機械の夢
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第01部「始動」
第07話
前書き
この前久しぶりに、劇場版のナデシコを見てみたのですが…他小説の影響を受けていたのか、全然性格が違いますね…特にラピス^^;
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ん…
意識が覚醒する。気だるさを感じつつ、今日のこれからを考えるとまた寝たくなり目を閉じた。
「お…おふぁよう御座いますマスター」
「ああ。お早うラムダ」
現実はそう甘くないようだ。ゆっくりと目を開ける…
…身体が重い。まだ完全じゃないか。
「あ、あのマスター!」
「何だ」
「ええと まずは伝言があります。昨日のお二人が今日の昼にまた来るそうです」
アカツキとエリナか…これからの事を話すつもりか。
俺が生きていると様々な所で支障が出る…昨日が終わっていれば、命尽きるまで戦うつもりだったが…それはもう出来ない。
「マスター?」
「ああ…なんでもない。ラピスは…」
起きていた。ベッドから立ち上がろうと横を向いたら視線が合う。
「…」
「お早うラピス」
「おはよ、うアキト」
いつから起きていたんだろうか。ラピスは両手で袖を掴んでいた。
「お早う御座いますラピス」
「………」
袖が引かれた。ああそうか。
「大丈夫だラピス。コレはラムダだ」
「これって!マスター!」
ラムダが非難の声を上げるが問題ない。
「…ラムダちが、う」
気に入らなかったみたいだ。
『本当ですよラピス。ほら』
ラピスの手首につけられたコミュニケから電子音が鳴り、手首からナノマシンを伝わる光の奔流が走る。
「……アキト」
ん?
視界が鮮明になる。ラムダの補助から、ラピスへとナノマシンによる補助が切り替わったようだ。
いつも通りの視界に、いつも通りの体の感触。
腰を起こしてラピスを引いてベットから立ち上がる。
「あ、マスターこれを」
手に持った黒いマントを渡してくる。
「ああ。悪いな」
受け取ろうと手を伸ばしたら反対側に引っ張られた。
「ラピス?」
「だめ…アキトからでてっ、て」
?
「ちょっと待って下さいラピス。完全に離れてしまうと、緊急時にマスターを補助できなくなってしまいます」
「だめ」
…これはリンクシステムの事を言っているのか?
「ラピス。今後の負担も考えるとラムダとのリンクは残しておいた方が…」
「嫌!私がアキトの!」
見上げてくるラピスの目はどこか悲しげだ。これはだめだな。
「ラムダ。一度システムを切れ。イネスもまだ完成したとは言ってなかっただろう」
「分かりました 失敗しました。やっぱり性急過ぎましたか…」
何か小さく言っているが聞こえない。ラピスの表情が元に戻ったからシステムは切ったみたいだが。
「…ラピス」
「?」
頭を撫でる。
「昨日俺はお前に酷い事をした。覚えているか」
「?」
夢…と思っているんだろうな。
「そうか…俺はなラピス……俺は、ラピスをエリナに預けて消えるつもりだった」
「っ」
ラピスの口を手で塞ぐ。
軽く。ほんの少し触る程度に。
「でも、怒られた。悪い事をしようとしたから、ラムダやアカツキやエリナに怒られたんだ」
膝を折る。視線をラピスに合わせてバイザーを取る。
「今までラピスには助けられた。これからは自由に生きて欲しかった…でもそれは俺の考えだ。ラピス。ラピスはこれからどうしたい?」
「わたしはアキトとい、る」
「…分かった。約束をしようラピス」
「やくそく?」
「ああ。これから1年…俺はラピスと一緒にいる。そして、1年が経ったらラピスの夢を教えてくれ」
「ゆ、め?」
「そうだ。自分の叶えたい夢を教えてくれ。勿論俺と一緒にいたい…じゃ駄目だ。ちゃんと自分がやってみたい事を教えてくれ。もし出来なかったら、次の1年はエリナと暮らすんだ」
答えられても答えられなくても同じ事…酷い約束だが、譲れない。
「…」
「いいな。約束だラピス」
右手をラピスに向ける。指きりなんて何時以来だ。
「同じように手を出して」
はてな顔で小さな右手を出してくる。
小指を絡める。
「子供の頃は、忘れちゃいけない約束をする時にはこうするんだ」
「やくそく」
「ああ。約束だ」
バイザーをつける。昨日のおかげで随分と調子が狂っている。自分でも何をやっているのか分からない。
「あの…マスター?ラピス?私もいるのですが」
「分かっている。これからも頼むぞラムダ」
「気のせいでしょうか…私の扱いが酷いような」
気のせいだ。
「きのせ、い」
少しの間ラムダがいじけていたが、ラピスのお腹すいたの言葉に部屋を出て行った俺たちを慌てて追いかけてきた。
「ううう。これが今の私-データ-とラピスの差ですね。いいです!私だって、これからはマスターとの記録を作っていきますから!!」
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「おやようラピスくん。お邪魔してるよ~第二の大関くん」
「お早うラピス。早かったわね…朴念仁」
休憩所の扉を開くとコーヒーを片手にパンを持つアカツキと、紅茶?を持ったエリナが椅子に座っていた。
「おはよ、う」
「…ラムダ、ラピスの食事を出してくれ」
「はい。マスターは…ですよね」
出してきたのは栄養固形物…水とコレがあれば俺はいい。
最初はラピスも同じものを食べようとしていたが、色々話し合った結果、ちゃんとした食事を摂るようになった。
アカツキとエリナの対面につき、息をつく。ラピスは子供用の椅子で俺の隣に座った。
「…これから1年ラピスと暮らす。悪いが協力してくれないか」
バイザーを取って二人に頭を下げる。
俺1人の力でこれから1年…平和に暮らすのは無理だ。
それに、火星の後継者の残党狩りは行う…これは譲れない。ただ、それは俺1人でやりたかった。
少なくともユーチャリスを使った攻撃は今後は控える。サレナ1機で削る作業が主な行動だ。
誰かのサポートがなければ動けない体だが、ラムダが俺のサポートにつけるなら…
「…ふ~ん。少しは頭のしこりが取れたみたいだね」
「誰かさんのお陰でな」
「…ちゃんと反省しているのね」
反省…か。反省では済まないだろうが。
「後悔…はしていないが、許されない事だとは思っている」
「はぁ…女の子を無理やりなんてゲ な事を反省していないってわけね」
…ラピスがいるから余り酷い言葉を使いたくないのか。もしラピスが居なかったら、レイプ魔だのなんだの言われていた気がするな…
「これからの事を考えると、俺から離れた方が良いと思うからな…それで、ネルガルはどうする?俺を売るのか」
だったらここに二人だけで来ることはないだろうがな。だが、もしも援助が受けられないのなら別の道を模索しないといけない。
「君には死んでもらう」
アカツキが全てを言い終わる前に、ラピスの耳を塞いで離す。
「!」
ラムダがビクッとユーチャリスを操作しようとしていたが、アカツキは静かにコミュニケを触るとラムダが悔しそうな声を上げた。
動力が落ちていたら船はなにも出来ない。ラムダが別に何かをしようとしていたが、それを止めさせる。
「君は驚かないんだね」
「一度はお前に救われた命だからな。目的さえ遂げられたら好きにして構わない……っと昨日までなら思っていた」
「今は違うのかい?」
「ああ…今はラピスの為に生きると約束……したからな」
言い終わると、聞こえたのかラピスが小指を俺に向けてきた。
「ハッ……いい。いいね っグェ!」
腹を抱えて笑うアカツキにエリナが肘を入れていた。
「正確には、アナタにはテンカワアキトの名前を捨ててもらうわ」
「それでは済まないだろう」
ラムダが胸を撫で下ろすのが見える。
「勿論。此方がいくら口で言っても、テンカワアキトを引き渡さないとどうにもならないわ。だから、一度アナタを売ったという事実が欲しいの」
「…どうするつもりだ?」
「それなんだけどね…」
アカツキが視線を下げる。見ているのはラピスだ。
ラピスは話をじっと聞いて何も喋らない。売った売らないの内容がまだ分かっていないのかも知れないな。
「ラムダ。ラピスの食事はまだか?」
「は、はい」
キンっと音がなって出てくるレトルトの食事。皿に盛り付けられた食事をラムダが持ってくる。
「ラピス」
「いただきま、す」
今日はスパゲティのようだな。
「…俺は向こうで好きにしていいんだな?」
一度捕まって、逃げればいいんだ。CCを隠し持っておけばいい。体内にでも仕込めばそうそう取り出される事もない。
「ああ。本当なら、君がサレナで戦って死んだように偽装したい所だけどそれだと、ラピスくん…僕らが君に加勢した事になるかも知れない」
…なるほど。
「俺の事はどこまで軍に知られているんだ?」
「この間のクーデターの時に捕まった中に山崎も居た。僕が知っているだけでも、君達に非人道的実験をした事もその結果も彼らに渡っている可能性が高い」
拳に力が篭る。
「その記録の公開は…されないんだろうな」
「…ええ。軍から流れてきたデータをイネスが解析していたけれど…誘拐の協力者に軍関係者もいたようなの」
エリナが顔をしかめて顔を下げる。ああ…映像データでも見たのかもな。あれは酷い…からな。
「それで闇…か。同じだな。それで俺が消えれば、今回のコロニー襲撃の件も目出度く解決というわけだ」
内心落胆している自分に、まだ俺は甘いことを考えているのかと罵倒したくなる。
軍全体の信用と、1人の犯罪者と既に犠牲になった人の命。天秤にかけるまでもない。使えるのなら使う。使えないのなら切り捨てる。
それが当然なんだろうな。
「分かった。俺のサポートをラムダに切り替えるんだな?」
「…駄目!!」
予想通り、ラピスが食べるのを止めて俺を掴んできた。
「あのねラピス…アキトくんは」
「駄目!」
「約束しただろラピス。俺はこれから1年間一緒にいる。だが、何時も一緒にいれるわけじゃない。イネスの定期健診の時も1日会えない時もあっただろ?それと同じだ。必ず次の日には帰ってくる」
「…嫌」
じっと見上げてくる視線は無機質な瞳から悲しげな色に変わっていた。今までこんなに頑なに拒否の姿勢を変えないラピスは初めて見るかも知れない。
「なるほどね…」
アカツキが言って髪を梳く。
「なにがだ」
「君を取られたくないのさ」
「なに?」
「ラムダ…くんに君とのリンクを取られたくないってことさ。いいことじゃないか。支配欲…は違うか。独占欲が出てきたのさ」
…欲か。
考えてみればラピスはまだ子供だ。俺とのコミュニケーションもリンクを頼っている部分も多い。
今日の朝、ラムダとのリンクを嫌がったのもそのせいなのか?
「そうなのか?ラピス」
「…アキトは私が助ける。私がアキトの」
目…手…足…
「そうだな。俺はラピスに助けられてばかりだ」
ラピスの視線が期待に変わる。だが、
「でも、今回はラムダに少し変わってくれ。完全にじゃない…ラピスとのリンクは切らない約束する」
「…」
「これは一緒にいる為に必要な事なんだ。1日くらい我慢できるな?」
ラピスは返事をしなかったが頭を撫でて説得するが、ラピスの表情は変わらない。
「ラピスが我慢しないと、アカツキやエリナが困ったことになるんだ。分かるな?」
ラピスは何も言わなかった。だが、掴んできた腕は放した。
分かったとは思えないないが、少なくとも理解はした筈だ。リンクを通した説得は口で言うよりもダイレクトに伝わる。
余りしたくない行為だが、そうでもしないとラピスはリンクの主導権をラムダには渡さないだろう。
優しく頭を撫で続けるラピスからは、とめどなく不安の感情が流れ込んでくる。
その不安が少しでも軽くなるように、俺もリンクを通して大丈夫と受け止めていた。
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