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おっちょこちょいのかよちゃん

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96 三たびの特訓

 
前書き
《前回》
 東京で日本赤軍と東アジア反日武装戦線が揃って逮捕されたというニュースを耳にしたかよ子は夏休みに会った杯の所持者・安藤りえの安否を気にする。そして合唱コンクールの練習に励むと共にりえから受け取った手紙よりその東京の事件に関わっていた事が事実であると知るのだった!!

 赤軍、次は何を狙う?杖か?護符か?あるいはまた杯か???
 

 
 三河口はクラスメイトの濃藤、北勢田に自分の従姉とその夫が東アジア反日武装戦線および日本赤軍メンバーの拘束に貢献していた事を言った。
「マジかよ、お前の従姉がか・・・」
「ああ、その時、かよちゃんの『杖』や名古屋の従姉の『護符』と同じ位の能力(ちから)を持つ『杯』の所有者の女の子とお会いしたって事だ」
「ああ、それ、妹も言ってたな。隣町の学校の女の子が不思議な杯を持ってる子と会ったなんて事を聞いたって」
 濃藤が妹の言葉を思い出すように言った。
「ああ、だが、その杯の所有者がいる東京と同様、清水も標的とされているのも確かだ。文化祭の時も襲って来たからな」
「ああ、そして一つ問題がある・・・」
「問題って?」
 北勢田が聞く。
「広島にあった剣は赤軍に奪われたし、杖はこの静岡・清水、そして杯は東京にある。残りの護符は杖と同じく元は清水にあったが、おばさんが名古屋の従姉に持たせたので在処は名古屋に移っている。これについて奴等はその事実を把握しているのか、いないのか。もし知ってたら、次はその護符をいただきに名古屋の従姉へ襲撃にかかるだろう。知らなければ護符を狙いに異世界の人間を送り込んで捜させるかもしれん」
「それじゃ、奴等はまた色んな所で暴れ始めるって事か?」
「そうなるな」
 濃藤も北勢田も三河口の考察に異議はなかった。

 日本赤軍の総長・重信房子は己が繋げた異世界との出入り口に向かう。
「レーニン様」
「重信房子か。何の用だ?」
「只今苦労しております異世界の最強無敵の武器である杖、杯、護符のうち、杯は東京に、杖は静岡にあるのですが、護符の場所が分からないのです。そこで、そちらの方々に協力をして頂いて捜索をお願いしたいのですが」
「捨て駒に使うつもりか」
「いえ、見つけるだけです。護符の所持者の場所が分かればそこを徹底的に狙います」
「分かった。また一人でも失えばこちらも戦力が低下すると思え。こちらも人員が無限という訳ではないからな」
「はい、気を付けます」

 かよ子は風呂の中で「大きな古時計」の独唱部分を歌っていた。自分が最も目立つところなのでおっちょこちょいしたら恥ずかしい。そうしない為にも放課後、家に帰った後でも練習するのだ。
「おじい~さんの~、生まれた朝に、やって~来たとーけいさ~。今は、もう、動かない、その、とーけーい~♪」
 かよ子は息継ぎを間違えたかなと自己反省していた。あまりにも長湯していると湯が冷めて両親に申し訳ないので、もう風呂から出る事にした。
(それにしてもこの猛練習、運動会以来だな・・・。それに・・・)
 かよ子は自室に戻る。母から継がれた物であり、異世界の中で最上位の能力(ちから)を持つ杖を見た。
(その前はこの杖を使いこなせるように練習してたんだっけ・・・。それに先月は運動会の練習を必死にやった・・・。そうなると三度目の猛特訓かもしれない・・・)
 もうすぐ12月に入る。だが、戦いはまだまだ続く。かよ子は最悪の事が思いついた。
(もし、合唱コンクールの時に攻めてきたら・・・!!)
 かよ子はそんな懸念をしていた。三河口の高校の文化祭の時も赤軍が攻めてきた。そうなると今度は行事の途中に容赦なく攻めてくる可能性もゼロではない。
(いや、今はそんな事、考えてる場合じゃないや・・・!!)
 かよ子は歌の練習を再開した後、寝るのだった。

 三河口は名古屋に住む従姉・さりと電話していた。
『あり姉が東京へ行ってたの?』
「はい、それで杯の所有者である女の子とも会って彼女を赤軍と同盟を組んだ東アジア反日武装戦線から守ったとの事です」
『「杯」ってもしかして私の護符やかよちゃんの杖と同じ異世界で一番強いってされてる道具よね?』
「ごもっとも。赤軍は清水(こっち)にある杖や東京への杯を徹底的に狙ってくるでしょう。名古屋(そっち)は異世界の敵とか赤軍とかは攻めて来たという情報はありますか?」
『ううん、こっちには今の所ないわよ』
「しかし、奴等は今度は護符の場所を探していつかは攻めてくるかもしれません。お気をつけて」
『うん、もう、健ちゃんったら、いつの間にかそんな畏まっちゃって~』
「う・・・」
 三河口は何も言えなくなった。
『ところで、奏子ちゃんとは上手く行ってるの?』
 三河口はさらに何でそんな事聞くのかと思いながらも質問に答えようとする。
「はい、彼女も文化祭の時に異世界の道具を貰っていますので何かあったら一緒に戦ってくれますよ」
『そっか、健ちゃんも何かあったら守ってあげるのよ』
「はい、百も承知ですよ」
『だよね~、んじゃ、おやすみ~』
「おやすみなさい」
 お互い電話を切った。

 翌日、かよ子は起きた時、布団から出ると冷気を感じた。温暖な清水でも寒くなってきているのである。
(ああ、寒いな・・・)
 そう思いながら、顔を洗い、着替える。そしていつもの朝食である。この日は食パンだった。
「今日は蜂蜜つけて食べなさい。蜂蜜は喉にいいのよ」
「うん、ありがとう!いただきます」
 かよ子は朝食を食べ終え、そして歯磨きをして学校に行く準備ができた。コートを着ると母が呼び止めた。
「今日は寒いからマフラー巻いていきなさい」
「うん、ありがとう。行ってきまーす」
 かよ子は家を出た。間もなく12月という時期の為、寒くなっている。その上、この日は風が強く、余計に寒く感じた。
(風が強くて上手く歩けないよ・・・)
 そんな時、笹山と出会った。
「あ、山田さん、おはよう」
「笹山さん、おは・・・」
 また吹き出した強風が二人を襲った。二人共捲れそうなスカートと飛ばされそうな通学用帽子を抑えた。
「今日は風が強いね・・・」
「うん・・・」
 その時、男子用の通学帽が飛んできた。笹山がそれを拾う。
「はあ、はあ・・・」
 そしてその帽子の持ち主と思われる男子が走って来た。藤木だった。
「あ、藤木君、おはよう!」
「あ、笹山さん・・・。おはよう。えへへへ・・・」
 藤木は好きな女子に会えて思わずにやにやした。
「藤木君、朝から笹山さんに会えて嬉しそうだね」
「う、そ、そうかな・・・?」
 藤木はとぼけた。
「もう、とぼけないでよ。行こう、はい!」
 笹山は藤木に帽子を返して三人で学校へと向かった。藤木は帽子を飛ばされた時は自分は本当に運が悪いと思っていたが、笹山と会えて一緒に登校までできたので朝からいい事があったなと思うのであった。
「ところで笹山さんは独唱の部分自信ある?私、家でも練習してるんだけど、うまく行ったか心配なんだ・・・」
「ああ、それ、分かるわ。私はピアノもやってるからピアノで音取りしながらやってるの」
「え?そうなの!?いいなあ、私もピアノで練習できたらいいな・・・」
「よかったら今度の日曜、私の家で一緒に練習しない?」
「いいの?ありがとう!」
「そうだ、よかったら藤木君もどうかしら?」
「え?でも、僕は独唱しないし・・・」
「いいじゃない。自主練にもなるんだから。お菓子も用意するわ」
「笹山さん・・・。うん、ありがとう!」
 藤木にはこれ以上のいい事があって嬉しく思うのであった。

 放課後もまた3年4組の皆は合唱コンクールの練習を行う。かよ子はこの日の独唱部分は以前よりは声を響かせることができた。繰り返し、幾度も歌い直す。笹山も、大野も、独唱部分は上手く歌えていた。
「ハイ、皆さん、ズバリ、今日はそこまででしょう!お疲れ様でした!!」
 五時になり、下校時刻となった。かよ子はまる子、たまえと下校することになった。
「かよちゃん、今日の独唱、上手かったねえ~」
「うん、前より凄い声が綺麗だったよ!」
「あ、ありがとう、まるちゃん、たまちゃん・・・。それで今度の日曜、笹山さんの家で一緒に練習する約束してるんだ」
「おお~、いいじゃない~、笹山さんちは手作りのお菓子が食べられるからねえ~。アタシも行きたいなあ~」
「まるちゃん、かよちゃんは歌の練習をしに行くんだよ・・・」
「ああ、そうだったねえ~」
 かよ子は本番への意識を高めると共にいつ赤軍や異世界の敵が来るかそわそわするのであった。 
 

 
後書き
次回は・・・
「ピアノで練習」
 かよ子は放課後のクラス全員での練習や笹山の家でピアノを使っての音取りなど猛練習に励み続ける。その一方、赤軍は本拠地を移動すると共に異世界の道具の一つを奪取する事に目を付けていた。それは杖か、杯か、それとも護符か・・・。 
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