俺、リア充を守ります。
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第10話「明かされるcolors」
ゴールデンウィーク中のある日
「そろそろ出勤するか」
俺は着替えて、ヒーローフォンと家の鍵をポケットに入れる。
今日はバイトだからだ。もっとも、勤め先はすぐお隣り。親友であり、大事な弟分である観束総二の母、未春さんの経営する喫茶店、アドレシェンツァなのだが。
店長同様、中二病を患ってるお客さんが集まる中二喫茶なのだが、最近はその店長が店を開ける事も多いので、お客さんが勝手に珈琲を淹れ、勝手にお代を払って、時には万札だけ置いて、お釣りも貰わずに帰ってしまう人もいるような自由経営状態だ。
正直、バイトとか必要ないと思うのだが、ちゃんと店員がいる方がお客さんも喜ぶから、と未春さんに誘われ、休みになるとバイトさせて貰っているのだ。
まあ、お客さん達が凄く生き生きとしていて、見てて楽しいと感じる事もあるし、給料も良い。
俺としては、恵まれたバイトだと思っている。
「さてと、今日のお客さんはどんなノリなのかねぇ」
玄関を開けようとしたその時!
『千優、開けるな!!』
「え?」
扉を開けた瞬間、額めがけて石が飛んできた。
咄嗟に左手で払い除けると、弾かれた石はそのまま庭へと転がった。
「あっぶな!?いきなりなんだよ!?」
石が飛んできたのは目の前。そこに立っていたのは……
「よぉ、あん時のクソ生意気なガキィ!!」
「この前の超・典型的なチンピラ男!?」
立っていたのはあの時のグラサン男だった。
どうして俺ん家に……?
「あの時は世話になったなァ……礼を返しに来てやったぜ」
よく見ると、グラサン男の手には金属バットが握られている。
光沢感と色ハゲや凹みのないところを見ると、どうやら新品らしい。
「逆恨みかよ……」
後ろ手に家の鍵を閉める。
両親は丁度買い物に出ているけど、家にはまだ弟の守友がいる。
巻き込む事は出来ない。
「でもな、武器を持ってきたからって、俺に勝てると思ってるのか?」
足を1歩前に踏み出すと、グラサン男の顔が少しビビった表情になる。
このまま威圧して帰らせる事も出来るかもしれない。
とはいえ、このまま引き下がるわけもないよな……おそらく塀の陰に仲間の二人が潜んでいるはずだ。
そんな事を考えながら1歩づつ近づいていく。
「そ、その余裕もここまでだ!!」
自宅の敷地を出ると、俺は、敵が3人どころじゃないことを知ることになった。
「食らえ!!」
「でりゃあぁぁぁぁぁ!!」
予測通り左右両側の陰から飛び出してきた2人。二人同時に俺の頭をバットで狙っていたが、頭を下げればぶつからない!!
そのまま互いのバットがぶつかり合ってる隙に右から来た方の顎下を殴り、左から来た方には蹴りを入れる。
「…………ッ!」
二人が倒れた瞬間、グラサン男が無言で俺に何かを向けたのを察して振り向くと、懐から取り出したスプレー缶からは何かが噴射された。
「グッ!?ゲホッゲホッ……そ、それは……」
「市販の催涙スプレーだ。これでお前の自慢の格闘術も半減ってモンよ」
あっという間に、俺は囲まれていた。
塀の陰に、まだ何人か仲間が隠れていたのだ。
「こいつら……全員お前らの仲間か!!」
ざっと数えて20人近く。全員男だが、共通している事に、服装が着崩した学生服……。
校則違反どうこうなんてものじゃない崩れっぷりだ。
「そうだ!俺らの無念を晴らすために、金で雇った不良達だ!!」
なるほど、どこの学校かは知らないけど、相当荒れてる学校なのだろう。
全員が新・品・の・金属バットや鉄パイプで武装している。
「いくら素早くて格闘経験のあるお前でも、この人数差、この武器の数なら……果たして逃げ切れるかァァァ!!」
次の瞬間、俺を囲んだ男達は一斉に武器を振り上げて━━━
「ストレート」
「悪いが、フラッシュだ」
「くそぅ……やるじゃあねえか」
喫茶店の一角でポーカーに興じている2人のお客さん。
その周りに何人か他のお客さんも集まって盛り上がっている。
それだけなら一見、特におかしな事は無い様に見えるが…………。
「もう一戦だ!」
「今度は何を賭ける?そろそろクッキーチップだけじゃ物足りなくなってきただろう?」
「ならこの一戦が最後。この勝負に、オレは…………魂を賭けよう」
「…………good!」
盛り上がるギャラリーたち…………と、自分たちの世界にのめり込んだやり取りが行われている。
これがこの店、アドレシェンツァの日常だ。
見慣れた光景になりつつあるけど、それでもやっぱり日に日に中二病のお客さんが増えている。
ホント、まるで母さんの中二属性に引かれ合うに集まってきているような…………いずれ何処かで引かれ合うと言われる幽波紋使いでも、ここまで一気には集まるまい。
「観戦中の皆さ~ん、珈琲のおかわり要りませんか~?」
「お、トゥアールちゃん。今日も可愛いねぇ、それじゃ1杯貰おうか」
「ご注文品をお持ちしました」
「ありがとう愛香ちゃん。今日も精が出るねえ」
「いえいえ。では、ごゆっくり」
そして、愛香とトゥアールもお客さんが多い時はキッチリ働いている。
つか、いつの間にかお客さんに名前を覚えられてしまっているのが気になるんだけど…………。
「総二くん、ちょっと注文してもいいかい?」
「あ、はい。ただいま」
って、俺まで覚えられているのかよ……。
その時、バンッ!と店のドアを勢いよく開ける音が。
見れば慌てた様子で店のカウンターに走り寄っていく1人のお客さんが。
「いらっしゃいま……」
「大変だ、大変だよ店長!」
どうやら緊急の用事のようだ。一瞬、またいつもの中二トークかと思ったが、この血相変えた表情はいつものそれとは何処か違うような……。
母さんの顔が真面目な表情に変わる。
「どうしたの?大変ってだけじゃ何があったのか、伝わらないわよ?」
「そ、それが……ありのまま今起こった事を話すぜ……オレはいつもの様に店に入ろうとしたんだ。そしたら、すぐそこの角の向こうから……」
言い終わる前に、開きっぱなしになっていたドアの外から唸り声と金属のぶつかり合う音、そして鈍い打撃音が聞こえてきた。
「なんだ!?」
嫌な予感がして、慌てて外に出ると……そこには金属バットや鉄パイプを振り回す、ガラの悪い学生達と、そいつらに囲まれて応戦するヒロ兄の姿があった。
「ヒロ兄!?」
「これは……!!」
続いて出てきたトゥアールも驚いていた。
こんな白昼堂々と路上で暴力沙汰を起こす連中がいるなんて……。
「あいつは……確か、この前会長と桜川先生に絡んでいた……」
「あ!!本当だ!!」
愛香の指さす先には、確かにこの前ヒロ兄に脅かされて、逃げ出して行ったチンピラ三人衆の一人がいた。
「ヒロ兄、動きがいつもと比べて鈍いわね……何かあったのかも」
「いや、アレで鈍くなってるのか!?」
「バットを避ける時のスピードが、いつもの回避速度より一瞬遅くなってるのよ。万全の状態じゃないのは間違いないわ」
そんなに細かい所まで分かるのか……流石、トゥアールがいつも何かやらかす前に阻止してるだけある……もう、死んだ爺さんも完敗だろう。
「見ているだけなのは嫌だもん。助太刀させてもらうわよ!!」
「ああ、行くぞ!!」
「仕方ありませんね、私も特別サービスしちゃいましょう!!」
店のエプロンを脱ぎ捨てる俺達。
なんかお客さん達から歓声が上がってるのは、この際気にしない!!
「あぁん?テメェら何モンd……」
「ハッ!!」
振り返った1人がバットを振り上げる前に、腹部に膝蹴りを入れ、背中に肘を勢いよくぶち当てる。
「ガッ!?」
倒れる暴漢。愛香の爺ちゃん直伝、水影流流術は伊達じゃない。
「女だからって手加減はゲゲルッ!?」
「手加減は……なに?聞こえなかったわよ?」
流石は愛香。三流小悪党の台詞も耳を貸さない。
喋ってる途中でも容赦なく顔に飛び蹴り、膝蹴り、回し蹴りを連続で決めていく。
正直、不良側が可哀想に見えてくるような…………。
この「慈悲などいらぬ」精神、頼もしいけどやり過ぎ注意して欲しいなぁ……。
「お前が一番弱そうだなぁ……」
「ひぃぃぃぃ!!私に乱暴するつもりですね!エロ同人みたいに!エロ同人誌みたいに!!」
って、気づいたらトゥアールが狙われている!?
「それじゃ人質にでもなってもら……」
「なーんちゃって!これでも食らって地に伏してください!!」
……と、思っていたら、白衣のポケットから取り出したスプレーを、不良の顔に吹き付けるトゥアール。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!臭いぃぃいいぃ!目がぁ、目がぁ〜〜あ゛あ゛あ゛ぁ゛~~~!!」
「ふっふ~ん、こんな事もあろうかと、対暴漢用に作っておいた特性スプレーが役に立ちましたね!」
鉄パイプを取り落とし、顔を押さえてうずくまる不良を椅子のようにして座り、脚を組みキメ顔で、おそらく予め考えていたのであろう台詞を発するトゥアール。
いつも通りだ……取り敢えず、心配要らないのは理解出来たと思う。
「まあ、本当は愛香さんに使ってやろうと思っていたんですけどね」
「こいつら片付けた後でそのスプレー、こいつらより危ない変質者に試してあげるわよ」
訂正しよう。心配あるな……身内の方に。
「総二!愛香!トゥアールも!?」
不良を無力化しながら、こちらに気付いて振り向くヒロ兄。
そのまま走り寄る俺、愛香、トゥアールと背中を合わせて、皆で円陣を組む。
「ヒロ兄、こいつらって……」
「ああ、この前の仕返しだとさ」
「それにしては派手すぎないか!?」
確かに人通りはそんなに多くない地区だが、それでも人が通らないわけではない。
通行人に見られる可能性も十分にあるはずなのにこれだ。
「ふぅむ……この人達、もしかして……」
「おや?トゥアールも俺と同意見か?」
「ええ、おそらくは。そうでも無ければこんな雑な犯行しませんよねぇ」
トゥアールとヒロ兄には何か分かったみたいだけど、俺にはサッパリだ。
愛香も頭を捻っている。
「とにかくそれは後回しだ。残りを全部片付けるぞ!!」
構えなおすヒロ兄。
「ああ!!」
「りょーかい」
「アイアイサー!」
俺達も、それぞれ自分の目の前にいる不良達に向き直る━━━
「か、かっこつけてんじゃねぇよ!つか、催涙スプレー使ってもまだ戦えるとか聞いてねえぞ!?……まあいい、4人に増えるのは予想外だったけどな、こちとらまだお前らの倍は人数いるっての!つまりお前らは……」
「いまだ不利だって言いたいんだろう?」
焦りを見せないように語気を荒らげているつもりなのだろうか、小物感が増している。
確かに、咄嗟に息止めて目をつぶったから催涙スプレーは目と鼻の粘膜には直撃していない筈だ。顔がちょっとヒリヒリするし、少し涙も出てきてるけど……それでもここで倒れたら、もしかしたら弟に、いや、父さんや母さん、下手すりゃ隣の総二や愛香、未春さんやトゥアールにも被害が及ぶ。そう考えると、この程度苦にもならなかった。俺だけを狙ってきてるのならまだしも、関係ない人達まで巻き込みかねない、こいつらのやり方は許せない……そんな怒りが腹の底からこみ上げていた。
さて、そんな数にものを言わせていきがってる小悪党にはお決まりの台詞で返してあげよう。
「確かに、数だけで見れば不利でしょうね」
おっと、俺より先に愛香が、言いたいことを先に言ってしまった。
「でもな、常に数だけで有利に立てる訳じゃないんだぜ?」
ありゃ?次は総二が続けてしまった。
「量より質、という言葉が今のあなた達にお似合いだということですよ!!」
トゥアールまで……俺の台詞取るなよ……。
でも……そこまで俺の事を理解してきているって事になるのかな?
と、そんな事を考えていたら3人が一瞬、こちらに目を合わせてきた。
決め台詞はよろしく、って言葉には出さないが、3人ともそう言っていた。
なら、俺が締めよう。
「つまりだ。今のお前らのその台詞、負けフラグだぜ!!」
人差し指をビシィッとグラサン男に突きつける。
「知るかボケェ!!口動かしてる暇あったらとっととやられちまえよ!!」
各々武器を振り上げて、一斉に襲いかかろうとする暴漢一同。
勝負が決まるのに、そんなに時間はかからなかった。
俺と愛香の素早く、かつ強烈な技の数々に、総二の愛香ほど卓越したものではないが力強く研かれた技、そしてトゥアールのトンデモ発明により、あっさりと、不良達は全員無力化されてしまった。
「ヒィッ!」
残るはグラサン男だけ!
だがその時、ブロロロロロと、こちらへ近づくエンジン音。
慌てて辺りを見回し、咄嗟に飛び退くと、一台のワゴン車が俺に向かって猛スピードで突っ込んでくるところだった。
「ヤバい!大通りの見張りやってるヤツから、サツがそろそろ此処に来ちまうって連絡が来た!!」
運転席から顔を出して叫んでるのはあのピアス男だ。
「チィッ!!クソッ、これでもダメなのかよ……」
開け放たれているスライドドアに飛び乗るグラサン男。
「あ、待て!!」
「待てと言われて待つ奴がいるか!覚えとけ!!」
ドアを大急ぎで閉めると、ワゴン車は急発進する。
あっという間に角を曲がって見えなくなってしまった。
その瞬間、張り詰めていた気持ちが緩んだせいか、疲れがいっぺんに押し寄せて来て、地面に膝をつきそうになってしまった。
「ヒロ兄、大丈夫か?」
総二が駆け寄って来て、肩を貸す。
「悪い……手間かけさせちまったな……」
「気にするなよ……俺たち、仲間で兄弟みたいなものだろ?」
「ハハッ、そうだな……俺たちは仲間で、親友で、兄弟分……ありがとう、総二」
互いに笑い合い、拳を突き合わせる。
その時、顔が痒くなり、涙が出てきそうになる。
しまった、皮膚の痒みも戻ってきたのか!
「あぁぁぁ!かゆい!!」
「千優さん、お顔、ちょっといいですか?」
「ん?どうしたトゥアール?」
スプレーを仕舞ったトゥアールが、代わりに霧吹きのボトルを取り出す。
「ちょいと失礼しますね」
顔に霧吹きから水っぽい液体が噴射される。
一瞬にして顔からも痒みが消え、涙も止まった。
「トゥアール、今のは?」
「さっきの特性スプレーの中和剤です。うっかり自分で吸い込んじゃった時のために、一緒に作っておいたんですけど、もしかしたら市販のものにも効くかなーと思いまして。あ、一応念のために、後で洗顔しといてくださいね?」
抜かりないな……そして相変わらずたまに便利なもの作ってるんだな。
「あ、今失礼なこと考えていませんでしたか?」
「いや、別に。トゥアールもありがとな」
頭の上に手を乗せ、ポンポンと撫でる。
「ちょ!千優さん!乙女の髪を易々と触るもんじゃありません!!」
「お、おう……スマンつい癖で……」
「まったく……私の髪に触れてもいいのは総二様だけですからね!!ってゆうか千優さん、もはやツインテイルズわたしたちのお兄さんというより、保護者……お父さん的な感じなのでは?」
「そこまで歳とってないぞ俺は!!」
総二も笑ってるけど、俺はまだそこまで老けてないぞ!!
「あーあ、結局逃げられちゃったわね……ナンバーもガムテープで隠されてたし、手がかりなしかぁ……」
走り去るワゴン車を途中まで走って追いかけようとしていた愛香がこちらへ戻ってくる。
いや、もしも追いついたら、俺はそろそろお前が超人類への進化の道を辿っている事を疑わないといけなかったところだからな……。
「愛香もお疲れ。相変わらず技のキレが日に日に極みがかってきているんじゃないか?」
「そうかな?私としてはまだまだ先を目指したいんだけど……」
おっそろしい事いうなぁ……。
「ところでトゥアール……さっきのスプレーは誰用ですってぇぇぇぇぇ!!」
「ひぎゃぁぁぁ!!脳が!脳が震えるぅぅぅぅぅ!!」
両手で首を掴まれて揺さぶられているトゥアールを横目に、角を見ると、パトカーがこちらへと向かってきていた。
不良達は全員が気絶か痛みに悶絶してるかだから、全員捕まえたことになるだろう。
というか、後で俺を襲うのに協力した理由も聞いておかなきゃ……。
あぁ、面倒なことになってきそうだなぁ……。
□□□□
「クソッ!!失敗しやがって……」
送った3人から失敗の知らせを聞き、机を殴る。
自分が裏で手を引いている事をがバレないように。「あいつらが勝手に実行しただけ」と言い張れるように。資金だけは出したが、計画の立案はあの3人に任せた。
しかし、それがこうも雑なものとは……。
「せめて路地裏に誘い込むとか、夜を狙うとか無かったのかよ!!」
本当に使えない奴らだ……せっかく積んでやってる金が無駄になるじゃあないか!!
「もっと……もっと使える駒が欲しい……無駄に金を消費させない、もっと思い通りに動く有能な駒が!!」
「ナラバソノ願イ、我ラガ叶エヨウ……」
何処からか声が響く。
馬鹿な、この部屋には僕しかいない筈……幻聴か?
「何処ヲ見回シテイル?私ハ此処ダ」
声のする方向……机に置かれたパソコンに目をやると、画面の中から黒い靄のようなものが溢れ出す。
「な……なんだこれ!?」
「君ノ望ミヲ聞キ入レル者サ。ジェラシェード、ト言エバ伝ワルカナ?」
「ジェラ、シェード……って、あの黒い霧の!?」
「フフフ……如何ニモ」
靄は人型の形を取り、赤く鋭い両目を爛々と輝かせる。
「人類の敵が、僕の願いを叶えようってわけ?」
「ソノ通リダ。君ノ動向ハ拝見サセテモラッタ。成程、良イ嫉妬心ダ。ダガ、邪魔者ヲ排除スル方法ニ於イテハ素人ダ。詰メガ甘イ」
「う、うるさい!僕じゃない、失敗したアイツらが悪いんだよ!」
そうだ、僕は何も失敗していない。資金は提供したし、警察に捕まっても僕に繋がらないように口止めし、逃走ルートも考えてやった。
作戦の立案と実行をしたのはアイツら……。
「……いや、待て……そうか、アイツらじゃ粗雑な計画しか立案出来ない……」
「ソノ通リ。君ハ奴ラガシクジッテ囚ワレタ時、「君の指示通りにやっただけだ」ト自分ノ名前ガ露呈スルノヲ恐レルアマリ、「始末しろ」トダケシカ命ジナカッタ。違ウカネ?」
「うっ……」
確かに、奴らの立てた計画の内容を確認する事もしなかったし、だから仲足の住所を聞いてきたんだって事も気が付かなかった……なんてこった、僕の落ち度じゃないか。
「ダガ、我々ニ協力スルノナラ、君ノ理想ノ駒トナリ、君ノ大嫌イナ彼ヲ排除スル事ナド容易イゾ?」
……迷うまでもなかった。
これを逃せば、仲足は消せないし、僕はいつまで経っても会長を手に入れる事が叶わないだろう。
正直、会長さえ僕のものになるのなら、世界なんてどうでもよかった。
他人の事なんか知った事じゃない。僕は僕の好きにすればいい。
「……協力すれば、生かしてくれるか?」
「ヨカロウ。我々ニ手ヲ貸ス以上、命ノ保証クライハシテナイト割ニ合ワナイダロウ」
「交渉成立だな」
「宜シイ。デハ、付イテキテモラオウ」
その瞬間、全身が黒い霧に包まれると、僕は目の前にパックリと開いた亀裂の中に吸い込まれていった。
……部屋に残ったのは、例の事件の後消されたはずの非リアコミニュティサイトを表示するパソコン。
次元の裂け目が閉じると同時に、画面は[このページは削除されました]の表示に切り替わった……。
□□□□
GW明け放課後
「いや~、大変でしたねぇ……」
「まったくだ……事情聴取めんどくせぇ」
「変な噂が立たないか心配したわよ……」
「母さんと見ていたお客さんが正当防衛って証明してくれたからな……」
GWの間は特にエレメリアンも現れず、デートシーズンだがジェラシェードの方も動きがなかったので、思いっきり休む事が出来た。
もっとも、あの襲撃事件の事情聴取とかあったのだが、すぐに終わってくれた。
「そういや、あのお客さん達俺らの冗談抜きのリアルファイト見ながら中々エキサイトしていたような…………」
「まあまあ、過ぎた事ですし。ところで、警察に通報したのは千優さんの弟さんなんですって?」
「ああ、そうらしい。以外にしっかりしてるんだな」
なんでも2階の自室にて、白き巨人殴って経験値稼いでたら、外から雑魚の武器や巨人の叫び声とは違う音が聞こえてきたもんだから、外見たら俺達が暴漢と戦っているのを見たので、反射的に通報したらしい。
さすが俺の弟。しっかりしてる。
「そういやあの不良達、あのチンピラ達に大金で雇われた、って言ってたけど?」
「予想通り、雇われただけの素人の犯行だったんですよね……」
「でも一体何処からあんな大金を……」
雇われた証拠として、グラサン男達から貰ったという札束が見つかったが、生憎指紋が残っていなかった。
「あのチンピラ達がどっかでカツアゲして、巻き上げたんじゃないの?」
「いや、それにしては大金すぎる……それにこの街の路地裏ではカ・ツ・ア・ゲ・は・有・り・得・な・い・……」
「え?」
「ヒロ兄、それってどうゆう……」
不思議そうな顔でこちらを見る3人。
「いやなに、その辺の事情に詳しい知り合いがいるのさ。この地区で余所者がカツアゲなんてしたら、この地区の不良がただじゃおかない。だから、有り得ないって話だよ。ついでに言うとあの不良達も、おそらく隣町から来たんだろう。雇われでもしなけりゃ、ここの不良との小競り合いになりかねないから、来ようとはしないだろう」
「な、なるほど……ヒロ兄、相変わらず顔広いな……」
さて、そうなると見えてくる答えは……。
「おそらく、あのチンピラ三人衆の更に上が……指示を下す存在がいるんだろう」
「自分は手を汚さず、ただ影から糸を引く……嫌な方法ですね……」
何処の犯罪界のナポレオンだよ……いや、あの人はその糸が蜘蛛の巣みたいになってるから尚更タチが悪いんだけどさ。
「うーん……って事はつまり……あのチンピラ三人衆、仕返しって言ってたけど、もしかして……」
「単にこの前の仕返しなのか、それともその上・とやらが俺に恨みでもあるのか……」
いや、考えすぎだろう。正直、俺に恨みのある金持ちの知り合いなんて心当たりがない。
きっとあいつら、どっかから横領したのだろう。
『難しい事考えてるお前らに、話題を180度変えるお知らせだ』
おっと、ヒーローCが話題転換になにか見つけてきたみたいだ。
「どうしたんだヒーローC?」
『どうやらツインテイルズの食玩、プレバン限定Ver.が出るらしい』
「「限定版!?」」
「ほう?」
「あ~、これですね」
さっきからノートパソコンでなにやら作業していたトゥアールが、商品ページを開く。
最近バンザイとかマキファ(マキシマムファクトリー)とかを始めとした会社がツインテイルズのフィギュアを売り出しており、ちょくちょく商品販売の項目で見かけるようになった。
今回新発売する、食玩のプレバン限定版のセット内容は、商品版と同じツインテイルズのメンバーがそれぞれ武器構えポーズと、武器なしポーズの二種類のフィギュアとスタンド。全八種類で一つがシークレットだそうだ。
「えっとなになに……レッドがブレイザーブレイド装備版と、これは恐らく初めて変身した日の指差しポーズか?んでブルーがウェイブランス装備版と髪紐属性リボン発動時の飛行ポーズか……」
『そしてドラゴンはドラゴファング装備版と、ヒーリングフルート演奏ポーズか。お、マシンサラマンダーのアクションモードもあるのか』
自分のフィギュアも出るのが嬉しそうなヒーローC。というかバンダイが張り切って、バイクモードからアクションモードへ変形するマシンサラマンダー作ったらしいが、最近は飛行モードも出たからどうするかで検討中だとか。
「そしてシークレットは……テイルドラゴン変身前Ver!?」
「テイルドラゴンじゃなくて、ヒロ兄がフィギュア化した……」
おいおいマジかよ……本人たちの許可取ってないだろ、ってのはどこの会社にも言えるから置いといて、シークレットでまさかの俺とか……。
しかもポーズは変身時。腰にヒーロードライバーが巻かれている。
ここまでやるとか、どんだけ本気なんだバンザイ。
「一般販売版、ツインテールの作り込みが甘いな……躍動感が足りない……」
神妙な顔つきで総二が呟いた感想がその一言だった。
「言うと思ったよ~」
「はぁ……総二の拘る方向がどんどんおかしくなっていく……」
「だって、この食玩を買い求める人はまず、ツインテールに注目するはずだろ?低価格帯のアイテムだからこそ、こだわるべき点を一点集中でこだわって欲しいじゃないか」
「……一理あるな」
「ちょっと!?ヒロ兄まで……」
愛香が額を抑えて首を横に振る。
「変身前テイルドラゴンの商品もチラチラと増えてきてますね……バイク搭乗ポーズのフィギュアや、なりきりコート、なりきりサングラスなんかも出てますし」
まさか、古着を改造しただけの変装キットだったコートとサングラスが商品化するとは……。
そのうちヒーローフォンをイメージしたスマホケースとか出るんじゃないだろうか?
その時、部室内にコンソールのアラートがけたたましく鳴り響く。
モニターを確認したトゥアールの顔つきが一気に険しくなる。
「ッ!物凄い力の属性力エレメーラが、2体!?」
「なにっ!?」
「多分、ドラグギルディのような幹部クラスが、同時に二体現れたんです!!」
なんてこった。それは、あの死闘を思えば、絶望的な報告だった。
「トゥアール、場所は?」
「都心の大型プラザホール前、ビル群ド真ん中になります!」
「それじゃあ幹部クラスが相手でも迷ってる暇は無いな……」
このまま放置すれば、大勢の人々から属性力が奪われてしまうだろう。
なら、相手がなんだろうが行くしかない!
「望むところよ!ドラグギルディにだって勝てた今の私たちなら、負ける気がしないわ!」
「その意気だ!行こうぜ、みんな!!」
「うん!」
「おう!」
「私も基地からバックアップしますからね!」
『システム感度良好。俺も忘れないでくれよ?』
気合を入れるとともにロッカーから基地へ、そして次元跳躍カタパルトへ。
「「テイルオン!!」」
「変身!!」
俺たちは頷き合って三人同時に変身し、トゥアールに見送られて基地の通路を走り、体の奥から迸る、熱い心の輝きそのままに、光のゲートへと飛び込んだ──―。
「この摩天楼を颯爽と闊歩する、巨乳のツインテールはおらぬかー!」
「違う!私たちは正しく貧乳のツインテールを求めなければならぬのだ!!」
光の中を走り抜け、辿りつた戦場では、このような汚らわしい言葉が乱舞していた。
総二と愛香が同時に蹴躓き、俺もズッコケる。
二人は両手を腰の横で、俺は二人の間で両手を頭の上までピンと伸ばしてヘッドスライディングしながらアスファルトを抉り砕き、ボブスレーの如く延々と道路を滑走。
5秒ほど後、ようやく止まった俺たちはアスファルトにめり込んだ顔をぐばっと音を立てて引っこ抜く。
「……何よ……何なのよ、最近のこいつらは!何で乳ばっかりにこだわってんのよ!!」
第一声は愛香の心の叫びだった。
「落ち着けブルー!今までだって大概だっただろブルマとかスク水とか!!」
「ニーソとか項うなじとか既に大体あんな感じだったじゃないか!何を今更絶叫することがある!!」
「あたしは乳を力に変えて戦う全ての存在が許せないのよおおおおおおおおおお!!」
俺と総二、男子二人には理解の埒外にある愛香の怒りが、咆哮と共に天を貫く。
バッファローギルディに励まされ、先日のヒーローCの報告によると、トゥアールの余計な一言でムードぶち壊しだったとはいえ、総二に諭されていたからもう大丈夫かと思っていた巨乳への嫉妬心……いや、ここまでくるともはや怨念の域だろうか……ともかく敵対心をまた煽られているじゃないか!!
「現れたな、ツインテイルズ!」
そして俺たちに気付いた二体のエレメリアンことのげんきょうが、こちらへ正面から向かい合う。
幹部級か……まずいな。場所がかなりまずい。俺が慧理那を通して発信してもらった奴らの特性から、ある程度はその危険性が認知されている。
だが、それでもエレメリアンは危害を加えないという中途半端な安全神話が流布されているせいで、中々ギャラリーが逃げてくれない。
むしろ見学、応援、撮影と呑気なもんだ……。いや、応援はモチベ上がるから大歓迎なのだが。
ここは都心のビル群の中の大型プラザホールの目の前だ。
基地でドラグギルディ戦の記録映像を確認したが、地面がひび割れて熔解していた。
あんな苛烈な戦闘を街中で開始されるとまずい……せめて監禁属性プリズンの監禁空間に隔離して戦わなければ……。
「こんだけ人が密集している場所で幹部クラスとやり合うのはまずいぞ……」
総二も同じことを考えているらしい。
対峙しただけで全身を殴りつけられるようなこの存在感……これが幹部級か!
と、早速、全身に鰭のようなパーツの目立つ、巨大なエレメリアンがレッドを見る。
海竜リヴァイアサン……リヴァイアギルディといったところか。
獲物が見当たらないが、武器は恐らく……胴体に巻き付けられた尻尾……だろうか?
リヴァイアギルディはレッドを見ると目を見開いて叫んだ。
「こ……これがテイルレッドか……。巨乳属性ラージバストの俺の心をも揺さぶる、三千世界に轟く究極のツインテール……惜しい!成長したその時に出逢えていれば、天の川ミルキーウェイを飾る輝星のような巨乳が彩っていたであろうに!!」
すると、もう一体の烏賊の怪物クラーケンのようなエレメリアンが怒声を上げる。
「妄言はそこまでにしろ、俗物め!彼女の美しさは既に完成している!神の造形に手を加えようなど、それは破滅をもたらす傲慢!それに、もう一人のツインテイ、ル、ズ…………は……」
「はいはいテイルレッドテイルレッドね、最近は私の事も気にしてくれる奴もいたけど、どうせアンタらはテイルレッドが一番なんでしょ。いいわよ、そっちがイチャイチャしてる間に、あたしはこっちを……」
落ち着け、と声をかけようとして愛香の方を見た瞬間、俺と総二は弾かれたように叫んでいた。
「「ブルー!!」」
「ッ────―!?」
ほんの瞬きほどの間に、烏賊型のエレメリアンが愛香の目の前に接近していたのだ。
あの愛香でさえ察知できないほど高速だったのか、それとも気配を完全に遮断していたのか。
『まずい、間に合わない!!』
致命的な隙を見せてしまったテイルブルーの前で、そのエレメリアンは何の冗談か、忠臣が王にそうするような恭しさで、片膝をついて礼をして見せた。
「…………………………美しい……」
「「『え?』」」
緊張が飽和状態だった総二は放心し、緊張がレベルマァァァックスだった俺は意外な台詞に少々戸惑ってしまう。
「美しい。まさか……敵である貴女がそうだったとは。何という神の悪戯……何という悲劇なる運命!!」
「いや、あんた……何言って……」
エレメリアンは儀式めいた動作で、腰に携えていた細身の長剣を引き抜き、刃に手を添えて愛香に差し出した。
「私の名はクラーケギルディ。我が剣を貴女に捧げたい。我が心のプリンセスよ」
「あんた、気は確か!?」
……ん?あれ、こいつもしかして……。
「貴女の美しさに魅せられたのですが!幾多の世界を巡っても、こんな気持ちになったのは初めてのこと!どうか、私の愛を受け取っていただきたい!!」
「ええええ…………」
テイルレッドはほぼ毎回こんな感じだったが、テイルブルーがここまで敵に絶賛されるのは初めてだ。
他でもない愛香が一番戸惑っているだろう。
でもな愛香、多分そいつが褒めているのは……。
「むう、とうとう出たか、奴の悪癖が。騎士道を奉じる堅物が故、ああなったら止まらん!!」
よく知った仲なのか、リヴァイアギルディが腕組みをし、苦虫を噛み潰したような表情でそれを見ていた。
「なあ、もしかしてあれって……」
「ああ、そうゆう事だテイルドラゴン。俺は止めんから、奴を止めたければ止めるがいい」
リヴァイアギルディ、お前に言われるまでもないぜ、と心の中で呟き走り出す。
一歩づつ、地面をけって、助走をつける。
「どうか、我が想いを!愛しのプリンセスよ!!」
「ええ、や、でも、そ、そんなの、困る……」
どんどん反論がか細くなっていく愛香。
「オイ!あの烏賊みたいなヤツ、ブルーちゃんに告ってるぞ!!」
「ふざけんなー!!俺だってまだなのに!!」
「いやお前じゃ無理だから。ブルーたんにはレッドたんが居るからな!」
「黙れこの百合豚野郎!!」
うん、案の定ギャラリーが揉め始めた…………見ててなんか見苦しいけど、レッド×ブルー派の人、君は正しいと俺が保証する。
そしてここぞとばかりに大音量で通信を入れてくるトゥアール。
『見ましたか総二様、これが女です!女の本性です!口でどんな綺麗事を抜かそうが、他の男にちょっと甘い言葉をかけられればそっちにころっといく!愛香さんこそまさしくビッチなんです、さあ、元気よく幻滅しちゃ……』
『黙れマジモンビッチ!!ブーメランにも程がある!普段まだ付き合ってもいない男の部屋に毎晩夜這いを仕掛け、あの手この手で貞操狙っているお前だけには言えない台詞だろうがこの淫魔!!』
俺の言いたいこと全部代弁してくれた相棒に感謝しつつ、右拳を握りしめる。
そして、この怒りを左手の親指に集中させ、ボタンを連打する。
「かつて、我らが大いなるアルティメギル首領様に剣を捧ぐ誓いを立てた時、聖布ヴェール越しに首領様は仰った。お前の剣に相応しき主を見つけよ、と。すでにお前の魂はもらっている、だから剣を捧ぐべき相手は自分自身で見つけよ、と!私はようやく、首領様のお心遣いに報いる時を迎「うおおおおおおおおお!!ア”マ”ソ”ン”ッ”!!」えぼりゅーしょんッ!?」
今俺の体を包み込む怒りの炎を乗せたアッパーカットをこの烏賊野郎の顎下へと叩き込む。
見事に吹っ飛んだクラーケギルディは、童謡にもあるようにビルの屋上……建物の屋根ともいえる部分の少し上まで飛んで、それから万有引力の法則に従って落下してきた。
童謡の様に、壊れて消えなかっただけよかったな。
「き、貴様、テイルドラゴン!!私の姫への求愛を邪魔建てするつもりか!!」
「邪魔するも何もねえ!あとブルーはお前のもんじゃねえ!いいか、俺の目が黒いうちは、ブルーには手を出せないと思え!!」
正直、今の俺の怒りは今なら怒りの王子に強化変身できそうなほどに膨れ上がっていっている。
愛香に言い寄る悪い虫……いや、こいつの場合烏賊か。
まあ、なんにせよ愛香には総二という想い人がいるのだ。その想い実るまで、俺はそういったものを祓う役目がある!!
「なるほど、貴様を倒さない限り、姫への愛は認められないという事か。貴様はさしずめ姫を守護する騎士……いや、それとも幽閉せし魔竜か?」
「個人的には前者の方が好みだし、そうでありたいと思っている。さあ、覚悟しろよ烏賊野郎!正々堂々、1対1で決闘だ!!」
一応怒ってはいるが、怒りに心を飲まれてはいけない。冷静さを保ったまま怒るのだ。
生半可なことじゃ収まりきらない、この怒りを……この戦いでぶつける!!
「決闘か。いいだろう!だがテイルドラゴン、一つ言わせてもらおう」
「なんだ?」
「私が貴様に勝ったのなら、姫への求愛を認めてもらえるのだな?」
……あ~、やっぱりそう来るか。
確かに俺の目が黒いうちは愛香に手は出させないとは言ったが……。
「それはどうかな?」
「何ッ!?それはどうゆう意味だ!?」
どうゆう意味も何も……これは最終的には愛香が決めるべきことだ。
それこそ俺が戦う意味。俺にとっての正義。
周りに漏れ聞こえないような声量で、クラーケギルディに言い放つ。
「ブルーにはな、想い人がいる。俺は、彼女がその想いを伝えるまで、彼女を守ると決めている。つまり、俺を倒したところで彼女が振り向いてくれるかは別、ということだ」
「……な、なんだと!?」
『監禁属性プリズン』
「プリズンキューブ!!」
属性変換機構に監禁属性の属性玉を投入、監禁空間を発生させる。
四方と頭上に透明だが、強固な壁が発生する。
幸い監禁空間の外にいるリヴァイアギルディは、宣言通り手を出さずに、1対1の勝負を許してくれている。
なら、これで周りの被害を気にせず戦える!!
「行くぞクラーケギルディ!!」
「いざ、尋常に!!」
ドラゴファングを呼び出し、細剣を構えるクラーケギルディへと突っ込む。
「フッ!ハッ!」
細剣で繰り出される突きを躱してドラゴファングで斬り付ける。
だが向こうも身を引いて回避する。
「ハァッ!セイッ!!」
細剣の切り払いを左手のドラゴファングで受け止め、もう片方のドラゴファングで斜め一閃!
「グッ!」
「ハッ!!」
そのまま右脚で蹴り飛ばす。
そして、イカリバーストを発動させれば、竜の牙は焔を纏う。
『BUバ・BUバ・BUバ・BUバ・BUバ・BURSTバースト!!』
「おお!それがクラブギルディを打ち倒した炎の二刀か!」
「行けぇぇぇぇぇ!!」
噛み砕くが如く、双牙を振るう。
その胸部をドラゴファングが切り裂こうとしたその瞬間、刃先がなにか軟らかいものに当たる。
「ッ!?これは!?」
「クッ!!」
切断された瞬間、鎧だと思っていたそれが何だったのかが分かった。
触手だ!烏賊のゲソに当たる部分だこれ!!
切断された触手は怒りの焔に焼かれながら地面にぼとりと落ちた。
「しまった、烏賊や蛸の怪人にはついていない筈がない、触手を見逃していた……クソッ、もうちょっと警戒しときゃよかったぜ……」
「そう!この触手こそ我が本来の武器!!その炎の剣が貴様の本気ならば、私も少々本気で行かせてもらおう。さあ、本当の勝負はここからだ!!」
そう言うとクラーケギルディは、体に鎧の様に巻き付けていた触手を展開させる。
イカの足は十本、いや、俺がさっき一本切り落としたから、残り九本か?
と思ったのだが、斬られた触手があっという間に元の通りに再生した。マジか……これ全部斬らないと再生する系かよ!?
「喰らえい!!」
瞬間、一斉に突き出される何本もの触手。
『千優!何本か切断して躱せ!!』
そうしたいところだけど早い!そして拳や脚なら動きを見切って先読みする事が出来るが、触手とか動きを読めない上に、四方八方から同時に食らわされると避けられない!!
俺は触手の連撃をモロに食らってしまった。
「ッガァァァアア!!」
オリハルコンフレームでもダメージを吸収しきれず、地面を転がり、監禁空間の壁まで激突する。
これが幹部級のパワー……強い!!
外でギャラリーのざわめく声が聞こえる。
「テイルドラゴン!!負けるな!!」
「頑張ってテイルドラゴン!!」
「ブルーちゃんを守るんだ!!ん?待てよ?俺達もレッドたんやブルーちゃんに告る時にはドラゴンさん通さないといけないってことか?」
「なるほど、つまりテイルドラゴンはお兄さんポジどころか保護者ポジ……つまり、俺らにとってはお義父さん!?」
いや、何故そうなる!?
応援に紛れて聞こえてくる戯言に突っ込みたくなる気分を押さえながら立ち上がる。
そういえば、レッドとブルーはどうなってる?
2人の方を見やると、リヴァイアギルディは相変わらず腕を組んでこちらを観戦している。
と思ったのだが何やら先程とは違った苦い顔をしている。
そしてテイルレッドとテイルブルーはというと……、
「い、い、い、い、いやあああああああ!!」
……ブルーが突然、絹を裂くような叫び声を上げたのだ。
「いや──―っ!!やだ、やだ、や──────っ!!」
「落ち着けブルー!どうしたんだ!?」
「触手……触手ぅぅぅぅぅ!!」
クラーケギルディの広げた触手を見て、異様に怯え始めた。
……あー、そういや愛香、ヌルヌルテカテカしてるものが苦手なんだっけ……。
「むぅ!?如何なされた姫よ!?」
監禁空間の中は完全防音されている。通信機越しに聞こえる総二や愛香の声と、ついでにヒーローCに頼んで外の音声も拾ってもらっている俺と違って、クラーケギルディは何故テイルブルーが泣いているのが分からないのだろう。
「姫!姫!ええい、今すぐにでもそのお傍に馳せ参じたいのに、この壁の邪魔な事!!」
監禁空間の壁を攻撃し始める始末……どんだけ愛香が気に入ったんだよ……。
この光景を見ていると、自然と怒りも収まってくる。
「こうなっては仕方ない。さあ、構え直せテイルドラゴン!貴様を倒し、ここから出させてもらう!!」
「もちろんだ。だけどお前は出させない!!」
ドラゴファングはさっきの攻撃で離れた所に転がってしまった。
よし、ここは学生服属性とドラゴホーンで……。
そう考えていた時、クラーケギルディは声高らかに宣言した。
「待っていてください姫!必ずやこの試練に打ち勝ち、無粋な朴念仁を糾弾した上で、貴女を振り向かせてみせると誓いましょう!!」
「……オイ、今テメェなんつった?」
今、とても聞き捨てならないセリフが聞こえたような……。
「何者かは存じないが、姫君の気持ちに気づかず、待たせ続けるような朴念仁は姫には似つかわしくないと言ったのだ」
「…………」
「これほどまでに美しい姫からの愛に気付かぬとは……遭った事はないが、余程の愚か者か性悪に違いない!!テイルドラゴン、姫の為に戦う貴様の信念は讃えるが……その男の為でもあるというのなら、貴様に問おう!何故、そのような男の為に戦うのだ?」
その一言は、収まりそうになっていた怒りを爆発させた。
「……ない……に……」
「む?」
「知らないくせに、勝手な事言ってんじゃねえぇぇぇぇぇ!!」
瞬間、体全体が炎に包まれる。
熱い!暑い!だが、今目の前にいるこいつを跡形もなく焼き尽くすにはまだ足りない!!
もっと、もっと!!熱く、強く、激しい炎を!!
この怒り、生半可な事では鎮まりきらない!!
『怒りエネルギーリミットオーバー!?リミッターがぶっ壊れただと……オイ千優、落ち着け!!これはヤバイ!危険だぞ!!』
「クラーケギルディィィィ!!」
「なッ!?なんだ……この炎は……」
□□□□
次元の狭間 何処かのポイント
「こ、これは……」
小さな管制室のような部屋で、その少年は驚きの声を上げて椅子から立ち上がる。
その声は少年のようであり、青年のようでもある。背丈は高校生ほどで、丁度その声に見合った、少年と青年の中間のような外見である。
白衣を羽織っており、中にはTシャツを着ている。
部屋のスクリーンには、現在行われているテイルドラゴンの戦闘映像が映っている。
そして、画面端には現在のテイルドラゴンのステータスが、表示されており、その数値は現在、通常のパラメーターを大幅に振り切っていた。
「まさか、こんな自己進化を果たすなんて……。仕方ない、そろそろ私も出る頃かな……」
少年は机のキーボードを操作すると、椅子に座り直し、シートベルトで椅子に体を固定する。
操作が終わると、スクリーンが引っ込み、キーボードの隣から運転用のレバーが現れる。
「are Go!!」
そう叫ぶと、彼は移動艇を全速力で発進させた。
□□□□
「……ドラ……兄……?」
突如、監禁空間の中で炎が噴き上がったと思った瞬間、監禁属性が解除。
壁が破壊され漏れだした熱風が俺たちを襲う。
そして、爆炎の噴き上がった場所に立っていたのは、全身をマグマのように真っ赤な焔に包まれ、二の腕や腿、腹部や顔の黒だけが溶岩のようにその中から露出したテイルドラゴンの姿だった。
「ちょっと……なに……あれ……」
愛香も一瞬にして泣き止み、その光景に驚いている。
「むぅ!?」
腕組みして傍観していたリヴァイアギルディでさえ、驚きを隠せていない。
「その姿は……一体……!?」
対峙しているクラーケギルディが、その恐ろしさを一番身近に感じているだろう。
そう、こんなテイルドラゴンは見たことが無い。
それどころか、全身から怒りが……殺気にも似た怒りが滲み出ている。
俺も身体が震えている。そう、恐・ろ・し・さ・を感じているのだ。
「グガア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
獣のような咆哮を上げ、クラーケギルディへと飛びかかる赤いテイルドラゴン。
もはや、これは人なのだろうか。
「全身を炎で包んだところで同じ事!ましてや、その獣の動きで私の触手を捌ききるなど!愚かな!」
四方八方から同時にテイルドラゴンを襲う10本の触手。
「危ない!ドラ兄!!」
また全身を刺突されて、吹っ飛ばされる!
そう思った俺は叫ぶ。
だが、今度は違った。
「グルァア゛ウ!!」
触手が一斉に切断された。
「何ィ!?」
クラーケギルディの瞠目する一点には、切断され、宙を舞う触手の先端と、刃の形状となり、触手を切断する焔があった。
「ウ゛ガァ゛ァ゛ア!!」
動揺したクラーケギルディの胸部を、引っ掻くテイルドラゴン。
その瞬間、炎が右手の指それぞれに集まり、爪を形成する。
「ウグッ!?」
炎の爪がクラーケギルディの胸部を引き裂き、クラーケギルディは身を引き、追撃を躱す。
「ハァッ!!」
細剣を突き出すと、剣先はドラゴンの手に握られてしまっていた。引き抜こうと引っ張るが、引き抜けない。
ミシッと、軋むような音が響く。
ドラゴンはそのまま、クラーケギルディの剣を折ろうとしているのだ。
「させるものか!」
まだ再生しきっていない触手を、ドラゴンの炎に覆われていない二の腕部分と燃える手首、足首に巻き付け、その身体を絡めとるクラーケギルディ。
ドラゴンが引き剥がそうともがくが、身体が上手く動かない。
「この剣は我が魂、折られる訳にはいかんのだ!!」
関節部分を触手に締め付けられているからか、今度は引き抜くことに成功する。
「クラーケギルディ、テイルドラゴンから離れろ!!」
突然叫ぶリヴァイアギルディ。
「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァア゛アァァ゛!!」
「ッ!?」
次の瞬間、ドラゴンの身体を包んでいる焔が勢いを増す。
「クッ!動けなければ火力で焼き尽くすつもりか!?」
触手による拘束を解こうと力を緩めた途端、左手で、右腕に巻きついた触手を素早く掴む。
「な、何ィ!?」
クラーケギルディの声を無視して、テイルドラゴンは触手を引きちぎった。
更に、レッグクローが足首の触手を切断。
あっという間に自由を取り戻していた。
「ウ゛グル゛ル゛ルァァ゛ア゛ア゛ア゛!!」
「ぬぅううぉぉおおお!?」
飛び退くクラーケギルディ。しかし、ドラゴンが掴んだ触手を離しておらず、そのまま引っ張られてしまう。
そして、クラーケギルディの脇腹に足を当て、触手を握り直すドラゴン。
「何を!?ま、まさか……」
俺もまさかとは思った。そして、そのまさかは的中した。
触手の2、3本をドラゴンは力任せに引き抜いたのだ。
宙を舞う触手。地面に落ちても暫くビチビチしてるのが、流石にちょっとグロいかもしれない……。
いつもと比べ物にならない、バイオレンスな戦い方はまるで……本能のままに暴れ狂う竜そのものだ。
「そ、そーじ……あれ、本当にヒロ兄なの?」
普段と比べ物にならない戦い方にか、それともビチビチしてる触手への恐怖なのか、愛香が震える声で俺に聞く。
「……知らない……俺が聞きたいよ……」
そう、こんなに殺気と怒りに溢れたヒロ兄は見たことが無い。
『不味い、千優は今完全に暴走してる!このままだとオーバーヒートを起こして、ギアが爆発するぞ!!』
「「うそだろ(でしょ)!?」」
ヒーローCの悲痛な声が通信に響き渡る。
『メンタルパラメータ、怒りに飲み込まれています……こんな千優さん、どうやって止めればいいんですか!?』
『クソッ!本当なら俺が止めるべきだけど、システムの冷却が忙しくて感情エネルギー変換システムの強制解除に手が回らない!!すまないが誰か、千優を気絶さるか、怒りを鎮めてくれ!』
「気絶させるか、怒りを鎮める?」
どっちも大変そうだ。
怒りを鎮めようにも、ヒロ兄は監禁空間の中にいる間、おそらく意図的に通信切ってたから、なんで怒っているのか分からない。
そして気絶させるにしても、俺じゃヒロ兄には勝てないし、クラーケギルディのビジュアルのせいで愛香も万全の力を発揮できない。
「テイルレッド、テイルドラゴンは今暴走でもしているのか?」
「え?ど、どうもそうらしいけど……」
その時、もう一体のエレメリアンが、妙にわざとらしい動作でそっぽを向き舌打ちをすると、
「チッ!興が殺がれたわ!元々小手調べのつもりであったが、暴走とはいえこれでは一方的過ぎて勝負にすらならん!!」
そして、テイルドラゴンをクラーケギルディから引きはがし、間に割って入ると、クラーケギルディに退却を促した。
「一旦引くぞ、その負傷では満足に戦えまい」
「止めるな!私が仕掛けた勝負だ、此処で逃げ出すわけには……」
「小手調べに来たのだということを忘れたか!?このままではお前が倒れるか、テイルドラゴンが倒れるかしなければ終わらん!!」
その時、またしてもドラゴンが唸り声をあげて跳びかかる。
「お前もお前だ!怒りに振り回されおって!!」
ドラゴンの胴体にリヴァイアギルディの胴体に鎧の様に巻き付いていた尻尾……いや、触手が巻き付けられる。
「いぃぃぃやぁぁあぁあああ!!何でこいつら二体とも触手なの!?」
「グガルル゛ウガア゛ァ゛ァァ!!」
リヴァイアギルディの触手をもその焔の爪で引き裂こうとするドラゴン。
だが、クラーケギルディよりも太く、頑丈な触手はびくともしない。
「ぐぬッ……いい加減に、しろぉぉぉぉぉ!!」
そのままその触手を振るい、ドラゴンをビルの壁に、そして地面へと叩き付ける。
「ッガァ゛ァ゛ァ……!!」
地面にクレーターを作って、ようやく暴れ竜は動きを止め……いいや、まだだ!
まるでゾンビのようにゆらり、と立ち上がるドラゴン。
「まだ動けるのか!?」
「しぶとい奴め……」
触手を引っ込め、何か技を繰り出そうとするリヴァイアギルディ。
だが、技を出すまでもなく、焔が一瞬にして消え去ると、ゆっくりと、崩れるようにドラゴンは倒れ込んだ。
「「ド、ドラ兄!!」」
「安心しろ、おそらく気絶しただけだ。まったく、手間をかけさせる……」
二体の背後に虹色のゲートが出現する。
「テイルレッド!今日のところは勝負を預ける!次の戦いまでに、その不甲斐ない相棒の涙を拭いておくがよい!!そしてテイルドラゴンが起きたら伝えろ!使いこなせない力に振り回されるような輩が、戦場に出てくるなとな!!」
「お前……」
「俺の名はリヴァイアギルディ!巨乳属性ラージバストを奉ずる戦士!俺は、こ奴ほど甘くはないぞ」
さすが、こういうところは義理堅い奴らだ。悪態はついても、愛香を泣かせてしまった仲間の責を、奴なりに感じたのだろう。
そしてヒロ兄への言葉も、どこか「次に戦う時までには使いこなせるようになっておけよ」というようなニュアンスが含まれているように感じる。
まるで、大海を支配する巨大な竜・リヴァイアサンのように、雄大な心、そして意気を持った男だ。
「クッ、仕方ない……勝負は次に預ける。次こそは決着をつけ、必ずや姫に我が愛を!」
「お前はそろそろ羽目を外しすぎだ、さっさと帰るぞ」
リヴァイアギルディに背を引かれるようにして、クラーケギルディはゲートの奥へと消えていった。
「だっだだだ誰があんたみたいなしょ、しょ、触手なんかにぃぃぃぃぃ!!」
愛香、もう帰ったんだからそろそろ落ち着きなよ……。
そしてその瞬間、ヒロ兄の身体が発光する。
「まずい!!ブルー手伝え!!」
「……ご、ごめん……腰が抜けちゃって……」
「な、なんだってえええ!?」
ヤバい……このままだと……。
その時、ものすごいスピードでこちらへとやって来たマシンサラマンダーアクションモードが、ヒロ兄を担ぎ上げる。
ヒーローCナイス!と思いながら、自分たちを包むようにオーラピラーを薄く展開させると、ギャラリーの間を突っ切って全速力で走った。
そのまま転がるように人気のない路地裏へ駆け込み、ブラインド代わりのオーラピラーを解除すると、案の定、気を失ったヒロ兄の変身は溶けてしまっていた。
あとほんの少しでも気づくのが遅かったら、全国放送でテイルドラゴンの素顔がさらされてしまっていた。何気に今までで最大のピンチだたのではないだろうか?
『総二様もドラグギルディとの戦いで力を使い果たした時、強制的に変身が解除されてしまいましたが、使用者の安全のための機能とはいえこれは危険ですね。次のメンテナンスで、テイルギア、及びヒーローギアに強制変身解除の対策をします』
トゥアールが申し訳なさそうに通信をしてくる。
「そうね、お願いトゥアール……」
「今のは俺もさすがに肝を冷やしたよ……」
俺達はこれからの戦いに不安を抱きながら、変身を解除した。
『総二様!愛香さん!駄目です!!』
「「え?」」
瞬間、俺の眉間を、電流のような刺激が走った。
鮮烈なまでの、ツインテールの気配。
背後から自分の身体に影が差した瞬間、俺は心臓が止まりそうになった。
息を吞んで振り返り、路地裏を見ると──―
「観束君……が……テイルレッド……」
肩で息をしながら、ツインテールを振り乱した神堂慧理那生徒会長が、呆然と俺達を見つめていた。
あれだけ人の目を攪乱しながら走り抜けた俺達をなお、急いで追ってきたのだろう。
「ち、違うの会長、これは……」
愛香がフォローする前に、会長は緩やかに壁にもたれかかり、そのまま崩れ落ちてしまった。会長も、あまりの衝撃に、意識を失ってしまったらしい。
そしてトゥアールが我を忘れたように捲し立ててくる。
『総二様!見られたなら……とりあえず裸に剥いてください!!今すぐにです!!』
「裸にしてどうすんのよ!」
『写真を撮って脅すにきまってるじゃないですか!誰かにバラしたらネットに流すって!正体を知られたヒーローと恥ずかしい写真を撮られた女の子!ほぼ対等の条件です!!』
「「『どこがだああああああああ!!』」」
希代の外道になれと仲間に唆されるが、俺自身、もうパニックで気を失いそうだ。
『ってヒーローC!?今まで何ボケっとしていたんですか!!サラマンダーの光学迷彩装置インビジブル・カーテン使えば、こんなことにはならなかったんですよ!?』
『こっちだって、千優運んだあと、ちょっとシステムの再起動するほどの苦労したのにその言い方ないだろ!?あ、あと今の音声と、千優が戦ってる間愛香に言った侮辱の数々は録音済みだから、後で覚悟しとけよ』
『ちょっとおぉぉ!?何録音してくれちゃってんですか!?千優さんが通信きってる間に普段我慢してる分までとことん愛香さんを煽り倒してやろうと思っていたのにぃぃぃ!!』
「今はそれどころじゃないでしょ!?ああもう!どうしたらいいのよ!?まだギャラリー残ってるかもしれないってのに……」
うん、この騒がしさで何とか冷静さを保てそうだ。
とりあえず、倒れた会長に近づく。
それを遮るように、目の前に一人の女性が割り込んできた。
「……さ、桜川先生……」
「お嬢様は軽いが、お前には仲足がいる。お前はそっちを頼むぞ、観束君」
驚くほど冷静に、まるで今のこの事態をどこか予期していた風にさえ感じさせるほど淡々と、言い、桜川先生はテイルレッドの正体を……俺を見つめてきた。
「その代わり、今度はちゃんと聞かせてもらえるな?君たちのことを」
威圧するような物言いではなく、むしろ、嘆願するような、それでいて薄々気づいていたような口調だった。
「世間の乱痴気騒ぎを見れば、隠したいという事情はよく分かる。だが、お嬢様はもうこれほどまでに狙われ、また、君たちの事情に足を踏み込みかけている。もう、傍観者ではいられんよ」
「……分かりました……でも、約束して下さい」
「ああ、誰にも話さん。この、私の名前を妻の名前に書いた婚姻届けに誓「「それはいいです(!!)」」……相変わらず仲が良いな……」
トゥアールに、俺の判断について確認を取る。そして、おぶられる事を恥ずかしがって中々俺の背中におぶさろうとしなかった愛香とひと頓着あったものの、俺は愛香を、ヒーローCはヒロ兄を担ぎ、桜川先生は会長を。
目立たぬように路地裏を抜け、家へと向かった。
後書き
作者が作業用BGMを某トカゲライダーズの主題歌にしながら書いた千優暴走シーン、如何だったでしょうか?
そしてようやく「彼」も姿を現しますので、現在急ピッチで執筆中の次回をお楽しみに。
さて、次回・・・
慧理那「・・・・・・やっぱり、夢じゃなかったのですわね」
尊「それにしても、学園きっての問題女子が二人揃ってツインテイルズ関係者とは・・・」
───遂にツインテイルズの秘密を知る慧理那と尊───
総二「なあ、トゥアール・・・ドラグギルディの属性玉、会長用のテイルブレスに加工できないか?」
愛香「一般の人にテイルギアを渡すのが、どうゆう事か分かっているの?」
───三つ目のテイルブレス───
?「私は、芹沢光せりざわひかり・・・Dr.シャイン、とでも呼んでくれ」
ヒーローC『マ・・・マスター!?』
トゥアール「あなたが・・・ヒーローギアを?」
───現れるヒーローギアの製作者───
千優「俺には・・・ヒーローとして戦う資格は・・・ない・・・」
慧理那「千優さん・・・」
───傷心の千優…そして───
慧理那「わたくしが、代わりに戦います!!」
エレメリアン「お前は!?」
慧理那「テイルイエロー、参上ですわ!!」
───遂に登場!テイルイエロー!!───
次回、「I'm a テイルイエロー!!」
尊「とゆう訳だから、新キャラの君!この婚姻届にサインしてくれ!!」
光「何故そうなる!?」
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