MOONDREAMER:第二章~
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第二章 勇美と依姫の幻想郷奮闘記
第49話 シスターウォーズ エピソード2/4
豹変したフランドールを止めるべく、勇美とレミリアが力を合わせ、依姫がそのサポートに付いての戦いが繰り広げられていた中で、とうとうフランドールのスペルカードが発動されたのだ。
「【禁忌「クランベリートラップ」】……」
フランドールが彼女自身の口からそう言った筈だった。だが、その声はとても幼い少女のものとは思えない程に耳を揺さぶる得体の知れない声であった。
とてもフランドールのものとは思えない声。だが、それでもスペルは問題なく彼女のものとして発動されてしまったのだった。
フランドールが手を翳すと、そこから果物のような鮮やかな赤い色の球体が放出された。
そして、それはレミリア目掛けて飛んでいったのだ。
「甘い!」
だが、レミリアとてそう易々と攻撃を受けてやるつもりはなかったのだ。
それが例え強大な力を持つ妹、しかも得体の知れない『何か』により更に増大した存在であってもである。
レミリアは持ち前の身のこなしでそれを迷う事なく真上に跳躍してかわして見せたのだ。
回避は見事に成功。だが、その後レミリアは目を見開く事となる。
フランドールの放った弾が着弾したその場は、まるで溶岩のようにドロドロに溶けて、赤い粘着質の深みが生成されていたのだった。正に、クランベリー色の罠がいとも簡単に作り出されてしまったのだ。
しかも、石造りの頑丈な床を易々と溶かしてしまったのだ。こんな罠に取り込まれては、文字通り一溜まりもないだろう。
このような威力は、さすがのフランドールと言えども、普段では絶対に見る事の出来ないものだ。
その事を頭の中で反芻し、レミリアは焦燥した。
(まずいわね……)
それがまごう事なき、レミリアの感想であった。
今のような攻撃なら、レミリアの身のこなしを以ってすれば何とかかわせる。
だが、問題は勇美の方である。生憎、彼女は飛ぶ事が出来ないのだ。故に跳躍して回避するという芸当は出来ないだろう。
勇美はレミリアにとって有難い加勢である。だが、飛べない以上、酷な言い方になるが『足手纏い』なのである。
その事をレミリアは恨むつもりは毛頭なかった。だが、今の状態では彼女の足を引っ張る事は否定出来なかったのだ。
そうレミリアが思っている内に、無情にもクランベリートラップの第二波が放出されようとしていた。
そして、遂に彼女の手から、果物のような美味しそうな色の誘惑を纏った罠が威勢よく発射されたのだ。
更に悪い事に、その狙いは勇美にあったのだ。
狙っても確実には仕留められないレミリアよりも、より実現率の高い連れの方をとフランドールは思ったのだろう。
どうやら、この豹変したフランドールは獣のような振る舞いに似合わず、知恵が働くようであった。
「勇美!」
本来ならレミリアは吸血鬼故に、人間に対する情は殆ど沸かない筈である。
だが、この時の彼女は明らかに勇美の事を気遣いながら叫んでいたのだった。
「レミリアさん、嬉しいですね。人間である私を気遣ってくれるんですね」
そう勇美は微笑みながら言ってのけた。どこか余裕だ。
「そんな事言ってる場合じゃないでしょう!」
レミリアはそんな場違いなのたまいを見せる勇美に叱責する。彼女にはフランドールの余りにも強大に膨れ上がった力で、勇美が自棄になってしまったかのように思われたからだ。
だが、それはレミリアの思い違いであったようだ。勇美は問題無いとばかりに懐からスペルカードを取り出し、宣言する。
「【空符「倒し難き者の竜巻」】」
勇美は既に呼び掛けておいた『風神』の力を借り、目の前に巨大な送風機を現出させて見せたのだ。
そして、送風機のファンは力強く回り始め、瞬く間に激しい突風を生み出したのだった。
それにより、赤い粘着質の罠は空中で大量の雫を撒き散らせながら押し返され、そして完全に吹き飛ばされてしまった。
後には、何事も無かったかのように、地下牢が存在していたのである。
その様子をレミリアは唖然と見据えていた。
「すごい……」
彼女らしくなく、レミリアは素直に賞賛の意を込めて呟いていた。
彼女はかつて一度勇美と相まみえているから、その実力は知ってはいた。
だが、あの時は対戦相手、つまり敵として関わったのだ。
しかし、今は味方として彼女は行動したのだ。故にその心強さをレミリアは身を以って体感する事となったのだ。
「これは頼もしいわね♪」
「ありがとうございます。でも、私の戦い方って危なっかしいから、余り頼らない事をお勧めします」
そんな軽い口調で言い合った二人は、またも以心伝心による微笑みを交わし合った。
(勇美。レミリアと息がピッタリのようね……)
天子と衣玖との時も、最初依姫と協力して戦った勇美。その時も依姫との抜群のコンビネーションを見せていた(尤も、相性が良すぎて彼女のためにならないと依姫は分離して戦うように仕向けた訳であるが)。
そして、今回もレミリアとの見事な連携を見せているのだ。
これは、彼女の力が借り物による所が大きいだろうか。彼女自身の力で無いが故に、彼女は力を欲する心が強くなっていったのだろう。
故に、他者の力をうまく活用しようという念が強くなり、結果力を合わせる能力が磨かれていったのか。
つまり、勇美は自身が力を持たざるが故に、周りの力を取り込む性質を向上させていったという事であろう。
この先、この勇美の『力』が役に立つだろう。そう依姫は根拠はないが、そう確信めいた感情を抱くのだった。
◇ ◇ ◇
そして、勇美とレミリアの、フランドールとの戦いは続いていたのだ。
フランドールはエネルギー弾を発射するが、それをレミリアは勿論、勇美も巧みにかわしていったのだ。
勇美は先程のような得体の知れない罠なら自身の機械の写し身を利用しなければならないが、普通の弾なら自分の力で避けられるようになっていたのだ。彼女とて伊達に弾幕ごっこはやってはいなかったのだ。
「あなた、結構やるわね」
「ええ、弾幕ごっこと依姫さんの稽古の賜物ですよ♪」
そう。それに加えて彼女は月の英雄の英才教育まで施されているのだ。つまり、勇美が今まで得て来たものは大きいという事である。
「それは頼りになるわね」
「お褒めの言葉、光栄です」
言葉のキャッチボールも滑らかとなる勇美とレミリア。だが、ここでレミリアの表情が真剣なものとなる。
「でも、油断しない事ね……」
「ええ、分かっています」
勇美もシリアスな面持ちとなる。それには訳があった。
それは、フランドールが最初のスペルのクランベリートラップ以降、全くスペルカードを使用していない事にあった。
そう、まるで。
「私達、遊ばれているわね」
「はい……」
レミリアの意見に、勇美も同意するのだった。
──相手の遊びに付き合わされている。それが今の状況の如実な表現方法であった。
確かに普段のフランドールにも、そういう所はある。彼女は無邪気が故に、遊び好きなのだから。
だが、今の彼女は違った。言うなれば『私を楽しませなさい』という上から目線の念が込められているかのようであった。
フランドールは遊び好きであれど、それは自分自身の力で楽しもうとする姿勢を見せるのだ。断じて他者を自分を楽しませる為の道具としては利用したりはしないのである。
だが、今の何かに取り憑かれたフランドールは違った。まるで、ぶくぶくに増長した自己愛から生まれる支配願望を体現しているかのようであったのだ。
そして、とうとうフランドールの第二波が発動される事となった。
にんまりとフランドールはこびりつくような笑みを浮かべながらスペルを宣言する。
「【禁忌「フォーオブアカインド」】」
その宣言によって発現した現象に、勇美は驚愕する事となる。
何と、フランドールの肉体が、立体コピーをしたかのように綺麗に四つに増えたのだから。
「フランちゃんが、四人……!?」
「勇美は初めて見るのだから、驚くのも無理はないか……」
驚く勇美に対して、レミリアは達観した様子でいた。
肉体が四つになるという事態は、さすがの吸血鬼の視点から見てもそうそう起こりうる事ではないのだ。
だが、やはり肉親だからとでも言おうか、レミリアは最早慣れた様子であった。
そんなそれぞれの思惑になる二人をよそに、フランドール……いや、フランドール『達』は一斉に砲撃の準備を勇美とレミリアに向けた。
「ケケケ……」
「ヒャハハハ……」
「セイゼイ足掻け……」
「デハ、発射!」
そして、四つの砲門から紅色の砲弾が次々に発射されていったのだ。
これは、純粋に先程よりも攻撃の手が四倍となった訳である。
勇美はどうしたものかとその弾を避けながら思案していた。
「う~ん、どうしよう?」
「私に聞かれても困るわね……」
さすがのレミリアも、これには答えを出しかねてしまうのだった。
「ですよね~……」
それはそうだろうと勇美も納得する。
だが、このままでは埒が明かないだろう。
ここは依姫に頼るべきだろうか?
(さて……)
よけながらも勇美は思案する。
ここで依姫の助力を得るのは簡単である。だが、それはお互いに最終手段にしたい所である。
そう思い、勇美はその考えを心の奥底に仕舞うのだった。
これは、あくまで勇美とレミリアの戦いなのだから。だから、勇美自身がこの場をどうにかしなければならないだろう。
だが、生憎彼女には今しがた名案が生まれたのだった。
「レミリアさん、盾って使った事ってありますか?」
「何よ、突然?」
突拍子もない勇美の質問に、レミリアは耳から脳を引っ掻き回されるかのような変な気分となってしまう。
「いいから、答えだけでもお願いします」
「……、無いわね」
そうレミリアは答えた。その後言うのが彼女の答えである。
「私は、防御なんてまどろっこしい事は余りしないからね。攻撃は最大の防御、これが私のモットーさ」
そう言ってレミリアは胸を張って見せた。
それを見て、勇美は『サイズは私と同じ位か……』等と思ったりしていた。
人間年齢で12歳位で、14歳である私は同じ位か。勇美はそう複雑な心持ちとなるのだった。
(まあ、それは一先ず置いておくか……)
勇美は珍しく胸の事で引きずらずに済んだようだ。
その勢いに、勇美は乗る事にする。
「石凝姥命よ、お願いします」
そう言って勇美は力を借りる神に呼び掛けた。実はその際に心の中でもう一柱の神にも呼び掛けていたのだが。
そして手筈は整った。勇美は得意気にレミリアに呼び掛ける。
「レミリアさん、防御が苦手なら、攻撃感覚で行きましょうね♪」
「?」
レミリアはそう勇美に言われるが、何を言わんとしているのか察する事が出来ずに首を傾げた。
そんなレミリアに対して、勇美の懐が光輝き、そこに色々な部品が集まっていったのだった。
「何が起こるのかしら?」
そう思うとレミリアはいつの間にか楽しくなって来たのだった。
何でも楽しんでやる。それがレミリアの強みなのだ。
だが先程までは狂乱し豹変したフランドールの圧倒的な威圧感と脅威に押され、紅魔館の家族がいなされるのを目の当たりにしてレミリアは自分を見失いかけていたのだった。
しかし、その勘を目の前の勇美は取り戻させてくれたのだ。
勇美自身には、そのような狙いは毛頭なかったかも知れない。
であれども、勇美には本人が気が付かない内に周りの者達をさり気無く良い方向に導く『何か』があるのかも知れない。その事に対しては一番彼女の側にいる依姫も感じている事だろう。
そして、光の収まった勇美の手には、鏡が現出されていたのだ。
「……何よそれ?」
レミリアは唖然としてしまった。それには突っ込み所が多かったからである。
まず、鏡と言えど、その持ち手は棒のように長いのだ。まるで金魚掬いの網と虫取り網の形状と足したような、極めて珍妙な物であった。
次にである。
「何で二つあるのよ」
「どうですか♪ これが『ジェミニ』様の力ですよ♪」
勇美は胸を張って、どうだと言わんばかりの態度を取って見せる。
──ジェミニ。双子の語源ともなっている、その名の通り双子の神である。故に勇美が顕現させた機械仕掛けのアイテムも双子誕生の如く二対となったのだった。
その事を勇美はレミリアに説明すると、彼女は「問題はその事ではないわ」と言った。
「私が聞きたいのは、二つにした理由よ」
それは尤もな事であった。勇美自身が使うアイテムなら、一つで十分な筈である。──妖夢のように二刀流にでもするのなら別であるが。
「それはですね~、これ、是非ともレミリアさんにも使って欲しいなぁ~って」
「! そういう事か♪」
それを聞いてレミリアは心弾むような気持ちとなったのだ。
自分だけではなく、相方にも楽しんでもらいたい。その粋な計らい、嫌いじゃないとレミリアは上機嫌となるのだった。
「面白い事考えてくれるじゃない、それじゃあ有難く使わせてもわうわ♪」
レミリアはいい気分に浸りながら勇美からその謎のアイテムを受け取る。
そんなやり取りを凶暴に豹変したフランドール『達』が黙って見ている筈もなかった。
「茶番ハ済ンダカ?」
「大概ニシトケヨ、クズドモ!」
「死ネ!」
フランドール軍団は口々に憎しみの混じった台詞を言い合うと、一斉に両手を構えると、紅色の弾を次々に発射したのだった。
「レミリアさん、早速来ましたよ!」
「ああ。でもこれはどう使えばいいのかしら?」
「それは、直感が示す通りにすればいいですよ」
勇美はざっくらばんとそうレミリアに言った。
説明にしては余りにも大雑把だろう。しかし、勇美の一言でレミリアは合点がいったようであった。
「だったら、これしかないわね!」
そう言ってレミリアは足を踏み込み、蝙蝠の翼の力も加えて一気に加速して弾の一つに突っ込んでいったのだ。
そして、手に持った謎のアイテムの先端が弾に当たるように振り翳したのだった。
次の瞬間、フランドールの弾はパコーンという非常に小気味良い音と出して、レミリアのその振りにより弾き返されたのである。
そして、その弾はフランドール目掛けて飛んで行ったのだ。
これでフランドールにダメージが与えられるか。だが、そううまくはいかなかったのである。
「フン!」
フランドールは鼻で笑うと、迫って来た自分の弾を、何の問題も無いとばかりに素手で掴み、まるでトマトのように軽々と握りつぶしてしまったのだ。
「猿ノ浅知恵トハコウイウ事ダナ」
「我ガ自分の攻撃デヤラレルワケガナイダロウガ、カスガ」
フランドール達は拍子抜けだと言わんばかりに品性の無い罵り言葉を吐き殴る。
だが、その様子を勇美とレミリアはさして気にしている様子は無かったのだ。そして二人は笑みを浮かべながら目配せをした。
「まさか、これで終わる訳がないじゃないですか」
「フランに取り憑いているお前こそ、ものの見事なみそっかすだなあ」
「!」
二人のやり取りを見たフランドールはこめかみの部分が弾けるような不快感を味わった。
「言ワセテオケバ……」
「口ノ聞キ方ニキヲツケロヨ!」
「現ニ攻撃ハ我ニハ届カナカッタダロ?」
フランドールの集団は皆苦虫を噛み潰したかのような歪に歪んだ表情を見せる。
それを二人は得意気な表情で見据えていた。
「それだけ自分に自信があるなら、もう一回やってみたらどう?」
レミリアは憮然とした態度でフランドールの姿をしたならず者達に言ってのける。
「調子ニノルナヨ、クズガ」
「ナラバオ望ミ通リボロ雑巾ノヨウニシテヤルカラ覚悟シロ!」
そう言ってフランドール集団は再度両手を構えて迎撃態勢に入った。
そして彼女等は先程よりも激しい間隔で紅の弾の砲撃を仕掛けていったのだ。
「来たわよ、勇美。しかも今度は激しいわね」
「でも、それが私達の狙いだってのにねぇ~」
そう言い合いながら、勇美とレミリアはアイテムを構えて準備態勢に入った。
そこへ、容赦なくフランドールの紅い弾の群れは怒涛の勢いで今正に彼女達へ迫っていたのだった。
瞬間、二人の目に光が灯った。
「【返符「ミラーダブルス」】!!」
そして、二人は迫り来る弾という弾を次々に打ち返していったのだった。その度に軽快なインパクト音が響く。
勿論、攻撃を防ぐだけではなく、その攻撃を相手方に送り返しているのだった。返された弾はフランドール達に着弾する度に小規模な爆発を起こしている。
「グゥゥゥーー!!」
「クソガッ!」
そして、フランドール達は今度はその攻撃を防ぐ事が出来ずにダメージを負っていったのだ。確実に彼女達は苦悶の表情を浮かべていた。
その様子を見ながら依姫は感心していた。
「二人とも見事ね。特に勇美ね」
そう依姫は思うのだった。
人間の身体は脆弱で妖怪や他の種族と比べて弱い。
勿論勇美も人間であるから、その肉体には限界があるのだ。
だが、彼女はその限界の中で確実に成長をしていた。あくまで人間としてであるが、勇美は肉体面でも初めて依姫と出会った時から洗練されていたのだった。
でなければ、レミリアと協力しているとはいえ、ここまで軽快に弾幕打ち返しの反撃を行う事は出来ないのだから。
まるでプロのテニス選手ね……。そう依姫が感慨に耽ようとした時、その心地良さを吹き飛ばす衝撃が彼女の頭の中を走ってしまった。
「テニス……テニス……!」
これじゃあ石凝姥命というか錦織圭選手だと、依姫は気付いてしまったのだ。
世の中知らない方がいい事もある。その事を依姫は今痛感するのだった。これじゃあただの駄洒落だと。しかも神様を駄洒落に使うのかと。
依姫がそんな心の痛みに苛まれる中でも、勇美とレミリアの快進撃は見事に決まっていったのだ。
「グァァァア……」
「クソ……『フォーオブアカインド』ノ効果ガ……」
フランドールの一体のその言葉が示すように、度重なるダメージにより、彼女『達』を創っていたスペルの限界が近付いていったのだ。
そして、それは起こった。四体になっていたフランドールの内三体が紅い煙を撒き散らしてポップコーンのように弾け飛んでしまったのである。
紅い煙が収まると、そこにはフランドールの姿があった。勿論その姿は一つである。
「ヤッテクレタナ……」
憎々しげな表情を浮かべながら、フランドールは勇美とレミリアを睨みつけた。
「四人になってタカを括っていたからそうなるのよ」
レミリアは得意気にそう言ってのける。
確かにフランドールは幼いが故に調子に乗りやすい。だが、それでも自分の力に頼り切ってあぐらをかくような事はしないのだ。
だが、今フランドールの肉体を使っている者は違った。確実に彼女から得られる力に酔い知れていたのだった。
しかし、その力に酔っていようともフランドールの力は本物である。
いや、その何者かの力により本物以上になっているのだ。
その事をフランドールは次の行動で示す。
フランドールは邪な笑みを見せると、おもむろに右手を頭上に高く掲げたのだ。
「何をする気?」
勇美の助力もあって勢いづいていたレミリアであったが、そのフランドールの予想だにしない行動に焦燥感を煽られたのだ。──彼女の運命を操る力が、何か良からぬものを察知したのだった。
そして、フランドールは頭上で開いた掌を、そのまま握り締めたのだ。そして、ガラスが割れるような耳障りな音が鳴り響いた。
そう、それは彼女の『破壊の力』を発動する時の動作に他ならなかったのだ。
では、何を破壊したというのだろうか。
そうこの場に居合わせる者達が思っていると、突如ヒビが入るような嫌な音が走った。
「どこにヒビが?」そう思うレミリアであった。
それは、彼女はこの紅魔館の造りには自身があったからである。
この館はただのレンガ性の建造物ではないのだ。
咲夜の時を操る能力で内部が拡張されているだけではなく、同時に『時の固定』により自然劣化しない造りとなっているのである。
故にレミリアは紅魔館に自信を持っているのだ。それは他ならぬ、咲夜を信頼している証であった。
そんな自分の従者自慢のこの館にはそうそう傷は付けられない筈。では、今のヒビが入る音は何なのか。
そう思ったレミリアは、ふと何気なく天井へと目を向けたのだった。それは本当に『何気なく』であった。
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