもかくにも、ひたすらに敵を壊す、破壊する、切り刻むんじゃい! 八つ裂きにして、ぶち殺すんじゃい! それが悪魔の戦い方ってもんじゃい!」

 キン肉マンルージュは、頭部に巻いたスカートに、人差し指で触れた。指先が赤く染まる。そして、その人差し指で唇をなぞった。キン肉マンルージュは手の平にキスをし、その手の平をアシュラマン・ザ・屍豪鬼の頬に押し当てる。

「自らを気遣えない者は、誰も気遣えない。自らを愛せない者は、誰にも愛されない。わたしは幼女の頃から、それを嫌ってほどに実感して育ったの」

 キン肉マンルージュは、そっと手を離した。アシュラマン・ザ・屍豪鬼の頬には、鮮血のキスマークがついている。

「48の殺人技のひとつ、マッスルオウスキッス」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は怒り狂い、キスマークを拭おうとする。

「何がキッスじゃい! キッスが殺人技じゃとお? ふざけよってからに! 悪魔の恐怖にさらされすぎて、頭が狂っちまったのか?」

 キン肉マンルージュは真剣な眼差しで、アシュラマン・ザ・屍豪鬼を睨む。

「マッスルオウスキッスは堅い誓い、血の誓約。マッスルオウスキッスを与えた者は、必ず打ち倒す。マッスルオウスキッスは聖なる血の刻印」

 キン肉マンルージュの言葉を聞いて、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は頬を拭うのを止めた。

「カーカカカ! そうか、この麗しきションベンガキ超人の接吻は、貴様なりの覚悟というわけか! いいじゃろう! だったら有言実行せい! 貴様がほざいたとおりに、儂を打ち負かしてみせい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は6本の腕を編み込み、1本にまとめる。そして6つの拳を握り、その全ての拳をひとつに重ねる。アシュラマン・ザ・屍豪鬼は思い切り身体を振りながら、更に腕も振り抜く。

「喰らえい! 阿修羅鉄球クレーン車!」

 まるで鉄球のついたクレーン車で殴られたような衝撃が、キン肉マンルージュの腹を突き抜ける。

「きゃひゅうぅぐぅッ」

 キン肉マンルージュは吹き飛ばされ、ロープにぶち当たる。ロープはキン肉マンルージュの激突によって伸び、そしてロープは急激に元へと戻る。
 ロープの反発力で、キン肉マンルージュは再び吹き飛ばされる。その先には、アシュラマン・ザ・屍豪鬼が待ち受けていた。

「もういっちょう、地獄の鉄球を喰らえい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は飛んでくるキン肉マンルージュとのタイミングをとりながら、悪魔の鉄球を投げ放つ。

“ずがしゃああぁぁッ”

 重苦しい打撃音が周囲に響く。アシュラマン・ザ・屍豪鬼の放った鉄球は、リング上にめり込んでいる。

「ぐぅうわあぁがああぁぁ」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の顔が、悲痛に歪む。キン肉マンルージュの両膝が、アシュラマン・ザ・屍豪鬼のまとめられた腕に突き刺さっていた。

「マッスル鉄球落とし!」

 ロープに飛ばされていたキン肉マンルージュは、空中でとっさに両足を跳ね上げて、軌道を上向きに変えていた。そして、鉄球が自分の下を通過したのを見計らい、今度は両足を下ろして、軌道を下向きに変える。キン肉マンルージュは両膝を揃え、アシュラマン・ザ・屍豪鬼のまとめられた腕に膝を落とした。

「こ、こんのションベンガキ超人めがあ! 本気で儂を怒らせおったぞお! もう容赦はせん! 貴様の息の根、完全に止めてくれるわあ!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の目が真っ赤に光り、全身が赤黒く変色する。怒りの頂点に達したアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、全身に怒りを宿し、憎悪で血を沸騰させる。

「ガーガガガ! 真・怒り面、発動じゃあ!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は目で追えないほどの速さで移動し、キン肉マンルージュの真正面に立つ。

「ッ!」

 突然、目の前にアシュラマン・ザ・屍豪鬼が現れ、キン肉マンルージュは身体をこわばらせてしまう。

「ガーガガガ! アシュラマン・ザ・屍豪鬼の究極フェイバリットホールドを、存分に喰らえい! そして死ねい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュを担ぎ上げ、そのまま上空へと飛躍した。そして宙にいる状態で、キン肉マンルージュの両腕、両脚を6本の腕で固める。更に両脚を跳ね上げ、首をフックした。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は飛躍の頂点に達すると、叫ぶように言い放つ。

「ガーガガガ! 喰らえい! アルティメット阿修羅バスター!」

 アシュラマンの究極バスター、アルティメット・阿修羅バスターがキン肉マンルージュに極まってしまった。
 アシュラマンが息子シバを死に至らしめた、無慈悲極まりない最強のバスター、それがアルティメット・阿修羅バスターである。

「ガーガガガ! この技は絶大な威力を誇り、かつ、脱出不可能技じゃい! 貴様をあの世に送る、最高級のリムジンを用意してやったぞい! ありがたく喰らえい!」

 脱出不可能技というだけあって、キン肉マンルージュは身体をぴくりとも動かせないでいた。両腕、両脚、首、ほぼ全身が固められ、身動きが全くとれない。
 地獄へ真っさかさま。この世には戻ってこられない片道切符。キン肉マンルージュは、まさに絶体絶命である。

「負けない! 絶対にあきらめない! あの世になんて、絶対に行かない!」

 キン肉マンルージュは必死になって、身体を揺すった。両腕、両脚をばたつかせ、首を左右に振る。

「ガーガガガ! 暴れろ! もがけ! そして苦しめ! 何をしようが、この技は破れぬわ!」

 落下速度は加速度的に上がり、キャンバスが近づいてくる。キン肉マンルージュは歯を食いしばり、涙を流しながら、全身に力を込めて暴れまくる。

“こくん”

 キン肉マンルージュは、奇妙な違和感に気がついた。身体を動かすと感じる、微かな変化。アシュラマン・ザ・屍豪鬼から伝わる、微小な違和感。
 キン肉マンルージュはいっそうに集中して全身に力を込め、アシュラマン・ザ・屍豪鬼がホールドしている腕を引き剥がそうとする。

「ガーガガガ! 無駄じゃあ! 無駄! 無駄あ! もうすぐ地獄に着くから、楽しみに待っておれい!」


「無駄だとしても! やれることはやり尽くす! どんなに負けそうでも、自分の勝ちを信じる! それが純潔乙女正義超人、キン肉マンルージュなんだからあああああッ!」

“ごきぃん”

 ひときわ大きな鈍音が、周囲に鳴り響いた。そして、キン肉マンルージュの右腕をホールドしているアシュラマン・ザ・屍豪鬼の手が、ぶらりと力なく垂れ落ちる。

「な、なんじゃとお!」

 突然のことに、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は困惑する。そしてキン肉マンルージュは、ここぞとばかりに暴れまくる。

“ごきごぎぃん! ごききぎぎぎぃん”

 鈍音が連続的に響き渡り、同時にアシュラマン・ザ・屍豪鬼のすべての手が、キン肉マンルージュの身体から離れていく。キン肉マンルージュのホールドを放棄したアシュラマン・ザ・屍豪鬼の6本の腕は、ぶらぶらになって、力なく垂れ落ちてしまった。

「こここ、これはどうしたことかあああぁぁぁ! アシュラマン・ザ・屍豪鬼選手、完璧にきまっていたアルティメット阿修羅バスターを解いてしまったあ! アシュラマン・ザ・屍豪鬼選手に、いったい何が起こっているのかあ?!」

 興奮したアナウンサーの実況に、興奮した中野さんが答える。

「今の音、そしてぶらぶらになった腕、これは脱臼ですねえ! アシュラマン・ザ・屍豪鬼選手、6本全ての腕が脱臼していますねえ!」

 実況席が沸き立っている間に、キン肉マンルージュは首をホールドしているアシュラマン・ザ・屍豪鬼の両脚を掴み、指を突き刺すように握り締める。

“ぐぅわッ”

 小さな悲鳴を上げたアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、一瞬、両脚の力が抜けてしまう。その一瞬を逃さず、キン肉マンルージュはアシュラマン・ザ・屍豪鬼の首固めから脱出する。

“ずだだぁん”

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は誰もホールドしないまま、キャンバスへと着地する。見事なエアー・アルティメット阿修羅バスターが炸裂した。
 そしてアシュラマン・ザ・屍豪鬼は力尽きたように、キャンバス上に倒れ込んだ。

“ずどがぁん”

 首固めから脱出したキン肉マンルージュには、もう力が残っていない。キン肉マンルージュは着地の体勢をとることが出来ないまま、身体をキャンバスに打ちつけてしまう。そして、そのまま倒れ込んでしまった。
 リング上に倒れ込むふたりを見て、観客達、そして実況席にいるアナウンサーと解説者は、言葉を失ってしまう。

「ダブルノックダウンよ」

 静寂の中、マリの美しい凛とした声が、周囲に響き渡る。そしてマリは実況席に顔を向け、目でカウントを促した。

「し、失礼しました! わ、ワーーン! ツーー!」

 カウントが始まった。しかし、リング上のふたりは、全く動く様子がない。
 キン肉マンルージュには、もう力が残されていない。アシュラマン・ザ・屍豪鬼が負傷していたとはいえ、脱出不可能技であるアルティメット阿修羅バスターを打ち破り、脱出したのである。全体力を使い果たしてしまったのは、当然の結果と言えた。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は、アルティメット阿修羅バスターを放ったことにより、体力の大部分を消費してしまった。アルティメット阿修羅バスターは絶大な威力を発揮するかわりに、膨大なエネルギーを必要とする。
 これに加えて、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は真・怒り面をも発動していた。真・怒り面は身体能力を著しく向上させる。しかし、身体への負担が甚大で、3分以上発動させてしまうと、全体力を失ってしまう。

「スリーー! フォーー!」

 カウントが半分近く終って、ふたりはようやく動き出した。身体を震わせながら、仰向けになっている身体をうつ伏せにする。

「ううッ……苦しい……ううん、苦しいとか痛いとか、そういう感覚を感じなくなっちゃってる……なんだか金縛りにあってる身体を、無理やり動かしているみたい……全然、身体が動いてくれないよ……」


「ガーガガガ……腕全部が脱臼とはのう……このクソ腕め、ぶらぶらしとるだけで、ちっとも動かん……まったくもって役に立たんダメ腕じゃい……まったく、こんなときに……余力ゼロの状態で、足だけで立ち上がれというのは、いささか酷ってもんじゃないかのう……」

「ファーーイブ! シーーックス! セブーーン!」

 正確に時を刻むカウントは、ふたりに唯一残された微量すぎるほどの気力を、無理やりに使わせる。

「こうなったら、最後の最後なとっておき、使っちゃうよ!」

 キン肉マンルージュは全身に力を込め、歯を食いしばった。

「乙女のぉ! クーーソーーヂーーカーーラーーーッ!」

 目を血走らせ、熱すぎる気持ちが詰まった声を発しながら、がくがくになった膝で無理やりに立ち上がっていく。

「ま、マリ様。もしかして、これは……ついにあの力が! ですぅ」

 ミーノは目を輝かせて、マリを見上げる。

「これは……ただの気合ね」

 マリは腕組みをしながら、静かにキン肉マンルージュを見つめている。

「き、気合!? ……ですか……ただの気合……ですぅ……」

 気が抜けて呆然とするミーノをよそに、カウントは進んでいく。

「エイーート!」

 カウント終了まで、あとふたつ! といったところで、キン肉マンルージュとアシュラマン・ザ・屍豪鬼の膝が、がっくりと折れ、腰が落ちていく。

“あああッ!”

 観客の声が、きれいにハモった。ふたりが倒れてしまう! ダブルノックアウト! 誰もがそう思った。

「ナイーン!」

 カウント終了まで、遂にあとひとつ!

“おおおッ!”

 しかし、ふたりは倒れなかった。がっくりと折れた膝は、曲がりきったところで、今度は勢いをつけて反発した。キン肉マンルージュとアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、その反発を利用して、飛び上がった。

“ずっだあぁん”

 キン肉マンルージュとアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、リング中央にまで飛びながら移動し、ふたり同時に着地した。

「キン肉マンルージュ選手! アシュラマン・ザ・屍豪鬼選手! カウント地獄から無事生還! 試合はまだまだ終わらない!」

 アナウンサーはマイクを握り締めながら、叫ぶように言った。

「ガーガガガ! 見ての通り、儂の腕はもう使いものにならん。加えて、体力は無い、ダメージは甚大。正直、まともに戦える状態ではない。じゃが、それでも貴様に負ける気がせんわい」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュを見下すように言いながら、歪んだ笑みを浮かべる。
 対するキン肉マンルージュは、反論の言葉すら、口から出すことができないでいた。
 整わない息を、ゆっくりとした呼吸で整えようとするキン肉マンルージュ。まるで目をつむっているかのように、身体はふらふらと安定しない。キン肉マンルージュは力の入らない足に、無理やり力を込め続けている。
 キン肉マンルージュの可愛らしいコスチュームは、破れ、裂け、千切れている。所々にある赤い染みは、汗や涙やよだれで、ぼんやりとにじんでいる。
 立っているのが奇跡。そう思えるほどに、キン肉マンルージュはぼろぼろの状態であった。

「キン肉マンルージュよ! 貴様、なかなかに手強かったぞい! d.M.pのメイキング超人であったこの儂、グレート・ザ・屍豪鬼をここまで追い詰めたのじゃからのう!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は高らかと笑いだした。

「胸を張れい! キン肉マンルージュよ! その無い胸を、思いっきり張れい! ションベンガキ超人! たかだか正義超人の分際で、ここまで善戦したんじゃい! よくやった! 褒めてやろうぞい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は口をもごもごさせ、血が混じって真っ赤になったツバを、キャンバス上に吐きだした。

「さて、次で貴様を仕留める。そして、貴様は確実に死ぬ。じゃから貴様が死ぬ前に、先に褒めておいてやったぞい」

 キン肉マンルージュはアシュラマン・ザ・屍豪鬼を睨みつけた。しかしアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、鼻で笑って返した。

「さらばじゃ、キン肉マンルージュよ! 脳天から血の華を乱れ咲かせ、そして見事に命を散らせい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の目が真っ赤に光り、全身が赤黒く変色する。

「真・怒り面、再び発動じゃあ!」

 ミーノは困惑しながら、血を沸騰させているアシュラマン・ザ・屍豪鬼を見つめている。

「そ、そんな! ですぅ! 真・怒り面は全体力を使ってしまう諸刃の剣! 先程使った真・怒り面によって、アシュラマン・ザ・屍豪鬼には、もう体力が残っていないはずですぅ!」

 マリは少し驚いた顔をしながら、ミーノに言葉を返す。

「確かに、アシュラマン・ザ・屍豪鬼にはもう体力が残っていないわ。だから、代りに使うつもりなのね、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は」

「つ、使うって、何をですぅ?」

「……いのち」

 ミーノは言葉を失った。自らの命を使いきってしまうことに、全く躊躇がない悪魔超人。ミーノは心底、恐怖した。

“しゅんッ”

 風を切る音が聞こえた瞬間、キン肉マンルージュのみぞおちには、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の膝がめり込んでいた。

「ッくはぁ」

 キン肉マンルージュの身体は、くの字に曲がり、口からは赤いものが吹きしぶいた。

“どずばきゃあぁぁッ”

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は膝を離し、そしてキン肉マンルージュの身体を真上に蹴り上げる。

“しゅびッ”

 真上に飛ばされたキン肉マンルージュよりも速く、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は上空に移動した。
 そして、アシュラマン・ザ・屍豪鬼はキン肉マンルージュの足の上に膝を乗せ、全体重をかける。

「阿修羅稲綱落とし!」

 真・怒り面の力が加わった阿修羅稲綱落としは、今までの阿修羅稲綱落としとは比べものにならないほどの威力を秘めている。
 キン肉マンルージュは、全く動くことができない。

「阿修羅地獄芸!」

 突然、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の両膝から、骨が突き出してきた。骨はキン肉マンルージュの両足を、完全にロックする。

「ガーガガガ! これでもう、逃げられんぞい! 今度こそ、地獄行きの片道切符! ワンウェイチケットじゃあ! 行先は人生の終点、地獄じゃあ!」

 キン肉マンルージュは、動かない身体を無理やりに動かす。しかし、全くと言っていいほどに、身体は動いてくれなかった。
 万策尽きる……最後まであきらめない! だが、何もできることがない。
 万事休す……どうしたらよいのかわからないでいるキン肉マンルージュは、ふと、あることを考えた。

「こんなとき……キン肉マン様なら……キン肉万太郎様なら……どうするのかなあ……」

 絶対絶命……そんな窮地に陥ったならば、キン肉マンなら、キン肉万太郎なら、間違いなくあの力を発動させる。

「でも……わたしに使えるのかなあ……無理だよ……あの力は特別だもん……キン肉族王家だからこそ使える、特別中の特別……」

 キン肉マンルージュの身体から、力が抜けていく。いよいよをもって、力を使い果たした。

「ちがうのですぅーーーーーーーーッ!!」

 突然に上がったミーノの叫びに、キン肉マンルージュはミーノを見た。

「違うのですぅ! あの力は、キン肉マンルージュ様、あなたにも使えるのですぅ! あなたはキン肉マン様の力を受け継いでいるのですぅ! それに……それに! あなたは身の心も、立派な正義超人ですぅ! だから……だから! 絶対に使えますぅ! だって、あなたは……」

 ミーノは涙を流しながら、キン肉マンルージュに叫び上げる。

「あなたは! マッスル守護天使、キン肉マンルージュなのですぅーーーーーーッ!!」

“どくん”

 ミーノの言葉を受けたキン肉マンルージュは、胸に熱いものを感じた。
 熱い……ひどく熱い……熱い何かが、全身を駆け巡り、キン肉マンルージュを燃やしていく。

「熱い……熱いよぉ……燃えてる……まるでわたしの全部の細胞が、ごうごうと燃え盛っているみたい……」

 キン肉マンルージュは燃える身体の中に、無尽蔵なエネルギーが存在していることに気がつく。まるで身体の中で、太陽が燃え盛っているようである。

「わたしは……わたしは……わたしはぁぁぁーーーーーーッ!!」

 突然、キン肉マンルージュの身体が、慈愛の光マッスルアフェクションで包まれた。そしてマッスルアフェクションは、キン肉マンルージュの額へと集まりだした。

「あああッ! あ、あれは! ですぅ!」

 ミーノは泣きながら、キン肉マンルージュの額に現れた文字に感激した。
 キン肉マンルージュの額には、真っ赤な字で“肉”と刻まれている。

「へのつっぱりはご遠慮願いマッスル! マッスル守護天使、キン肉マンルージュ!」

 キン肉マンルージュの頭上には、赤いエンジェルリングが浮かび、光り輝いている。そして背中には、透き通った赤色の翼が、1枚生えている。
 キン肉マンルージュの全身が、マッスルアフェクションに薄く包まれている。そして、ほのかに赤く輝いている。
 その姿は神秘的で、まるで本物の天使を見ているようである。まさにマッスル守護天使、キン肉マンルージュである。
 復活を遂げたキン肉マンルージュに向かって、ミーノは叫んだ。

「使えました……使えましたですぅ! 伝説の神秘の力、火事場のクソ力ですぅ!」

 全身に力がみなぎっているキン肉マンルージュは、腹筋で上体を起こし、膝をホールドしている骨を手刀で叩き折った。

「ぐぎゃあああッ! な、なんじゃとおぉぉぉ!」

 突然のことに混乱するアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、何もできないでいる。
 キン肉マンルージュは阿修羅稲綱落としから脱出し、宙でアシュラマン・ザ・屍豪鬼を担ぎ上げた。そして、更なる上空へとアシュラマン・ザ・屍豪鬼を投げ飛ばした。
 上空へ上がっていくアシュラマン・ザ・屍豪鬼と同じ速度で、キン肉マンルージュも上がっていく。そして、キン肉マンルージュはアシュラマン・ザ・屍豪鬼の3本の腕を三つ編みにし、1本の腕のようにまとめる。こうして、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の腕は、6本から太い2本腕へと変えられてしまう。

「い、いったい、何をする気なんじゃあ!」

 困惑するアシュラマン・ザ・屍豪鬼を尻目に、キン肉マンルージュはアシュラマン・ザ・屍豪鬼の両足首を掴んだ。そして、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の両腕の動きを封じるべく、自らの両足を乗せる。

「こ、これはあああ! 伝説超人キン肉マンのスペシャルホールド、キン肉ドライバーだあああ!」

 アナウンサーが興奮しながら言い放った言葉どおり、キン肉マンルージュはアシュラマン・ザ・屍豪鬼にキン肉ドライバーを極めた。そして、キャンバス目掛けて落下していく。

「ガーガガガ! 何かと思えば、キン肉ドライバーじゃとお? 儂を誰だと思っておる! d.M.pのメイキング超人じゃい! キン肉ドライバーの返し技くらい、心得ておるわい!」

 キン肉マンルージュは、笑みを浮かべながら言葉を返す。

「せっかちさんだねぇ、まだ技は完成していないよぉーだ!」

 キン肉マンルージュは、腕のホールドが甘いという弱点を克服するかのように、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の両腕を自らのふくらはぎで挟み込み、がっちりとホールドした。更に自らの身体を後ろに反らし、同時に腰を後ろに向かって曲げることで、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の胸を反らさせた。そして、お尻をアシュラマン・ザ・屍豪鬼の頭に乗せ、顎が激突するように顔を上げさせる。

「な、なんじゃあ、この技は!?」

 困惑するアシュラマン・ザ・屍豪鬼。同じように、観客や実況席のふたりも、困惑している。

「こ、これはなんだあああ?! 初めて見る技です!」

「これは私も初めて見ますよお?!」

 アナウンサーと中野さんは顔を見合わせながら、正体不明の技について考え込む。

「ふふ、誰にもわからないでしょうね。あの技は凛香ちゃんの……いいえ、キン肉マンルージュのオリジナルホールドですもの」

 マリは落下するキン肉マンルージュとアシュラマン・ザ・屍豪鬼を見つめながら、静かに言った。

“ごずどおおぉぉおおぉぉおおぉぉん!”

 キャンバスに着地したのと同時に、キン肉マンルージュは言い放つ。

「キン肉ルージュドライバー!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼の全身に、激しすぎる衝撃が走り抜ける。特に顎から胸に掛けての上半身は、骨折と筋肉の断裂により、致命的なダメージを負っていた。
 キン肉マンルージュはアシュラマン・ザ・屍豪鬼の身体を離して、後ろ向きにジャンプした。そして宙で一回転して、自陣のコーナーポストまで飛びながら移動した。

“うおおおおッ! すげえすげえすげえ! すんげえええ!”

“キン肉ルージュドライバー! マジでしびれた! 感動した!”

“はんぱねえ! ルージュちゃん! すごすぎて、なんも言えねえ!”

 驚きと興奮が入り混じる観客達の声に包まれながら、キン肉マンルージュはアシュラマン・ザ・屍豪鬼を見つめる。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は、まるでしゃちほこのように見事なエビ反りを披露したまま、キャンバスに埋まっている。

「アシュラマン・ザ・屍豪鬼選手、全く動きません! あれほどの大技を喰らってしまっては、試合続行は不可能か?!」

 アナウンサーの言葉を聞いて、悪魔は怒り混じりの恐ろしい声を響かせる。

「ガーガガガ! 試合続行は不可能か、じゃとお? ふざけるなよ! 試合続行は可能じゃい!」

 しゃちほこの格好をしていたアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、腹に力を込め、足をキャンバスに下ろした。そして足だけを使って、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は立ち上がった。

“きゃああああぁぁぁぁッ!”

 観客席から悲鳴が上がる。
 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は変わり果てた姿を、観客に披露する。胸はぐしゃぐしゃに砕け、腕は三つ編みのままだらりと垂れ下がり、3つの顔は見るも無残に崩れている。

「ガーガガガ! もう全身ずたぼろで、使い物にならん。まさに手も足も出んわい! 普通に考えれば、試合続行は不可能じゃろうな」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は口角から血を流し、喉をヒューヒュー鳴らしながら、砕けた顎でしゃべり続ける。

「じゃがな! 儂は普通ではない! 悪魔じゃあ! 悪魔には、貴様らの常識なんぞ通用せん! こんな身体に成り果てても、勝機は儂にあるんじゃい!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は目を血走らせ、砕けた口の中に溜まっている血を、ごくりと飲み込んだ。そして今度は、全身から吹き流れている血を、全て吸い上げるかのように、口で激しく吸引していく。

「ガーガガガ! 大量の悪魔の血が、悪魔の真の力を呼び起こすのじゃい! とくと見よ! これが悪魔の邪悪の力じゃあ!」

 アシュラマン・ザ・屍豪鬼は、ゲタゲタと歪みきった声で笑い上げながら、全身から真っ黒なオーラを噴出させる。

「発動! 魔界のクソ力!」

 その瞬間、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は悪魔の暗雲、デヴィルディスペアに包まれた。禍々しい暗雲の中で、アシュラマン・ザ・屍豪鬼は狂気の声を上げる。

「ガーガガガ! 素晴らしい! 素晴らしいぞい! 真・怒り面なんぞ、比べものにならんほどのパワーじゃい! ガーガガガガガガ! 勝った! 儂は貴様に勝ったぞい! デヴィルディスペアが晴れたら、貴様は瞬殺じゃい! 一瞬で貴様を八つ裂きにして、その身を血と肉と骨に別けてくれるわ!」

 デヴィルディスペアの中から聞こえてくる狂気の声。しかしその声は、突然、悲痛な叫びに変わってしまう。

「んッ? んん? な、なんじゃあ? ぐ、ぐわあああああぁぁぁぁっぁ! あ、熱い! 熱いぞい! バカな、こ、こんなことが?! ぐぎゃあああぁぁぁ! く、食うな! 儂を食うな! デヴィルディスペアよ! 儂を喰らうな! ぎゃああぐぎゃああわぎゃああ! やめてくれい! 食わないでえ……やめでえ……ぐでえぇぇぇ……」

 しばらくすると、デヴィルディスペアの中から、アシュラマン・ザ・屍豪鬼の声が聞こえなくなった。そして、デヴィルディスペアが晴れていく。

“う、うわあああぁぁぁあああぁぁぁッ!”

“きゃあああぁぁぁあああぁぁぁッ!”

 観客達が一斉に悲鳴を上げる。
 デヴィルディスペアの中から現れたアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、今まで以上に、変わり果てた姿になっていた。
 3つの顔がめちゃくちゃに混ざり合い、ぐしゃぐしゃに崩れている。腕と脚はあらぬ方向に折れ曲がり、関節が増えたのかと錯覚するような、ひどい骨折をあちこちにしている。全身に裂傷、擦過傷、あらゆる傷が刻まれ、血が噴き出している。

「これが悪魔の最後ですぅ」

 静まり返った観客席に、ミーノの声が響き渡る。

「アシュラマン・ザ・屍豪鬼は魔界のクソ力の発動に、失敗しましたですぅ。その結果、アシュラマン・ザ・屍豪鬼はデヴィルディスペアから力を得ることが出来ず、逆にデヴィルディスペアに食われてしまったのですぅ。クソ力は発動するのに、大きなリスクを負いますですぅ。キン肉マンルージュ様はそのリスクに打ち勝ち、見事、火事場のクソ力を発動させましたですぅ。対してアシュラマン・ザ・屍豪鬼は、そのリスクに負けてしまい、大きな代償を払うことになったのですぅ」

“かーん! かーん! かーん! かーん! かーん!”

 ミーノの言葉と連動するように、試合終了のゴングが鳴らされた。
 コーナーポストに身体を預けていたキン肉マンルージュは、すとんとその場に座り込み、空に向かって顔を上げる。

「か、勝ったよぉぉぉ! 勝てたよぉぉぉ! 救えたよ、地球! よかった! よかったよぉぉぉぉぉッ!!」

 キン肉マンルージュは涙を流しながら、叫び上げた。そして、わんわんと泣きだした。

「うえええええん! よかったよぉぉぉ! 怖かったよぉぉぉ! うわあああああん! 勝ってよかったよぉぉぉ! 平和、守れたよぉぉぉ!」

 激しく泣きじゃくるキン肉マンルージュを見て、アナウンサーは声を張り上げる。

「勝ったあああ! 勝ちました、キン肉マンルージュ選手! 見事、グレート・ザ・屍豪鬼を打ち破りましたあ!」


「いやあ、素晴らしい! 感動の嵐! 怒涛の感動ビッグウェーブ! とにかく素晴らしかったですよお! キン肉マンルージュ選手、素敵すぎますよお! まさに男泣きならぬ、女泣き! 闘う女は美しい! 闘った女は、なお美しい!」

 興奮したアナウンサーと中野さんの声に呼応するように、観客席が一斉に沸き立った。

“うおおおおおおッ! 勝った! マジで勝利! 純潔乙女正義超人、キン肉マンルージュの大勝利だあああッ!”

“天使光臨! 天使超人! 俺は今日、天使に出会った!”

“ルージュちゃん、言っちゃって! あの台詞、今こそ言っちゃって!”

 観客に促され、キン肉マンルージュは立ち上がろうとする。しかし、もう全身に力が入らない。
 キン肉マンルージュはコーナーポストを背にして座り込んだまま、手でハートを作ってウィンクする。

「へのつっぱりはご遠慮願いマッスル! マッスル守護天使、キン肉マンルージュ!」

“うおおおおおおおおおおおおおおぉッ!!”

 観客席は興奮しきった歓声で、溢れかえる。見事に悪行超人を退けた、正義の少女超人の偉業を、観客達は声と拍手で称えた。

「ルージュ様ぁ! キン肉マンルージュ様ぁぁぁぁぁ!」

 ミーノは見事なジャンプでリングに飛び入り、鋭いタックルでキン肉マンルージュに抱きついた。

「ありがとうですぅ! ありがとうなのですぅ! ありがとうなのなのなのですぅぅぅぅぅッ!!」

 ミーノはぎゅうぎゅうぎゅううと、容赦なくキン肉マンルージュを抱きしめる。嬉しすぎて興奮しきっているミーノは、我を忘れてキン肉マンルージュを抱きしめ続ける。

「く、苦しい……でも、ありがとね、ミーノちゃん。わたしも嬉しいよ……でも……苦しいよ……」
 
 

 
後書き
※メインサイト(サイト名:美少女超人キン肉マンルージュ)、他サイト(Arcadia他)でも連載中です。 
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