戦国異伝供書
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第九十五話 負け戦その十
「兄上、傷付いた者達は」
「うむ、誰一人としてな」
「見捨てませぬか」
「そうじゃ」
こう答えたのだった。
「何としてもな」
「当家の兵だからですか」
「そういうことじゃ、兵一人粗末に出来ぬ」
到底とだ、元就は弟に述べた。
「断じてな」
「兵も只ではない」
「そうじゃ、兵は侍であり民である」
「だからですな」
「断じて粗末に出来ぬ」
弟に対して強い言葉で言うのだった。
「だからよいな」
「はい、それがし達もですな」
「兵は粗末にするでない」
元網に対しても話した。
「よいな」
「承知しました」
「その様にな、ではよいな」
「これからもですな」
「戦っていく」
退きつつというのだ。
「誰一人見捨てるでないぞ、骸も運べればな」
「運んで、ですか」
「弔える様にしていく」
「骸もですか」
「そうじゃ、粗末にせずな」
「出来るだけですか」
元網は兄に問うた。
「領地まで、ですな」
「運んでいってな」
「領地に戻してですか」
「そして葬る様にする」
「兄上はそこまでお考えですか」
「うむ、誰でも然るべき場所で葬られたいな」
「墓にも」
元網もその通りだと答えた。
「それは」
「さすればな」
「そこは、ですな」
「そうじゃ、骸も運ぶのじゃ」
出来るだけとだ、元就の言葉は変わらなかった。それは心からの言葉でありかつ偽りもなく語るのだった。
「ではな」
「はい、では」
「ただ無駄死にはするでない」
例え骸を運んでいくとしてもというのだ。
「それは何度も言っておく」
「今は生きる時だからこそ」
「それは言う、ではな」
「はい、石見までですな」
「このまま下がる」
こう言ってそうしてだった。
元就は実際に骸も出来るだけ運ばせてそうしつつ戦っていった、その彼の戦ぶりを見て兵達も奮い立ち。
果敢に戦い死ななかった、傷付く者達は多かったがそれでもだった。
深い傷を負う者は稀で尼子家の者達も驚いた。
「ただ攻めるてくるだけでなく」
「滅法強いぞ」
「毛利家の者全てが鬼の様に戦う」
「何という強さじゃ」
「これは適わん」
「おいそれとは攻められぬ」
「あの者達が後詰でじゃ」
その為にというのだ。
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