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ドレッドノート

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第四章

「それがです」
「あの艦は高所から艦どころか戦局まで見た艦橋の指示がすぐに艦の末端まで伝わります」
「そうして艦艇を動かします」
「そのことを見ますと」
「動きが違います」
「画期的なまでに」
「あれではだ」
 そのドレッドノートのことを詳しく話してだった、皇帝はあらためて言った。
「これまで建造した、いや今建造中の艦艇すらな」
「旧式のものにしました」
「まさに一気に」
「恐ろしい艦です」
「それでだ」
 皇帝は側近達に意を決した顔で告げた。
「よいな」
「我々もですね」
「ドレッドノートの様な戦艦を建造する」
「そうしますね」
「新型艦には新型艦だ」
 強い声で言い切った。
「だからだ」
「はい、ここはですね」
「我々も建造しますね」
「そうしていきますね」
「すぐにな、我が国は負けてはならないのだ」
 皇帝は自慢のカイゼル髭を震わせて言った。
「だからだ」
「我々もですね」
「新型艦艇を建造する」
「そうしますね」
「これよりすぐにな、それも多くだ」 
 こう言ってだった、皇帝は実際にドレッドノートのことを詳しく調べさせてそのうえでドイツもだった。 
 ドレッドノートの様な艦艇を多く建造していった、それは他の国も同じで。
 その姿を一新させた艦艇は各国で次々と建造された、それは第一次世界大戦が終わってドイツ帝国が倒れても続き。
 海軍軍縮条約締結まで続いた、その条約の話を聞いて既に退位していてオランダに亡命していた皇帝は言った。
「まさか戦争が終わるまで建造されるとはな」
「思いませんでしたか」
「そうなるとはな、ドレッドノートが出て来てだ」
 そしてというのだ。
「戦艦の建造はさらに激しくなりだ」
「遂に戦争になりましたが」
「その戦争が終わってもな」 
 それでもとだ、皇帝は今も傍にいる者に話した。
「まだ続くとはな」
「陛下もですね」
「思わなかった、これが人間というものか」
「戦争が終わってもですね」
「まだ戦争を意識するものなのだな」
 こう言ってワインを飲んだ、そのワインは海の香りがした。それは軍艦からのものでもドイツからのものではなく運河の傍の海からのものであった。皇帝はその海の香りがするありし日の自分とドイツのことそして今のことを思うのだった。


ドレッドノート   完


                 2020・7・15 
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