浪小僧
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第二章
与平は村に帰っていった、そうして畑仕事に戻った。彼にとってはまさに困った時はお互い様であり何でもないことだった。
それでだ、働くうちに浪小僧のことは忘れていたが。
日差しの強い日が続きそうしてだった、川の水は涸れてしまい稲は日増しに弱っていっていた。それで与平の村でも困っていた。
「参ったな」
「雨が全然降らないぞ」
「一体どうしたものか」
「このままだと稲も野菜も採れないぞ」
「雨が降ってくれないと」
「このままではまずいぞ」
「せめてだ」
こうした言葉が村人の間から出た。
「釣りをするか」
「海も近いしな」
「隣村の漁を荒らさない様にしてな」
そうしては村同士の揉めごとになるのでそれは避けようというのだ。
「そしてな」
「肴を釣って糧にするか」
「米や作物が採れなくても釣った魚を干したりしていると食えるしな」
「今のうちに釣っておくか」
「そうするか」
こう言ってだ、それでだった。
村人達は釣りを行ってそれで釣った魚で餓えから逃れようとした、与平も肴を釣っていたがその時にだった。
海辺で釣りをしている時にふと声が聞こえてきた。
「もし」
「あれっ、前にもこうしたことあったかな」
「私ですよ」
「私?」
「はい、私です」
こう言ってだった、与平のすぐ横にだった。
浪小僧が出て来てそれで与平に言ってきた。
「覚えていますか」
「ああ、前に会ったね」
「あれっ、忘れていました?」
「御免、実は今ね」
まさにとだ、与平は小僧に答えた。
「思い出したよ」
「そうでしたか」
「悪いね」
「忘れていましたか」
「何でもないことだったからね」
「私は助かりましたが」
「困った時はお互い様だからね」
それでとだ、与平は小僧に何でもないという顔で答えた。
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