| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

俺、リア充を守ります。

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第12話「We are ベストパートナー!!」

「うむ、やはり女子中学生こそ至高」

 万死に値する暴言を吐いて、中学校の校門の前で腕組みをしながら頷いていたのは、これまた牛のような外見のエレメリアンだった。こちらは角がなく、ベルのような意匠の首飾りでマントを留めている。クラーケギルディのものと同じものだ。

「モケー!」

「モケケー!!」

「そうであろう!そうであろう!!」

 戦闘員アルティロイドがカサカサと威嚇するように動き回る中、下校中の中学生は右へ左へ逃げ惑う。

 以前もそうだったが、女の子が多い学校が狙われやすいようで、これは問題だ。

「走って揺れる醜い乳などに存在価値はない。貧乳こそ、始まりにして終わりの乳なのだ!!」

「なかなかいいこと言ってるけど、乳にこだわっている以上倒さなきゃいけないわね」

 到着早々、あいつの命運ももう、尽きたな……愛香の敵、乳属性シリーズとしてカテゴライズされてしまったようだ。

「そこまでですわ!!」

「現れたかツインテイルズ!我が名はブルギルディ!首領様、そしてクラーケギルディ隊長の栄光の為、この命燃え尽きるまで……む?見慣れない顔だが……何者だお前は!?」

 テイルイエローの存在に気付き、彼女を指さして叫ぶブルギルディ。

 大仰なリアクションに満足したように、会長は高らかに名乗りを上げた。

「第四のツインテイルズ!テイルイエロー、参上ですわ!!」

 トゥアールから『第五の』と抗議が入るも、みごとに名乗りを上げ、ポーズを決める会長。

「テイルイエローだと!?テイルドラゴンはどうした?見当たらんが……」

「……テイルドラゴンは来ません。わたくしが、彼の代わりに戦います!!」

 闘士をみなぎらせた表情でブルギルディを睨みつける会長。

「イエロー、見せてもらうわよ。あなたの正義の心とやらが生む力がどれほどかを。もし口先だけだと感じた時は、容赦なくそのブレスを奪う。そのおっぱいはあたしのものとなるのよ!!」

「欲望ダダ漏れじゃねえか!!」

 聞きようによってはとんでもない台詞を、会長は「よくってよ」の一言と共に自身たっぷりに頷いた。

「必ず仲間として認めてもらいますわ!だってわたくし……あなたたちの戦いを、ずっと見てきたんですもの!!」

 心熱くなることを言い、アルティロイドたちの前に颯爽と躍り出るテイルイエロー。

 さすがに愛香も胸に来たのか、むむむ、と唸っている。

「えと、使用方法は……なるほど!こんな風に頭の中に浮かぶんですのね!」

 会長のツインテールの結び目は頭の後ろの方になるため、それをまとめるフォースリヴォンに触れる仕草は、髪をかき上げるように優雅だった。

 雷がほとばしり、手の平に形成されたのは山吹色に輝く拳銃だった。

「ヴォルティックブラスター!!」

 それがイエローの武装か!さすがヒーロー好き、ウに点々も忘れていない!!

「モケェ!?」

 光る銃口が、アルティロイド達に向けられる。確かに、初陣ならばまずは戦闘員との戦いが鉄板だ。

 黒ずくめ達には会長も積もる怒りがあるだろう。

「さあ、これまで多くの人々を危険にさらした罪、贖っていただきますわ!!」

 無機質に走り寄ってくるアルティロイド目掛け、テイルイエローは拳銃を発射した。

 まさに、稲妻のように弾丸が貫く様を想像したのだが…………。

 縁日のコルク銃を思わせるような頼りない弾道を描き、アルティロイドに当たったものの、簡単に跳ね返ってしまった。

「モ、モケ?」

 倒されるのを覚悟したであろうアルティロイドが、一番驚いている。

「一撃で倒れないとは、やりますわね……!」

 今度は大仰な横構え水平撃ちで、今度は三連弾。

 だが、やはりキャラメル箱すら倒せなさそうなコルク弾が、怪人に通用するはずもない。

「モケ……」

 まるで何か自分が悪いことでもしたかのように、ぽつんと立ち尽くすアルティロイド。

「イエロー!気合いだ!!心を燃やして、テイルギアに命を通わせるんだ!!」

「そ、そうですわ!!闘志で自己のスペックを超える展開こそ、ヒーローの醍醐味!威力不足は、わたくしのこの正義の心で埋めてみせますわ!!」

 いや、スペックは必要十分なんだが……なんていうか、それを使いこなせていないような……。

 気を取り直して、銃を仕舞い、返しざま右腕を突き出す。

 手の甲の先まで砲身を伸ばしたそれは──―レーザー砲だった。

「テイルイエローのテイルギアには、全身に武器が内蔵されていますのよ!ヴォルティックレーザー!!」

 気合い一閃、レーザーが発射される……が、水鉄砲のようにピューと伸び、敵に届く寸前に、地面に落ちてしまった。

「……ま、まだまだ!この肩アーマー、実はですわね!」

 肩アーマーが前後に稼働し、内側からさらにパーツがせり出してきた。

 左右二門ずつ計四門のバルカン砲。解き放たれた機銃が、アルティロイドに容赦なく浴びせられる。

 すごい、まるで人間武器庫だ。重装甲タイプではなく、重火力タイプ!なるほど、確かにこれは母さん監修、心配する必要はなかったみたいだ。

 ……そこで威力も凄ければ申し分なかったんだが……。

「……モケ?」

 三歳児が鬼役のお父さんに投げた節分豆でももう少し威力があるだろうという、まさに豆鉄砲。

 アルティロイド同士が「やばい、どうしよう?」と、互いの顔を見合わせながら焦り始めている。

 その後も、腰から三門ずつのミサイル、両足からは、質量にものを言わせ目標を粉砕する五連徹甲弾、左腕からは右腕と同じくらいの長さのレールガン、おそらくは近接戦の切り札であろう、膝のスタンガンや、爪先のニードルガン。

 それら武器の稼働音と会長の掛け声だけ聞くととてつもない威力を想像させるが、どれもこれも、目も当てられぬほどの弱さだ。

 アルティロイド達が一列に整列して、せめてもの情けで一発たりとも全て漏らさず受け止めているのが余計に情けなさを煽っている。

 涙目で放った次の攻撃は、胸アーマーが上下四方向に開いて現れた大型ミサイル。起動を見るにおそらく、本来はホーミングミサイルなのだろうが、これも空気の抜けた風船のような頼りなさでヘロヘロと飛び、電柱にペチっとぶつかった。

 胸からミサイル出しただけに、偽乳だと喜んでいたブルーだったが、悲しみに打ち震えるイエローの胸は、装甲の下でしっかりと揺れていたのを確認すると、悲しみが伝播したように無言で打ち震えるのだった……。

「こ、こんなはずありませんわ……こんな……!!」

 もう一度ヴォルティックブラスターを抜き、至近距離からアルティロイドに連射する。

「モ、モケ……」

 アルティロイドは、ぐっと足に力を入れると、会長の銃撃に合わせ、勢いよくバックステップした。

 うわー、やられたー、とばかりに転げ回り、ガクリと力尽きる。

 日曜日、たまの休みに子供と戦いごっこをするお父さんの姿を、そこに見た。

「敵に……情けを……」

 とうとう会長はへたり込み、銃ブラスターを取り落としてしまった。

「師匠…………ごめんなさい……わたくしは……」

 地面に手と膝をつき、悔しさを滲ませた言葉が会長の口から漏れる。

「……仕方ない、俺はイエローを助けてくるから……そっちは任せても「はあぁぁぁぁぁ!!」言うまでもなかったぁぁぁ!!」

 振り返ると、丁度ブルギルディの尻尾の刃をランスで防ぎ、蹴りを入れているところであった。

 この手際……どんだけ殺る気満々なんだよ!!

 ヒロ兄の言うとおり、俺たちが止めないといっつもこうだよなあ、と思いつつブレイザーブレイドを引き抜いてアルティロイドへと突っ込もうとしたその時、

「破ァァァァァ!!」

「モケエェェェェ!!」

 俺のすぐ横をすり抜けてきた影が、力強い叫び声と共にアルティロイドを拳で吹き飛ばした。

「ま、まさか……」

 俺の目の前に立っていたのは、黒いロングコートに、フォトンサングラスで顔を隠した男……そう、ヒロ兄が立っていたのだ。

「し、師匠……どう……して……」

 まさかの登場に、イエローも驚きのあまり目を見開いている。

「下がっていろ……俺が手本を見せてやる」

 そういうと、ヒロ兄はアルティロイド達のど真ん中へと突っ込んでいった。

「モケー!」

「モケケー!!」

 アルティロイド達がようやくいつもの調子で迎え撃つ。

 まず、正面のアルティロイドの顔面に正拳突き。続けて、左隣のアルティロイドには肘鉄を食らわせ、右隣の者には胸部に蹴りを入れる。背後から跳びかかって来た二体は地面を転がり、着地した二体の背後へ回ると、そのまま踵蹴りを決める。

 更に前方から迫る三体の足元を素早くしゃがんで掃い蹴りでいなすと、一体の背中を踏みつける。

 どんどんアルティロイドが消滅していった。

「す、すごい……変身してないのに、相手が戦闘員とはいえ、生身で蹴散らすなんて……」

『ヒーローフォンの機能だ。所持していれば、精神エネルギーで身体を構成しているジェラシェードやエレメリアンに生身でもダメージを与えられる。とはいえ、千優のは少々その効果が派手すぎるというか……』

「……きっと、それほどまでに千優さんの、ヒーローへの愛が強い……という事なのでしょうね……」

 なるほど。ただ、強いだけじゃない。俺のツインテールと同じで、自分の全てをかけることが出来る程の、大切なものに対する想いがハッキリしているからこそ、ヒロ兄はここまで出来るのだろう。

 俺がドラグギルディと戦った時に抱いた、いつか変身しなくてもツインテールに……という想い。今のヒロ兄は、その領域にいるのかもしれないな。

 ……ん?って事はヒロ兄、もしかしてトラウマを……。

 そう思った頃、今度こそと言わんばかりに背後真正面、つまり死角から跳びかかる一体。

「ドラ兄!後ろだ!!」

 しかしヒロ兄は振り返らない。だが、ドライバーを巻いていないのに、バックル上部のボタンを押す仕草をすると、一言呟いた。

「ライダーキック……」

「え!?」

 直後、背後から飛びかかって来ていたアルティロイドは、宙に綺麗な半円を描いたカウンターキックが直撃し、消滅した。

「今のは……」

 会長の驚きと興奮の入り交じった顔を見るに、今のは俺も知っている、あの赤いカブトムシをモチーフにしたライダーの蹴り方か!!

「あと一体、これで決める!!」

 生身で仲間を蹴散らされ、呆然としていた最後の一体がヒロ兄に気付き、慌てふためく。

「奥義、鯉之滝登理コイノタキノボリ!!」

 最後のアルティロイドへ向けて走り出すヒロ兄。

 逃げられない、と観念したのか、アルティロイドもこちらへと走る。

 助走を付け、跳躍するヒロ兄。そのまま足を突き出し、ドラマのスタントマン顔負けの綺麗な飛び蹴りを決めた。

「モケェ~!!」

 消滅するアルティロイドを最後に、ヒロ兄の戦闘は終わった。

「うわあ……ヒロ兄、本当に素手でも戦えるんだ……」

「お疲れブルー……」

 こちらに夢中になっていたとはいえ、音もなく、いつの間にか敵を倒してしまっている愛香に戦慄する。

 もう、愛香一人でいいんじゃないかな、とさえ思ってしまうくらいの速さであった。

 その後、会長を連れて基地へ戻った俺達だったが、会長は浮かない顔のままであった。

「ブレスをお返ししますわ……」

 覇気の無い声でそう言うと、ブレスを外そうとする会長の手を、俺は慌てて掴んだ。

「ツインテイルズを辞めるって事か!?」

「痛感いたしましたわ。わたくしには、皆さんと一緒に戦う資格は……」

「資格はない……か?」

 会長の言葉を遮るように、先に口を挟むヒロ兄は、俺達に背を向けて立っている。

「……千優さんに偉そうな口を聞いておきながら、このザマです……わたくしの考えた方が甘かったのですわ……」

 俺は慌ててフォローに入る。

「俺達は三人とも、一応子供の頃から武術を教わっているんだ。だから戦いにもすぐに順応できたのかもしれない。会長はまだ、緊張して上手く力を発揮出来ていないだけなんだよ」

「総二、それは多分違うぞ。確かに近接武器ならそれは有り得るかもしれないが、慧理那は遠距離戦用の武器が殆どだ。それに、それを抜きにしても、慧理那のあの様子は……」

 ヒロ兄が背中を向けたまま、厳しい視線をこちらへと向ける。

「あの様子は、も・っ・と・根・本・的・な・所・が・理・由・で・力・を・使・い・こ・な・せ・て・い・な・い・ようだったが、違うか慧理那?」

「ッ!!……千優さんは、本当になんでもお見通しなんですね……」

 そう言うと、俺や愛香、トゥアールに桜川先生、Dr.シャインが見守る中、会長は少し俯きながら話し始めた。

「テイルギアは、ツインテール属性という、ツインテールを愛する心で稼働する。そうでしたわよね?」

「ああ、そのツインテール属性をコアにして作られているからな」

「正直、初めて変身する時は……失敗するのでは、という思いが強かったですわ」

 どうして、と問う俺に会長は何度も躊躇うように唇を動かしてからか細い声で言った。

「わたくし……本当はツインテールが嫌いですの」

「──―なんだって!?」

「ほう?」

 叱られるのを待つ子供のように、ばつが悪そうに身を小さくする会長。

「会長!気を遣ってそんな噓言わなくてもいい。……いや、それは俺が一番傷つく嘘だ」

「……観束君は、本当にツインテールを愛しているんですのね」

 とうとう、会長は目に涙を浮かべ始めた。

「本当は、自分でしたくてこの髪型にしているんじゃありませんの。ただ、お母様に絶対にそうしろと言われて、仕方なく…………神堂家の家訓だとまで言われて」

 ツインテールをぎゅっと握り締め、唇を噛む会長。

「家訓って、そんな大袈裟な……」

「大袈裟、でしょうか……」

「なるほど、そんな家もあるのか……世界広いな」

「いや、ヒロ兄はなんで納得してるのよ!?」

 会長のお母さんはきっと、会長に似合うからよかれと思って多少強く言ったんだと思う。

 それを会長は、家のように曲解してしまったんだ。

「ともかく、わたくしは子供の頃からずっとこの髪型でした。子供っぽい、子供っぽいと言われ続け……やめたくても、やめられなくて。いつしかわたくしは、ツインテールを嫌って……いえ、憎んでさえいました。子供と言われて当然ですわ、罪もないツインテールにすべてを背負わせて、自分は逃げたのですから」

「この前総二に、”あなたがツインテールを愛する限り”と言われて、表情が曇ったのは気のせいではなかったという事か……」

 静かに頷く会長。ヒロ兄の一言に、ふと思い出す。

 その瞬間、俺は、何か情けない声を上げそうになり、必死に言葉を飲み込んだ。

 ショックだったのだ。会長ほど綺麗なツインテールを持っている人が、ツインテールを嫌いだったことにではない。

 そのことが腑に落ちない、自分が……いつの間にか、誰もがツインテールを愛して当たり前だという考えになっていた自分に気付いたことが、ショックだったのだ。

 ほんの一か月前──―テイルレッドが現れるまで、ツインテールはまだまだマイナーな髪型だったし、ツインテールにしていても、会長のように成長するにつれて、やめたがる子が大半だったのだ。

 それでもツインテイルズの影響で、誰もがツインテールを愛する世界になってくれた──―いつしか俺の中で、そんな傲慢が常識とすげ替わっていたのかもしれない。

 それがショックだったのだ……。

「……本当に、そう思っているのか?」

「……え?」

「本当にツインテールが嫌いなのか?」

 厳しい視線を向け続けていたヒロ兄の声が、語調の強いものになる。もしかして……怒っているのか?

「……何故……そう思うのですか?」

「俺は総二みたいなツインテール馬鹿じゃないから、正直なところツインテールへの愛がどうのとか、語れる立場じゃない。けどな、そんな俺でもこれは分かる……慧理那、お前本当はツインテールが好きなんじゃないのか?」

 ん?今の、俺を褒めてたのか?

「何を証拠にそんなことを!!」

「一応、変身できたんだろ?なら、その事実がツインテイルズになる資格があった事の、何よりの証拠だろう。しかし、それでも嫌いだと、自分に嘘をついてそれを否定しようとしている。だから上手く戦えなかった。さっきまでの俺と同じだ。子供っぽいと言われることから逃げようとしている」

「う、嘘なんかじゃありませんわ!!」

「いや、会長のツインテールを見れば分かるよ」

 俺の一言に、激情をぶつけるように机を叩く会長。

「どうして!どうして……観束君はツインテールをそこまで好きなんですの!?何故、千優さんはそこまで確信を持って、そんなことが言えるんですの!?」

 力なく揺れるツインテールは、彼女の悲しみを受けて、萎れた花のように色彩を失っていた。

「逆に問おう。何故、慧理那はヒーローが好きなんだ?子供の頃からずっと憧れて、俺たちにもそんなヒーローの姿を見たんだろ?」

「それは……かっこいいからですわ!人々の為に戦い、世界の為に戦う……背景がどうあれ、過程がどうあれ、必ずその信念を貫き通すからこそ、ヒーローは尊いのです!!」

「残念だけど、俺達はそんな尊い信念なんて、持ってないよ。何も知らない人が聞けば、ビックリすると思う……ツインテールの為に命を懸けて戦うなんて、普通、想像出来ないから」

「それは建前なのでしょう!?世界を守り、そのついでにツインテールを守ると……!」

「違うわよ会長」

 俺が返答する前に、愛香が割り込んできた。

「そーじにとっては……ううん、あたし達にとっては、世界の方がついでに等しいの。あたし達の中で一番、会長の思い描くような尊い信念を持ってるのは、ヒロ兄くらいよ……」

 そうだ。ヒロ兄は、自分の守ろうとしている愛ものが……ひいては、全ての属性力ひとびとのこころを守る事が、世界を守る事に等しいと信じている。

 ツインテールを守る事が前提の俺とは決定的に違う。その点で、ヒーローとしてヒロ兄を上回る事なんて、俺達には出来ないだろう。

 会長は、信じられないものを見るような顔で、俺達を見回す。トゥアールもそれに応えるように、首を縦に振った。

「お前のさっきの戦い方は、あまりにも不甲斐ない……自分の弱さから逃げ、“好き“から目を背け、戦闘員に情けをかけられてあのザマだ……俺にあんな大口を叩いておいてこの有様か。笑い話にもならないな」

「……今の……今の千優さんにだけは、言われたくありませんわ!!」

 厳しい視線を向け続けながら鼻で笑うヒロ兄を、会長がキッと睨み返す。

「変身しなかったということは、つまり未だに変身出来ないのでしょう?なら、あなたはまだ逃げ続けているという事ですわよね?ツインテールの事だけでなく、この事に関しても、今の千優さんはとやかく言えない立場ではありませんか!!」

「ああ、その通りだとも!俺はまだ、恐怖を完全には振り払えていない……けどな、変身できても自分に嘘ついて、力を制御できていないお前に、負けると思うか?」

「負けませんとも!なんなら、手合わせしてもよろしくて?」

「いいぜ。明日の放課後、俺とお前で決闘だ」

 おいおい、なんだか口論に発展してるぞ!?

 慌てて二人を止めようとした俺と愛香を止めたのは、桜川先生だった。

「落ち着けお前達……ちゃんとよく見ろ」

「「え?」」

「仲足のあの目……どう思う?」

 言われて、ヒロ兄の目を見る。確かに厳しい目付きだ。だが、そういえば今朝の虚ろな瞳ではない。

 見慣れたいつもの、いや、いつも以上に光と覇気に満ちた瞳だ。

「あいつは先ほどの、自分の代わりに戦おうとしたお嬢様を見て、再び心に火を灯すことが出来たんだろう……そして、今度は自分がお嬢様の心に火をつけようとしている。そうは見えんか?」

「そっか……ヒロ兄、落ち込んでた自分を会長に重ねてるんだ……」

「ヒロ兄は……やっぱり、会長の師匠って事か……」

 俺達が納得している間に、話はついてしまった。

 明日の放課後、指定した座標に来い。そう告げるとヒロ兄は、コートを靡かせながらエレベーターで地上へ戻っていった。

「明日までに、本当の気持ちと向き合えるようにしておけ。じゃなけりゃ、俺には勝てんぞ……」

 と、そう言い残して……。

「尊、帰りますわよ。明日に向けて、今日はいつもより早く寝ますわ」

 エレベーターがまた下に着く頃、これまた気合いに満ちた顔で会長も帰っていった。桜川先生も俺達に頭を下げると、一緒にエレベーターに乗り込み、帰っていった。

「ぶつかり合う師匠と弟子、燃えるシチュエーションね!!」

 母さん、燃えてる場合じゃないだろ……。

「こういう展開の時って、どちらかが勝ったらなんでも命令聞くってのが鉄板では?」

「それいいわね!トゥアールちゃん、明日、慧理那ちゃんに吹き込んどいてちょうだい!」

「人の喧嘩をダシに何を企んでるんだよ!?」

 流石に緊張感が無さすぎる相談を始める母と居候に頭を抱える。そろそろ頭痛薬と胃薬を常備した方がいい気がしてきた……。

 

 □□□□

 

 次元の狭間 アルティメギル基地 中央会議室

「テイルイエロー……まさかここに来て新たなツインテイルズが現れるとは」

「今はまるで力を使いこなせていないが、あれほどのツインテール属性を持った戦士だ。時を置けば置くほど、覚醒を座視することになろう」

 リヴァイアギルディとクラーケギルディは、部下からの情報を受け、歯噛みした。

「だが、先の戦いで私が取り乱したばかりに、私も貴様もこの有様だ。面目もない」

「フ、貴様らしくもない。随分と殊勝ではないか」

「いつまでも争いをやめぬ部下達を見続ければ、慎みも生まれよう」

 巨乳と貧乳、組織を二つに割る争いは泥沼化していた。

 二体の部下達は諍いを止めず、戦闘行為にまで発展するケースも散見された。

 先日、二体がテイルドラゴンと引き分け、撤退してきた時など、どちらが足を引っ張ったのかで大変な騒ぎになったほどだ。

 自分達についてきた部下達が、あたら無駄に命を散らしていくのを、これ以上見過ごす訳にはいかない。

 更に、焦る理由はもう一つある。あの後、フェンリルギルディが行方不明になったのだ。

 スタンドプレイも甚だしい若造であったが、実力は確かだった。それが忽然と姿を消した理由に、思い当たらぬ二体ではない。

 すでに闇の処刑人は降臨し、自分たちの尻に火を点けているのかもしれない……。

「こうなれば、このまま出陣するのも手だが……」

「得策とは言えないだろう。まだ貴様も私も、触手ぶきの傷が完治していないのだからな……私には剣があるが、貴様は丸腰で挑むようなものだ」

 クラーケギルディの触手は動かす度に、引き抜かれた箇所が痛むのか、動きにムラがあり、リヴァイアギルディの触手は振るたびに、風圧が火傷に響くようで、一瞬だが動きが鈍ってしまう。

「ならばこの拳でやりあうまでよ」

「お待ちください!」

 二体のだけの会議室に入って来たのは、スワンギルディだった。
「なんだ若造?剣の一本でも振るっていろと言っただろう。それとも、この前の仕返しにでもやって来たか?」

「いえ、そのような愚かな事は決して。むしろ、あの時の恩返しに来たのです」

「恩返し、だと?」

 そう言うとスワンギルディは二体に、傷を見せるように頼んだ。何をするつもりだ、と聞きながら傷を見せる二体に一言、失礼しますと言うとスワンギルディは深呼吸し、傷に手をかざした。

 淡い黄緑色の光が、二体の傷を包み込む。光は数秒で消えてしまったが、二体の傷は消えてはいなかったものの、先程に比べると大分癒えていた。

「お前、今何を?」

「癒しの看病エンジェリー・ナースィング……かつて私が、医療班長せんせいから教わった技です。修行不足ゆえ、治癒力はあの人の足元にも及びませんが、せめてこれくらいはさせて下さい」

「先生だと?スワンギルディ、貴様の師はドラグギルディと聞いているが?」

 首を傾げるクラーケギルディに、スワンギルディは懐かしむような顔で答える。

「はい、確かに私が弟子入りしたのはドラグギルディ様です。ですが私にはかつて、この部隊へ配属する前に出会い、憧れた恩師がいました。自分の属性に近しい属性を持っていた私に『剣だけでは部隊は支えられない』と、教えてくれた方。この技は、その思い出の一つです」

「そうか……剣の師はドラグギルディだが、貴様の技の師はそのエレメリアンという訳か……」

 試しに触手を振るうクラーケギルディ。先程に比べると動きに敏捷性が戻って来ていた。やがて、引き抜かれた触手が生え変わりかけている事にも気づく。

「素晴らしい……完全には治っていないが、この分なら翌日には出撃できるだろう!見事だスワンギルディ!!」

「勿体なきお言葉です」

 治癒力の向上を素直に喜び、スワンギルディを誉めるクラーケギルディとは対極に、リヴァイアギルディは不満そうに声を荒らげる。

「フンッ!この程度か。鍛錬が足りていないのではないか?これではその恩師とやらも残念がるだろうな!!」

 口ではそう言いながらも、触手の動きに機敏さと力強さが戻って来ている事を、スワンギルディは見逃していない。

「は。これからも剣の腕と共にこの技も磨くよう、精進いたします。では私はこれにて失礼」

 これからどちらかが死んでもおかしくない決戦に望む二体へ敬礼し、師には及ばないが、その技に確かな成果があった喜びを胸に、鍛錬に戻るスワンギルディの背中を見送った二体は、互いのパソコンをテーブルの上に置くと、明日の出陣に向けての遺言を書き始めた。

 リヴァイアギルディは、スパロウギルディに向け、今後の部隊のまとめ方、そして詫びの言葉を綴り、パソコンを閉じた。クラーケギルディも同様の事をしていた。

 そして、リヴァイアギルディは不器用な文面ながら、スワンギルディへの激励の言葉も残してある。

 お前は先が楽しみな戦士だ、と。

 立ち上がるとパソコンに背を向ける二体。

 リヴァイアギルディは宿敵ともを最後の戦いへと誘う。

「─────征ゆくか」

「応よ」

 必ず勝って戻る───そう胸に秘め、会議室を後にする。

 勝って戻らねば見られぬのだ。

 巨乳と貧乳に彩られた、二体の半生が詰まった、このパソコンを。

 

 □□□□

 

 夜 8時30分

 千優さんに言われた通り、明日の挑戦に望むためにいつもより三十分早めに自室へ篭もり、ベッドに横になろうとした時、トゥアルフォンに着信がありました。

「はい、もしもし?」

『神堂慧理那か?俺だ、ヒーローCだ』

「ヒーローC!?あなた自分から電話する事もできるんですの?」

「あー、違う違う。画面を見ろよ」

 トゥアルフォンを耳から離し、画面を見るとヒーローCの顔がディスプレイされていました。

「なるほど……インターネットを通じて、わたくしのトゥアルフォンに直接侵入してきたのですわね?」

『そういう事だ。千優と喧嘩別れみたいになっちまったけど、大丈夫か心配になってな』

「それなら、問題はありません……千優さんはきっと、わたくしの事を思って、わざと厳しい態度を取られたのだと思いますから」

 そうです。すべてはわたくしが不甲斐ないから……千優さんの弟子を辞めるとまで言っておきながら、かっこ悪い所を晒してしまった。ネットを確認すれば、「弱い」、「かっこ悪い」、「ツインテイルズの面汚し」などの、わたくしへの悪口雑言の嵐。自分で読んでいて辛かったのですが……それ以上に気になってしまったのは、テイルドラゴンを非難する書き込みでした。

 こういったサイトでは何人かフォローしてくれている人がいるとはいえ、ある新聞社が書いた記事がきっかけで、「いい人ぶったサイコパス」、「ヒーローの仮面を被った悪魔」、「テイルブルー以上の脅威」など、千優さんが世間から、ここまで白い目で見られている事を知り、余計に心が苦しくなりました。いえ、さり気ないブルー批判にはむしろ強い憤りを感じましたが。

 弟子の失敗は師匠の教育不足。わたくしの初陣は千優さんに泥を塗る結果でした。このまま一緒に戦っていれば、いずれは観束君や津辺さんの評判をも落としかねません。そう思うとやはり、わたくしが一緒に戦うことはできない……その結論に至ってしまうのです。

 気づけばヒーローCに、全てを打ち明けてしまっていました。

『なるほどな……』

 ヒーローCは一言、そう呟くとこう問いかけて来ました。

『なあ神堂慧理那……』

「フルネームだと長いので、呼びやすい名前でいいですよ?」

『んじゃあ……神堂会長。ひとつ聞くが、他の奴らだってかっこよさだけじゃないぞ?総二は変身すれば幼女になっちまうし、愛香はキレた時がクローズアップされ過ぎて、アンチから目付きがヤバイだのなんだの言われてるのは知っているだろ?』

「それでも、テイルレッドは誰からも愛される、力も仁徳も兼ね備えた、真のヒーローですわ!テイルブルーも、確かにレッドに比べれば評判は悪いかも知れません。しかし、それでもレッドの仲間として、立派に世界を守っています。そしてテイルドラゴンは……」

 そこで、言葉に詰まってしまう。そして、思い出しました。

 そうです。テイルドラゴンは……千優さんはこんな悪評に心を痛めつけられると分かっていながらも、生身で敵に挑みに行った。わたくしが今抱えているこの苦悩は、昼間の千優さんが抱えていたものと同じであり、千優さんはとっくにその苦悩を乗り越えているのだ、と。

『そうだ。そこがお前と千優の違いだ。“かっこ悪いから戦えない“なんて、千優なら絶対に至らない言い訳だぜ?』

「……そう、ですわよね……かっこいいだけがヒーローではない。やっぱり千優さんは凄いです……」

 今になってようやく、弟子を辞めたことを後悔する。わたくしが教えを乞うていたのは、こんなにも偉大な方だったのだと痛感したのです。

「ヒーローC、千優さんがわたくしに出した課題……覚えていらっしゃいますわよね?」

『ツインテールが嫌いなのか、それともその言葉の方が嘘なのか、ちゃんと己の心に向き合ってこいってやつだな?』

「はい……わたくしにはまだ、分かりませんの……自分が、本当はどう思っているのか……」

 何度も嫌いだと言い聞かせました。でも、言い聞かせる度に、この髪を辞められない自分に気が付き、また迷う。頭の中がイタチごっこです。

『ふむ……それは、俺には答えられないな……。宿題みたいなもんだし』

「そう、ですわよね……やっぱり人に聞いて出せる答えではありませんわよね……」

『ただ……そうだな。俺から贈れる言葉は三つだけだな』

「教えてください!」

 このもやもやとした疑問を解決できなければ、眠ることもままなりません。ヒーローCは優しく、教え諭すようにこう言いました。

『一つは「迷ったときは、自分の心に従えばいい」だ。これは知ってるだろう?』

「もちろん!幽霊のライダーの作中で、たこ焼き屋のおばあさんの残した名言ですわ!!」

『そうゆう事だ。今の君に、一番の言葉だと思うよ』

「わたくしの心……ですか……」

 なるほど……確かに、悩んだ時は自分の心に従うのが一番です。どんなヒーロー達も、迷ったときは必ずそうしてきました。

 しかしお母様に言われた、ツインテールは神堂家の家訓だ、という言葉が、今でも頭をよぎります。

『そしてもう一つ。こういうのは、家訓だとかなんだとか、そうゆう理屈抜きで考えてみた方がいい』

「理屈……抜きで?」

『ああ。理屈は本心の答えを遠ざけてしまうからな……そして最後の一つは……』

 勿体ぶるような間に、思わず唾を飲み込む。おそらく、一番重要なことなのでしょう。

『子供っぽいと言われるのが嫌だと言っていたが、たとえ他人が何と言おうと、お前はお前だ。周りの目なんか気にするな。“自分“を強く持て……と、伝言だ』

「……え?」

『って事で俺はこの辺で』

「え、ちょっ、ちょっとヒーローC!!今の一言は一体!?」

 必要な事だけ伝えると、ヒーローCはさっさと帰ってしまいました。

 最後の一言……あの伝言って……。

 

 □□□□

 

 翌日 放課後 何処かの採石場

「ヒロ兄、こんな所どうやって見つけてきたんだ?」

「未春さんから、いつか特訓することがあれば使えるのでは、と聞かされた場所だ。覚えておいて損は無かったな……」

 空を見上げる総二を隣に、俺は使われなくなった採石場……今回の決闘とっくんの舞台だ。

 もちろん、俺は恐怖と、慧理那は自分のツインテールへの気持ちと向き合うための……。

「そろそろ時間だけど……手はず通りでいいのね?」

「ああ。これは本気の勝負になるから、何があっても手は出さないでくれ」

「本当に、会長とやり合うのか?ヒロ兄の弟子なんだろ?」

「あいつは俺の弟子を辞めると言った。だが、たとえ辞めてなかったとしても、それなら尚更、師匠として弟子と本気で戦わなきゃ意味無いだろ?」

 そう、これは他の誰かには任せられない役割だ。俺にしか出来ないと自負さえしている。

 慧理那を立派なヒーローにする……これが今の俺の目標だ。師匠として……いや、友として。夢の先駆者として。彼女を必ず教え導く。

 約束の時間まであとわずか。目を閉じて、ヒーローフォンを握り締める。

 瞼の裏の暗闇の先に、やはり俺の影あいつは背を向けて立っていた。

 腕や胴、両脚を確認する。相も変わらず、俺は恐怖の茨に囚われたままだ。だが、俺はもう逃げないと決めた。

 両腕に思いっきり力を込め、茨を引きちぎる。続けて両脚にも力を込めて思いっきり前に踏み出すと、あんなに堅かった茨はあっさりと断ち切られた。

 向こうもこちらに気が付いたようで、こちらを振り向くと身を屈める。

「俺は……俺おまえを超える!!」

 右手を拳に握り、力を溜める。

 ふと、頭の中に浮かぶ特撮ソングのワンフレーズを口ずさむ。

「戸惑いや恐れにも、向き合うことで本当の強さへ……」

そしてもう一つ、個人的にここ数年の戦隊の中では一番好きな戦隊のレッドがよく言っていたセリフも頭に浮かぶ。

「どんな困難でも、勇気ブレイブさえあれば必ず乗り越えられる……」

 悪夢と同様、またしてもこちらへと跳びかかってくる暴走テイルドラゴン。そして、俺の後ろには仲間達の姿。

「今度は、もう避けにげない!!挑戦しない成功なんてないさ……だから!!」

 ギリギリまで引き付ける。この拳の届く距離まで!!

「ゥウガア”アア”ァ”ァ”ァ”ァ!!」

「ハアァァァァ!!」

 炎爪が俺の身体を引き裂くギリギリの位置まで来た瞬間、目の前の恐怖じぶんの顔面へと、渾身の拳を叩き込む。

 拳に確かな手応えがあった。そのまま、拳の当たった場所から亀裂が入り、そのまま五秒と経ないうちに、暴走テイルドラゴンは硝子のように粉々に砕け散った。

 砕ける一瞬、それでいい……もう二度と道を見失うな、と満足そうな声が聞こえた気がした。

 

 

 

「ヒロ兄、来たわよ……」

 目を開くと、向こうから慧理那が歩いてくるのが見えた。

「来たか……」

「千優さん……約束通り、勝負に来ましたわよ……」

 慧理那の表情は相変わらず、どこか曇りがある。だが、昨日に比べれば大分マシになっている。

「迷いがまだ、完璧には振り切れていないようだが……昨日よりはいい顔になったな」

「千優さんの方こそ。では早速始めたい所なのですが……」

 途中まで言いかけると、慧理那は少し顔を伏せて口ごもる。

「……どうした?」

「い、いえ……その……不謹慎だとは思うのですが……この勝負、負けた方は…………そ、その……」

 ……ん?この流れはまさか?

「負けた方は、勝った方の命令を何でも聞くという罰ゲーム付きにしましょう!!」

「やっぱりかああああ!!」

 ヒーローフォンでトゥアールのフォンに電話をかけ、開口一番に叫ぶ。

「さてはトゥアールお前の入れ知恵か!!」

『入れ知恵だなんて言い方が悪いですねぇ。私は真剣勝負を演出させてあげようと思って気を利かせてあげただけじゃないですかぁ~』

「……なるほど。それで、本音は?」

『その方が面白い事になりそうだって未春将軍に提案されたので、ノッちゃいました~』

「やはり黒幕はあの人かぁぁぁぁぁ!!」

 後で文句言ってやる、と心に決めながら電話を切る。まったく、人の特訓をなんだと思ってるんだ……。

「……それで、し……千優さん、これでいいんですか?」

「……分かった。それで行こう」

「ッ!ありがとうございます!!」

 慧理那はすっかりやる気だし、断ってモチベを落とすよりはいいだろう。第一、今から俺は素人相手に本気を出すかもしれないのだ。それくらいの報酬があってもいいじゃないか。

「それじゃ、始めるぞ」

『changeチェンジ』

 今度は指が震えたり、手が動かなくなることもなく、ちゃんと押せた。ドライバーを巻くと、慧理那は驚きと安堵が入り混じった表情でこちらを見ていた。

「俺はこの通りだ。慧理那、お前はどうだ?」

「わたくしだって、負けてはいませんわ!!」

 ベルト脇のボタンを押し、胸の前に両腕で球を作るようなポーズをとり、腕を体の左に持ってくると、慧理那も胸の前にブレスをかざす。

「変身!!」

「テイルオン!!」

 同時に叫ぶと、それぞれテイルドラゴンとテイルイエローに変身する。

 そして慧理那、今明らかに昨日よりもタイムラグが短かったぞ!?

「下がるぞ愛香、ここからはヒロ兄と会長の勝負だ」

「分かってるわよ……ヒロ兄、本気でやりあって会長に怪我させないといいけど……」

「いや、俺はむしろお前が会長の相手にならなくてよかったと心底から思ってるんだけど……」

 総二と愛香は巻き込まれないように、なるべく遠ざかっていった。

「いくぞイエロー!!」

 眼前のテイルイエローの方へ走り出す。

「負けませんわ!ヴォルティックブラスター!!」

 稲妻がほとばしり、右手に構えたブラスターを迫る俺へと向けて発射する慧理那。

 スピードを落とさずに回避の構えを取るが……銃弾は俺へと届く前に、頼りなく地面へと落下した。

「ッ!!……ま、まだですわ!!ヴォルティックレーザー!!ヴォルティックレーザー!!」

 両腕を前へと突き出しレーザーを放つが、こちらも蛇口をあまりひねらずにホースから出した水道水のように、頼りなく地面に落ちてしまう。

「甘い!!」

 次の攻撃が来る前にイエローの手前まで辿り着いた俺は、即座にその拳を頬に叩き込む。

「きゃあああああ!!」

 悲鳴とともに砂利を飛ばしながら地面を転がるイエロー。起き上がる隙を与えずに接近し、腹を蹴り上げ更に大地を抉りながら転がっていく。

「まだまだです!!」

 立ち上がり、こちらへと両肩のバルカン砲と胸のミサイル発射口を向けるイエロー。俺はあえて走らずに、歩いて接近する。

「ボルティックボンバー!!ボルティックバルカン!!」

 接近するまでの間に何発もの弾丸が飛び、同じ分の技名を聞いたが、一発として俺に届いたものは無かった。

 それでも引かずにまた次の装備を出そうとする辺り、かっこ悪さを気にしていた所は乗り越えたのだろうが、それは認めるが、それでもこのだらしなさには苛立ちを禁じ得ない。

「くっ……武器がダメなら、こうするまでですわ!!」

 遂に接近戦に持ち込める位置まで来た時、イエローは拳を握り、殴りかかってきた。

 もちろん片手で止めるが、ダメージはギアが変換するまでも無かった。

 続いて頭部を狙ってキックを放ってきたが、こちらも首を傾けて回避する。

「舌噛むぞ……歯を食いしばれ!!」

 掴んでいた手を離し、キックを躱されバランスを崩した所で掌底を顎へと食らわせた。

 しばらく宙を飛び、地面を転がった後、またイエローは立ち上がる。

「はあ……はあ……ま、まだまだ……行け……ま……」

「諦めないその根性は認めるが、お前は俺を舐めてるのか!!」

 あまりにも一方的な勝負に、とうとう苛立ちが爆発した。

「俺は昨日言ったはずだ、自分の本当の気持ちにちゃんと向き合わなければ俺には勝てないと!それもまだ出来ていないのに、この戦いに望んだのか!?」

「ッ……それは……」

 岩陰に隠れている総二からも通信が入る。

『ツインテール属性の存在を感じるんだ、会長!それは、いつだって会長の心の中にある!!』

『会長ならきっとできるわよ!初めて変身してから間もない頃、世界中から蔑まれていたあたしの心を救ってくれた会長なら、きっとできる!!』

「わかりません……それが、それだけが何にも分からないんですの!!」

「"好き"から逃げるな!!」

 その一言に、慧理那は眼を見開く。

「逃げ続けていて何か変わるか?目を背け続けて見えるものがあるか?周りからの評価を気にし続けることに意味はあるのか!?」

「そ……それは…………いいえ、それでは前に進めません……いつまで経っても進歩できません……でも……」

 分かっているのだが踏み出せない。悔し気に唇を噛みしめる慧理那の目から一筋の涙が零れる。

「その顔はなんだ!?その目はなんだ!?その涙はなんだ!?ヒーローになりたいんじゃなかったのか?俺たちの背中を見て、それを追いかけたいと思ったから……その隣に立ちたいと願ったから、ツインテイルズになることを選んだんじゃないのか!?」

「そうです……そうですとも……でも、何度自分に問いかけても、耳に残った声が……脳裏に焼き付いた人達の目が振り切れないのです!!ツインテールを家訓だと言ったお母様の声も、わたくしを子供っぽいと笑った人達の笑い声も……学校で、わたくしを愛玩動物でも見るかのように見てくる生徒達の目も!!もう少しで答えに到達する所で、追いついてくるのです!!」

「他人の目などどうでもいい!!どうして振り切っていく勇気が出せない?それさえあれば、お前の夢ヒーローになることは叶うんだぞ!?自分の本心を認めるだけで夢をかなえられるのに……ここで踏み出さずしていつ踏み出す?お前の涙でこの地球を救えるのか!?人々を守れるのか!?俺やお前が尊敬しているヒーローは、どんな恐ろしい敵が相手でも、どんなに強大な悪が立ちはだかろうとも逃げ出さない!逃げてばかりの自分が恥ずかしくないのか!?」

「ッ……」

 どれだけ心の奥深くに自分の思いを閉じ込めて過ごしてきたのだろうか。どれほど分厚い心の壁で、封じ込めてしまったのだろうか。

 正直なところ、あえて厳しく接しているが、これはこれで心が痛む。殴られた方が痛いのは当然だが、時には殴った方の手だって痛いのだ。

 しかし、これが慧理那の為になるのなら、彼女の勇気に繋がるのなら、俺はこの痛みを受け入れる。何回だって傷ついても構わん。教え導く事が出来るのなら、本望だ。

 だが、それとこの憤りとは別だ。俺にも我慢の限界というものがある。一年間、師匠として教えてきたからこそ、こんな手応えのなさでは白けるどころではない。

 この怒りは、慧・理・那・を・前・へ・進・ま・せ・る・為・の・も・の・だ・!!

「それでも自分の本心と向き合えないってんなら、その心の壁、ブチ拭いてやる!!」

 ベルトのカメラボタン、もといブーストボタンに親指を当てる。

『おい千優、いいのか!?』

 ヒーローCが慌てたように叫ぶ。当然だ、暴走していた時、必死でシステムの制御に尽力していたのだ。俺の身を一番案じながら、一番苦労しただろう。

「大丈夫だ……俺はもう、自分を見失ったりしない。もしまた暴走しそうになったら……」

『システムを強制シャットダウンしてでも止める。私とヒーローCを信じてくれているんだろう?』

「ああ……一人で怖がって、悩んでいた俺が馬鹿だったよ」

 総二と愛香に来てもらったのは、もし暴走した時は力づくでも止めてもらう為だ。この特訓は慧理那にテイルギアを使いこなせる様になってもらうだけではなく、俺自身がイカリバーストを使いこなせるようになる為でもある。

「慧理那!この一撃、防いで見せろ!!」

「千優さん、まさか!?」

『BUバ・BUバ・BUバ・BUバ・BUバ・BURSTバースト!!限界突破ブレイクバースト!!』

 怒りエネルギーが限界値を超え、身体中を駆け巡る。この熱が四肢を、胴を、背中を、頭の先から足の爪先まで、全身を炎が包み込むのを感じる。

「うおおおおおおおおおお!!」

 握った右拳に力を集中させ、イエローへと急接近する。

「ッ!!はあああああああああ!!」

 両腕を交差させ、防御の姿勢を取るイエロー。その時、一瞬だが彼女のツインテールが光ったように見えた。

 

 

 

 轟音とともに、間欠泉のように砂利が撒き散らされ、砂埃が辺りを包む。

「ヒロ兄!!会長!!」

「全然見えない……トゥアール!ドクター!二人はどうなってるの!?」

『ちょっと待ってください!生体反応は二つあるので、二人共生きてはいる筈ですが……』

『ヒーローC!二人の様子を報告してくれ!!そちらはどうなっている!?』

 岩陰から、変身して出てきた総二と愛香が辺りを見回す。辺りは一面砂埃で、どこに何があるのか見えたものではない。

『千優くん!神堂くん!聞こえているのか!!』

『こちらヒーローC。安心してくれマスター、ちゃんと聞こえているよ』

『ヒーローC!よかった……それで、そちらの状況は?』

 ようやく砂埃も晴れてきた。砂のカーテンを払うように、採石場の風景はどんどんはっきりと見えるようになっていき、やがて砂埃の中心地が見えるようになって言った。

『大成功だ!二人共な!!』

 そこには、拳を突き出したポーズで佇むテイルドラゴンと、その拳を交差させた両腕でガードしているテイルイエローの姿があった。

「慧理那……お前……」

「あ……」

 そう、慧理那は今、俺の本気の拳を防ぎきったのだ。テイルギアを使いこなせていなければきっとただでは済まなかったであろう一撃を受け止め、一瞬だがテイルギアを使いこなしたのだ。

「って、千優さんこそ……その姿は……!?」

「ん?こ、これって……」

「「赤い……テイルドラゴン!?」」

 そう、三人が驚くのも無理はない。何しろ俺自身も驚いているのだ。

 暴走していた時とは違い、体を包む炎を取り込んだような真っ赤なアンダースーツに、炎の鎧とでも言うべきか、紅蓮のプロテクター。体を走る黄のラインはそのままに、バイザーまでもが赤一色に染まっている。
『ッ!?私はこんな機能は搭載していない……いや、もしかして……そうだ!!ブラックボックスにしておいた自己進化機能!!おそらく、感情力エレメンタル変換装置とヒーロー属性が結び付いて自己進化し、特定の感情力エレメンタルに適応した、所謂フォームチェンジの機能が搭載されたのか!』

 驚きながら、今のヒーローギアを解析し、興奮の声を上げるドクター。

『なるほど、今ギアを調べた所、四つのスロットが形成されている。その形態は喜怒哀楽それぞれの感情力エレメンタルが一番高まった時に、その感情力に適した形態が解放され、かつ感情力エレメンタルをちゃんと制御しきれていなければちゃんと発動することができない……私の技術だけではなく、属性力エレメーラの未知の力から生まれた機能!お見事だよ千優くん!!』

「これが俺の……新しい姿……」

「凄いなヒロ兄!それに、会長も!!」

「一時はどうなる事かと心配したけど……何とかなったわね」

「もしかしてこの決闘って……わたくしとご自身を特訓する為のものだったんですの!?」

「そうゆう事だよ。あれ?もしかして、乗せられちゃった?」

 ここでようやく、俺の真意に気付いた慧理那。とっくに気付いていた総二と愛香を見て、わたくしもまだまだ未熟でしたわね、と微笑む。

「でも今ので、わたくしも、千優さんも……ちゃんと力を使いこなせたのですね!!」

 喜ぶ皆。これで当初の目的は果たされたわけだ。でも、まだ終わってはいない。

「慧理那、よくやった。だが、テイルギアを今度こそ使いこなせているのか、確かめなきゃな」

「は、はいっ!……でも、今のは必死だったので、何をどうやって使いこなせたのかサッパリ……」

「そうか……でも、俺がこの姿になれた理由は、なんとなく分かったよ」

 それは、と問いかける慧理那や総二たちに、そして自身に言い聞かせるように言葉にする。

「あの時の俺は、頭に血が上りすぎて周りが見えなくなり、自分が何故怒っているのかを見失ってしまったんだ……でも、今ので分かったよ。なんで今まで暴走しなかったのか……それは多分、今まで俺は誰・か・の・た・め・に・怒・っ・て・い・た・からなんだよ」

「誰かの……為?」

 初めてイカリバーストを発動した時は、乗っ取られたバッファローギルディと、改めて守ろうと誓った世界中のリア充の為に。クラブギルディの時は、休日を邪魔された上に、もう少しでツインテールを奪われるところだった慧理那の為に。そして、クラーケギルディとの戦いでは、あまりの怒りに見失ってしまったが、総二と愛香の為に。

「大切な人達や互いに認め合える敵……そういった誰かの為を思っているからこそ、怒りを抱く。今だってそうだ。慧理那、お前の為に俺は怒っていた。そして、それを自覚することが出来たから、暴走しなかった……それを忘れない限り、俺はもう二度と暴走しない」

「千優さん……わたくしも感じましたよ。あの炎の拳を受け止めた時、千優さんがわたくしを思いやってくれている事……ちゃんと伝わりました。もしかしたら、それが伝わったから、一瞬だけですが、テイルギアを使いこなせたのかも知れません……」

「誰かの為に怒ってくれる、か……ヒロ兄らしくて、いいんじゃない?」

「俺らしい、か……ああ、そうだな。これが俺だ。今は胸を張ってそう言えるよ」

 やっぱり、周りの評価や自分の力に怯えるなんて、俺らしくないんだと、実感した瞬間だった。

「では、今度はわたくしが……乗り越える番、ですわね……」

「そうなんだよなぁ……どうすればその分厚い心の壁、というか箱だな。それを粉砕できるのか……」

 抑圧と重圧の多い日々を送ってきたのだろう。何度前に向かう為の応援を聞かせてもまだ足りていない。せめてなにか、決め手になるようなものが欲しい……。

「そうだ!ヒロ兄、ちょっといいか?」

 レッドが思い付いたように拳を平手に当てる。頭の上に電球が見えるポーズだ。

「ツインテール先生、何か名案でもあるのか?」

「いいなそのあだ名……って、そうじゃなくて。ちょっと耳貸してくれ」

 おいおい良いのかよ、とぼやきながらもレッドの背丈に合わせてしゃがみ、耳を傾ける。

 総二の名案は……なるほど、確かに納得だ。納得なんだが……

「……ホントにそれをやれと?」

「これはヒロ兄じゃなけりゃ意味がないんだ。大丈夫、ヒロ兄の国語の成績と、小説の腕なら即興でもいい感じに決められるさ」

「いや、確かに去年から趣味とはいえネット小説書いてるけどさ、書くのと言うのでは大分違うんだぞ!?」

「いや、さっき会長に言ったセリフ、岩陰から全部聞いてたから説得力が無いんだけど?」

「……確かに」

 言われてみれば確かにそうだ。振り返ってみればあんなセリフよく浮かんだな。

「よし、やれるだけやってやるか……慧理那」

 立ち上がり、ちょっと深呼吸をして心を落ち着かせるながら、慧理那に向き直る。

「はい、なんでしょうか?」

「この際だから、伝えておこうと思う……」

 フェイスマスクに手をかけると、ロックを解除し、マスクを外す。俗に言うメットオフだ。

「え?伝えるって……」

 正直なところ、特撮とかであるようなかっこいいセリフなら余裕で言えるんだけどなぁ……。

 だが、総二からも言われた通り、これが一番の特効薬だろう。ならば、ここは男を見せなくてはならない。

 視線を逸らさないよう、慧理那の瞳を真っ直ぐに見据えながら、俺は言葉を紡ぐ。

「別に俺は総二や愛香ほどツインテールが好きでもない………………そもそも、俺の好みなんて曖昧で、結局『好きになった娘が好みの基準になるんだろうな』くらいのものだ……」

「あ、あの、千優さん?それはいったいどうゆう……」

 総二の提案はこうだった。「会長の一番の理解者であるヒロ兄が、会長のツインテールを好きだって伝えればいけるんじゃないか?」と。

 自分で言ってて恥ずかしさに目を背けそうになるのを堪え、少しづつ紅潮していく慧理那の顔を見つめながら続ける。

「慧理那がツインテールを嫌いだって言うなら、それでも別に気にはしないが、俺はその髪…………長くて綺麗なその髪には……結ばずにロングにするのもいいとは思うが、やっぱりツインテールに結んだ方が似合っている…………なんとなく、そう思うんだよ……」

 言葉に合わせるように、なるべく自然に笑って見せる。少しぶきっちょかもしれないが、真顔で言うよりはいいはずだ。

「千優……さん……」

「俺は、ツインテールにしている慧理那が気に入ってるし、しっくりくるんだよ……一年間隣で、ずっと見てきた影響かもな……」

 最後の締めに、俺は総二のアドバイス通り、慧理那のツインテールを手に掬いとる。

 ふむ。この感触、グローブ越しではあるが存外悪くない……総二がついついやっちゃうわけだ。

「あ…………///」

「だからさ……これからも、結び続けてくれないか?人目が嫌ならせめて、俺の前だけでも。師匠おれからの数少ない我が儘おねがい、聞いてくれるか?」

 ちなみに今俺が言ってること、一応全部本心だ。今までこうして言葉にするまであんまり意識したことなかったけど、どうも俺は、意外に慧理那のツインテールが気に入っていたようなのだ。さっき言った通り、好きな人の格好が好みになるタイプだからなので慧理那限定ではあるが、とりあえずこれはもう認めざるを得ないだろう。

「…………す……」

「え?」

 慧理那が蚊の鳴くような声で何かを呟く。

「もちろんです!!千優さんがそういって下さるのなら……そう褒めて下さるなら、わたくしは続けられます!!この髪型を……あなたが認めてくれるなら、わたくしはこのツインテールを誇ることができます!!」

 言うが早いか、俺に抱き着く慧理那。……一瞬、思考回路がフリーズした。

「え、ちょ!ちょっと!?」

 待って近い!!変身したから身長差がかなり縮まってるから、普段より顔の位置が近い!!頭一つ分くらいの差が殆ど縮まって、この状態だと少し顔を傾けると……。

「千優さん……わたくしは……」

 

 

 

『あああああもうちょっとストップですよストップしてください今のはさすがの私でもこれ以上モニタリングしていたら口から砂糖が出そうですうぅぅぅぅ!!』

「……はっ!?あ、いえ、そ、その、い、今のハグには特に深い意味はなくてですね!!」

 通信機から聞こえてきたトゥアールの悲鳴にも近い声に、抱き着いて数秒で慌てて離れる慧理那。

「お、おうだだ大丈夫だ問題ない!!」

 あー、ドキドキした……50メートル走で全力疾走した直後以上に、心臓がバクバクしているのがよく分かる。あれ以上先に進んでいたらどうなっていただろうか……いや、今は考えないでおこう。途中から掻き消されていた羞恥心が今更戻って来てるし、今は心を落ち着かせよう。

『今の映像は最初から最後までキッチリブレ無しの高画質で撮影されてしまったわけだが、ヒーローC、そちらは?』

『ノイズ抜きの高音質で全て録音済みだ』

『グッジョブ!!よくやったわ2人とも!!』

 フォンの向こうでは、おそらく俺があのセリフを言い始めたあたりで録画を開始したのであろうドクターと、案の定録音していたヒーローC、そして黒幕の未春さんがニヤニヤしている事だろう。これはあとで上映会こうかいしょけいかもしれない……。

「…………ヒロ兄……あんなセリフよく言い切ったわね……途中から遠まわしな告白に聞こえてきたじゃない!見てるこっちが恥ずかしかったわよ……」

「上出来……いや、もう完璧だったと思うよ……いつか、俺も使ってみたいくらい…………」

 振り返るとすぐ背後で、当事者の俺達以上に茹で蛸みたいな真っ赤な顔をして、棒立ちで震えている妹分と、感動の涙に目頭を抑えながら親指を立ててサムズアップしている弟分がいた。言われてみると確かに今のは愛香の言う通りだったような気がする。ヤバイ、穴があったらしばらく篭もりたい。

『あ、それと伝えるのが遅れましたが、今ので慧理那さんのツインテール属性が急速に増大しました!これならちゃんと戦えるはずです!!』

「通信してくるならそっちを先に言えぇぇぇぇ!!」

 ともあれ、どうやら成功したらしい。気恥ずかしさが残るが、これでようやくちゃんとした特訓ができる。

 特訓の続きだ、と俺が言い出す前に慧理那が、気を取り直すように自分の頬を叩いてこちらへ向き直る。

「千優さん、もう一度勝負です!!」

「……ああもちろん受けて立つとも!第2ラウンド、ここからが本番だ!!」

 マスクを被り直し、お互い採石場の端まで距離を取る。

 総二と愛香は元の岩陰に戻り、こちらを見守っている。

「先に倒れた方の負けで、負けたら勝った方の命令を何でも聞く。それでいいな?」

「はい!全力で、今度こそ勝たせていただきます!!」

「良い返事だ!ドクター、特訓開始の宣言をしろ!」

『それじゃあ私からのカウントダウンだ』

 俺は拳を握り、慧理那は再び取り出したブラスターを握る。互いに身体からは熱と電撃が溢れ出している。

 先程までとは比べ物にならないほど、場の空気は緊張に満ちていた。

『3!2!1!特訓デュエル開始ぃぃぃ!!』

「お願いします、わたくしのツインテール……どうかわたくしの願いを叶えて!わたくしを……師匠のように、世界を守るヒーローにして下さいまし!!」

 合図と共にイエローに装備された重火器の砲門が全てこちらへ向く。さらに、そのツインテールが地面へ伸びたかと思うと、先端の縦ロールをドリルとし、勢いよく地面を抉り、打ち込まれる。

「な、なんじゃそりゃあ!?」

「一斉発射!ヴォルティックファイヤー!!」

 両腕、両肩、両足からそれぞれレーザーやバルカン、徹甲弾が放たれる。その弾道は先程までとは大違いで、俺の方へと真っ直ぐに飛んでくる。

 これが本来の威力か!と弟子の成長を喜びつつ、全力で横へ飛び、回避する。

 これだけの銃弾ブッ放っといてよく反動を受けていないな、と思ってよく見ると、地面に刺さったツインテールはアンカーのようにイエローの身体を支え、反動を全く気にさせていない。なるほど、ツインテールへの想いをお前なりに形にしたのか、慧理那!!

「す、すげぇ……凄いよ会長!!」

 総二が感激している声が聞こえているが、俺は感激してる場合じゃなさそうだ!!

「ヒーローC、弾道予測してくれ!!」

『了解した!だが行けるのか?クラーケギルディの触手、身体が追いつかなくて避けきれなかったろ?』

 確かにあの時は避けきれなかった。でも、方法ならある。

「俺はひとりで戦ってるわけじゃないんだよ……俺の隣には、かけがえの無い仲間達と、盟友ともがいる!!」

『フッ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!!』

 背後で大岩が粉々になるのを見ながら、バックルから属性玉を取り出し、右腕の変換機構に装填しようとする。

「そうは行きませんわ!ヴォルティックフルボンバー!!」

 属性変換機構エレメリーションを使わせまいと、胸と腰からそれぞれミサイルを発射するイエロー。

 四方八方から次々と迫り来るミサイルに、俺は両足と右手にエネルギーを集中させる。

『右斜め四十八、六十八、八十八度!左斜めもほぼ同様!』

「焔竜双爪脚ヴォルカニック・ツインレッグ!!」

 左右両側から迫るミサイルは焔を付与した蹴り技を、右脚、左脚と連続で繰り出して弾き返す。

『前方正面からはそれぞれホーミングミサイルが二発!!』

 頭上から迫るホーミングミサイルに右掌を向ける。

「防炎璧ファイヤーウォール!!」

 炎が円形に広がり、炎で構成された巨大な盾となって、ミサイルを全て着弾前に焼き尽くし、防ぎきった。

「ドラゴン、それが貴方の得た新しい力なのですわね!炎を自在に操る、その能力が!!」

「イエローこそ、見事に重火器を使いこなしているじゃないか!それがお前の本当の力……求め続けていたヒーローの力だな!!」

「ええ!私はこの力で世界を守ります……かけがえの無い、仲間と共に戦い抜いてみせますわ!!」

「なら、まずは俺を超えてみろ!属性変換エレメリーション!!」

『学生服属性スクールユニフォーム』

 

 □□□□

 

「エレメリアン反応だって!?」

『はい、幹部クラスのものが二つ……間違いありません。リヴァイアギルディとクラーケギルディです』

 ヒロ兄と会長の特訓中、私とそーじだけに通信してきたトゥアールから告げられたのは、予想外の敵襲だった。

「ヒロ兄と会長は今、手が離せないし……しょうがないわね。久し振りに私達だけで行こっか?」

「そう……だな……。二人の邪魔は出来ないし、ドラグギルディだって倒せた俺達なら、頑張れば行けると思うんだけど……愛香、大丈夫なのか?」

「うっ……」

「触手、怖いんだろ?なら、無理しなくてもいいんだぞ?なんなら俺だけでも……」

 それを言われると、正直辛い。よりにもよって二体とも触手なのだ。しかも触手が多い方クラーケギルディに、私は気に入られてしまっている。本当ならヒロ兄達の特訓が終わってから出撃したいし、そーじの提案に甘えたいところだ。

 でも……。

「逃げるわけには行かないわよ……だって、ヒロ兄と会長はそれぞれの弱さから逃げずに向かい合った。私も逃げてばかりじゃいられない!ここで逃げたら、きっとヒロ兄に怒られちゃうわ!」

 それに、あんな奴らの前にそーじだけをほっぽり出すのはもっと嫌だ。私が守ってあげなくちゃ……。

『うんうん、やーっといつもの愛香さんらしくなりましたね』

「何よその言い方、馬鹿にしてるの?」

『愛香さんには箱の中で震えている仔犬より、近付いたら誰だろうと噛み付いてくる狂犬の方がお似合いですって意味ですよ~』

「じゃあ帰ったらアンタを段ボールに詰めて粗大ゴミに出してあげるから、遺言書いて待ってなさい」

『ヒィッ!?総二様聞きましたか!そこにわざわざ殺害予告を出してくる危険人物が!!』

 相変わらず私をイラつかせるトゥアールの煽り文句が、今は私の恐怖をかき消してくれている気がする。

「そうだな……ヒロ兄達が来るまでに、せめて一体片付けるくらいの気持ちで行かなきゃな!」

「それじゃ、行くわよそーじ!!」

 髪紐属性リボンの属性玉を装填し、そーじと一緒にこっそりと飛び立つ。

 今度こそ、クラーケギルディをキッパリとフッてやらなくちゃ!!

 

 □□□□

 

 学ランを羽織り、ファイティングポーズを取る。

「行くぜ、ウルフギルディ!!」

 強化された脚力で戦場を駆ける。イエローも負けじと装備した重火器をどんどん連射してくる。

『左斜め四十五度!右正面!頭上斜め五十二度!!』

 一発一発をすべて回避し、時に防ぎ、誘爆させながら、俺は接近し、どんどん距離を詰める。

「接近させるものですか!ヴォルティックブラスター!!」

「フンッ!ハッ!トゥッ!」

 ツインテールのアンカーを外し、今度こそは雷の矢の如く放たれる弾丸を、少ない動きで避けきり、更に接近する。残りあと十メートル!!

「くっ!ここまで接近を許してしまうとは……こうなったらもう、格闘戦しかありませんわね!!」

「上等だ!オラァァァ!!」

 両手の拳を握り締め、焔を宿す。多分ここが一番の勝負所だ。この一瞬で勝負が決まる!!

「焔竜牙拳ヴォルカニック・ナックル!!」

「くっ!!ならばわたくしも!ヴォルティック・パンチ!!」

 お互い両拳で交互にパンチを繰り出し、相手を殴り続ける。

 避けたり防御したりしながらも何発かは命中させた。俺も二、三発もらったが、向こうほどのダメージではなかっただろう。が、イエローも負けてはいない。そのまま膝蹴りを繰り出してきた。

「ヴォルティックスタンキック!!」

「焔竜爪脚ヴォルカニック・レッグ!!」

 互いの二ーキックがぶつかり合い、そのまま同時に前蹴りを繰り出す。炎と電撃が火花を散らし、威力が相殺される。

「今です!ヴォルティックニードル!!」

「そう来たか!!」

 脚がぶつかり合っている今がチャンスと言わんばかりに、ニードルガンが発射される。

 脛に迫る電撃針を咄嗟に脛蹴りで弾く。と、その瞬間背中のブースターが脇の下を通すように前方へ稼働する!

「かかりましたわね!!」

「何ッ!?」

 超近距離で俺に銃口を向け、側部からせり出したグリップを握ると、銃口にはとっくにエネルギーが充填されていた。

「これがわたくしの最大火力!荷電粒子砲ヴォルティック・チャージド・キャノン!!」

 トリガーが引かれた瞬間、まるで稲妻が逆に天に落ちるかのように尾を引いた二本のビームが俺をまばゆい閃光の彼方と吹き飛ばした。

 どれ位の高さまで飛ばされたのだろうか。このビームはおそらく、街の人々にもハッキリと見えるくらいに尾を引いていただろう。

 フッ、成長したな……慧理那……。

 そのまま目を閉じると、学ランを風圧になびかせながら落下していく。

 ああ、上出来だよ。見事にお前は俺に追い付いてきた。俺の予想を上回り、最後には意表を突いてみせた……正直な所、満点に近いよ………………。

「ダチとタイマンでの特訓か。しかも相手がオナゴでも手加減抜きとはな……まあ、お前らしいといえばお前らしいな」

「ウルフギルディ!?」

 気づけば、隣にウルフギルディがいた。幻影だろうか?よく見たら半透明だ。

「驚くこたあねえだろ?お前が俺の属性玉使ってるんだから、たまには傍に出てきたっていいじゃねえか」

「ま、まあ、それもそうだが……」

 今回は精神世界という訳でもないぞ?と疑問には思いつつも、今は納得しておこう。

「なあ千優、お前今、どんな気分だ?」

「ああ、勿論……最高に決まってるじゃないか……最高に嬉しいよ……。あの娘がこんなにも強くなれたんだ。俺としては教えてきた甲斐があったってもんさ」

「それはそうだろうな。お前の顔、中々楽しそうだったしよぉ」

「楽しそう……?」

「ああ。今のお前の顔は間違いなく、自分の弟子の成長を喜び、このタイマンを楽しんでる笑顔だ」

 そうか……言われてみれば確かに、そうかもしれない。今回だけじゃない。戦いの中で心を通じ合わせることができる敵と出会った時、俺は清々しい気分になる。

 その気持ちは、もしかしたら新たな友を得る喜びや、堂々とした武人たちとの戦いに感じた楽しさだったのかもしれない。

「しかし……戦いに喜びを感じる事は、あまりよろしくないような……」

「貴方の感じている楽しみは、戦闘狂の様な野蛮な者が感じる悦とは違うものです。互いの魂と魂のぶつかり合い……堂々とした戦いをこそ望み、相手に敬意を払う。スポーツマンの様に、そんな気高い精神から来るものです」

「タランチュラギルディまで……」

 本当に、今日はどうなっていやがるんだ?これ走馬灯ではないよな!?

「おや?千優、貴方まさか気づいていらっしゃらないのですか?」

「気付いていないって、何が?」

「あー……いえ、説明してる暇は無さそうなので、今は忘れてください。それより貴方、そろそろ落ちますよ?」

「え!?」

 そういえばそろそろ身体が吹き飛ぶスピードが落ちてきている。あと数秒で落下するだろう。

「それで千優、お前、これで満足したか?」

「そうだな……弟子の成長も見られたし、俺自身も成長できた。正直な所、俺はこれで満足だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、まだ勝負はついてねえ!!」

 満足はしたが、俺が力尽きるまで勝負は終わらない!

 落下しながら体制を整え、頭から落下していく体制になる。真下には、イエローが飛ばされた俺の方を見上げていた。

「ヒーローC!準備は?」

『スラスター、角度調整完了。そのまま体制を維持してろよ!!』

「ああ!!」

『千優さん!?何を!!』

 学生服属性を解除し、今度は体全体にエネルギーを循環させる。体全体が炎に包まれ、俺は空を翔る流星となった。

 組織への忠誠を叫びながら隕石ほしになった銅色のカブトムシみたいなもんじゃない。むしろこれは……某カードゲームの龍星王だろう。

「炎竜ヴォルカニック……流星脚メテオキック!!」

 空中で回転し、そのままキックの姿勢を取ると、頭を下にして落ちた分、勢いが増しており、更にスラスターの出力を全開にする事でスピードはまさしく流星の如く!

「いっけえええええええ!!」

「ッ!?あの状態からそんな技を…………」

 驚きで目を見開いたイエローは銃口を向けることをも忘れ、ただ、負けを認めるように、笑顔でその一撃を受け止めた。

 両脚で地面を抉りながら引き摺られていき、ツインテールが地面から離れ、姿勢を崩して倒れると、着地した俺も勢い余って採石場の端までスライディングして止まった。

「ふぃ~……イエロー、大丈夫か?」

 イカリバーストを解除して立ち上がると、倒れたイエローの方へと駆け寄る。体を大の字に投げ打って空を見上げるイエローは、俺が傍に寄ってしゃがむと目を開けた。

「負けてしまいました……わね……」

「そうだな……だけど、お前は強くなった。俺を超えるのはまだまだ早いが、それでもここまで出来るなら、世界を守るのには充分だよ」

「でも……わたくしからの罰ゲームは、叶わなくなってしまいましたわ……」

 残念そうに目を細める慧理那。そういえば、勝った時の提案を言い出したのは彼女だった。

「何を命令するつもりだったんだ?」

「そ、それは……」

 慧理那はちょっと躊躇うように口を閉じたが、やがて諦めたように呟いた。
「……千優さんに……もう一度、わたくしの師匠になってくれるように……そう命じたかったのですが……負けてしまっては、もう叶いませんわね……」

「……なんだ、そんな事かよ」

「そんな事とはなんですか!」

 勢いとはいえ、俺の弟子を辞める、と宣言してしまった事を悔やんでいたのか。昨日から俺の事をずっと「師匠」と呼びかけてはそれを飲み込み、名前で呼んでいた事にそれが現れているだろう。

「言っておくが、俺は破門を認めた覚えは無いぞ?」

「……え?」

「あの時はお前が一方的に辞めると宣言して、そのまま立ち去っただけで、俺は了承してないだろ?ならお前は、まだ俺の弟子だ」

 その一言で、慧理那は目を見開くと、上体を起こしながら問う。

「では……貴方をもう一度、師匠と呼ばせていただいても?」

「もう一度も何も、お前は俺の弟子で、俺はお前の師匠だ。何度でも呼んでいいぞ。俺を呼ぶ時、俺に頼りたい時、いつでも好きな時に呼んでくれればいいさ」

 頑張ったご褒美に、と優しく頭を撫でる。総二や愛香の時とはちょっと違う感覚が、俺の手の平を伝わっていった。

 

『あ~、その……君たち、特訓は終わったかい?』

「ドッ、ドクター!?終わってるけど、何かあった?」

 突然の通信に少し驚きながら対応する。

『君達が特訓してる間に、エレメリアン反応が出てね……観束くんと津辺くんが先に出向いて、トゥアール女史はそちらのモニタリングをしているのだが、どうも押されているらしい』

「「なんだって(ですって)!?」」

『ほいマップ。すまんな、特訓が終わるまで黙っておくべきかと思って、わざとアラートを鳴らさなかったんだ』

 ヒーローフォンをバックルから外して、表示されたのは郊外の廃工場。反応は、幹部クラスが二体分!

「クラーケギルディとリヴァイアギルディか!予想していたよりもずっと早い復帰だな……」

 二体には申し訳ないとは思っているのだが、クラーケギルディからは触手を二、三本根元から引っこ抜き、リヴァイアギルディの触手にはいくつもの大火傷を負わせたのだ。しばらくは動けないだろうと思っていたが、今日までで三日しか経っていない。

『特訓とはいえ、全力で戦って消耗している君達には申し訳ないのだが……行けるか?』

 俺達を気遣い、心配するドクターの声。なに、答えなんてとっくに決まっている!

「行けるかイエロー?」

「当然ですわ。仲間のピンチですもの、戦えない理由はありませんわ!!」

「フッ、流石は俺の最高の一番弟子だ……行くぞ」

「はい!師匠!」

 立ち上がって手を差し伸べると、イエローはすぐに俺の手を力強く握り返した。

 イエローを立ち上がらせ、採石場の入り口を見ると、いつの間に来ていたのか、多くの取材班が押しかけていた。特訓の間、大きな音が連発し、レーザーの閃光も届いていたのだ。来ていて当然といえば当然だろう。

「ヒーローC、あれ、どの辺から撮影来てた?」

「確か、お前が着地した直後らへん……だろうか?」

「よし突っ切ろう。これ以上何も撮らせないように全速力で現場に向かおう、今すぐに!!」

 到着したサラマンダーに跨ると、武装を収納したイエローが後ろに乗る。

「……しっかり掴まっとけ……振り落とされるぞ……」

「は、はい!」

 イエローが背中にしがみつき、腰に手を回した瞬間、アクセル全開でサラマンダーを発進させる。

 空気を読んで道を開けてくれていた取材班の間を突っ切ると、俺達は風を切りながら現場へと向かった。

 

 □□□□

 

 郊外 廃工場

「うわあああっ!!」

 リヴァイアギルディの触手をまともに食らい、俺は地面に叩き付けられた。

 砕けたアスファルトが舞い、顔に降り注ぐ。

 最悪の状況だ。クラーケギルディを俺が、リヴァイアギルディを愛香が担当する事にしたものの、やはりどちらも手強く、おまけに愛香がり触手への恐怖を乗り越えかけていたところで、俺がクラーケギルディから切り落とした触手の一本が背中に触れてしまったため、やっぱり触手への恐怖心を煽ってしまい、動けなくなっていたところへリヴァイアギルディの触手が迫っていたので急いで突き飛ばし、今に至る。

「勝負を捨てるか、テイルレッド!!」

 そこへ間髪入れず、クラーケギルディが触手を二本切り離し、俺に飛ばしてきた。回避する余裕もなく左右からそれは俺に絡みつき、簀巻きのようにして地面に転がされる。

「くっ……!」

 やばい、やばいぞ!!まさか攻撃を受けるどころか、動きまで封じられるなんて!

「ブルーッ!!」

 安否を確認するべく呼びかけても、返事はない。

 テイルブルーは地面に座り込み、もじもじしていた。

「……む、胸……触った……」

 ………………え?嘘!?俺が突き飛ばしたの……あれ、背中じゃなかったのか!?

 とにかく、この大ピンチに何をもじもじしているんだ!

「く、くそ……ほどけない……!!」

 ブレイドを落とし、腕ごと胴体を締め付けられている状態では、脱出は不可能。

 このままじゃ、愛香があの二体を同時に相手する事に……しかも今の愛香じゃあの二体には勝てない事は間違いない!!

「自分の身をなげうち、仲間を助けるとは見上げた心がけだが、それではどうすることもできまい。俺の勝負に横槍を入れた報いぞ!!」

 股間の触手を大きくしならせ、俺に振り下ろすリヴァイアギルディ。

「お・わ・り・だ・、テ・イ・ル・レ・ッ・ド・!!」

 

 

 

「はっはっはっはっは!そこまでです!乳に魅入られた魔物ども!!真の巨乳を前にせず乳の話で盛り上がるとは、肉欲に飢えた中学生男子も同然!堕ちましたねアルティメギル!!」

 予想外だった。相も変わらずの傍若無人さで戦場に現れたのは───

 

「私の名は、世界を渡る復讐者、仮面ツインテール!!」

 

「ぬうう、仮面ツインテール……」

「一体何者なのだ……!?」

 リヴァイアギルディとクラーケギルディが揃って感嘆の声を上げる。突然の闖入者に律儀に攻撃の手を止め刮目してくれる義理堅さはアルティメギル共通のようだ。

「乳の本質を知らず乳を語る哀れな道化に一家言ありと、この場に参上しました!!」

「おのれ……我らの生を侮辱するか!!」

「侮辱ではなく否定です!そして、私にはその権利がある!それだけのおっぱいがあります!!」

 工場の上階からこちらを見下ろしながら、その大きさを誇示するように胸を張る仮面ツインテール。

 リヴァイアギルディは、顎の汗を手の甲で拭った。

「この女、言うだけのことはある!恐るべき乳!完全なる自意識に支えられた誇り高き巨乳!何故だ……その神域に乳を押し上げるに至り、何故巨乳属性ラージバストを生み出せなんだ!!」

「フッ……さて、何故でしょう。私が幼さを愛するからでしょうか。しかし、それと乳これとは別!!真なる乳を釣り支えるのは、クーパー靭帯ではなく女のプライドなのです!!」

「おおっ……!!」

 よく分からない至言に打ち震えるリヴァイアギルディ。

 反対に敵意を剥き出しにしているクラーケギルディ。

 その後も仮面ツインテールの話は続き、大きさこそ乳の本質と説く仮面ツインテールに対し、どんな進化の系譜を辿ろうと、如何なる世界であろうと、生物が巨大を捨て進化していくのは同じであると反論するクラーケギルディ。

 更にはブルーもその意見に賛同し、時代はコンパクトだ、小さい胸こそが未来のトレンドであり、付加価値ステータスなのだと言い張る。

 おい、そんな事をしている元気があるなら今のうちにこれを解いてくれ。

 だが、そんなブルーの意見を笑い飛ばし、ステータスはステータスでもバッドステータス、浅はかな開き直りだと論破している仮面ツインテール。いや、仲間を論破してどうすんだ!?

「『貧乳でも気にしない』とか『貧乳の方がいい』とか!そんな戯れ言は、やりたい盛りの男の子が女の卑下に見せかけた『私褒めて』オーラをめんどくさがって、とっととおっ始めたいがために肯定してあげているだけです!!それに気づかず自己完結する女の、なんと滑稽なことか!!」

 仮面ツインテールはマント、もとい白衣を翻し、天を仰いで高らかに謳い上げる。

 絶対的な矜持に支えられた大演説はもはや、史上に名を刻む独裁者のそれにも似ていた。

『後で殺すシナス……』

「ヒッ!?」

 一瞬、通信機から聞こえてきた呪いの声におののき、体のバランスを崩しかけてそれは終わったが。

「さ、さて、結論です。乳はブルマやスク水などと違って、視覚より触覚、感触に価値の大半を見出すもの……所詮それを触れて審美できぬあなたたちに、乳を語る資格などない!!いかに属性として美しく結晶しようと、もはや存在そのものが矛盾しているのです!乳の属性も、それによって生まれたあなたたちも!!」

「「─────!!」」

 存在そのものを全否定された二体は、それぞれ片膝を地につき、息を荒らげ始めた。

「ば、馬鹿な、我らが……」

「負けられぬぞ……!このまま言われっぱなしでは、我らを信じて付いてきてくれた部下達に顔向けできぬ!!仮面ツインテールに、目にもの見せてくれようぞ!ツインテイルズを打ち破ることでな!!」

 クラーケギルディの震える肩をリヴァイアギルディが力強く叩く。

「ああ……ああ!!」

 クラーケギルディは、リヴァイアギルディの手を取り立ち上がった。

「姫!この身の全てが否定されようとも、私は愛を貫きましょう!!あなたのその、星々さえ霞む輝きを放つ、大いなる貧乳に!!」

 またも儀式めいた動作で剣を掲げるクラーケギルディは気づかなかった。テイルブルーの目が、どぎつい逆三角になり、全てが赤に染まるほど血走っていることに。「どいつも、こいつも……」

 テイルブルーの異変を敏感に察知したのか、一目散に逃げ出そうとした仮面ツインテールは、白衣が手すりに引っかかり、そのまま積み上げられたダンボールの山に落下した。

「我が全霊の力、とくとご覧あれ!私は再びこの愛を、貧乳の美姫に捧げましょう!!」

 瞬間───青い通り魔が招来した。

「貧乳貧乳うるせええええええええええええええええ!!」

 テイルブルーはクラーケギルディに猛然と飛びかかった。

「!い、いかん!!」

 儀式に陶酔し、反応が遅れたクラーケギルディを、横からリヴァイアギルディが突き飛ばす。

 先程の俺の、焼き直しのように。

「こっち来いオラアアアアアアアアアア!!」

「うおおおおおお!?」

 馬の引き回しの拷問を思わせる惨憺たる勢いで、クラーケギルディの身代わりになったリヴァイアギルディがテイルブルーに引きずられていく。もし街中だったら、全世界に生中継されてしまい、二度と人気は取り戻せなくなったところだろう。

「誰が……誰が貧乳星のプリンセスじゃボケエエエエエエエエエ!!」

「ひ、姫様!?ご乱心召されたか!?おやめ下さい!!」

 リヴァイアギルディにマウントを取った愛香を諌めようと近付いたクラーケギルディは、裏拳一発で吹っ飛ばされた。

 すいませんそいつドラゴンストッパーいないと高確率でご乱心召されるので……。

 敵とはいえ、俺は一応心の中で謝罪しておいた。

「うっがあああああああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛arrrrrrrrrrrr」

 もはやランスも使わない。槍使いランサーから狂戦士バーサーカーにクラスチェンジしたテイルブルーは、二対の拳骨だけで、屈強な戦士をアスファルトに沈めていく。

 触手を使うなどして抵抗を試みるリヴァイアギルディだが、リミッターを振り切り、自傷さえ厭わず全力で拳を叩きつけ続ける愛香の前に為す術無く、やがて、動かなくなって言った。

「……ク、クラーケギルディよ……」

 か細くなっていく声で、仲間に最後の言葉を伝える。

「大は小を兼ねる……だが、小は大を兼ねられぬのだ……。貧は巨を兼ねられぬのだ……。ゆえに、悲劇が、起こ……る…………」

 それを最後に、巨乳に生きた戦士は、貧乳星のプリンセスにモーニングナックルならぬ、おやすみナイトナックルで永眠ねむらされるという、戦士にあるまじき最後を迎えた。

「リヴァイアギルディィィィィィ!!」

 戦友ともの叫びが、空しく響く。

「ふー、ふー……」

 やっと死のマウントを解除したテイルブルーが立ち上がり……その瞬間、

「う、あ、う……」

 力を使い果たしてしまったのか、愛香は目を回すように、ボロ雑巾となったリヴァイアギルディの横に倒れ込んでしまった。

 

 

 

「おのれぇぇ…………おのれ!よくもリヴァイアギルディを!いや、今のは私の責任か……ならばもはや決闘などしている暇はない!貴様らを倒して、その属性力を奴への餞としてやる!!」

 剣を持ち直し、未だ動けない俺の方へと迫るクラーケギルディ。

「動けない敵を仕留めるのは騎士としては恥ずべきだが、まずは貴様からトドメを刺してやる!テイルレッド!!」

 やばい、今度こそ大ピンチだ!!

 クラーケギルディの細剣が振り上げられた瞬間、工場の外から聞き覚えのあるエンジン音が猛スピードで近付いているのが聞こえてきた。

 

 ブオォォォォォン!!

 

 工場のシャッターを前輪で突き破り、華麗に着地し、クラーケギルディに突撃して反対側のシャッターを破壊する勢いで外へ弾き飛ばすと、ブレーキをかけながらアスファルトにタイヤの跡を残して停止する黒い竜を模したバイク。

「どうやら、仮面ツインテールの時間稼ぎのお陰か、ギリギリ間に合ったみたいだな」

「まあ、その間に一体倒されてしまいましたけどね……津辺さん、お疲れ様ですわ」

 マシンサラマンダーから降りる二人の男女。外から射し込む光に照らし出されたその姿は、確認するまでもない。

「ドラ兄!それにイエロー!」

「悪いな、かなり遅れちまった」

「ですがその分、しっかり戦わせていただきますわ!」

 二人共、変身を解除しており、ヒロ兄はいつもの黒いロングコートとフォトンサングラスの変装姿だった。

 そして会長は……なんと、黒地に黄色で稲妻の模様を描いたジャケットに、黄色いサングラスをかけていた。

「えっと……その格好は?」

『入隊祝いだ。千優が、「慧理那なら欲しがるだろうから」と俺に注文してきてな、わざわざ作ってやったんだよ』

「ありがとうございますヒーローC、これからは部の制服として、大切に使わせていただきます!」

 なるほど、会長のヒーロー趣味まで把握して、自分と同じ認識撹乱イマジンチャフ入りのジャケットと色違いのフォトンサングラスを用意させたのか。

 さすがヒロ兄、師匠と呼ばれているだけあって、ここまで考えてあったとは。

「レッド、お前は暫く休んでろ」

「ここは、わたくし達が引き受けますわ!」

 ドラゴファングで触手を切断すると、シャッターに空いた大穴からクラーケギルディの方へと向かう二人。

 俺も外へ出ると、倒れた愛香の方へと向かった。

「き、貴様は……テイルドラゴン!!ようやく姿を現したか!!」

「この前は悪いなクラーケギルディ。すっかり取り乱して、力を暴走させてしまった……」

「何を言うか、私の方こそ貴様の誇りを傷つけた……お互い様だ」

「そうか……」

 互いに謝罪すると、ヒロ兄はベルトのバックルに手をかける。

 生まれ変わった二人の、新たな戦いが幕を開ける。

 

 □□□□

 

「さっきの発言、決闘は取り消しなのか?」

「無礼だとは分かっている。だが、戦友ともの仇だ。貴様なら分かってくれるだろう……」

「……仕方ねえな。なら、こっちが二人でも気にするなよ?」

「当然だ。むしろ二人がかりで来るがいい!!私は受けて立とう!!」

 そう言うと剣を構えるクラーケギルディ。

「さて、初めての幹部戦だが、覚悟はいいな?」

「当然ですわ!師匠と一緒なら、わたくしに敵はありませんもの!!」

「そうか……そりゃあ頼もしい!行くぞイエロー!!」

「はい、師匠!!貴方と共に勝利を!!」

 バックルの音声ボタン、もといセレクトボタンを押すと空中に四色のダイヤルが表示される。

 セレクトボタンを続けて押し、赤にダイヤルを合わせると、そのままいつもの動きで変身ポーズを取る。

 慧理那もそれに合わせるように胸の前にブレスをかざし───俺達は声を揃えて叫んだ。

「爆裂変身!!」

「テイルオン!!」

『H・E・R・O!HERO!!限界突破ブレイクバースト!』

 俺の身体を紅蓮の炎が、慧理那の身体を黄金の稲妻が包み込み、一瞬で変身を終える。

 夢の同時変身を終え、次はここに来るまでに打ち合わせておいた名乗りに入る!

「憤怒爆発!テイルドラゴン、ファイヤードラゴンチェイン!!」

「響く希望のツインテール!テイルイエロー!!」

「「人の想いを護る者!我ら、ツインテイルズ雷竜師弟!!」」

 

【挿絵表示】

 

 背景は爆発しないが、それぞれの決めポーズはビシッとしっかり決まった。

「な、なんだ!?何処からともなく、激しいエレキギターの音色が聞こえてくるような!!」

 辺りをキョロキョロと見回すクラーケギルディ。うむ、大成功らしいな。

「い、いや、それ以上にそこの下品な乳の少女よ!貴様、なにをどうしたらあの姿からそのように成長するのだ!?」

「なっ!?わ、わたくしに聞かれても……」

 それは俺にも分からないし、その辺のプロセスはトゥアールしか分からないだろうけど聞く気も起きないので軽く流そう。

「おいクラーケギルディ、お前はまた、俺に一つの無礼を成したぞ」

「むう!?な、なんだと!?」

「誰が下劣な乳の少女だって?俺の弟子を愚弄するなら、容赦はしないぞ」

 左の手のひらに、右の拳を打ち合わせる。今の怒りも拳に乗せておこう。

「なっ、弟子だと!?自分の力も使いこなせないその新兵は、貴様の弟子だというのか!?」

「それは先日までの話だ。今の彼女は……他人に自慢できる、俺の最高の弟子だとことわっておこう」

 嬉しそうに、そして少し照れ臭そうに頬を染めるイエロー。

 その時、敷地一帯に響き渡るほどの大声で立ちたがった者がいた。

「巨キョォォォォォ!!」

「うぉっ!?リヴァイアギルディ!?」

 そう、先程ブルーにタコ殴りにされていたリヴァイアギルディが、地面から起き上がったのだ。そういや消滅してないと思ったら……気絶だったのか。

「おお!!リヴァイアギルディ、生きていたのか!!」

「当たり前よ!暗闇の中、美しい巨乳の光を感じてな。寝ていられるかと起き上がってみれば、なるほどな……」

 リヴァイアギルディはクラーケギルディの隣に立つと、俺とイエローを交互に見た。

「ようやく来たか、テイルドラゴンよ。お前の弟子、中々の輝きを放つ属性力だ。その巨乳も、ツインテールも……俺を死の淵から引き戻すには充分な程にな!」

 何処か嬉しそうに言い放つと、ボロボロになっているのが嘘のように、股間の触手を構える。

「今度は二対二で来るがよい!貴様と弟子の力、我らが試してやろうぞ!!」

「いくぞ!俺達の力とお前ら師弟の力、どっちが強いのか全力で確かめてやろう!!」

「受けて立ちますわ!わたくしと師匠の特訓の成果を見せてあげましょう!!」

「準備はいいな!俺達は出来ている!!いつでも来い!!」

 触手を突き出す構えを取るリヴァイアギルディと、全身の銃火器を展開させるイエロー。

 剣を構えるクラーケギルディの前に立ち、拳を握る俺。

 一陣の風が吹き、決戦の火蓋は切って落とされた。

『属性変換エレメリーション、学生服属性スクールユニフォーム』

「ハアァァァッ!!」

 クラーケギルディの方へと全速力で走り出す。

 今度は触手を食らうまいと、強化された脚力で一気に間合いを詰め、懐に潜り込む。

「おのれ!!」

 最小限の触手を伸ばし、俺を攻撃するクラーケギルディ。

 アスファルトは発泡スチロールか何かのように貫かれ、地面からも触手が襲い来る恐怖。変幻自在にして豪快。これが騎士ナイト、クラーケギルディの本気。この触手こそがクラーケギルディ本来の剣というわけか!!

 だが、負ける俺ではない!!

「焔竜手刀ヴォルカニックチョップ!!」

 拳を平手に変えて、炎を宿した手刀で触手を切り裂いていく。両足にも焔を灯し、地面からの触手は踏みつけながら突き進む。

 クラーケギルディはこの距離を不利と見るや、地面に触手を叩きつけ、その反動で一気に距離を取った。

「本来ならば姫への求婚に使うものだったが、仕方あるまい!貴様への全力を見せてやる、テイルドラゴン!!」

 そう言うと、背中から無数の触手を展開するクラーケギルディ。その姿は正しく、嵐の中、船を転覆させて乗組員を食らうとされる海魔クラーケンの姿そのものであった。

「奥義!求婚の触手全展開エプーズ・モア・テェンタァクル!!」

「クッ!防炎璧ファイヤーウォール!!」

 雨のように降り注ぎ、俺に覆いかぶさり、押し潰さんとばかりに広がった触手が次々に襲い来る。

 炎璧がそのことごとくを焦がし、焼き尽くして防いでいるが、勢いの強いものはその速さから空気を斬り、炎の合間を縫って俺を貫こうとする。

「ドラゴファング!ブーメランモード!!」

 炎璧を越えてきた触手を躱しながら、ドラゴファングをブーメランモードに変形させる。

「完全解放ブレイクレリーズ!ヴォルカファングブーメラン!!」

 防炎璧を解除し、即座にブーメランモードを統合すると、触手をどんどん切り裂いていく。

「無駄だ!私の触手の数は貴様の想定を遥かに越えている!!」

 クソッ!これでもまだあるのかよ!!

 せめて、もっと広範囲にブッパ出来る技が欲しいが……。

 

 

 

「ヴォルティックファイヤー!!」

「ぬうぅぅん!!」

 身体中に装備された銃火器からの一斉掃射を、硬化させた頑丈な触手で弾き返すリヴァイアギルディ。

 硬化と軟化を使い分け、一本の触手を一本の槍のように使いこなす。流石は幹部怪人ですわね。

「どうした!少し触手が痺れるだけで、全く身体に響かんぞ!!」

「なんの!まだまだですわ!!ヴォルティックボンバー!!」

 胸からホーミングミサイルを発射する。

「そんなもの、通用するものか!!」

 二つのミサイルを、触手の一振りで撃ち落とすリヴァイアギルディ。

 ですが、狙いはそこです!!

 撃ち落とされ、爆発したミサイルは煙を上げる。

「今ですわ!荷電粒子砲ヴォルティック・チャージド・キャノン!!」

「何ッ!?」

 爆煙のカーテンに穴を開け、二つの雷がリヴァイアギルディを射抜く。

「やりましたわ!!」

 しかし、リヴァイアギルディは倒れていませんでした。

「今のは中々だったぞ……だが、効かぬわぁぁぁ!!」

 煙の中から雄叫びを上げ、テイルギアで高められた視力でさえ、視認が困難な速さで触手を繰り出して来るリヴァイアギルディ。

「ッ!?ヴォルティックブラスター!!」

 即座にブラスターを取り出し、迫る触手を撃ち抜きますが、やはりその硬さはブラスターの実弾を全て弾いてしまいます。

 荷電粒子砲をブースターモードに切り替え、触手を避けながら後退しますが、それでもリヴァイアギルディが歩を進めるほど、どんどん迫ってきます。

「どうして……荷電粒子砲ヴォルティック・チャージド・キャノンは、確かにリヴァイアギルディの身体を撃ち抜いたはず……」

 その時、基地のドクターから通信が入りました。

『神堂くん、リヴァイアギルディの身体には、目には見えないけど、属性力で構成された厚いバリアが張られているみたいだ』

「バリアですって!?」
 それなら先程からビーム兵器が全く効いていないのも頷ける。実弾は硬化させた触手で弾けばいい。わたくしの攻撃が完璧に防御されてしまっているという事ですか。

「しかし、津辺さんの攻撃は効いていたではありませんか!」

『そこなんだが……どうやら、物理攻撃は反射できないと見える。津辺くんのパンチも、暴走した千優くんの攻撃も全て素手での物理攻撃だったからね』

 つまり、遠距離武器中心のわたくしは圧倒的に不利ではありませんか!!

 近接武器といえば、脚のスタンガンとニードルガンくらい……しかし、これでは決定打にはなりません。

 せめて、近接戦闘に特化した装備があれば……。

 

 

 

 

 

「「あ!その手があったか(ありましたわ)!」」

 

 

 

 

 

 苦戦している慧理那の方を向くと、慧理那もこちらを向いていた。どうやら考えている事は同じらしい。

「頼んだイエロー!!」

「了解イエス、師匠マスター!バトンタッチ、宜しくお願いします!!」

 すれ違いざまにそう交わすと、今度は俺がリヴァイアギルディの前に、慧理那がクラーケギルディの前に立つ。

「選手交代だ!」

「ほう!次は貴様が相手か!」

「今度はわたくしが相手をさせて頂きますわ!」

「よかろう!我が奥義の前に敗れ去るがよい!」

 敵は槍使い、ならばこちらも柄の長い得物で行くか。

 そう考えながら学生服属性を解除し、ドラゴホーンを取り出す。ライトホーンの柄にレフトホーンの柄を差し込み、両刃の薙刀が完成する。

「ドラゴホーン、ナギナタモード!!」

「ほう!貴様も槍を使うか!!」

 そう言うと早速、硬化させた触手を繰り出してくるリヴァイアギルディ。

「せいっ!ヤッ!ハァッ!!」

 迫る触手をナギナタモードを振り回して弾く。否、弾いて逸らすだけではなく、逸らしながら斬りつける。

 焔を纏った刃先が触手に触れ、その表皮を切り裂きながら焦がしていく。

「グオォォォッ!!」

「これで、どうだぁぁぁっ!!」

 その熱さに怯んだ一瞬、ドラゴファングブーメランモードを投げつけ、本体にもダメージを与える。

「クッ!!まさか、俺のバリアを見破るとはな!」

「見破れたのは仲間のお陰さ。確かに戦ってるのは俺達だけど、仲間はまだいるし、戦うメンバーだけがツインテイルズではない。ほら、ツインテールには髪飾りも必要だろ?」

 総二と愛香、トゥアールでツインテールが一つ。

 慧理那と俺を加えると、確かに髪留めになるが、これにヒーローCを加えればツインテールが二人分。

 そしてそれぞれに未春さんがヘアピン、尊さんとドクターを髪留めとすれば、これが真のツインテイルズのメンバー構成だ。

「なるほど。お前達の戦闘と、ここにはいないが仲間の後方支援……見事だ!だが、それでも俺はまだ負けんわぁぁぁ!!」

 触手を引っ込め、力を貯め始めるリヴァイアギルディ。

 奥義を発動させるつもりか!!ならば俺も一発かましてやろう。実はナギナタモードを持った時からやってみたくなった技がある。

「コォォォォォォォォ……」

 力を貯めるリヴァイアギルディを見ながら、こちらもドラゴホーンを構え、焔をホーンの刃先に集中させる。

「奥義、神速の股間触手刺突ロンギヌス!!」

「激怒竜牙!!」

 ヒーローギアでさえ捉えられない速さで触手を突き出すリヴァイアギルディ。それと同時に、俺もドラゴホーンを振りかざし、十字型に斬撃を飛ばす。

 真紅の炎で十字を形成した斬撃は真っ直ぐに、リヴァイアギルディの股間触手の先端ど真ん中に命中し、その触手を四枚に捌き、焼き尽くしてしまった。

「ぐあああああああ!!」

 苦悶の声を上げるリヴァイアギルディ。唯一の武器を失い、更に奥義を破られた悔しさもあるのだろう。

「クッ……やるな、テイルドラゴン……噂に違わぬ見事な戦いぶりだ。お前の武器からは打ち合う度にお前の信念が感じ取れた。あの時とは大違いだな」

「その件は本当に申し訳ない。暴走していたとはいえ、お前には迷惑を……」

「フンッ、お相子だ。お前は部下を救ってくれたからな。あれで借りは返したつもりだぞ」

 そうか、確かバッファローギルディはこいつの部下だったっけ。

「そうかよ。それで、どうする?武器はもう無いし、奥義も今ので破られたんだろ?」

「確かにな。だが、俺にはまだこの拳がある。次はお前の、守る為の拳とやら、見せてもらおうか!」

 拳を握るリヴァイアギルディ。俺もドラゴホーンを仕舞い拳を握る。

 次の瞬間、殴り合いが始まった。

 

 

 

「黄の戦士よ……戦いの経験をまるで持たぬお前が、どうしてこの決戦の地に姿を現した!!」

「経験ならありますわ!物心ついた時からずっと……古今東西世界中あらゆるヒーローの戦いを目に焼き付け、記憶してきました!どんな敵とどう戦うか!どう勝利したか!それがわたくしの戦闘経験です!!」

「想像だけで片がつくなら、誰も鍛錬などせぬ……。では、その焼き付けた記憶とやらに聞いてみるがよい!我が全力の一撃、どう防げばいいかとな!!」

 クラーケギルディは触手を残らず全部伸ばし、身体の周囲に扇状に展開させる。

 そして、右腕を突き出したのを合図に、一斉にわたくし目掛けて襲いかかる。

 天球から星が降り注ぐような神秘。なるほど、確かに師匠が躱すのに手こずっただけはありますわね。

「ですが、こうゆう場合どうするかなど、決まっていますわ!!」

 硬質な駆動音を響かせ、アーマーが次々に展開。ツインテールを地面に打ち込みロック完了。発射態勢は整いました!

「すべて撃ち落としますわ!ヴォルティックファイヤー!!」

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 全身のレーザー砲、レールガン、バルカン砲、ミサイル、徹甲弾、荷電粒子砲、全てが大気を弾くような轟音を嘶かせ、身体中の武装が我先にと触手を狙い撃つ。標準さえ度外視した完全火力の極激に、流星群のように降り注いだ触手はどんどん撃ち抜かれていき、本数を減らしていく。

「さ、再生が追い付かない!私の触手以上の連撃を、この少女は繰り出しているというのか!!」

 最後の一本が撃ち落とされ、もはやクラーケンではなく、寿司屋で捌かれてまな板に乗せられた烏賊のようになってしまったクラーケギルディ。

「う、お、おぉぉぉぉ!ぐ、ば、馬鹿な───!」

 リヴァイアギルディ同様、こちらも苦悶の声を漏らす。残る武器は、いつも手に持っているあの細剣のみ!!

「そうか、これがテイルドラゴンの弟子……なるほど、あの師匠ならこんなにも強い弟子がいてもおかしくはない、か……」

「ええ、わたくしはテイルドラゴンの一番弟子。たとえ戦いにおいて素人でも、心意気では負けるつもりはありませんわ!!」

「そうか……これは侮ったな。これはお前の師の教えの成果だけではない。部下や同胞の怠惰を憂いていながらその実、この私自身、ツインテール属性の真価を見誤っていた……教えられたぞ、少女よ……それだけの潜在能力ツインテールを秘めていたとは……ならば私の最後の剣、打ち破って見せよ!!」

 その一言と同時にこちらへと突っ込むクラーケギルディ。わたくしの懐に入ろうという算段ですわね!

「そうは行きませんわ!ヴォルティック……ッ!?これは!!」

 次弾を発射しようとした瞬間、身体に何かが巻き付いてきた事に気が付き慌てて見回すと、なんと撃ち落とした触手のうちの何本かが身体に巻き付き、わたくしの動きを妨害しているではありませんか!?

「私の剣はもはや一本のみ。全身銃火器が相手では勝ち目がないのでな。さあどうする!!」

「ッ!外れない!!」

 さっきレッドを縛り上げていただけあって、撃ち落とされたものなのに、触手は頑丈に絡みついている。

 残りあと十数メートル、このままでは……!

「食らえ!貧乳斬!!」

 その瞬間、脳裏にあるヒーローが浮かびました。 昨日の戦いで師匠が再現してくれた、あのヒーローの姿が、印象に残っていたのでしょう。

 そうですわ、その手がありました!!

「貧ヒンンンンンンンッ!!」

 ギリギリまで引き付けて、クラーケギルディが斬りかかってきた瞬間、高らかに叫ぶ!!

「脱装キャストオフ!!」

 叫んだ瞬間、アーマーが全て弾け飛び、巻き付いていた触手を全て吹き飛ばす。

「何ィッ!!」

 勢いよく弾けたアーマーが直撃し、吹っ飛ぶクラーケギルディ。まさに、あの昆虫系ライダーでよく見た光景を再現していました。

「身体が軽い……これなら、接近されても手の施しようがありますわね!!」

 ヴォルティックブラスターを片手に、クラーケギルディに接近する。

「はああああ!!」

「む!?テイルイエロー、確かにお前の強さは認めるが、その下品な乳を晒すのはよせ!決闘の申し出か!!」

 言われてみれば、アンダースーツは白と黒のカラーリングで、身体にピッチリとフィットしたタイプのスーツですが、かっこいいと思いますし、腿が露出している程度なので、特に問題……いえ、ピッチリな時点で大ありですけど、流石に戦闘中に気にしていたら戦えませんね、ええ!

「ヴォルティックシュート!!」

 走りながらブラスターを連射、そのまま顔に飛び蹴りを叩き込む。

 しかしクラーケギルディも負けじと、私の飛び蹴りを剣で受け止め、弾き返す。

「確かに先程のタッグチェンジはいい判断だったが、近接戦では私の方が有利だ!!」

「そんなの、やってみなくては分かりませんわ!!」

 

 

 

 

 殴り合いは均衡していた。リヴァイアギルディは巨大な図体の割に素早く拳を繰り出してくる。

 俺はそれを躱しながら蹴りや手刀も交えて戦っているが、リヴァイアギルディもそれを見事に躱して反撃してくる。これが繰り返され、勝負が全くつかないのだ。

 その時、クラーケギルディと近接戦を始めた慧理那が見えた。

 まずい、慧理那は確かに戦えるようにはなったし、ヒーロー好き的に近接戦を挑みたいのは分かるが、恐らく徒手空拳は見様見真似でしか出来ないはずだ。そして何より、アーマーを外してしまったということはつまり、機動力と引き換えに防御力を犠牲にした事になる。

 フォトンアブソーバーがあるとはいえ、ドラグギルディ戦を見たところ幹部クラスともなれば、フォトンアブソーバーがあってもテイルギアへのダメージが完全には消しきれない。これは非常に危険だろう。

「イエロー!アーマーを装着し直せ!」

「余所見してる暇があるのか!!」

 俺が慧理那を気にしていた隙に、リヴァイアギルディの強力な回し蹴りが決まる。

「うわああああああ!!」

 見事に吹っ飛ばされ、地面を転がる。その時、カチッと何かがはまる音がした。

「確かにお前の拳も剣と同じく、心に響くものがある。だが、守ってばかりでは戦いに勝つことはできんぞ!!」

「確かにその通りだとも。だけどな、俺にとっては防御こそ最大の攻撃なんだよ……守る為に戦っているなら、守り続けることができる限り、俺は負けない!!」

「言ってくれるな。だったら見せてみろ!お前の守る強さを!!」

 言うが早いか俺に飛びかかり、殴りかかろうとするリヴァイアギルディ。

 俺も拳を突き出すと……そ・の・右・腕・に・装・着・さ・れ・た・ア・ー・マ・ー・を・展・開・さ・せ・た・。

「この距離ならバリアは張れないな!!」

「なんだと!?ぐおおおお!!」

 六連発、ゼロ距離でレーザーを打ち込まれ、怯むリヴァイアギルディ。

「まさか、イエローのアーマーが俺にも装着出来るとは…………」

 転がっている時、偶然にもピッタリはまったのでまさかとは思ったが、ちゃんと使えた。

「っと、そうだ!イエロー!腕、肩、背中のアーマー借りるから、残りはお前がちゃんと着ろ!!相手は幹部級だ、テイルギアの防御力を落とせば命取りになるぞ!!」

「ッ!!分かりました、お貸しします!!」

 よし、そうと決まれば早速使わせてもらおう。

 アーマーパージする時に慧理那は脱装キャストオフと言った。ならば、装着する時はこのセリフしかあるまい!

「「着装プットオン!!」」

 二つの声重なる時、誰よりも強くなれる。

 かけ声とともに胸、腰、両足のアーマーはイエローに。両腕、両肩、背中のアーマーが俺に装着される。

 そして炎と雷で属性がバラバラだからか、ファイヤードラゴンチェインが強制解除され、オマケのように俺の胸には男物の胸アーマーが形成され、装備が完成した。

「「そ、その姿は!?」」

 ちゃんとお決まりのセリフを言ってくれるリヴァイアギルディとクラーケギルディに、俺達は打ち合わせずとも答える。

「弟子イエローの役割である後方支援を俺が代わり……」

「わたくしが師匠ドラゴンの担当していた近接戦闘に適した軽装で前線へと出る為の形態、名付けて!」

「「半脱装形態ハーフブラストモード!!」」

 俺の、慧理那を一人で戦わせるわけにはいかないという使命感と、後方支援ばかりではなく、自分も前線で戦いたいという慧理那の願いを叶える為の───

 

 ───わたくしの、もっと千優さんの力になりたいという想いを形にした───

 

 ───共闘用の特殊形態!!───

 

 装備名や使い方は頭に直接伝わってくる。

 一瞬で確認を終えると同時に、ドラゴファングを取り出し、慧理那の方へとパスする。

「イエロー、これ使え!!」

「こ、これは!」

 近接格闘には向いていなくても、武器の扱いならDX玩具で遊び慣れた彼女にとっては得意分野のはずだ。

 飛んできた双剣を見事にキャッチした慧理那は、ありがとうございます、と微笑むとドラゴファングを逆手持ちにし、クラーケギルディへと突っ込んでいった。

「さて、そろそろファイナルラウンドと行こうか!!」

 右腕のレーザー砲を収納すると、ブースターとスラスターの出力を上げてクラーケギルディへと突進し、その勢いのまま腹にパンチを叩き込む。

「グゥゥッ!負けるものかぁぁぁ!!」

 腹にめり込む俺の右腕を掴むとそのまま俺を振り回すリヴァイアギルディ。

「うおぉおぉぉおおおぉぉぉお!!」

「うらあぁぁぁぁぁ!!」

 そのまま地面に叩き付けられそうになる俺。

 触手ではないとはいえ、一度は俺を救ったやり方だ。だが、同じ技は……

「二度も食うかっての!!」

 遠心力に振り回される両足をなんとか引っ込め、リヴァイアギルディの腕にしがみつく。

「ぬおぉっ!?」

 バランスを崩し、倒れ込むリヴァイアギルディ。

 うっかり俺の腕を離した隙に、俺は宙返りして着地する。

「まさかこれでも取り逃がすとは!だが、これくらいやってくれた方が、戦う身としても心が踊る!!」

「俺もだぜ……こんなにも熱い展開に、互いの力を認め会える敵、そして育てた弟子と共に戦える喜び!!ああ、こんなに喜ばしい事が多い戦いは……嬉しいもんだな!!」

 その瞬間、ブーストボタンに黄色い光が灯る。

「?これは……」

『新フォーム追加だ千優!その喜びでブーストしろ!!』

 ブーストボタンを連打する。これはまさか、もう一つの!?

『BOブ・BOブ・BOブ・BOブ・BOブ・BOOSTブースト!!限界突破ブレイクバースト!!』

 新たな音声とともに、身体中を電撃が駆け巡る。

 ギアは雷を纏っていき、脳裏には新たに開放された形態と、その能力が浮かぶ。

「歓喜招雷!テイルドラゴン、サンダードラゴンチェイン!!」

 

【挿絵表示】

 

キラキラ光る金色の体ボディ。脇腹からギザギザ稲妻の印。

 新たな姿で再び名乗りを上げると、立ち上がったリヴァイアギルディは叫ぶ。

「またしても新たな姿か!お前は一体いくつの姿を持っているのだ!!」

「俺はまだまだ進化できる。そうゆうことなんじゃねえのか?」

「フッ、貴様も先が楽しみな戦士よ……だが、俺にも一部隊の隊長としての矜持がある!この一撃で決着をつけるぞ!!」

「I jast wish!望むところだぜ!正真正銘、これがlast number最後の一撃だ!!」

 

 □□□□

 

「千優くんが……テイルギアの装備を使いこなしている!?」

 基地でモニターを見ながら、シャインは驚いていた。

 テイルギアは高いツインテール属性が無くては使いこなせない。そして、今まで千優からはツインテール属性が検出されなかったはずだ。

 それが何と、今、彼はそのテイルギアの装備を使いこなしているのだ。

 まさか、と思い今の千優の属性力を再測定する。

「これは!千優くんにツインテール属性が芽生えている!!」

 いつの間に芽生えたのだろう?

 いや、聞くまでもないだろう。おそらくあの瞬間──慧理那のツインテールが似合っている、と褒めたあの瞬間、本人がハッキリと自覚したのをトリガーに芽生えたのだろう。

「お嬢様への想いが、仲足に新たな力を与えた、という事か……」

尊の一言に頷くシャイン。全くもって、その通りだとしか言えないだろう。

「ふふっ……遂に目覚めたのね、眠っていた力が!!」

「未春将軍、まさか知っていたのですか?彼に眠るツインテール属性を」

「いや全然?なんとなく行ってみたくなっただけよ」

 ズベッと盛大にズッコケるシャイン。相変わらずノリで発言する未春さんなのであった。

 

 □□□□

 

「はあああああああ!」

「ぬおおおおおお!!」

 稲妻が走るような連続斬りを食らうクラーケギルディ。

 続けて脚に電力を集中させ、二連続で蹴り上げる!!

「ヴォルティックツインスタンキック!!」

「ぐあああああああ!!」

 軽装にしたおかげか、わたくしのギアに機動力が生まれ、素早い動きができるようになっていた。

「まさか、肩と背中の装備を減らすだけでもそこまでスピードに変化が出るとは……」

「決めますわよクラーケギルディ!」

「来い!私の剣と、貴様の師匠から借り受けた双剣、どちらが上か、そろそろかたをつけてくれる!!」

 クラーケギルディの細剣に力が集約されていくのが分かります。

 わたくしもドラゴファングに属性力を篭め、構える。

 千優さん、わたくしに力を!!

「貧乳斬!!」

「雷電一閃ヴォルティック・スラッシュ!!」

 細剣と双剣がぶつかり合い、激しく火花が散る。

「貧ヒンッッッッッッ!!」

「はあああああああああああ!!」

 激しい鍔迫り合いの末に、ピシッと音が響く。

 クラーケギルディの剣に亀裂が入ったのです!

「何ッ!?私の剣が!!」

「ハアァァァッ!!」

 そのまま一気に押し切ると、細剣はあっさりと折れました。

「ッ!?」

「ヤァッ!!」

 そのまま前蹴りで前方へと飛ばすと、向こうからは千優さんとの戦いに押し負けたリヴァイアギルディが飛ばされて来て、二体がぶつかる。

「「脱装キャストオフ!!」」

 互いのアーマーを脱ぎ捨てると、空中へと集まったアーマーは合体し、巨大な砲台へと形を変える。

「完成!ユナイトウェポン!そして完全脱装形態フルブラストモード!!」

「Oh!ちゃんと形態に固有名付けるあたり、さすがは俺の一番弟子!決めるぞイエロー!!」

「了解です、師匠!!」

 最後にわたくしのヴォルティックブラスターが合体し、ユナイトウェポンは完成!!

「「オーラピラー!!」」

 辺り一帯の空気を震わせる咆哮、そして轟音と共に天から降り注ぐ雷の柱と昇竜の如く天高く駆け昇る竜の柱が二体を捕らえる!

 師匠と同じタイミングで、竜と契約したライダーのポーズを取る。遂にこの瞬間が来た、と喜びを噛み締め、わたくしの属性力を全てこの脚に集約させて、いきます!!

 

「ドラゴニックゥゥゥゥゥ!!」

 竜の姿となった属性力粒子の渦に乗り跳躍し、溢れ出す属性力エレメーラを纏い竜と一体となる師匠。

 

「ボルティックゥゥゥゥゥ!!」

 ツインテールをバネのようにして天高く跳び、ユナイトウェポンからの砲撃に体を乗せ、自らが砲弾となる慧理那。

 

 跳躍後、空中で一回転し、標的に脚を向け、必殺キックの構えをとる。

 

「「ジャッジメントォォォォォォ!!」」

 雷を纏った竜が、捕らえた獲物を噛み砕き、麗しく、かつ力強く悪に審判を与える。

 着地し、地面をしばらくスライディングしながら止まる。

 次の瞬間、背後で爆発が起きたのが分かった。

「やった……やりましたわ!!師匠!!」

「ああ……Good Job、イエロー。よくやった……お前は、やっぱり俺が見込んだ英雄ヒーローだよ」

 イエローの頭を撫でると、満足そうな顔でふにゃっと笑った後、充電が切れたように崩れ落ちた。

 倒れたイエローをしっかりと抱き留める。

「お疲れ様……本当に、よく頑張ったな……慧理那……」

 先程まで二体が立っていた場所を振り返る。

 立ち上る砂塵の中には……リヴァイアギルディが立っていた。

「ッ!?お前、まだ生きて……」

「すまないテイルドラゴン……クラーケギルディは……俺に借りを返すと、俺を突き飛ばしたのだ……」

「reality!?」

 二度ある事は三度あると言うが、ここまで来るとどんだけ「まだ死ねない」って気持ちが強いんだよ、と突っ込みたくなる。

「全く、馬鹿なやつだ……借りを作ったままにしないのは俺の領分だというのに……あの騎士道かぶれが!!」

 自分だけが生き残ってしまったのが悔しいかのように、地面を踏みしめるリヴァイアギルディ。

 そうか……戦友ともと共に散る覚悟をしていたのか……なのに、自分だけが生き残ってしまった。

 それはとても辛い事だろう。

「……これ以上食い下がるのはみっともないと分かりきった上で、敢えて言わせてもらうぞ!!」

 そう言うとリヴァイアギルディは握り締めていた拳を開いた。

 その中には、クラーケギルディの貧乳属性スモールバストの属性玉エレメーラオーブがあった。

「散っていった戦友せんゆうと共に、悪足掻きをさせて貰うぞ!」

 リヴァイアギルディはその属性玉を飲み込むと、雄々しく咆哮した。

 その瞬間、どこかに転がっていたのか二本の触手が飛んできて、リヴァイアギルディの側頭部に合体した。

「乳という名の絆を分かち合い、同じ時を駆け抜けた戦友ともよ……今こそ最後の執念を見せようぞ!!」

『あ、あの触手……まさか!!』

「Why!?ツインテール……だと!?」

 驚いた。まさか触手をくっつけてツインテールを形作るとは……。

「「さすがだ、ツインテイルズよ。どれだけ賞賛の言葉を贈っても足りないだろう。だが、多くの同法達のため、我らも最後の命火を燃やそう!二つの命で、ツインテールとして、燃え尽きよう!!」」

 二体の声が重なって聞こえる。頭には触手のツインテール。そして股間には合体した際に再生した巨大な触手が猛々しくうねっている。

 リヴァイアクラーケギルディというべきか……合体し、完全変態メタモルフォーゼした二体は今、巨乳と貧乳の壁を超えて一つになったのだ。

「まったく、仕方のない奴らだ……いいぜ、最期は華々しく飾ってやるよ。俺と慧理那に力をくれた礼を、ここで返す!」

 慧理那を地面に寝かせると、再び上半身のアーマーを着装プットオンする。

「待ってくれドラ兄!俺にもやらせてくれ!!」

「レッド!?」

 いつの間に来たのか、隣に総二が立っていた。
「やっぱりこいつらは強い……何故かは分からないけど、どれだけ他に愛するものがあっても、アルティメギルの戦士にとって、ツインテールは別格なんだ。全てを失った時、最後に求め、縋るものがツインテールなんだ。それはもはや、信仰や崇拝を超えた、命に根ざすなにかなのかもしれない……。俺は、それに応えてやりたいんだ!!」

「レッド……よし、ならサポートは任せて、お前はトドメ刺すことだけに集中しろ!!」

「ああ!!援護は任せたぜ!!」

 俺は雷電の武装を展開し、レッドは炎の剣・ブレイザーブレイドを抜き、残された命を燃やす戦士のもとへ疾駆した。

 ツインテールと化した触手が、鞭となって俺達に襲いかかる。

「くっ……」

 触手とはいえ、レッドはツインテールを切り飛ばすのを躊躇する。

「Year!!」

 右腕のレーザー砲で迫った触手を打ち抜き、もう片方の触手は左腕のレールガンを食らわせる。

 だが一瞬の隙を突かれ、飛来した股間の触手に二人ともしたたかに打ち付けられてしまう。

 何とかレールガンを盾にしたものの、レッドと共にもんどり打って地面を転がり、止まらぬ勢いのまま廃工場の壁面に叩き付けられてしまった。

 老朽化した建物が衝撃に耐えきれず、雪崩のように倒壊していく。

 俺達が消耗しているとはいえ、ここまでとは……。

 だが負けられない。背後には倒れた仲間たちがいるんだ!!

「本当に、最後に残った力みたいだな……。初めから二人で力を合わせていれば、今の一撃で倒されていたかもしれない……。いがみ合ってさえいなければ……」

 レッドの言う通りだ。あんなに互いを理解し合い、共に戦えたのだ。こいつらがもっと早く和解していれば……。

「「真に分かり合えるはずはあるまい……巨乳と貧乳、それは別の存在なのだから!!」」

「違う!同じ胸だろう……!分かり合えるに決まってる!大きいのが好き、小さいのが好き!それぞれ好きなものを認め合えばいいじゃないか!!」

 意を決した表情で、ツインテール触手に剣を叩き付けるレッド。

 だが、リヴァイアクラーケギルディは硬度を上げた触手を交差させ、ブレイザーブレイドを楽々と受け止めた。

 そして横殴りに振るわれた三本目の触手を紙一重で躱す。

「俺は、全てのツインテールを愛する!!長くても短くても、結び目が高くても低くても、みんなツインテールだ!人それぞれ好みの差はあったって、ツインテールに変わりはない!!」

「「それほどの高みで、心を輝かせられる者ばかりではない!!」」

「人間をみくびんじゃねぇっ!!」

 鬼気迫る触手の……いや、ツインテールの猛襲を捌いていくレッド。なるほど、ツインテールの動きなら手に取るように分かるって訳か。

「「ドラグギルディとの戦いを経た以上、お前は世界の真実を知ったはずだ!容易く手の平の上で操られ、芽吹き、そして奪われる属性の儚さを!それでもまだ戦うか!!」」

「言ってくれるじゃねぇか。だが、お前らはまるで分かっていない!!ああ、全然ロックじゃないじゃねえか!!」

 疲労が溜まる体を奮い立たせ、左腕のレールガンに力を込めて放つ。

 電磁力で打ち出された雷の矢はツインテール触手に弾かれるが、俺はそのまま左腕を振りかざす。

「ライトニングブレード!!」

 レールガンのレール部分をブレードとし、その電磁力の刃で触手を叩き切る。

「「ぬおおおおおおお!?」」

「儚いからこそ、守りたくなるんじゃないか!儚いからこそ、守らないといけないんじゃないか!世界の真実だとかお前らの思惑なんぞ知ったことか!!守りたいと思ったからこそ戦う!俺にとっては、それだけで十分だ!!」

 アーマーを再び脱装キャストオフし、ファイヤードラゴンチェインにチェンジする。

「ああ、ドラ兄の言う通りだ!知ったからこそ戦うんだ!儚いからこそ、守らなくちゃいけない!それが、まがりなりにも世界にツインテールを芽吹かせた、俺の使命だ!!」

「「たとえそうだとしても!解らぬ!属性力エレメーラを糧にする我らと違い、お主達は属性力エレメーラを失おうと生きていくことはできるではないか!何故、生命と天秤にかけてでも属性力エレメーラを守る戦いを選ぶのだ!!」」

 まさしく命をぶつけるように残った触手を閃かせるリヴァイアクラーケギルディ。

 ふと足元を見ると、さっきレッドが落としたのであろうブレイザーブレイドが転がっていた。

 丁度いい、使わせてもらおうと、ブレイドを蹴り上げ、右手で柄を掴む。

「つまらないこと何度も聞くんじゃねえ!俺の答えは何回聞かれても変わらない。守・り・た・い・か・ら・……ただ、それだけだ!!」

「秤にかけようがねえじゃねえか……初めっから釣り合ってんだ……比べようがねえだろ!!」

 迫りくるもう片方の触手を燃え盛る炎剣で切り飛ばし、振り下ろされる股間の触手を、レッドが宙返りしながら両足で蹴り下ろして、地面に突き刺す。

「「完全開放ブレイクレリーズ!!」」

 巨大に伸長した二本のブレイザーブレイドを手に、二人の赤の戦士は疾走はしる。

 股間の触手から螺旋状に炎がほとばしり、オーラピラーが竜のように本体に巻き付く。

 お前たちに譲れないものがあるように。

 俺達にだって、この身体の核まんなかで鼓動する、譲れない想いがあるんだよ!!

 

「俺のツインテールは…………生命いのちだ!!」

「刮目しろ…………これが俺ヒーローだ!!」

 

 命と想い、信念を翼に変えて、はためかせる。

「グランドォォォォォ!!」

「ヴォルカニックゥゥゥゥゥ!!」

「「ブレイザ──────────────────────────────―ッ!!」」

 跳躍の勢いそのままに、リヴァイアクラーケギルディに炎刃を突き立てる。

 二対の剣は、×印にその身を切り裂き、焼き尽くした。

「うおおおおおおおお…………」

 豪炎に包まれ、力無く倒れていくリヴァイアクラーケギルディ。

「「よかろう……我らに吠えた心の輝き、真かどうか、星となって見守ろうぞ!汚れなく、純粋に、ツインテールの愛に!己の正義に邁進せよ!果たして、いつまで見続けられることか!」」

「お前たちがツインテールを愛する限り……ずっと見えるだろうぜ」

「ナイスファイト……いい勝負だったぜ。これでお前らも、俺の新友ともだ」

 命を燃やして戦い切った二体に、親指をグッと上げて称賛する。

「「フッ、死ぬ前に友がまた増えるとはな……だが、それも悪くはない」……と、そうだ」

 一体に重なっていた影が二体に分かれる。

 リヴァイアギルディの声が、俺に語りかける。

「テイルドラゴン……お前の弟子、テイルイエローだが……あの属性の輝き。俺でさえ初めて見た、初めて魅せられたあの輝きは………………愛だ……。あの戦士の属性力の輝きが、その属性への愛だけではなく、何者かへ向けられた、愛から来ていたものだと……」

「リヴァイアギルディ……」

「おっと、別に深い意味は無いぞ。ただ、あの戦いの中で得たこの確信を……俺が初めて美しい、と思ってしまった戦士の光を……言葉にしておきたかっただけだ……」

「……そうか……いい出会いをしたんだな……」

 クラーケギルディも、俺に伝えたいことがあるらしく、こちらへと歩み寄ってきた。

「私からも……我が麗しき姫の誇り高き騎士ナイトよ。どうか、姫に伝えてくれ……私は、死んでもお傍から見守っておりますよと……」

「ブルーが恐怖で泣くかもしれないから、あえて伝えなくてもいいか?」

「おお、これは手厳しい。ですが仕方ありませんね……姫が胸の小ささを気にしているのは、基地の記録で知っておりましたが……それでも自信を持っていただきたく、貧乳を褒め称えていたのですが、それも届かなかったようですし……」

「そうだったのか……って思いっきり空回りしてんなオイ!?」

 これはお恥ずかしい限りです、と笑うクラーケギルディ。

「貴公が姫と、その想い人を守り続けるのであれば、この私の力をお使いください。そのためであれば我が剣は、貴公に預けましょう」

「ああ。クラーケギルディ、お前の剣ちからは、確かに預かった」

片膝をつき、頭を下げて敬意を表すクラーケギルディの姿は、まさに主に忠誠を誓う騎士そのものであった。

「存在そのものを否定され、悔しいなんてものではなかったが……まあ、こんな最期を迎えられるのなら満足だ」

「ああ、その事だけどな」

通信越しに全て聞いていた。確かにトゥアールが二体に突きつけた言葉は─────愛香に言い放ったアレを除けば正論なのだろう。

だが、存在を否定されたままこの世を去るのは辛いだろう。だから俺は、二体に対して自分が感じたことを伝える。

「語り合ってはいるけど触れられない……その気持ちはよく分かるよ……お前ら、それに関しては俺と似てるから……」

カプ厨だし、ずっと見守ってきた総二と愛香にははやくくっついて欲しい。こうゆう場合、もっと俺が積極的に手を出せば済むのだろう。

だが、自然体のままで───つまり俺が手を出さずに、本人達自身が自分の意思で、自然に付き合ってくれることを望む気持ちも捨てられないでいる。だから未だに二人の仲を縮める為に直接何かする、という事が出来ず、現状維持が続いてしまっている。

触れずに見て、語るだけに留まってしまう。そこが俺と重なって見えたのだ。

「でもな、それも100%悪いってわけでもないと思うんだ……触れたら壊してしまいそうだから……純粋なものを犯したくないからこそ、触れられないものもある。花の愛で方なんて人それぞれだ。だから俺は、お前らを否定しない……」

もっとも、愛で方と育て方は別だけどな。こいつらと俺の違いは育て方も含めて悩んでいるか否かだ。

俺もそろそろこの悩みに決着つけないとな。

「ありがたきお言葉。これで私も悔いなく逝けるというものです」

「フン、別れの言葉を長々と続けるな。俺はもう疲れた。早く眠りにつかせてもらおう」

「おっと、それはすまない……じゃあな、気高い戦士たち」

 二体は頷き合うと、ゆっくりと消滅していった。

「ところで貴様、ご乱心召されていたとはいえ、姫に倒されるとは贅沢な奴め……」

「お前の方こそ、イエローに倒されるとはなんと羨ましい。トドメを刺されるのならば、そちらの方が悔いなく死ねたものを!」

「そちらこそ姫に倒されるという最高の名誉に預かっておきながら!!できることならその立場、私に代わってもらいたかったわ!!」

 ……何とも言えない口論を繰り広げながら……。

 

 

 

 

「どうしたんだドラ兄?」

「……え?」

 気が付けば、辺りはすっかり日が落ちかけており、俺の目線の先には倒した二体の墓標のように二本のブレイドが突き立って残っていた。

「あいつらが爆発した後からボケーっとつっ立ってたけど……何かあったのか?」

「そうなのか……?いや、別に……」

 総二には見えていなかったのか?ってことはさっきの二体はいったい……。

 巨乳属性ラージバストと貧乳属性スモールバストの属性玉エレメーラオーブ。二体の命の証を握り締め、天を仰ぐ。

 

「いててて……あ~、死ぬかと思いました……」

「仮面ツインテール、化けて出たか?」

「ってちょっと!?人を勝手に殺さないでくれます!?」

 瓦礫の間から這い出るようにして現れたトゥアール。つっこむ元気があるなら、大丈夫そうだ。

「まあ、ひとまずお二人を起こして帰りましょう。周囲に目はありませんが、強制変身解除の防止装置は急ごしらえなんで、そう長くは保ちません」

「分かった」

「了解」

『それじゃあ、起こしてくれ』

 おそらく戦っている間、ずっと二人を守ってくれていたのであろうマシンサラマンダーアクションモード、ことヒーローCが二人を担いでくる。

 地面に身体を横たえたブルーとイエローを起こそうとした、その時。

 

 

『見事じゃ……さらにツインテール属性の輝きを増したのう……』

 

 

 周囲一帯の空気を、澄んだ声が震わせた。

「誰だ!?」

 まるで、天空から讃美歌でも響いてきそうな、荘厳な雰囲気。

 夕刻ではあるが、夜の帳が下りるにはまだ早い。なのに周囲は不気味なほどに薄暗くなり始めていた。

『何だ、これ……闇、か?』

 蜃気楼が実像を持つように、地平線が揺らめく。

 比喩ではない、先ほどの二体とはまるで違うそれは、影・そ・の・も・の・と・し・か・言・い・よ・う・が・な・か・っ・た・。

 首から下を覆う黒衣。お下げのように胸に垂らされたツインテール。そして凛然とした瞳を彩る、眼鏡のフレーム。

 全てが黒で統一されていた。

 今倒した幹部エレメリアン達を遥かに上回る、周囲全てを覆いつくすような、強大な属性力エレメーラをみなぎらせながら少女は歩いてきた。

「……君は、誰だ?」

 レッドが問いかけると、少女は寂しそうに頭こうべを垂れた。

「そうか……分からぬか……」

「え、いや……忘れているだけかも、ごめん……」

 何だ?レッドのファンか?いや、どう見てもこれはコスプレなんかじゃないし、この属性力の強さ、只者ではない。

 直感的に、処刑人、という言葉が浮かんだ。

 ああ、確かにこの闇を纏ったような姿と、圧倒的な威圧感。さしずめ闇の処刑人といったところだろう。

「無理もない。あの頃は、まだ手足の伸びきっていない小娘であった。これほどまでに艶やかに美しく成長してしまっては、あの頃の面影を見つけ出せないのも仕方のないことじゃ」

 少女は、見下ろす形になるレッドに視線を合わせると、目元に涙を湛えた。

「だが……今度は貴女が幼女になってしまうとは、なんと皮肉な運命なのじゃ……!それは世界を超えた弊害か、それともカモフラージュか!?わらわがこうして、貴女の愛を受け止められるだけの身体になったというのに!!」

 少女は黒衣に手をかけ、一気に投げ捨てた。

「わらわは……ダークグラスパー」

「な、何!?」

「それは─────テイルギア!?」

 黒とは、輝きの対極に位置する色であるはずだ。

 光沢を持つ黒色の加工品はあっても、黒い光など見たことも聞いたこともない。存在すらありえないはずだ。

 だが、そのテイルギアにそっくりな鎧は輝いていた。

 禍々しさを超え、もはや畏敬さえ感じるほどの、凛々しく気高い純黒に。

「違う。これはグラスギア……頑強装甲グラスギア。眼鏡を愛する力、眼鏡属性グラスの力によって作られた、最強の鎧じゃ」

「支配者グラスパーと眼鏡グラス、頑強と眼鏡をそれぞれかけているってわけか……眼鏡だけに」

「ほう、そこの男、分かるやつではないか。気に入ったぞ」

 意外にウケていたようだ。……ん?このネーミングセンス、まるで……。

「貴女に憧れて作ったのじゃ、トゥアール。同じツインテール属性で作らなかったのは、貴女への敬意リスペクトあってこそ」

「……あなた?……トゥアール?」

 レッドが困惑するのも無理はない。今、少女は確かに仮面ツインテールではなく、レッドに向けてそう言った。それが聞き間違いでないことを証明するように、もう一歩近づき、はっきりとレッドの目を見据えて言った。

「そして、今のわらわはアルティメギル直属の戦士。貴女を迎えに来たのじゃ、トゥアール。童と共に、戦って欲しい」

 俺とレッドの隣で一言も発せずにいるトゥアール。

 仮面の下の表情を、俺達には窺い知ることはできない。

 冷徹に光る半黒縁の眼鏡のレンズが、少女の目に映しているものは、果たして─────。 
 

 
後書き
先週、編集していたある日、うっかり寝てしまった時、夢の中には「judgment of yellow(セリフなし)」採石場で戦うテイルドラゴン&テイルイエローの姿がありました。
これはもう天からの啓示かな、と起きてから気合を入れたものです。というかあの曲、セリフさえ無ければ普通に良い曲なんだよなぁ、と思うと共にセリフ無し+こっちではドM化しなかった慧理那=歌詞の意味大分変わるという事に気付き、つい笑ってしまいました(笑)
あと今回、今までで一番沢山ルビ使った気がします。

では次回!
トゥアール「次回!シーズン2突入!って、あれ?最終回じゃなかったんですね」
千優「不吉な事言うなよ、まだ二巻だぞ」
総二「ヒロ兄、メタいぞ」
慧理那「わたくし達の戦いは、これからですわ!!」
愛香「会長!それ打ち切りのセリフだから!!」
尊「ここで打ち切られては私が困ります!色んな意味で!!」
光「はてさて、次回はどうなることやら」
ヒーローC『新たな敵の襲来に、明かされるDr.シャインの過去。そしてドラゴン、名誉挽回!!』
未春「って事でタイトルコールよ!」
千優「次回、「虚偽ト過去ト眼鏡ノ支配者」に!」
一同「「「「「「「『テイルオン!!』」」」」」」」
千優「1周年!新章突入だ!!」 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧