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尻尾を振る猫

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第一章

                尻尾を振る猫
 橋口栞奈、後ろを切った茶色の髪の毛を左右で分けた大きな目を持つ小学六年生の娘が連れて来た白い毛で黄色い毛の子猫を見て橋口早苗は眉を顰めさせた。
「その子何?」
「拾ったけれど」
「うちにそんなお金ないわよ」
 娘にこう返した。
「二人だけで精一杯なのよ」
 母子家庭で自分の稼いだお金で暮らしている、早苗は酒とギャンブルと女と暴力が原因で別れた夫のことを考えつつ言った。黒髪を短くした面長でやや細い目の顔で。背は一六〇位で三十代前半の割にはやや老けた顔だがスタイルは結構なものだ。
「だからね」
「猫ちゃん駄目?」
「ええ、けれどあんた拾ったからには」
 娘の頑固な性格を知っていて言った。
「どうしてもでしょ」
「うん、駄目かな」
「慰謝料は入ってるし」
 別れた夫からのそれがだ、弁護士が強く言って支払わせている。
「それにお母さんも働いてるし」
「だったら」
「いい?ちゃんと育てるのよ」
 娘に強い声で言った。
「それでその子だけだから」
「一匹だけね」
「それが限度だからね」
「わかったわ、じゃあこの子をね」
「ずっとね、面倒見るのよ」
「そうするわね」
 娘も約束した、そうしてだった。
 母娘と猫の生活がはじまった、白猫は雄で名前は栞奈がシロと名付けた。そのシロと一緒にいるとだった。
 栞奈だけでなく早苗も自然と笑顔になった、それで早苗はある日栞奈にシロにご飯をあげてからこんなことを言った。
「猫がいるとね」
「シロのことよね」
「自然とお家が明るくなるわね」
「お母さんよく笑う様になったね」
「栞奈もね。二人だけだとね」
 母と娘だけではというのだ。
「やっぱり限度があるけれど」
「シロがいてくれたら」
「それだけでね」
「笑えるのね」
「ええ、だからね」
 猫だけでなく娘も見て話した。
「お母さん最初は反対したけれど」
「シロを飼うことに」
「けれどシロが来てくれて」
「よかったのね」
「ええ」
 この言葉を心から出した。 
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