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XCUTION

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 久しぶりに武器屋の親父に会いに店へ入ったとこで、ふと……この前、出会った男を思い出した。

 アイツとの出会いは、道端で引ったくりを捕まえたのがキッカケだった。

 自分よりも頭一つ分はデカイ大柄な男。
 最初はそれくらいにしか思ってなかったが、よくよく思い出してみれば、いくつか引っ掛かるような容姿をしていたな。
 どこか抜けていそうで力の籠もった瞳。
 眼の色はブラウンっぽく、肩まで伸びる黒髪をオールバックにした髪型は男の体格と相まって威圧感を増している。
 で、感じ方というか、なんだか日本人っぽさを連想させる。

 それと今更ながら、最初に目を引くべきモノ。
 黒い革のジャケットに、斜めに鎖を繋げ垂らしたXのように見せる十字架のネックレス。
 本来、この異世界にあるはずのない、元いた世界の現代服。
 

 それらを踏まえて思ってしまった。

 [[rb:目の前にいる男 > ・・・・・・・]]はまるで、俺と同じ日本人だと。


 「ラーメン、食うか?」

 「いらん、ここは俺の休憩所だぞ」

 「いや、俺の[[rb:武器屋 > 休憩所]]だよ」


 





 ✕✕✕





 パキッと良い音を鳴らし箸を割ると、目の前の男は行儀良く俺にとって馴染みある食前の挨拶を始める。

 「じゃ、いただきます」

 腰を置いて話す場所はないかと尋ねられた武器屋の親父に促され、俺達とジャケットの男は奥の部屋でテーブルを挟み向かい合うように座っているんだが……。

 「……おい」

 ずぞっ

 「……おいって」

 ずぞぞぞぞぞぞぞ

 「おい!! なんでココでラーメン食い出してんだよッ!?」

 俺はシカトし続ける目の前の男に堪らず、バンッとテーブルに手を叩きつける。
 部屋に入ってラーメン食うまで何の反応を示さなかったジャケットの男が、やっとラーメンから顔を上げて此方を見やがった。

 「だってお前、食わねぇんだろ。
 俺が食わねぇと、のびるじゃねぇか」

 「他で食え!! 何しに来たんだ、アンタ!?」

 俺達が座る席の後ろで、フィーロが「いいなぁ……」なんて指を加えながら呟いているが、[[rb:ラーメンのこと > そんなこと]]はどうでもいい。

 「ここはアンタの休憩所じゃねぇぞ! 俺の休憩所だ!!」

 「アンちゃん、さっきは流したが休憩所気分でウチ来てたのか?」

 俺はつい本音を漏らしたが、別に今更だどうでもいい。

 「だけど、アンちゃんの言う事ももっともだ。
 アンタ、何なんだ? お客さんかい?」

 部屋の扉に背を預けながら、ジト目で見てくる武器屋の親父はタメ息を吐くと、俺の代わってジャケットの男に問い掛ける。

 「当たり前だろ、お客さんだ」

 ラーメンスープを飲みながらジャケットの男は答える。

 「だから、お茶ください」

 「緑茶でいいかい?」

 出すのかよ親父。


 目の前の男は、ごっごっごっと良い飲みっぷりで一息ついてやがる。

 「……で。アンタ、俺に何の用だ?」
 
気前良く親父が出した緑茶を飲み干したとこで、俺がもう一度問い掛けると、ジャケットの男は呆れたような目で、俺を見やがる。

 「妙なことを言うね。オメーに用なんか無えよ」

 男は薄ら笑いを浮かべて、コンッと空になった湯呑みをテーブルに置く。

 「この店に入ったのは偶然だ。
 面倒な仕事を引き受けてくれる人物を捜してたら、たまたまその人物がこの店に居ると聞いて、そこに入ったらオメーが居た。
 ────偶然だろ?」 

 「……へえ」

 ……偶然、ね。

 「ラーメン持って、偶然か?」

 「いいだろ。ラーメン、好きなんだよ」

 「好きが理由で持ち歩くなら、俺もチョコレートを持ち歩いてる」

 「チョコが好きなのか? 可愛いねぇ」

 「ハナシをすり替えるな」

 自分でも段々ズレてきているのは分かっていたが、目の前の男にタメ息を吐かれると余計に腹立つな。

 「……やれやれ、ラチがあかねぇな」

 やっと本題に入るのか、ジャケットの男は姿勢を直し始める。

 「そんな言い合いをしに来たんじゃねぇんだ。
 そっちの親父さんが店長さんかい?」

 「……ああ、そうだぜ」

 「用件、言っていいかい?」



 ✕✕✕



 「……さっきもいったが、俺はある人物を探してる。その人物に勇者の事に関して聞きたいこともあってな」

 そこまで聞くと俺は拳を握り締め、警戒心を更に上げる。

 「そいつは盾の勇者で近頃、王都や周辺の村々じゃ、神鳥の……あー何とかって呼ばれてたっけな? 名前が確か、岩谷……」

 ………………。

 「……神鳥の聖人だ」

 「何だ。知ってんのか?」

 「……ナメてるのか?」

 知らないでココに来たとは思えない。
 コイツ……ワザとなのか。

 「アンタが捜してる岩谷尚文は俺の事だ!!
 用件があるなら、さっさと言え! 
 知りたいことがあるなら、何だって答えてやる!!」

 「オメーが噂の神鳥の聖人サマか。[[rb:そりゃ偶然だな> ・・・・・・・]]」

 「まだ恍けるのかッ」

 白々しい奴だッ。

 「だが、“何だって答える”?」

 まるで滑稽な人物を見る目で、ジャケットの男は薄ら笑う。

 「本当に、[[rb:答えられる程知ってるのか > ・・・・・・・・・・・・]]?」

 「……何?」

 「──いいや」

 ……何を言っているんだ?

 「オメーは勇者の事も……災厄の波の事も、知らねぇ筈だ。[[rb:まだ何もな > ・・・・・]]」

 まるで目の前の男は、全てを知っているかのような口振りだ。

 「どういう……意味だ……?」

 「……そのままだ。
 何も難しいこと言ったつもりは無えよ」

 その時、フッと不敵に笑う目の前の男が不気味に感じてしまう。

 「オメーはどれだけ知ってんだ? 盾の勇者の事をってな。
 知りたいと思わねえか?
 この国で……何故、勇者である自分が忌み嫌われているのかを?」

 「……お前、何故それを」

 いま思えば確かに違和感は最初っからあった。
 あの事件が起きるより前、城にいた時の周囲からの態度。
 冤罪事件が起きた後の周囲も王を、クソビッチの言葉を後押しするかのような一方的な状況。

 「……尚文様」と俺の腕に手を当て気に掛けてくれるラフタリアに、「ごしゅじんさま、大丈夫?」と動物的勘で部屋の空気を感じ取ったフィーロ、察して目を閉じる武器屋の親父。

 気づかないうちに俺は、手汗が滲み出るほど動揺を晒していたようだ。

 それを見たジャケットの男は立ち上がると。

 「少し、外の空気を吸いに行かねぇか。付いてくれば面白いモンが見られる筈だぜ」



 ✕✕✕



 ジャケットの男の後に付いて店を出た俺達に、アレを見な、と男は街の教会が掲げているあるモノを指差す。

 そこには剣、槍、弓の三つが重なり合うようなシンボルが有った。恐らく勇者のシンボルなんだろう。……でも、何だ。

 「気にならねぇか?」

 確かにジャケットの男が言うように何か違和感を感じる…………そうか。

 「盾が、無い……?」

 そう。勇者のシンボルであるはずのそこに、盾は無いんだ。

 「気付いたか。剣、槍、弓があるのに、そこには盾だけが無い。それは何故か」

 教会……シンボル……国……いや、まさか……。

 「はっきり教えてやる。
 この国、メルロマルクではな。盾の勇者を宗教上の敵と見なす国教を信仰しているんだよ」

 ……なん……だと……。


 それから、ジャケットの男はこの国の状況を少しずつ話しだした。

 メルロマルクは女王制であり、今の王は不在時の代理の王に過ぎないこと。
 この異世界の各国が集まる世界会議の決定を無視して「四聖勇者を各国が1人ずつ召喚する」という協定を破り、独占を図ったことでメルロマルク国を波の前に戦争で滅ぼしかける大罪を犯し、メルロマルクの女王はその後始末に追われ戻れないこと。

 話しを聞いている間に俺は冷静さを取り戻し、情報を整理し始める。

 「それで、アンタは今更ソレをご丁寧に教える為に会いに来たわけじゃないんだろ」

 「お察しの通りだ。
 ここまでは少しでもお前さんに興味を持たせる為の口実に過ぎねぇ」

 ジャケットの男はここまで薄ら笑いを崩すことはなかったが、その目は真剣味を帯びていた。

 「俺の目的は、俺個人の問題を解決すること。
 そして、お前に勇者を超える新たな力を与えることだ」

 一見怪しいこの男が本当のコトを言っている保証もない。が、嘘付いている証拠もない。
 少なくとも、さっきまでの宗教の話しと、この国が女王制であるコトについてはラフタリアに確認したから間違いじゃないんだろう。

 「……名前、聞かせてくれ」

 信用したわけじゃない。だが、俺には少しでも状況を打開するための手札が必要なんだ。

 「あんたの名前」

 男は最後まで不敵な笑みを崩さず、真っ直ぐ俺の目を見据える。 

 「……銀城」





 盾の勇者の成り上がり2.
        The Unknown





 ────銀城空吾だ






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