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公爵の歯

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第四章

「わしはもっと言われておるわ」
「歯のことよりもか」
「わしはとかく嫌われておる」 
 自分でこのことを言うのだった。
「ブン屋からも民草からもな」
「確かにお主は嫌われておるな」 
 井上もそれはと言った。
「世間から」
「元老で一番嫌われておるな」
「わしも随分言われておるが」
「三井の番頭とかな」
「しかしお主はな」
「やれ金に汚い、やれ陰謀家だのとな」
「まことにな」
 山縣、彼はというのだ。
「随分嫌われてな」
「好き放題書かれて言われておる」
「そのことを思うとか」
「もうな」 
「仇名位はか」
「確かに歯は気にしておるが」
 それでもというのだ。
「これ位はな」
「よいか」
「今更な」
「そうであるか」
「左様、今更よ」
「そうしたものか」
「それ位言わせる、というか金の話も謀の話もな」
 そのどれもというのだ。
「好きなだけ言え、わしはやることが多い」
「何かとな」
「それでお主露西亜とか」
「うむ、露西亜と戦っても勝てぬ」
 井上ははっきりと言い切った。
「どうしてもな」
「だからか」
「露西亜と話をしてな」
 そのうえでというのだ。
「勢力圏を決めてな」
「手打ちにするか」
「それがよいと思う」
「英吉利が手を結ぼうと言ってきておるぞ」
「英吉利程の国が日本の様な国と手を結ぶか」
 それはないとだ、井上は答えた。
「あれだけの国が」
「我が国の様な小さな国とか」
「それはない、だからな」
「露西亜とか」
「話をしてな」
 そうしてというのだ。
「手打ちにしようと思う」
「伊藤さんもその考えだな」
「それで今度あっちと話すつもりだ」
「そうか、しかし桂や小村は言っておる」
 山縣は真剣な顔で井上に話した。
「露西亜は手打ちをしてもな」
「それで終わらんか」
「大韓帝国をこちらの方にしてもな」
 それでもというのだ。 
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