| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二百九十三話 一人だけじゃなかったその五

「必ずです」
「死にますね」
「何時かは」
「そうですね」
「そしてその時にです」
「悲しまれる人にですか」
「私はなって頂きたいと考えています」
 こう僕に話してくれた。
「私は大切な人が亡くなられると聞いた時に飲んだ人も知っています」
「その悲しみを紛らわせる為にですね」
「はい、病院に行って」
 そしてというのだ。
「そこでもう明日か明後日にはと言われて」
「それで病院を出てですか」
「駆け込む様に居酒屋に入って」
 何かその時の光景が思い浮かぶ様だ、正直飲んでその時のどうにもならない気持ちを紛らわせたかったのだ、お店は何処でもよくて。
「それでひたすら飲まれました」
「そうしたんですね」
「そして電車の中で酔い潰れて」
「ああ、乗り過ごしましたか」
「そうした人も知っています、家族も何も言いませんでした」
 乗り過ごしてもというのだ。
「一切」
「気持ちがわかっていたからですね」
「そうでした、ですが」
「亡くなった人もそこまで思われていたら」
「いいですね」
「そうですね」
 今は田中さんから言われて心から思った。
「もしそこまで思われていたら」
「本望ですね」
「それ程いいことはないですね」
「亡くなられた人は私も知っていますが」
「立派な人でしたか」
「はい」
 そうだったというのだ。
「非常に。苦労して一家を優しく公平に育てられていました」
「そうした人でしたか」
「非常に優しく寛容で」
「素晴らしい人だったんですか」
「誰もが慕う人でした」
「そうだったんですね」
「ですから弟さんのお孫さん達も慕っていて」
 そうしてというのだ。
「実の祖母の様にです」
「慕っていましたか」
「左様でした」
「それで亡くなられる時にですか」
「そうした人もおられました」
 その死を前にしてお酒を飲んでまぎらわせようとした人がだ。
「何でも覚悟していてもお話を聞いて」
「それで、ですか」
「どうしようもない寂寥感に心を支配されて」
「飲んだんですね」
「もう飲まずにはいられなかったそうです」
 実際にそうだったというのだ。
「普段は明るく飲む人ですが」
「それでもですか」
「その時はそう飲まれました」
「酔い潰れる為に」
「そうだったのです」
「そこまで思われると」
「嬉しいですね」
 僕に聞いてきた。
「義和様も」
「やっぱり死んだ時に喜ばれたら嫌ですよ」
 これが僕の返事だった、正直そこまで嫌われていたら一体何の為に生まれて生きてきたのかと思える位だ
「僕も」
「左様ですね」
「だからですね」
「亡くなられた時に悲しまれる様な」
「そうした人になる為にもですね」
「努力されて下さい、努力は生きている時もです」
「実を結びますね」
 このことは僕もわかった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧