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戦国異伝供書

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第百七話 国府台の戦いその二

「その様に」
「では出陣しましょうぞ」
 氏康は自ら立ち上がりそうしてだった。
 白い衣に具足、旗の軍勢を率いて武蔵と下総の境に向かった、この時家臣達は氏康の顔を見て言った。
「殿、お顔に傷がありますぞ」
「向こう傷が」
「前の戦の時の傷がそのままですな」
「残っていますな」
「ははは、顔だけでなくな」
 氏康は家臣達に笑って応えた。
「わしの身体にある戦の傷は全てじゃ」
「向こう傷ですか」
「そうなのですか」
「よいことじゃ」
 その傷のことを笑って話した。
「実にな」
「武士にとって向こう傷は名誉なこと」
「だからですな」
「戦の傷が全て向こう傷である」
「そのことはよいことですか」
「そう思っておる、これからもな」
 まさにというのだ。
「向こう傷を増やしていきたい」
「そうお考えですか」
「その様に」
「左様ですか」
「だからな」
 それでというのだ。
「この度の戦でもじゃ」
「前を向いて戦われ」
「そしてですか」
「戦うとしよう」
 こう言うのだった。
「是非な」
「はい、では」
「これよりですな」
「下総に入られ」
「そしてですな」
「里見家と雌雄を決する、そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「里見家をじゃ」
「降してですな」
「東の憂いを備えたいが」
「殿、それはです」
 また幻庵が言ってきた。
「過ぎたるものかと」
「左様ですな」
「はい、福も過ぎますと」
 そうなればというのだ。
「禍となります」
「それが転じてですな」
「それが世の詰めなので」
 だからだというのだ。
「武田殿も言っておられますが」
「勝ち過ぎずにですな」
「勝ちから得る利も」
 これもというのだ。
「過ぎぬことがです」
「よいですな」
「はい」
 まさにというのだ。
「それが」
「だからですな」
「我等もです」
「勝ち過ぎぬ」
「そして勝ちによってです」
 喜ぶべきことでもというのだ。
「決してです」
「驕らぬことですな」
「驕ればです」
 まさにその時点でと言うのだ。
「当家は滅びます」
「そうなりますな」
「当家は関東管領にならんとしていますが」
 この目的はあれどというのだ。 
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