戦国異伝供書
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第百十話 兄と弟その五
「宜しくお願いします」
「そのお言葉肝に銘じておきます」
「身内同士が争う」
義姫は目を閉じ述べた。
「これ程惨くまた後味の悪いものはないですね」
「今はそれも多いですが」
「それがよいものであったことはないですね」
「ただの一度も」
それこそとだ、政宗も答えた。
「ありません」
「左様ですね」
「しかもそれが起こった家は」
伊達家も例外ではない、むしろ何代もそれが続いてきて政宗自身そうしたことは非常によく知っていることだ。
「どの家も弱っています」
「そして逆にですね」
「家がまとまっていれば」
「強いですね」
「そうなっています」
「ならです」
母として政宗に言った。
「決してです」
「争わないことですね」
「身内同士で」
「ではそれがしは」
政宗は母の言葉を受けて述べた。
「家を一つにまとめる」
「そうしてですね」
「お家騒動が起きない様にです」
「最初からですね」
「その様にしていきます」
「そこまでわかっていればです」
それならというのだ。
「母もです」
「いいとですか」
「申し上げておきます」
「そうですか」
「くれぐれも頼みます」
我が子にこうも言った。
「そなたの名は藤次郎、まさにです」
「伊達家の主の名です」
「それならです」
まさにというのだ。
「まずはです」
「家をまとめることですね」
「それが主の最初の務めなのですから」
「そして大事な」
「わかっているのならです」
「はい、務めます」
「既に家は二つに分かれる兆しもあります」
母は息子にこのことも話した。
「そなたならもう」
「察しています」
政宗は確かな声で答えた。
「それがしも」
「それは何よりです」
「それがしの政や言葉に反発し」
「小次郎を神輿としようとです」
「していますな」
「そうです、もうわかっているのなら」
「はい、小次郎はそれがしを助ける者として」
その立場でというのだ。
「小十郎、藤五郎と共にです」
「伊達家の柱にですね」
「なってもらいます」
これが政宗の考えだった。
「小十郎と藤五郎はそれがしの両腕ですが」
「では小次郎は」
「それがしの名代です」
それになるというのだ。
「その立場で、です」
「働いてもらいますね」
「ですから何があろうともです」
「小次郎は手にかけませんか」
「はい」
母に誓って話した。
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