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MOONDREAMER:第二章~

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第二章 勇美と依姫の幻想郷奮闘記
  第48話 シスターウォーズ エピソード1/4

 
前書き
※フランドールを操っている第二章の黒幕が、彼女にやや不適切な発言をさせますので、予め念頭に置いておいて下さい。
それでも、まだこの小説全体のタグには沿っていると思いますので、普通に投稿します。
黒幕戦はこの小説本編のタグに大きく反するので、その時は別枠で投稿する予定です。 

 
 レミリアは手に持った紅い槍を懸命に振り回していた。
 だが、それをフランドールは顕現させた剣で難なくいなしていたのだ。
 いくらレミリアが攻撃を仕掛けようとも、フランドールはものともしない。
 槍が剣に弾かれる音が地下牢に響き続ける。
 そのあてどない攻防がいつまでも続くかに思えた。
 だが、ここでフランドールが口角を上げた。それは口から耳まで裂けんばかりに不気味な笑みだった。
「!?」
 それを見た瞬間、レミリアは背筋が凍り付くかのような感覚に襲われた。
 そして、それに対抗するかのように──手元は一気に熱を感じたのだ。
 それに気付いた時には、フランドールの持つ剣が瞬く間に炎に包まれていた。
 堪らずレミリアは槍を手に持ったまま後ずさった。
 その攻撃自体は彼女の姉であるレミリアはよく知ったものであった。
 だが、問題はその火力であった。フランドールの剣から出る炎はマグマのように赤く燃え盛る禍々しいものだったのだ。
 何より、その熱だけでフランドールの足元の石の床が少し溶けていたのだ。
「……」
 レミリアは動揺していた。確かにフランドールは彼女以上の力を有している要注意な存在である。
 だが、今目の前にいるフランドールは常軌を逸していた。
 咲夜とパチュリーと自分なら普段のフランドールには対象出来るだろう。
 しかし、結果は見ての通りだ。咲夜は倒され、パチュリーは喘息に追い込まれるまでになり、そして自分もいつまで持つか分からない。
 そうレミリアが思いを馳せていると、フランドールの顔が普段の無邪気な彼女のものとは思えない程に醜悪に歪んだ笑みを見せた。
 そして、レミリアに「終わりだ」と言わんばかりの見下ろすような表情を浮かべながら、手に持った灼熱の剣を振り被った。
 それにつられて分厚い炎が大蛇のようにのたうち回りながらフランドールの頭上へと掲げられたのだ。
 その様相は正に空に浮かぶ太陽のようであった。吸血鬼であるレミリアを浄化して見せようとばかりに無慈悲に爛々と輝いている。
「くっ……」
 これまでか、そうレミリアが思った瞬間であった。
「危ないっ!」
 その掛け声と共に、突如として目の前に何者かが現れレミリアを抱き締めたのだ。
 そして、その者はレミリアごとその場から姿を消した。

◇ ◇ ◇

「危ない所だったわね」
 間一髪で間に合い、豊姫は一息ついた。
 今彼女達はフランドールのいる場所から少し離れた所にいる。
「お前は確か、私が戦った月の姫の姉だったか」
 状況が飲み込めないながらも、レミリアはその事だけは把握して言った。
「光栄ね、あなたとは初めて会うのに私の事知っていてくれたのね」
「まあね、パチュリーの知識をナメちゃいけないよ」
 レミリアは体が弱いのに今体を張って奮闘した無二の友人に想いを馳せながら、自分の事のように得意気に言って見せた。
「あの子ね~、確か八意様とも張り合う程頭が良いのよね~」
 かつて彼女が自分の師と知恵比べをした時の事を、豊姫は懐かしく思いながら感慨に耽りたくなった。
 だが、今は思い出に浸っている場合ではない。この異常事態を早く何とかしなければいけないのだ。
 早速、豊姫は本題に入ろうとする。
「レミリアだっけ? あなたに加勢するわ。私にも今は異常事態だって事は分かるから」
 自分と依姫の力があれば、いくらレミリアの妹の様子がおかしいと言えど対処出来るだろう。そう思って豊姫は言ったのだ。
 だが、レミリアから返って来た答えは豊姫の予想に反したものであった。
「……これは私の家族の問題よ。余計な手出しはしないでもらえるか?」
「……」
 それを豊姫は無言で見ていた。
 そこには張り詰めた空気が流れていた。
 そして、次の瞬間。
「この子可愛い~♪ 見た目幼女なのに立派な事言うのね~♪」
 ──そう言いながら豊姫はレミリアを揉みくちゃに抱いていたのだった。
 勇美にとっては、一難去ってまた一難であった。この人がレミリアにしている事は、自分が早苗にやられてる事を想起させるからであった。
 だが、取り敢えず勇美は確かめておく事にした。
「豊姫さん、あの流れだと『ビンタ』ですよね……」
「そんな野蛮かつ自己満足な事しないわよ~」
 あっけらかんと豊姫は言ってのけた。そして勇美は思った事を小声で依姫に言った。
「依姫さん、豊姫さんっていい人ですけど、どこかおかしいですよね……?」
「私もそう思うわ。でも勇美も同じようなものよ」
「はうあ」
 依姫に話題を自分も巻き込まれて、勇美は「この裏切り者~」と心の中で叫びを上げた。
 そんな悲痛な想いを起こす勇美はさておき、話題はレミリアへと戻り、豊姫が話を再開させる。
「レミリア。あなたが家族の事で他人を巻き込みたくないってのは良い心構えよ。それだけ家族を大切にしてるって事だからね」
「……」
 諭すように話し始めた豊姫の言葉を、レミリアは無言で聞いていた。
 そして、豊姫は続ける。優しい笑みをたたえながら。
「でも、家族が大切だと思うのはみんな同じなんだから、いざという時は他の家族を持っている人に頼るのは、決して恥ずかしい事じゃないわ」
「……」
 レミリアは無言で頷いていた。それは全くを以て豊姫の言う通りであったからだ。
 そして、これ以上レミリアが意固地になる必要もなくなっていったのだ。
 確かにレミリアは自尊心が高い、誇り高い吸血鬼の主だ。しかし、何の分別もなくそれに囚われたりはしないのである。
 現に月で咲夜が依姫に負けた(ように思われた)時は、悪ぶりながら然り気無く彼女をかばったのだ。
 これが完全にレミリアが自尊心の塊であれば、部下の負けという自分の顔に泥を塗るような事態は決して許しはしなかっただろう。
 詰まる所は、レミリアには吸血鬼としての恐ろしさだけではなく、人間に通じるような優しさも持っているという事である。
 それは彼女に元からそういう要素があったのか、はたまた幻想郷や霊夢達と触れ合う事で身に付けていったのかは定かではないが。
 大事なのは、レミリアが今、優しさを持っているという揺るぎない事実であった。
 故に、最早レミリアの答えは決まっていたのだった。
「分かったわ、お願いするわ」
「いい子ね」
 そんなレミリアを、豊姫は暖かく見守っていた。
「あの……」
 そのやり取りに勇美が入って来た。
「勇美ちゃん、何かしら?」
 豊姫は笑みをたたえながら、勇美に言った。
「私もレミリアさんの力になりたいのです。
 勿論、私では力不足かも知れません。
 でも、レミリアさんの気持ち、少し私にも分かるからです」
 そう言って勇美は説明を始めた。
 その理由は彼女もレミリアと同じ、『姉』という立場だからである。
 妹を大切に思う気持ちは、勇美は自分にも分かるのだ。
 しかも、勇美の場合は双子、レミリアの場合は500年生きた中での僅か5歳違いであり、共に過ごした時間が非常に近いのもあった。
「やっぱり、双子やそれに近いと何か通じるものがあるのかしらねー。ねえ依姫」
 二人のやり取りを聞いていた豊姫は、ここでしみじみと言った。
「そうね、お姉様」
 それに依姫も賛同したのだ。
「?」
 そのやり取りを見ていた勇美は、頭に疑問符を浮かべた。もしかしてと思い、勇美は二人に尋ねた。
「もしかして、豊姫さんと依姫さん『も』双子だったんですか?」
 それが勇美が確かめておきたい事実であった。
 それに依姫が答える。
「ええ、そうよ。今まで言ってなくてごめんなさいね」
「そうだったんですか~」
 答えを確かめた勇美は、徐々に自分の頬が綻ぶのが分かった。
 綿月姉妹が自分と楓と同じく双子だった。その事が分かり、勇美は嬉しくなっていたのだった。
 そこに豊姫が付け加える。
 やはり双子だと何か特別なものがあるのだと。
 そして、依姫とほぼ同じ時を過ごした事で得られるものがあったのだ。
 自分よりも依姫は優秀であった。その事に嫉妬もしかけた。
 だが、過ごした時間が近かった事があり、依姫が人一倍努力している事も知れたし、豊姫の自分自身の依姫には無い価値をより見出だせもしたのだ。
 そして、依姫は思う。そのような貴重な体験を勇美も味わっていたのだと。
 だから、その気持ちは無駄にしてはいけないだろう。
 そこまで思い、依姫はある提案が頭の中に浮かんだ。それを彼女は言葉に紡ぐ。
「先程までは、私はパチュリーに呼ばれて、フランドールを止めるのに加勢しようと考えていました」
「依姫さん?」
 突然そういう事を言い始めた依姫に対して、勇美はどういう真意だろうと首を傾げる。
「どういう意味ですか?」勇美はそのような思いを込めて依姫に聞いた。
 それに対して、依姫は丁寧に答えていく。
「私が加勢すれば、この事態を少し簡単に解決する事が出来るでしょう」
 そして依姫は「ですが……」と続ける。
「私はあくまで月の住人です。故に部外者

「はい」
 勇美は反論する事なく依姫の弁を聞いていた。段々と依姫が言わんとしている事が分かってきたのだ。
「だから、幻想郷の問題は幻想郷に住まう者が解決しなければいけない、そう私は思うのよ」
 それこそが依姫が抱く答えであった。
 今回のフランドールの豹変は、幻想郷が作り出す『日常的に起こる異変』の様式の範疇から逸脱した正真正銘の異変である。
 だが、だからと言ってこれは幻想郷に住まう者自身が解決しなければいけない問題なのだ。
 先程の豊姫の『家族の事は他の家族の手助けを受けてもいい』という理論に、些か反するかも知れない。
 だが、依姫は自分の考えを譲ってはいけないと思うのだった。
 ──あくまで自分は手助けをするまで。それがレミリアと勇美の糧になると考えての事であった。
 そして、勇美はこれに乗る形で話を押し進める。
「こう依姫さんも言っている事です。レミリアさん、どうかここは幻想郷の住人である私に手伝わせて下さい」
 それを聞いてレミリアは、ふてぶてしくありながらも頼もしげな笑みを浮かべて勇美を見据えた。
「いいわ、あなたの心意気、受け止めたわ。でも……足手まといになったら殺すわよ」
「レミリアさん……♪」
 レミリアは時折『殺す』という、心無くある発言をする。
 だが、それは彼女が気分が高揚した時に口にする言葉であり、本気で命を奪おうなどという魂胆はないのだ。
 謂わばレミリアの一種の愛情表現なのだ。
 その事が分かっているからこそ、勇美はにんまりと笑みを浮かべながらレミリアを見据えるのだった。
(これは、勇美の勝ちね)
 そんな知らず知らずの内に行われた駆け引きの勝敗に、依姫は微笑ましい気持ちで見ていた。

◇ ◇ ◇

 豹変したフランドールから待避してそのようなやり取りをしていた一同だったが、万を持して再びフランドールの前に現れたのだ。
 だが、今回は豊姫はいなかった。彼女はいざとなったらその能力を使い、紅魔館の住人を外へ待避させる為にこの場にはいなかったのだ。
 そして、依姫もこの場にやって来ているものの、彼女はあくまでサポートに入り前線には立たないつもりなのだ。
 そう、これはレミリアと勇美の二人の戦いなのだ。
 そして、二人の前にいるフランドールの様相を改めて説明しよう。
 服装は黄色い襟に赤のベストの下に白のカッターシャツを着ている。どことなく霊夢の出で立ちを再現して露出度を抑えたような、そのような例えなるものであった。
「……フランちゃんの下のシャツ、邪魔だなあ」
「何、人の妹を如何わしい想像に使ってるのよ……」
 勇美の、吸血鬼である自分よりも邪な念に、さすがのレミリアも引き気味となっていた。
 話をフランドールの様相に戻そう。顔立ちは、吸血鬼故に5年は僅かな時間である筈だが、それでもレミリアよりもどこか幼げに見える。
 髪は金髪で、それを左側に垂らしたサイドテールにしている。
 その上にリボン以外レミリアとは色違いの同じデザインのナイトキャップを被っている。
 だが、何と言っても彼女の特徴は背中に生えた翼であろう。
 木の枝のような骨組みに七色の宝石が複数垂らされるという、まるで電飾ツリーのような外観なのだ。──普段のフランドールであれば。
 今のフランドールの背中の宝石は、まるで汚染物質を流し込んだかのように毒々しい紫色となっていたのだ。
 何より彼女自身の目が虚ろで、光が灯っていない事が不気味さに拍車を掛けていたのだった。
「うう……怖い……」
 それが今のフランドールを見た勇美の正直な感想であった。
 自らフランドールの対処を願ったり、親しくなったレミリアの妹に対する意見としては適切ではないが、今抱く恐怖は綺麗事では決して払拭出来ないものがあったのだ。
「……無理強いはしないわよ」
 そんな勇美をレミリアは気遣って言う。彼女は傍若無人であるように見えながらも、節度はわきまえるが故であった。
「いえ、大丈夫です!」
 だが、ここで勇美は自分を奮い立たせるべく勇ましく言った。
 それは幾分は自尊心による空威張りであった。
 しかし、友人であるレミリアの為と、幻想郷の新たなる住人としての責任感から来る気持ちは決して嘘偽りのないものなのだった。
「大丈夫なのね?」
 レミリアは最終確認の為に勇美に聞く。これで後々になってやっぱり無理でしたでは足手まといになる、それだけは避けたいが故であった。
「はい、問題無いと言えば嘘になりますけど、私はこの場から逃げるつもりはありません」
 時に逃げ道を用意する事に迷いが無くなった勇美であるが、今のこの場ではそれをしようとは思わなかったのだ。
「でも、オシッコちびっちゃうかも知れないので汚す物がないようにパンツ脱いでいいですか?」
「いんや、あなたは単にパンツ脱ぎたいだけでしょ?」
 流れを台無しにする発言をする勇美に対して、レミリアはさらりといなした。
「何を言うか! 人聞きの悪い!」
 勇美は反論するが、ものの見事に核心を付かれているので全くを以て無意味であった。
「そんな事はどうでもいいわ。今の問題は……」
「どうでもいいとは何事か~!」
 勇美はその一言が許せなくて激昂した。
「着物ってのは西洋の下着を着けずにノーパンになるのが正式なのよ、それをあなたは……」
「じゃあそのミニ丈は止めなさいって」
「いや、これだけは譲れない」
 してもいない眼鏡の位置を直す仕草をしながら勇美はキリッとした表情で言ってのけた。
 だが、話の内容が内容なだけに全く締まってはいなかったが。
 そんな緩んだ意識の勇美に喝を入れるかのような事が起こった。
「グォォォォ……」
 フランドールの口から、幼げな少女のものとは思えない、地の底から揺さぶられるような唸り声が響いたのだった。
 それを受けて、勇美はビクッと肩をすくませておののいた。
「ごめんレミリアさん、ふざけている場合じゃありませんね」
「分かれば宜しい」
 妹の様子は心配なものの、この場はうまく纏まったなとレミリアは複雑な気持ちになった。
「それではこちらから仕掛けましょう」
 そう勇美は迷わず踏み切った。
 今までは相手の出方を伺って、それから自分はどうするか決める戦い方を主としていた。
 だがそれは相手に真っ当な自我や人間味といったものがあった場合に有効な手段なのだ。
 それに対して今のフランドールは、肉親であるレミリアには失礼な言い方になるが、『獣同然』の恐ろしい状態にあるのだった。
 そのような相手に出方を伺う等という手段は通用しないだろう。
 そう思い勇美は相手よりも先に仕掛ける事にしたのだ。
 だが、相手がどのように仕掛けて来るのか分からない以上、迂闊に攻める事は出来ない。
 そう思い勇美は慎重に仕掛ける事にしたのだった。
「【星弾「プレアデスブレット」】!」
 まずは基本に習い、普段やり慣れた攻め方で出る事にしたのだ。勇美が最も得意とする先陣の攻め方である。
 例により星の弾丸は小気味良い金属音のようなものを鳴り響かせながら数発発射されてフランドールに襲い掛かったのだ。
 それに対して、フランドールはまるで鼻で笑うような表情を浮かべながら見据えていた。
 そして、おもむろに右手を眼前に翳すと、石を握るかのように掌を閉じたのだ。
 すると、フランドールに向かって突き進んでいた星の弾丸はペキンと妙な音を立てて、一つ残らず砂のように砕けてしまった。
「これは……」
「フランの『あらゆるものを破壊する』力よ」
 そう言ってレミリアは説明を始める。
 曰く、あらゆるものには『目』という中核のようなものが存在するとの事だ。
 そしてフランドールはその『目』を自在に自分の元に探り寄せて、それを潰す事でどんなものであっても容易に破壊出来るのである。
 そのような危険な能力をフランドールは有しているが為に、姉であるレミリアは彼女を地下に幽閉しているのだ。
「フランちゃんにそんな力が……」
「話していなくて悪かったわ。あなたは関わらなくていい事だと思っていたから」
 そう言ってレミリアは普段他人に見せる事のない、申し訳なさそうな表情を見せた。
 だが、彼女は心機一転し、今度はふてぶてしい笑みを見せて言った。
「でも勇美はよくやってくれたわ♪ お陰でフランに隙が出来たわ!」
 そう言ってレミリアは飛び上がり、勇美の上を飛び越えて行った。
 言い方は悪いが、レミリアは今の勇美を利用する形を取ったのだ。
 目的の為──妹を助ける為──その為には例え友人であろうとも利用する。それがレミリアのやり方なのであった。
 そして、利用された勇美の方もその事を察したようだ。
 大切なものの為に手段を選ばない『悪』を勇美は心掛けているのだ。だから今のレミリアには自分に通じるものを感じ取る事が出来たのだった。
 気付けば二人は目配せをしてコンタクトを取っていた。──これからもお互い、いい友人同士でいられるだろうと。
 そのままレミリアはフランドールの頭上からスペルカードを宣言する。
「【必殺「ハートブレイク」】!」
 言ってレミリアは手に紅い槍を現出させ、フランドール目掛けて投げ付けた。正に吸血鬼を退治する為に心臓に杭を突き立てんばかりに。
 グングンとスピードを上げながら、槍の投擲はフランドールを的確に捉えていた。
 当たった、そうレミリアは確信するが……。
「フン……」
 彼女は鼻で笑いながらその槍に合わせて手を翳すと、あろう事かその槍を素手で掴んでしまったのだ。
「ハッ!!」
 そして掛け声を出して力むと、その槍は粉々に砕けてしまった。
 槍は霧のようにかき消える。
 更に悪い事に、フランドールには傷一つ付いてはいなかったのだ。そう、槍の矛先を直に掴んだ右手ですらまっさらな無傷なのであった。
「参ったわね……」
 毒づくように呟くレミリア。
 それは、やはり今のフランドールが普段の彼女以上の力を有しているからに他ならなかった。
 いくらレミリア以上の力を有しているとはいえ、先程のような連携で仕掛ければさすがのフランドールでも押されるだろう。
 だが、今のフランドールドールはそんなの茶番だと言いたげに軽くいなして来るのだった。
 レミリアの様子を見て、勇美は指摘する。
「その様子だと、今のフランちゃんの力は相当異常なんですね」
「それはもうね。何でこんな事になったんだか……」
 レミリアはそう言い自分を顧みる。
「自分は何もフランドールに恨まれるような事はしていない」これは嘘になる。
 どんな理由があれど、フランドールを地下に押し込めて窮屈で孤独な目に会わせているのだ。
 だが、この力は何なのか。
 恨みは時に強大なエネルギーになるとはいえ、ものには限度がある。
 いくら吸血鬼であるフランドールといえど、これは説明がつかないのだった。
 しかし、今はいくら考えても仕方の無い事である。当面の目的は、この暴走したフランドールを止める事なのだから。
 そんな事を思う時間すらお前には分不相応だと言わんばかりに、豹変したフランドールは無慈悲にスペルを宣言した。
「【禁忌「クランベリートラップ」】……」 
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