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宇宙戦艦ヤマト2199~From Strike Witches~

作者:相模艦長
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出航編
  第3話 ゼウスの海に彷徨う大地

 
前書き
本作は色々と原作にないオリジナル設定が多数あります。ご了承下さい。 

 
西暦2199年2月10日 月軌道

 惑星間弾道ミサイルの迎撃を行っていた地球艦隊は、どうにか再結集しつつ、「大和」と「天城」を見送っていた。

「「大和」、「天城」、火星軌道に向けて進み始めました」

「発光信号を送れ。『健闘と航海の無事を祈る』とな」

 土方が通信長にそう指示を出した直後、突如、後方から怒鳴り声が聞こえてきた。

「この艦隊の指揮官にお会いしたい!」

「…何か?」

 山南が代わりに問いかけながら振り返ると、そこには1人の重装甲空間服を身に纏う、1人の男性軍人がいた。彼は月面の守備隊基地に取り残されていた、宇宙空間での白兵戦や惑星上陸戦を専門とする空間騎兵団の1人で、艦隊到着直前に死亡した連隊長に代わって部隊の最高指揮官となっていた。

「何故!何故…我が部隊の救援要請に対して、直ぐに応じてくれなかったのか!あと5分…あと5分早ければ、隊長も命が助かったかもしれないのに…!」

 空間騎兵連隊の代表者がそう怒鳴りながら大量のドッグタグを突き付ける中、土方は正面を見つめながら口を開く。

「…ガミラスに勝利し、故郷に再び青い姿を取り戻す。我々はその任務に就く、特務艦隊を護衛するために展開している」

「…じゃあ、俺達はその『ついで』だと言うのですか!?」

「…そうだ」

 土方がただそれだけ答えた直後、男は土方の言っていた特務艦隊が何なのか察する。

「…さっき、監視所から見えた、あの奇妙な艦ですか。何ですか、あれは!?」

「…「大和」と「天城」、俺の親友達が命を賭して率いる、地球最後の希望だ」

 土方がそう答えた直後、通信長が報告してきた。

「土方提督、「大和」より返答。『有難う、我、必ずや期待に応えんとす』」

 「大和」から返答を受け取った12隻の艦艇は、月面基地から救助した空間騎兵団の生き残りを乗せて、一路地球へ帰途についた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2時間後 「大和」会議室

 地球を経ってから2時間経ち、「大和」会議室では、「天城」の乗員が量子通信によって立体映像となって参加する中、会議が開始された。

「諸君も知っての通りだが、往復33万6千光年の旅は地球人類にとって体験した事の無い航海日程だ。この距離を1年以内に達成するためには従来の航行方法では不可能だ。そこで我らはイスカンダルより供与された技術を最大限使い、期間を短縮する事となる」

 床面に投影された宙形図の映像を見つつ、沖田が説明する。すると今度は、情報の管理と真田の補佐を仕事とする新見が口を開く。

「今回、この「大和」と「天城」に搭載された次元波動エンジンは、真空から無限のエネルギーを汲み上げて利用するエンジンです。そしてその特性を活かし、『ワープ航法』を実現させました」

 映像が切り替わり、ワープ航法の概念図が映される中、新見は説明を続ける。

「ワープ航法とは、扶桑語で『空間跳躍航法』とも呼ばれる空間航行技術で、空間をも捻じ曲げる事も可能とする次元波動エネルギーの特性と、それの生み出す物理的に光の速度を超える大推力を活かし、真空中のエネルギーを汲み上げる際に生じる余剰次元を解放し、時空を歪曲化してワームホールを形成。ワームホールを瞬時に通過する事によって実質的に光速を超え、時間を巻き戻しながら移動するというものです。そのため理論上は光の速度でも1年かかる距離を僅か1分で進む事が出来ます」

「だが、ワームホールへの突入時には出発地点と到着地点、そしてホール内の次元を同調させる必要がある。もしタイミングを間違えた場合、次元そのものを相転移させかねない。宇宙空間そのものを崩壊させかねない危険性もある事を留意しながら操艦に当たってほしい」

 真田が注意事項を口に出し、島が冷や汗を垂らした直後、映像が切り替わる。今度は「天城」艦内の装備に関する映像が映し出された。

「また、「天城」には波動エンジンの莫大なエネルギーを応用した兵器が搭載されています。次元波動爆縮放射機、便宜上『波動砲』と呼称しているこの兵器は、炉内で解放された余剰次元を艦首砲口から射線上に展開。艦首圧力薬室内で生じた超重力で形成されたマイクロブラックホールが瞬時にホーキング輻射を放って、域内の物質を蒸発させる…いわば、艦そのものを巨大な大砲にする、といった具合ね」

 会議参加者の半分が専門用語の羅列に首を傾げる中、沖田は一同に向けて言った。

「ワープテストは火星軌道を過ぎた重力非干渉宙域にて行う。実施予定時刻は0130、万が一に備え、全員船外着を着用する事。以上だ」

 会議が終わり、一同は各部署へ戻りに向かう。古代は艦橋へ戻る前に地球の姿を肉眼で見ておこうと思い、司令官室の後方に位置する展望台へと向かう。すると途中で美里と出会った。

「おや、古代。君も地球を見に来たのかい?」

「はい、もしかしたら地球を見る事が出来るのがこれで最後になるかもしれないので…」

「そう…どうやら先客がいるみたいだね」

 美里の言う通り、すでに1人の女性乗組員がおり、彼女はただ静かに窓の外を見つめていた。その視線の先には、火星があった。

「やあ、(あきら)。加藤から聞いたよ、髪を切ったそうだね」

「あ、美里さん…」

 美里に声をかけられた女性は、直ぐに彼女の方に振り向き、同時に戦術科員もいる事に気付いて敬礼する。

「失礼しました、主計科所属の山本玲と申します」

「戦術長の古代だ。以後よろしく」

 玲に敬礼を返した古代は、彼女を見てある事に気付く。
 扶桑人としては珍しい部類に入る、ショートにまとめられた白銀色の髪に、ルビーに近い紅い瞳。この二つの特徴を有する人は、少なくとも地球で生まれた者では存在しない。

「もしかして君、火星人(マーズノイド)か?」

「…分かってしまいますか。祖父の代から火星生まれでした」

 今から100年程前、地球は火星を地球化改造(テラフォーミング)し、移民政策を進めていた。そして火星の地で生まれた人は現地の土壌の影響で髪は白く、瞳は赤くなっており、火星で生まれ育った純粋な人類として『火星人』と呼ばれていた。
 そして30年前、火星の政治的・経済的な独立を巡って最初の内惑星戦争が起こり、火星の自治政府は小惑星帯の小惑星を改造した人工隕石や、岩石輸送宇宙船を改造し、初歩的な空間魚雷で武装した宙雷艇で対抗したが、木星圏の衛星や土星圏の衛星から潤沢な物資を調達していた地球の物量には勝てず、17年前の第二次内惑星戦争によって火星自治政府は降伏し、住民は全員地球へ強制移住された。
 ちなみにこの内惑星戦争時に、火星からの人工隕石から逃れるための地下都市が開発され、都市自体は戦争中には完成しなかったものの、現在は対ガミラス戦における遊星爆弾から逃れるための拠点として有効に活用されている。

「今はもう地球化改造で出来た海も無くなり、たくさんの思い出と、たくさんの人の命が消えた場所です」

「そうか…」

 1ヵ月前、イスカンダルからの使者を迎えるために潜んでいた都市の廃墟で実際に生活を営んでいた者の言葉に、古代は静かに視線を火星の方に向ける。
 と、後部第二副砲の上に1人の乗組員が船外着姿で出ているのが見え、その人は火星に向けて、造花の花束を捧げる。と、古代と同様にそれに気付いた美里が口を開く。

「古代、イスカンダルの使者を火星に埋葬したそうね。島から聞いたわよ」

「え…」

 美里の言葉に、玲は目を丸くし、古代は表情を僅かに歪ませる。美里は外を眺めながら言葉を続ける。その表情は医師の顔そのものだった。

「…気持ちは分かるけど、地球以外の人類のデータは出来る限り確保しておきたいの。今の地球人は遊星爆弾から放たれる毒素のみならず、ネウロイの瘴気や宇宙放射線に対する防御手段も持たなければならないから、地球人にはない生物的特徴や能力を知るためにも、彼女の遺体は必要となる…死者の尊厳に気を使うその高潔さは、今の時代では自分達の命を縮める枷にしかならないわ」

 万人を救うために、尊厳をも踏み躙る事を厭わない彼女に、古代はただ表情を険しいものとする。しかし彼女の言う事も正しいのは事実で、人としてどこまで冷徹になれるのか、その加減次第となるのだろう。
 そして3人はただ、静かに火星と、奥の方で僅かに見える地球を暫し見つめ、決意を固め直すのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「テロン艦隊、マルズ軌道に向けて20Sノットで進行中」

 冥王星の某所にあるガミラス軍基地では、数人の男性達がオペレーターからの報告を聞いていた。

「まさか、弾道弾を迎撃されるとは…」

「従来のテロン艦とは設計思想が全く異なるようですが、弾道ミサイルを容易に迎撃する事が出来る程の火力…やはり決戦のために開発したものなのでしょうか…」

 副官の1人が推測を述べたその時、オペレーターの1人が大声を上げた。

「シュルツ司令!テロン艦2隻より余剰次元の開放反応を検知!ゲシュタム・ジャンプの傾向を確認!」

「何だと!?まさか、テロン艦はゲシュタム・ドライブを実用化させたとでもいうのか!?」

 オペレーターの報告に、シュルツと呼ばれた指揮官の男は、副官達とともに目を皿にしてモニターを見つめる。
 直後、2隻の大型艦の艦尾から、プラズマのジェット気流とは異なる、『炎』と形容する事の出来ないエネルギーの奔流が噴き出し、同時に目前に金色の環が生じる。その環の内側には星一つも見えない漆黒が広がり、2隻は揃って環の内側へ飛び込み―そして姿を消した。

「テ、テロン艦隊…ゲシュタム・ジャンプしました…」

「ほ、本当にジャンプした…」

「っ、直ちに空間航跡のトレースとジャンプ・アウト座標の特定を急げ!」

 副官がオペレーターに指示を出す中、シュルツは回線の一つを開いて、1人の部下を呼び出す。

「ラーレタ少佐、応答せよ!」

『はっ、何事でございましょうか?』

「ラーレタ少佐、新型艦からなるテロン艦隊がゲシュタム・ジャンプを行った。ジャンプ・アウト地点は未だに不明だが、ズピストとゼダンの中間地点に現れる可能性が一番高い。監視基地に配備されている艦艇及びネウロイ全艦を動員してこれの迎撃に当たれ」

『了解いたしました。テロンの火器ではこちらの対レーザー装甲は貫けません。我が基地の艦艇のみでも十分に対応出来ましょう』

 ラーレタがそう答えた直後、ワープの調査を行っていたオペレーターが声を上げた。

「ジャンプ・アウト座標を特定!テロン艦隊は間もなくズピスト付近にジャンプ・アウトします!」

 直後、モニターの中央にて、突然2隻の氷に包まれた大型艦が何もない空間から現れ、その大型艦は表面を氷を振りほどきながら通常空間に浮かんだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…こんなものか」

 地球艦初のワープを終え、南部は小声で呟く。
 体感的にも僅か1分しか経っておらず、自分達の予想とは裏腹に余りにも呆気ないテストが終わり、「大和」がワームホールから通常空間に出た事も朧気ながら認識する。

「提督、「天城」と通信繋がりました。「天城」も無事ワープに成功し―」

 相原が報告を述べていたその時、突如、激震が「大和」艦橋を揺らす。直後、外に目を向けた島が、大声を上げた。

「な…ここは、木星じゃないか!?」

 島の言葉に、有賀達も艦橋窓の方に目を向け、目前に見えたそれに思わず固まった。
 古代達の目前に見えたのは、当初予定していた天王星ではなく、火星から小惑星を挟んで直ぐ隣の軌道に位置する太陽系最大級の惑星、木星だった。
 木星は主に太陽系外から飛来してくる隕石や彗星の多くを強力な重力で吸い込む『掃除屋』であり、地球に降る隕石の数を減らしている存在なのだが、このまま重力圏に囚われてしまえば、「大和」に「天城」も同様の運命を辿る事になる。

「うろたえるな。艦長、機関室はどうか?」

「機関室、状況知らせ」

『こちら機関室、メインエンジン不調!ワープの影響によるものか不明ですが、補助エンジンに切り替えます!』

 機関室に詰めていた徳川から報告が上がり、有賀は木星の特徴的な横じま模様の雲を見つめながら指示を出す。

「安定翼を展開し、艦の姿勢を維持しながら一時降下せよ。滑空の要領で木星の大気に乗り、メインエンジンが修理されるまで高度維持に努めるんだ。その間は補助エンジンでも十分に浮ける…提督、「天城」にも指示を!」

「うむ…全艦、大気圏に降下し、高度維持に務めよ!」

「了解!」

 2隻は推進機を補助ロケットエンジンに切り替え、金剛型のメインエンジンよりも2倍も大きなノズルから核融合プラズマジェットの炎を噴き出しながら木星の分厚いガスの雲へ降りていく。

「艦長、レーダーに反応!11時の方向、65000km!船ではありません、大き過ぎます!」

 直後、艦橋天井のメインスクリーンパネルに前方の映像が投影されるが、木星の濃密なガスや雲に覆われていてまったく解らない。

「赤外線映像に切り替えろ。」

 沖田の指示に従い、光学撮影映像から赤外線撮影映像へ切り替わり、パネルにその巨大な物体の形を鮮明に映し出した。

「な…!?」

「これは…陸地、なのか?」

 目前に広がっている『それ』に、一同は唖然となる。今、彼らの視界に入っているのは船でもなければ衛星でもない、紛れもなく島…否、大陸であった。

「この浮遊物体は、北リベリオン大陸と同程度の仮想ジオイド面積を有しています」

「文字通り、『浮遊する大陸』か…ならばここに軟着陸して、そこで修理を行おう。それならば補助エンジンの負担も軽くて済む。有賀艦長、杉田艦長!」

「了解。島、周囲に岩塊が多数浮かんでいる。それらを回避しつつ目前の浮遊大陸に乗り上げさせろ」

 沖田の決定に従い、有賀はてきぱきと指示を出す。
 怪しいという域を遥かに超えている大陸に近づくことは危険を孕むが、少なくとも木星のメタン海に永遠に沈むよりはマシである。
 周囲には浮遊する岩塊が多数認められ、「大和」と「天城」の進路を妨害していたが、士官学校にて航海科を優秀な成績で卒業していた島の腕は確かで、後に続く「天城」も、飛行機に近いワイドリフティングボディを使って気流を捉え、「大和」の後に続きつつも、不意に寄ってくる岩塊を巧みに回避する。
 岩塊を抜けるともう目前に大陸の岸が迫ってきていた。大陸上部の部分が、のしかかるように近づいてくる。
 
「総員、衝撃に備え!」

 有賀がそう命じて、彼自身も椅子の手すりに手を据えた数秒後、大きな音と共に激動が襲った。
 軟着陸とは言うものの実際には強行着陸で、2隻は胴体着陸した航空機のごとく、艦底をガリガリと音を立てて引きずりながら勢いよく直進し続ける。このままでは大陸の反対側へ抜け落ちてしまうだけである。

「後進一杯!さらに付近の山に向けてロケットアンカーを打ち込め!アンカーが突き刺さった瞬間に姿勢制御スラスターを吹かして姿勢を整えながら減速する!」

「了解!」

 有賀の指示に従い、島は左側に見えた山に向けて、左舷ロケットアンカーを射出する。間接接続型ケーブルが入っている鎖で繋がれ、制御されているロケットアンカーは高速で山の方に向かって飛び、地表に突き刺さる。同時にチェーンがぴんっ、と伸び、「大和」は地表を横滑りしながら逆噴射による減速を掛ける。「天城」も右側に見えた山に向けてロケットアンカーを飛ばし、「大和」とは反対側の向きに滑りながら減速を掛ける。

「前方に湖らしき大きな液体の反応があります!」

「おし、それをクッションにして止まるぞ!総員ショックに備え!」

 2隻は急速に振り回されながら、最後は前方に迫っていた湖に突っ込み、大きな水柱を立てる。そして水柱が消えた時、2隻はロケットアンカーを伸ばしているほうとは逆の方向に傾きながら停止していた。

「…ふぅ~」

 艦橋で有賀は思わず大きく息を吐く。それから島に声をかけた。

「航海長、よくやった。見事だぞ」

 当の島は流石に性根尽き果てたのか、小さく会釈するのが精一杯だった。そして他の面々が顔の汗を拭うためにヘルメットを脱ぐ中、機関室にいる徳川から連絡が入って来た。

『艦長、エンジントラブルの原因がわかりました。メインエンジンの冷却装置がオーバーヒートしとります』

『「天城」より「大和」、本艦もメインエンジンの冷却装置がオーバーヒートし、過熱防止のために緊急低稼働モードに入った模様です』

「修理できそうか?」

『四時間もあれば何とか…』

「よし、急いで修理に掛かれ」

「「天城」も直ちに修理に取り掛かり、いつでも出発できる様に整えよ」

 沖田が「天城」に対して指示を出す中、太田が素の口調で呟く。

「しかし、何やここは?」

 見れば見る程、今自分達の立っている下が大陸であるという認識が濃くなる。
 大陸上の山々には樹木が繁茂し、湖や河まである。遊星爆弾が降る前の地球に似た環境が木星の大気内にある事など、本来有り得ない事なのだが。

「実に興味深い環境だと言えるね」

「そない冷静に…」

「いや、かなり驚いているよ」

 真田はそう言いながら、有賀に顔を向ける。

「艦長、この大陸のサンプル採取と分析を行ってはどうでしょうか?」

「う~む…」

 真田からの意見具申に、有賀は少しばかり悩む。
 無論、真田副長は単なる興味本位でこんなことを言っているわけではない。太陽系七不思議の一つとして好奇心を刺激されるだけのモノならば良いが、これがもしも人為的なモノであったとしたら、それこそドッキリでは済まないのだ。
 何故ならば、今この太陽系で人為というものは地球かガミラスのどちらかだけ。木星に大陸規模の陸地を開発する技術は愚かその発想すらない地球でないとするならば…答えは明白である。

「提督、ここが何であれ、どの道4時間はここに留まらなければなりません。ならば、時間を有効的に活用するためにも今自分達のいるこの大陸がどうなっているのかを調べることは必要と思慮します」

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。ここが何であろうと留まらなければならない以上は情報を収集する必要がある。
 自然発生ならばそれで何事もなし。仮にガミラスのものであるならばそれはそれで手を打たなければならない。

「分かった。有賀、この艦の人員で調査員を編成し、この浮遊大陸を調査せよ」

 宇宙を戦場とする軍人らしく宇宙物理学の博士号を持っている沖田は、真田と同じく、この大陸の異質さを感じている様だった。

「了解しました。古代、船体確認を兼ねた船外調査班の編成を頼む。真田副長も同時に調査部隊の編成を」

 調査と分析行動が決定したところで、有賀は真田に調査分析を、古代に船外作業班編成を命じる。
 船外作業班の人選は古代が直轄する戦術科及び甲板部から人員を出すため、戦術長に一任。万一の事態に備え、各人武装の上、集団にて行動、行動範囲を艦周囲のみとし即時に帰艦できるようにする。

「AU09、出番よ」

森が艦橋の一部に向かってそう言った直後、藍色がベースの艦橋において、赤色の塗装で目立っていた機械が艦橋から分離し、電子音声を発した。

「番号ナンカデ呼ブナ、私ハ自由ナゆにっとダ」

 ピコピコと特有の電子音を放ちつつ、席を離れたその機械に、艦橋要員がびっくり仰天する。
 
「こいつ、自立型だったのか?」
 
「うん?貴様ら知らなかったのか?」

 有賀がそう言って見回すと、真田と森以外は「まったく」と首を振る。

「私ハ『あならいざー』ト申シマス」

 正式名称『ロ-9型自律式艦載分析ユニット』、自称アナライザーはそう名乗りながら、艦橋出入口の方へ向かう。それに対して有賀が声をかける。

「おいアナ公、下手打つとまずいからな、手早く頼むぞ」

「ゴ心配ナク、私ハ天才…ッテあな公?」

「アナライザーだと長いだろうが」

 有賀がそう言うと、アナライザーはかなり不満げにブツクサとしばらく文句を言っていたが、森から「いいじゃない」とたしなめられると、即座に機嫌を直す。そしてアナライザーを先頭に、古代と森が退室していく。

『植物採集なんて、小学生みたいなんだなぁ』

『ぶつくさ言うな』

 10分後、船外作業が開始され、後部甲板から古代の陣頭指揮のもと、甲板部員がロープを使ってスルスルと降りていく。
 
「ちぇっ、呑気なこと言っちゃって」

 同じく第一艦橋で配置に付いている太田や相原が、スピーカーから聞こえる甲板部員の愚痴に軽く舌打ちする。その最中、アナライザーが報告を上げてくる。

『気温、大気圧トモニ木星表面トハ著シク異ナル。大気成分、メタン67%、窒素6%、二酸化炭素21%。大気中ニあせとあるでひと、及ビえたのーるヲ検出』

 どうやらこの浮遊大陸は、外見上は地球の自然環境に近いようだが、宇宙服なしで活動できる環境ではない模様である。

「アルコールかぁ…」

「何だ相原、貴様はいける口か?」

 相原の呟きに、有賀は意外な様子で目を丸くする。
 相原は第一艦橋要員の中では最年長の22歳だが、細面かつ華奢な体つきをしているため、どちらかといえば繊細な印象があって酒飲みのイメージが今いち沸かない。

「えぇ、昔は故郷でよく飲まされてましたから」

「確か岩手、だったか?」

「はい」

「成程、岩手の酒は甘いからな」

 そんなことを笑い合ってから太田にも話を振ろうとしたのだが、見ると太田の顔色が何やら悪い。

「太田、どうした?」

「いえ、自分は下戸で…というか、なんだか気分が…」

 そこまで言ったところで、限界なのか口元を押さえてゲーゲー言い出した。
 近づいてみると、胃袋が暴走しそうなのかグーグーと音を立てて、今にも反吐が出そうである。

「おい太田、大丈夫か?おい誰か、気象長を医務室に――」

『あーっ、医務室より艦橋』

 有賀が太田を医務室まで連れて行くように言おうとしたその時、ちょうどそのタイミングで、艦内無線から佐渡の声が響く。

「艦長だ、どうした?」

『おー艦長、さっきから体調不良を訴えとるモンがひっきりなしでしてな、念の為に報告しておこうと思ってのぅ』

 佐渡からの報告に、有賀と沖田は眉を顰めながら顔を見合わせる。
 本来であれば戦闘即応の第一配備としたいところをワープによる乗員の疲労を考え、少しでも休息を取らせるため、有賀は思い切って第二配備としたのだが、これは予想外だった。
 単なる酔いであれば良いが、もし違った場合今後の航海に差し障ることになる。

「先生、太田気象長もこちらでダウンしているんだが、今から連れて行っても良いか?」

『構わんよ、やれやれ忙しい』

「何かあったら艦内放送で怒鳴れ。コイツを医務室に放り込んでから、急いで艦橋に上がる。それと戦闘指揮所(CIC)にも何人か要員を配置する。北野辺りを呼び出しておいてくれ」

 有賀はそう指示を出しながら、太田の肩に手を回して、艦橋を後にしていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 太田を抱え、医務室に向かう途中、遠くから甲高い笑い声が聞こえてきた。

「フハハハハハ…」

「…ん、なんだ?」

 有賀が眉を顰めてそう呟いた直後、突如、美優が顔を真っ赤にし、口角を吊り上げながら突っ込んできた。

「フハハハハハ!!!突撃ぃぃぃぃぃ!!!」

「!?」

 いつもの武人然とした様子からは想像も出来ぬ壊れっぷりに思わず顔をしかめたが、このままでは自分達と衝突する。
 そう考えた有賀は衝突する寸前で壁に寄り、片足を突き出して美優を転ばせた。

「ぐふぅ!?」

 美優は思いっきり転び、そのまま床にうつぶせる。直後、美里と2人の女性士官が駆け込んできた。士官は2人ともヨーロッパ管区の宇宙軍パイロットスーツを纏っており、胸元に三本の箒で形作られた正三角形のマークを持つため、ウィッチである事が伺える。

「少佐、ご無事ですか!?」

「あっ、有賀艦長!これは一体…」

 2人のウィッチが問いかけてくる中、有賀は医務室の方へ歩きつつ口を開く。

「医務室へ向かう途中、いきなり突っ込んできたんだ。わざと転ばせて止めたが、流石にやり過ぎたか?」

「いえ、この人いろんな意味で石頭なので、脳震盪程度で済んでいるでしょう。しかし、酒を浴びる程呑んだ直後みたいな事になろうとは…」

 美里が渋い表情を浮かべながら美優を小脇に抱え、女性士官達―ペリーヌ・クロステルマン少尉とミーナ・ヴィルケ中佐は不安そうな表情で後に続く。そして医務室に入ると、多くの乗組員がげっそりとした表情で詰めかけていた。

「おいおい先生、こりゃ一体何事だ?」

「どうやら2日酔いみたいな症状を起こした様じゃの。特にワープが終わった後にこうなった連中ばかりじゃから、『ワープ酔い』とでも命名するかの」

「無重力空間で酔いに似た症状起こす奴もいるが、まさか本当に船酔い起こす事になろうとはな…」

 有賀はそう言いながら、辺りを見回す。その中には以外にも加藤の姿もあり、有賀は太田を原田に預けつつ声をかける。

「大丈夫か、加藤?」

「いえ…一先ずここで休んでから…」

「…酒とか酔い安いものには苦手なのに、よく戦闘機には平気でいられるな」

 有賀はそう呟きつつ、彼らを佐渡達衛生科に任せ、ペリーヌやミーナとともに退室する。その中でペリーヌが有賀に尋ねてきた。

「艦長、少佐とはお知り合いなのですか?」

「知り合いというか、碇さんと知り合いになって、その中で顔を合わせる様になった、と言うべきだな…それと今後、ウィッチで飲み会やる時は坂本少佐に強い酒は勧めるなよ。先程の通り暴走するから。どうやら先祖も同様に酔いやすい人物だったらしい」

 有賀は2人に忠告を言いつつ、艦橋へ戻る。
 幸いにして、調査・分析中は何事も起こらず、3時間半後、無事に船外作業班の収容が完了した。

「やはりこの環境は太陽系外から人為的に持ち込まれたものでした」

 艦橋にて真田からの報告を聞いた者達は、揃って度肝を抜いた。
 まず第一に、アナライザーが計測したこの大陸の大気、土壌は木星は元より太陽系のどの惑星の環境とも全く一致しないものあった。
 地球人類が太陽系惑星に進出してから既に一世紀が過ぎ、ガミラス襲来以前に惑星探査はほぼ完璧とされていた。それがものの数十年で環境が激変した、とは考えにくい。
 そして第二に、船外作業班が持ち帰った大陸に繁茂している植物を分析した結果、遊星爆弾に含まれ、地球の環境を激変させた未知の異星植物とほぼ同一のものであることが判明したのである。

「将来地球をガミラスフォーミングするため、そのテストケースとしてこの大陸ごと木星に移植したと思われます。ネウロイの瘴気に冒された痕跡も確認出来た事から、この線は濃厚であると考えます」

「奴らは大陸クラスを移植できる技術があるというのか…」

 地球も過去に火星をテラフォーミングして移民を送り込んだことはあるが、その環境を維持したまま大陸規模で星系外に移動させることなど、それこそ思いもよらないことだ。
 沖田にはその凄まじさがよく理解できるのだろう。その口調は重々しくも驚愕が含まれていた。

「ワープ中断の原因究明も併せて、さらなる分析が必要となるな…」

 沖田がそう呟いた直後、同様に船外確認と周辺調査を行っていた「天城」から通信が入って来た。

『「天城」より「大和」、応答せよ!現在ガミラス・ネウロイ連合艦隊がこちらに向けて接近中!』
 
 

 
後書き
感想・ご意見お待ちしております。取り敢えずキャラ作るために久々にストパン2観た…
次回、ついに戦闘です。 
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