XCUTION
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「尚文様ッ、早く行きましょう!」
「待て。そんなに急かすな、ラフタリア」
岩谷尚文/20歳
髪の色/ブラック
瞳の色/ライトグリーン
職業/大学生
──兼/異世界の勇者
この世界に来る前、俺は少しオタクな大学生として人生をほんのちょっぴり謳歌していたのだが、忌々しいことに盾の勇者として、この異世界の国・メルロマルクに召喚された。
召喚された当初の俺は、これから始まる冒険に心踊らせていたが、それも最悪な形によって裏切られたんだ。
仲間の裏切りと、冤罪によって……
信頼と金、名誉、勇者としての尊厳を失い、その日から周りの全てが敵になった。
そして俺は攻撃力が足りないから、倒せないから経験値も得られない。得られないから攻撃力も上がらない。
そんな嫌なループを抜け出す為に、俺の代わりに魔物を倒せる者に経験値を稼がせる。
────俺は奴隷を買った。
狸みたいな耳と尻尾を持つ獣人。まだ十歳ちょっとと云ったところの女の子だ。
女の子の獣人──ラフタリアと共にレベルを上げ、勇者として最初の“災厄の波”に挑み、終えてから数日が経ち、今のところは俺のペースでだが順調に進んでいるところだ。
「そんなに走っても、武器屋のオヤジは逃げないぞ」
「気持ちの問題ですよ、尚文様。あぁ、新しい武器が出来てるといいですね!」
ま、俺の場合は防具だがな。
興味の方向性は保護者として気になるが、年相応に燥ぐラフタリアを微笑ましく見ていると、後ろから騒がしい声がするのに気づく。
「あ、てめぇッ」
振り返ると同時に男が一人。何かを抱えながら、俺達を追い越していくところだった。
「待てコラァ!! 荷物返せ、てめぇ!!」
追い越していった男が来た道を辿ると、その後を追おうとまた別の大柄な男が走ってくるのが見えた。
どう見ても引ったくりの類いなんだろうが、如何せん距離が離れすぎてるな。
このままだと逃げられるのが目に見えてる。
「……尚文様」
見かねたラフタリアが、俺を伺うように見てくる。
……そんな目で見てくるな。
ラフタリアは俺と違って人が良いからな。何を言いたいのかは分かる。
「……はぁ、好きにしろ」
「はい! 尚文様!」
了承を得たラフタリアは顔を引き締め、引ったくりを追い駆ける。
ラフタリアも順調にLvを上げている。あの様子ならすぐ追い付けるだろう。
案の定、ラフタリアは引ったくり犯に追い付き、鉄拳を顔面に叩き込む。
ナイフで応戦されたが、それも難なく抑えつけた。
「うお──────!! 何だよ、スゲエな嬢ちゃん! ありがとな!!」
引ったくり犯とラフタリアの元にたどり着くと、丁度大柄な男も追い付いたようだ。
「い、いえッ。そんな大したことではありませんよ。あ、荷物はこちらです」
ラフタリアが謙遜しながら盗られた物を手渡すと、大柄な男は気安い感じで俺達の肩を叩く。
「なあ、二人共。ハラへってねえか! ラーメンとかオゴッてやるよ! 食うだろ?」
「……いや、必要ない。それより俺達が手を貸したことは口外しない。それだけでいい」
王都内で問題が起きると、何でも盾の勇者のせいにされそうだしな。野次馬も湧いてきてる、さっさと退散したほうがいいだろう。
「お? おう……そうか……残念だな」
大柄な男は肩を落としながら、尚文達を見送ると──
「なんだよ……」
さっきまでの気の良さそうな表情から一転、不敵な笑みを浮かべ品定めするかのように尚文達の後ろ姿を見据える。
「優男の面してる割には、結構用心深いんだなァ……」
男の手荷物から、鎖に繋がれた×印の上にドクロのようなマークが描かれた絵馬のようなモノが零れ落ちる。
「盾の勇者」
盾の勇者の成り上がり1. RISE
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