戦国異伝供書
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第百三話 緑から白へその十
「そこに行くことはない」
「左様ですな」
「それはありませぬ」
「何があろうとも」
「それはな」
こうしたことを話してだった。
伊豆千代は弟達と共に日々成長していった、氏綱はその彼を見つつ政も戦も進めていたがその中で。
小田原の城を見回して家臣達に話した。
「我等は今攻めておるが」
「それでもですな」
「守りは忘れぬ」
「断じてですな」
「うむ、この城は他の城と違う」
このことを言うのだった。
「そうであるな」
「はい、確かに」
「この城は他の城とは全く違います」
「城下町といいますが」
「そうした町ではありませぬ」
「その町をな」
まさにそれをというのだ。
「全体を壁と石垣それに堀で囲んでおるな」
「そうしております」
「それだけに大きな城になっています」
「異朝の城と同じです」
「そうなっています」
「明でもそうであるが」
氏綱はさらに話した。
「近頃九州や上方に南蛮の者達が来ておるな」
「その様ですな」
「やけに大きく目が青や緑だとか」
「毛深く髪の毛は金色や赤だとか」
「随分異様な姿だとか」
「その者達の城もな」
それもというのだ。
「明と同じだと言っておるそうだな」
「城の周りに町があるのではなく」
「町が城である」
「町を堀や壁で囲んでおるそうですな」
「あちらも」
「むしろ本朝の様に城が町でない国は珍しいそうじゃ」
まさにというのだ。
「どうもな」
「そう聞くと信じられませぬな」
「どうにも」
「城の周りに町がないとは」
「そうしたものでないとな」
「奈良や都の様なものであるそうじゃな」
ここでだ、こうも言った氏綱だった。
「明や南蛮の城は」
「そういえば都もですな」
「奈良も都だった頃は、でしたな」
「町が壁や堀に囲まれ」
「町自体が城でしたな」
「しかしじゃ」
氏綱は小田原の城つまり町を見ながらさらに話した。
「この城は違う」
「明や南蛮の城と同じですな」
「まさに」
「そうした城であり」
「そうそうはですな」
「攻め落とせぬ、町に辿り着けても」
それでもというのだ。
「これだけの大きな城はな」
「それはですな」
「無理ですな」
「並の数の軍勢では」
「左様ですな」
「十万の軍勢でもなければ」
氏綱はこのことをはっきりと言った。
「攻め落とせぬ」
「全くですな」
「それではですな」
「その守りをより確かなものとする」
「このこともですな」
「進めていく、壁は高く堅くしてな」
まさにというのだ。
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