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戦国異伝供書

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第百三話 緑から白へその九

「警戒しよう、ただ叔父上に言われたが尾張でな」
「尾張ですか」
「また離れた国ですな」
「あの国で何かありましたか」
「恐ろしいまでに強く大きな光を放つ青い星が出て来たという」
 幻庵は天文を見ることも出来る、それで星を見たことを将来北条家の主になる伊豆千代にも話したのである。
「何か天下に大きな力を及ぼす」
「そこまでですか」
「そこまでの方がですか」
「出られたというのですか
「何でもな」
 そうだというのだ。
「叔父上が言われるには」
「そうなのですか」
「尾張にですか」
「そこまでの方が出た」
「そうなのですか」
「若しくは出るらしい」 
 今でなくてもというのだ。
「東国のことではないが」
「尾張の北にはとんでもない御仁がおられますが」
「美濃の蝮と呼ばれる」
「確か斎藤殿でしたな」
「以前はまた違うお名前でしたが」
「あの御仁は妖星とのことだが」
 それでもというのだ。
「やがて落ちるという」
「それはそうですな」
「伝え聞く悪行はかなりですから」
「只主である土岐殿から国を奪っただけでなく」
「それまでもかなりでしたし」
「悪行には報いがあることはな」
 これはとだ、伊豆千代は弟達に話した。
「当然であるな」
「それがこの世の摂理ですな」
「例え戦国の世でもです」
「やはり悪行には報いがありますな」
「どうしてもな、わしも斎藤殿がそうなるのは当然と思う」 
 斎藤道三、彼がやがて没落することはというのだ。ただ星を見た幻庵も話を聞く伊豆千代もその没落がどういったものかはわからない。
「やがてはな、しかし尾張の巨大な星はな」
「まさかと思いますが」
「その斎藤殿すらですか」
「遥かに凌駕するまで、ですか」
「叔父上はそう言われておられる」
 幻庵、彼はというのだ。
「実際にな」
「斎藤殿は姦雄ですが相当な方だとか」
「その斎藤殿をも遥かにとは」
「どれ程までの方か」
「見当がつかぬ、まあ尾張は遠く」
 そしてとだ、伊豆千代は話した。
「関東にはな」
「来ることはないですな」
「おそらくは」
「それはないですな」
「どうも考えられぬ」
 尾張に出る者が関東に来ることはというのだ。
「精々伊勢や美濃から上方位でな」
「それでもですな」
「この関東まで来ることはないですな」
「考えられませぬな」
「今はな、だがその尾張に出たか出るという御仁がな」 
 その青い星の者がというのだ。
「相当な御仁らしいということはな」
「叔父上は言われていますか」
「星を見て」
「その様にですか」
「わしに話してくれた、だが当家は西には進まぬ」
 即ち西国にはだ。
「甲斐も駿河もな」
「そして越後にも」
「我等が見ているのはあくまで関東」
「東国のこの場所ですから」
「尾張のことは見ておくにしても」
 それでもというのだ。 
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