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歪んだ世界の中で

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第五話 少しずつその十

「それがね」
「変わってきていますね」
「そうだね。嬉しいよ」
 このことを心から喜んでだった。そうしてだった。
 希望は真人の言葉を千春に伝えることにした。彼のその感謝の言葉をだ。
 この日は海だった。海で千春と泳ぐことになっていた。その中でだ。
 千春に会ったその時にだ。希望は告げたのだった。
「あのお薬だけれど」
「千春がこの前希望にあげたお薬よね」
「うん、付ければどんな疲れや怪我も消えるお薬」
「あれがどうしたの?」
「友達がね。それがね」
「いつも言ってるあのお友達よね」
「友井君がね」
 真人のことをだ。希望はよく千春に話していた。彼にとっては無二の親友だからだ。
 それで千春も彼のことは知っている。それで言ったのである。
「今は骨折して入院してるのよね」
「うん。けれどあのお薬を使ったんだ」
「骨折治ったのね」
「うん、すぐに治ったらしいよ」
 このことをまず千春に伝えたのである。
 そしてそれからだった。あのことを千春に話したのだった。
「それでね。友井君が千春ちゃんにね」
「千春に?」
「有り難うって言ってたよ」
 このことをだ。今千春に伝えたのである。
「お蔭で助かったって。そうね」
「そうだったの」
「うん。そう言ってたから」
 こう伝えたのである。
「有り難うって」
「そうなの。千春に」
「僕からも有り難う」
 希望もだった。千春にだ。笑顔で礼を述べたのだった。
「友井君を助けてくれてね」
「ううん、いいよ」
「いいの?」
「だってあのお薬は希望にあげたものだから」
 そうだからだというのだ。千春はだ。
「だから希望はお友達を治したからね」
「そうなるのかな」
「なるの。だって希望はお友達の怪我を治したかったのよね」
「うん、それはね」 
 その通りだった。彼にしてもだ。そのことはだ。
 純粋にだ。真人の怪我、その骨折を何とかしたかった。これは純粋な気持ちだった。
 その気持ちのままにそうした。それは確かで否定できなかった。自分に嘘を吐く、これは希望にとっては無理なことだった。
 それでだ。彼は言ったのだった。
「友達だから」
「その人がね」
「だからそうしたんだ」
 千春のくれた薬を彼に使った、そうしたというのだ。
「僕はね」
「ならやっぱりね」
「僕がやったことになるのかな」
「千春はそう思うよ」
 ここでも優しい顔で答える千春だった。
「だからなのよ」
「僕が友井君を助けたのかな」
「その人を助けたかったよね」
「うん」
 それはその通りだと答える。純粋にそう思っていたからだ。
 それでだ。また言う彼だった。
「友井君はいつも僕に笑顔を向けてくれて優しくしてくれてね」
「お友達なんだね」
「本当のね。子供の頃からね」
「だったら希望がしたのよ。千春その人のことは知らないし」
「知らないから?」
「千春が希望が自分の他に使うことも考えてなかったから」
 そもそも真人を知らないのだった。千春はだ。 
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