歪んだ世界の中で
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第五話 少しずつその九
だからこそだ。今希望に言えたのである。
「僕達も。ですから」
「御互いに返し合ってもいるから」
「友達になれてるんですね」
「そうなるんだね」
「では。その方にも返して下さい」
「千春ちゃんにもだね」
「そうです」
笑顔で。希望の告げた真人だった。
そしてそれと共にだ。彼は希望の顔をあらためてみた。そのうえでだ。
彼にだ。こう言ったのである。
「それにしてもです」
「どうしたの、今度は」
「遠井君の顔が変わってきましたね」
「痩せたかな」
「それもあります」
まずはだ。水泳やランニングの結果だった。彼の顔はだ。
夏休み前と比べてだ。少しではあるがだ。
痩せていた。そのことに真人も気付いたのだ。
そしてそれだけではないとだ。彼はさらにだ。希望に告げたのである。
「ですがそれ以上に」
「痩せただけでなく」
「はい、目が生きて来ていますね」
「目が?」
「はい、目がです」
彼のだ。その目がだというのだ。
「生きて来て。輝いて来ていますね」
「輝くって」
「今まで希望君は辛さの中で」
そしてだ。その中で彼の目はだというのだ。
「光がありませんでした」
「つまり死んでいたのかな」
「酷いことを言う様ですが」
「いや、いいよ」
事実であるうえに真人に悪意がないことがわかるからだ。それでだった。
希望は彼にだ。こう返したのだった。
「それはね。けれど」
「今の遠井君の目ですね」
「そんなに変わったんだ」
「はい、変わりました」
まさにだ。そうなったというのだ。
「やはり少しですが」
「少しでもそれでもなんだ」
「確かにです」
「目が生きてるんだね」
「そして輝いています」
「じゃあそれもやっぱり」
目が生きている、輝いているということがどういうことかはだ。希望もわかった。そして彼が今どうしてそうなったかもだ。そのこともわかったうえで言うのだった。
「あの娘と一緒にいるから」
「そうだと思います。僕ではできなかったですが」
「ううん、友井君はね」
「僕は?」
「僕を支えてくれているから同じだよ」
真人は希望を支えてくれたというのだ。千春が輝かせてくれるのと同じく。
だからそれはいいとしてだ。それで話す希望だった。
「それだとね」
「ですか」
「うん、それでね」
「はい、その方のことですね」
「そうなんだね」
このうえなく優しくなった笑みでだ。希望は言った。
「僕は千春ちゃんと一緒になって顔まで変わってきたんだね」
「それもよく」
「少しずつだけれど」
「確かにです」
それはだ。間違いなくだというのだ。
「ですからこのまま」
「うん、僕は変わっていくよ」
「前に向いてですね」
「ずっと後ろ向きだったけれど」
そのことを振り返りつつだった。
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