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カーク・ターナーの憂鬱

作者:ノーマン
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第11話 緊張の商談

 
前書き
     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています

※もう少しすると星系の名前がちらほら出てきます。星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています 

 
宇宙暦723年 帝国暦414年 8月末
酒場ドラクール 防音個室
カーク・ターナー

「船長、見間違いじゃなければ、昨日助けた貴族子弟がいるんだけど」

「お前さんは縁に恵まれてるんだなあ」

亡命案件の商談になるため、キャプテンについてきた訳だが、商談相手のウーラント家が指定した個室に向かうと、どうみても昨日ホテル・シャングリラに送り届けた貴族の姉弟が席についている。

「別に非難されることはしてないんだ。堂々としとけ」

ウーラント家の当主であろう中年の男性に、船長と俺は名乗り、頭を下げて控える。亡命者相手におかしな気もするが、フェザーンはあくまで帝国の自治領。同盟領域に入らない限り、身分に一定の配慮をするのがマナーだ。亡命派の領域に行く判断をすれば、そのまま爵位がまかり通る価値観の社会に行く訳で、わざわざ同盟では皆平民だと、敢えて波風を立てる必要はない。

「グスタフ・フォン・ウーラントだ。今日はよろしく頼む」

「長女のクリスティンと申します」

「嫡男のユルゲンと申します」

ご当主の名乗りに続いて、姉弟もこの場では名乗ってくれた。個室に入り末席に着くが、距離が近くなって再確認したけど、やっぱり昨日の姉弟だ。金色の手入れの行き届いた髪に、青い瞳。貴族って感じの容姿だが、姉の方は昨日とは違って好奇心に満ちた視線を向けてくる一方、弟の方はさっきはさりげなく手を振って来るし、しまいには右こぶしを差し出す素振をしてきた。さすがに察したのか、姉のクリスティンが自然に手を押さえて席に着く。ありがとうクリスティン。

『情けは人のためならず』とはよく言ったものだ。前世でも助けになれるなら援助は喜んでしていたし、それを恩に着せることは絶対にしなかった。援助したことや金を融通した事は翌日には忘れる。こちらが恩に着せないからこそ、相手も出来る限り恩を返そうと思うものだ。
とは言え、若気の至りではないが、昨日の一件は自分でも少しかっこつけすぎた感覚があった。異国の地でちょっとした事件のちょっとした思い出話になれば......。くらいの感覚だったのに翌日に再会となるとどうも様にならない。クリスティンとユルゲンが俺に笑顔を向けてくるが、気恥しかった。

「ウーラント卿はご承知かもしれませんが、ここは商船乗りにとって聖地みたいなものです。ここでご縁を得た方にドリンクを奢ると幸運に恵まれる......なんて話もございます。失礼ながら私の盃を受けて頂けますか?」

「もちろんだ。キャプテンは船を持たれて初めてのフェザーンだと聞く。そのような記憶に残る節目での配慮だ。喜んで受けさせてもらおう。ただ、貰ってばかりでも心苦しい。ウーラント家の未来に幸がある様に、2杯目は嫡男ユルゲンから、盃をお返ししたい」

そんなやり取りから商談はスタートした。丁度時刻は3時。午前中に並んで用意したフェザーンでも評判の店のバームクーヘンを、ウーラント卿の許可を得て添える様に出してもらう。バームクーヘンの断面の模様が木の年輪のように見え、繁栄、長寿、幸せ重ねる、を連想させるから縁起の良いものだとされている。フラウベッカーから習ったんだよな。先生の教え、さっそく活きてます。
初対面での贈り物は、目上の立場からならともかく、目下の者からの贈り物は高価なものは逆に失礼とされる。目下の物は予算が少ないなりに気遣いと足を使って好意を示すのが良いとされるのだ。

「うむ。バームクーヘンは良縁にもつながるし、たいそう美味じゃ」

ウーラント卿も喜んでくれたようだし、クリスティンとユルゲンも笑顔で食べてくれている。俺もご相伴に預かったが、朝から並んだことを差し引いてもかなり美味だった。フェザーンの印象など、当たり障りのない話をしながら、1杯目を飲み終わり、ユルゲン名義の返杯となる2杯目がテーブルに並んだ所で、船長が本題に入った。

「ウーラント卿、今回バーラト系に属している私どもにお声がけ頂けたのは、視野を広くもって判断材料を集められたいのではと愚考いたしました。同席いたしましたターナーは、同盟でも辺境星域の出身で、亡命系の教育機関にも短期入学しております。ひいき目なし......とは申しませんが、忌憚なく同盟の現状をご説明できるでしょう。その上でのご判断が私共がお役に立てる物であれば、是非お力にならせていただきたく存じます。そのような形で進めさせていただいても宜しいでしょうか?」

ウーラント卿が同意するのを受けて、船長が俺に視線を向ける。

「では、非才ながら不肖ターナーがご説明させていただきます」

俺は船長から預かった大き目のタブレットに一枚にまとめた概要図を表示してウーラント卿の手元に置く。また同じものを表示した私物のタブレットを、クリスティンとユルゲンの間に置いた。

「概要図をご覧ください。現在の同盟では大きく分けて5個の属性に分けられます。このうちの一つである辺境星域に関しては、満足なインフラ投資を受けられずぎりぎりの生活を余儀なくされています。亡命後の居住候補としては厳しいので除外いたします」

ユルゲンの反応はイマイチだが、ウーラント卿とクリスティンは頷いている。それなりの資産を持ち込んでいるのに、わざわざ辺境の未開拓エリアに移住するのは、かなりの物好きか脛に傷がある奴位だろう。

「まず経済的に一番大きな派閥であるバーラト系です。中心は同盟の建国者たちの子孫です。同盟の富裕層の多くが、ここに該当します。バーラト系でも亡命者の扱いで大きく原理派と融和派に分かれています。勢力は防衛戦争が優勢なこともあり、融和派が少し優勢です」

原理派はある意味もっとも主張がはっきりした派閥だ。帝国の打倒のために軍備拡張政策を押している。そして亡命者に関しては自由惑星同盟に暮らす以上、疑似的なものとはいえ階級社会も認めないし、財産の持ち込みに関しても一定額上はかなり高い税金を課すべきだと主張している。

一方で融和派は、自分たちの政体の有り様をどんな形にするか?は地域住民が決めればよいと考え、さすがに独裁制は許さないが、疑似的な貴族制も議論の上で意思決定するなら受容すべきと判断している。財産の持ち込みに関しても、最終的に同盟の国力増強につながると判断して、基本的には非課税だ。

「原理派はブルー、融和派はグリーンで色分けしてございます。補足ながらエンブレム号は融和派の資本に属しています。次に亡命派です。亡命派もある意味同様に、原理派と融和派に分かれております。フェザーンの設立による経済的な打撃と、マンフレート2世陛下の暗殺を機に、バーラト系が高貴な血を使い潰したという疑惑が浮上いたしました。8割程度が原理派でバーラト系とはある意味冷戦状態です」

原理派は文字通り疑似的な貴族制を維持しつつ、防衛戦争にも最低限の協力で済まそうという主張だ。都合が良すぎる様にも思えるが、亡命者が大量流入した際に、バーラト系の原理派が財産の没収や徴兵名簿に不当に亡命者を入れようとした背景もあり、自衛せざるを得ないという所か?

亡命系融和派は俺の知り合いならジャスパーが当てはまる。貴族制を布いているとはいえ、生活の中で同盟の情報に触れる機会も多い。雁字搦めの亡命系社会に閉塞感を感じ、積極的にバーラト系に協力してしっかりとした立場を得ようという主張だ。嗜好品の多くは売れなければ意味がない。そういう意味でも実際に生産や流通にかかわる層も、上層部の気持ちは分かるが現実をみてくれってところだろうか。

「ふむ。候補となるのはバーラト系・亡命系の融和派になりそうだな。バーラト系の原理派はそもそも候補から外れるし、亡命系の原理派に与してもウーラント家は所詮は帝国騎士。何かと資本提供を迫られるのがおちだろう」

「はい。私も亡命系の中心、シロンに滞在しましたが、良くも悪くもキッチリした階級社会でした。失礼ながら帝国騎士と言う階級で、新参ともなれば何かと財産をむしり取られはしても厚遇されるかは疑問でございます」

「ターナーの申す通りであろうな」

ウーラント卿も色々と想定されていたのだろう。予想の一つではあったが、当たってほしくない予測だった印象だ。少し悲しげな表情をされている。

「残念ながら亡命系融和派はそこまで力を持っておりません。その観点から見ても、バーラト系の融和派をお選びになるのがよろしいかと愚考します」

もう少し理解が遅かったり迷うようなら言うつもりはなかった。ただ、帝国騎士のウーラント家がちゃんと同盟に根を張るには、消去法でバーラト系融和派につながるしかないのも確かだ。とは言え具体的な成功イメージが持てないと不安は消えない。分かっていても決断するのは難しいだろうな。

「ここからは私見なのですが、もし私がウーラント卿のお立場なら、どうビジネスを立ち上げるかを考えてみました。お話してもよろしいでしょうか?」

船長に指示されたのは概要の作成までだ。でもさ、一応商会に勤務してたしそれなりの資本を持ってビジネスを始められるのって恵まれてるんだ。多くの平民は会社勤めをしながら資本と人脈をつくって独立するんだから。俺にそんな幸運は訪れないだろうけど、尚更だからこそ考えてみたかった。ウーラント卿の了承を得て、話を進める。

「亡命系融和派との伝手を活かしながら、バーラト系融和派のエリアで入り込む隙のあるビジネスと言うと、それなりの経済レベルの消費者がいるエリアでの、帝国風の食材の生産が良いと考えました。最有力はバーラト星系の惑星テルヌーゼン。士官学校を始めとした軍教育施設が集中し、バーラト系だけでなく少数とは言え辺境系・亡命系も生活する惑星です」

俺は念のために用意していた資料に切り替えて説明を続ける。

「惑星テルヌーゼンの不動産業界の雄、ウォーリック商会の会長は、帝国の美術品の収集家でもあります。失礼ながら持ち込まれた美術品のうち、価値の高いものを交換材料に郊外の広めの農場を手に入れます。そこで農作をしつつ、牧畜・酒造も行い、亡命系融和派の家業を継げなかった若者たちに帝国風の食材と地ビールを生産させます。比較的軍人の多いエリアですから、戦争中の相手国の食材を食らう、酒を飲み干すという行為は、士気を高める意味でも好まれるでしょう」

ウーラント卿の反応も上々だ。別に帝国風の料理を出す必要はない。使われている食材や酒が帝国に関する物。ビジネス界や政界ではそこまでニーズはないかもしれない。でも軍人にはニーズはあるだろう。軍人が顧客に多いテルヌーゼンなら、ビジネスとして成立する可能性は高かった。

「うむ。そこまで青写真を用意されて決断できねばウーラント家の名誉に関わる。亡命の件はエンブレム号にお願いすることとしよう。少し細部を相談したい。キャプテン佐三、カウンターに付き合ってもらえるかな?ターナー君はクリスティンたちの相手をお願いできれば幸いだ」

そうだよな。選択肢は限られていてもその先が見えなければ決断は厳しいよ。本職から見ればつたないかもしれないが、自分なりに考えて良かった。カウンターへ向かうウーラント卿と船長の道を開ける様に、俺は椅子から立ちあがる。二人が部屋から出て行ったあとは、昨日フェザーン観光をした際に撮った写真を交えながら、クリスティン・ユルゲンの三人で、フェザーンの印象や商船での生活の話をして過ごした。
二人が戻るまで相談と言うには長めの時間があり、戻ってきたときウーラント卿は少しホッとした様子で、船長の表情が少し曇っていたのが意外だった。やばい、俺やりすぎたかな。 
 

 
後書き
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