麗しのヴァンパイア
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第二百七十四話
第二百七十四話 月を見て
夜道を照らしているのは月だった。その白い十日月をふと見上げてカーミラは妖しい微笑を浮かべた。
そうしてまた使い魔達に話した。
「月はいいものね」
「優しい光です」
「まさに我々の光です」
「太陽の光は厳しいですが」
「月の光は違います」
「優しく穏やかな光です」
「月は私達の故郷では嫌われていたわ」
カーミラはこのことは寂しそうに述べた。
「そのことは覚えているわね」
「それは忘れられません」
「魔性のものとすら言われました」
「ギリシアや北欧の神々の言葉とは違い」
「あの宗教ではそうでした」
「それは違うわ。太陽の光は厳しいわ」
そうした光だというのだ。
「特に私達にとってはね」
「全くです」
「外に出られますが」
「それでもいいものではありません」
「決して」
「ええ、けれど月は違うわ」
この星の光はというのだ。
「何時浴びてもいいものね」
「左様ですね」
「優しいだけでなく隠すべきものは隠してくれます」
「この世の醜いものすら」
「そして照らされる者の心を癒し」
「穏やかにもさせてくれます」
「そうしたものを嫌うことは」
月、そしてその光をというのだ。
「残念なことね」
「全くです」
「この様なものを嫌うとは」
「私達の故郷は寂しいものです」
「実に」
「けれどこの国は違うわね」
日本はというのだ。
「月も尊んでいるわ」
「太陽の国と言われていますが」
「月も同じですね」
「太陽と共に尊んでいる」
「そうした国ですね」
「その懐の深さ、実にね」
カーミラは今度は優しい微笑みで述べた。
「面白いものね」
「全くです」
使い魔達はカーミラの言葉に一言で応えた、そうして彼等も月を見た。月の光は優しいままであった。
第二百七十四話 完
2020・6・20
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