種類も年齢も違っても

　　　　　　　　　　　　　　　　種類も年齢も違っても
　近澤幸一は隣の古森家からいつも聞こえている犬の鳴き声それも泣き叫ぶ様なそれに眉を顰めさせていた。
　そして妻の明美に言った。
「お隣さん絶対にな」
「ええ、弟さんがいつもお家に来てね」
「犬虐待してるな」
「絶対にそうね」
　明美は眉を曇らせて答えた、黒髪を長く伸ばしていて四十近いがやや垂れた目の尻にも白い顔にも皺はなく白く奇麗な肌である。眉は細く奇麗なカーブを描いていて唇は小さく紅色だ。背は一五八程でスタイルはそれなりだ。
「あの声はね」
「ご主人がいた時はな」
　幸一は眉を顰めさせたまま言った、背は一八八あり太っているが筋肉が多い感じだ。眉は太く長く目も口もきりっとしている。やや長方形の顔で髪の毛は少し癖のある黒で短くして左から右に分けている。
「可愛がっていたのにな」
「あの奥さんだけになるとね」
「あの奥さん派手好きでな」
「もう自分だけ遊びたいって人で」
「犬可愛がっていなかったからな」
「ご主人だけがそうで」
「それでご主人が急な病気で亡くなられて」
　そしてというのだ。
「奥さんだけになったら」
「奥さんの弟さんがいつも家に来て」
「犬をいじめる様になったな」
「酷いことね」
「奥さんの弟さんヤクザだろ」
「そうみたいよ、奥さんも元ヤンでとんでもない人だったみたいよ」
「何でそんな人があんないい人と結婚出来たんだ」
　その亡くなった人のことも思うのだった。
「一体」
「それがわからないわね」
「本当にな」
「ええ、ただこのままだと」
「犬がな」
「いじめ殺されるわよ」
「警察に通報するか」
　夫はすぐにそうしようと思い実際に行った、だが警察が来た時には。
　犬は何とか首輪を自分から抜けて家出をしていた、その為証拠がなく家に残っている妻だった古森香もその弟の仁久もだった。
　結局不起訴になった、だが近澤は家出をした犬のことが気になり。
　それでだ、妻に家で話した。尚彼の仕事は大手銀行の重役であり収入もあるが忙しい。妻も家で仕事を持っている。
「犬が心配だな」
「そうね、家出したみたいだけれど」
　それでもとだ、妻も言った。
「野良犬になったら」
「保健所に捕まったらな」
「殺処分だから」
「保健所に連絡するか」
「あの子が保健所に捕まったら」
「うちで引き取ろう」
　夫は妻に提案した。
「そうしよう」
「それがいいわね。虐待されていたし」
「僕達も何とかしたかったし」
「それならね」
「子供はまだ小さいけれど」
　二人の間には娘がいる、まだ小学生になったばかりだ。名前を芳香という。
「お金の問題はないし」
「二人共働いているし」
「実はうちで引き取れたらとも思っていたんだ」
「私もよ、じゃあ」
「首輪もなくなっているし」
「後は何とでも言えるから」　
　隣が後で何を言ってもというのだ、うちの犬だ何だのと。
「保健所にね」
「連絡をしよう」
　こう言って手を打つとだった。
　実際に一週間後隣の犬と思われる犬十歳位の雌のボルゾイが保健所で保護されたと連絡が来た。それでだった。
　夫婦で保健所に行くとそこには。
「ワン・・・・・・」
「ニャ～～～・・・・・・」
　白地に黒のブチの雌のボルゾイの横にだった。