仮面ライダーLARGE
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第八話「新たな同居人?」
前書き
後方支援型強化人間アゲハ
……まず、皆様に謝罪しておきたいことがございます。自分、前回あれだけ二次元の絵がボンキュッボンすぎてキモいから嫌とか言っておきながら、気づけば自分の同じような絵を描いている結果に陥っておりました。アホな私の自分勝手すぎる一言に振り回してしまい大変心からお詫び申し上げます<(_ _)>
「……」
来客と会ってしばらくたった後に雷羽は戻ってきた。しかし、一言も朱鳥に口も利かずにうつむいたまま境内を掃き清めている。
「どうしたんだろう、九豪君」
そんな彼の後姿を心配に見守る朱鳥は、声をかけていいのか否か、迷い始めた。
――あの人も、仮面ライダーだったのか……
雷羽は、先ほど出会った高見沢グループの総帥という大物との会話を何度も振り返った。
先ほどの話は、人気の少ない境内の御神木の前で始まった。
『高見沢逸郎、またの名を……仮面ライダーベルデだ」
『仮面ライダー!?』
瞬間、俺は身構えした。目の前にいるコイツが善か悪かで考えれば、後者のオーラがぷんぷん匂ってくる。
『身構えはやめたまえ。とりあえず、話をしたい。いいかね?』
『アンタ……正義系のライダーには見えないな?』
正義、それを聞いた高見沢は吐き捨てるようにこう言った。
『ハッ! 正義というものは人がそれぞれに抱く思想を貫くことの意味だ。テレビに出てくるような、単なる子供だましの幻想とは違うのだよ少年』
『それで、何のようだよ?』
しかし、俺は警戒を続けた。
『君とあの子が、現ショッカーの手によって生み出された強化人間ということは既に知っている。バイオ生体技術と高性能なナノマシン細胞の複合技術で生み出された、オルフェノク同様の新人類とも言っていい亜人種だ。あぁ、失礼だと思うなら詫びよう。君たちから見て、我々人類は最も愚かで狡猾なズル賢い生き物だからな』
それはまるで、見下すというよりもこちらへ何かを求めているような欲深い視線で話しているように見える。この男は何が目的なんだ?
『……何の、用ですか?』
俺は続けて警戒した目つきで睨むように彼を見た。明らかに良い人間とは思えないオーラがなおも漂う。
『ふっふっふ……嫌われたものだな、当然か。君を見ていると、いつぞやのライダーのことを思い出してしまう。バカがつくぐらいにお人好しで共感を偽ればあっけなく相手を信じ込んでしまう。どうしようもないくらいの世間知らずでとんだ青二才の若造ライダーをね。果たして、今頃生き残っているかな?
……前世でのミラーワールドにおける戦いが終わっても、奴らとの戦いが終わったわけじゃない。彼はライダーとなって再び戦うことになったというと――救いようがないな』
『……』
いったい何を言っているのか、俺は警戒しながら恐る恐る高見沢を見た。彼は続ける。
『しかし、前世の記憶を引き継いだまま我々が再びライダーへ復帰できたことは何よりも好都合だ』
『さっきから何を言ってるんだ? アンタは――』
『九豪雷羽ッ!』
ビシッと、そんな俺に向けて高見沢の指先がこちらへ向けられた。
『……私の元で、ライダーとならないか? もちろん彼女も誘うがいい』
『は?』
『今の時代、あの``若造``や君のような英雄的``正義``を振りかざすライダー達にはこの世界は地獄だ。初代ライダーの本郷猛たちでさえも、このISによってもたらされた女尊男卑の世界に対して深い疑問を抱いている。もはや、今の彼らは嘗てのように世界を救うための英雄的正義を貫く概念に躊躇いを持っている』
『正義って……』
正直、俺も仮面ライダーになる前は仮面ライダー=正義の味方だなんて考えていた甘い奴だった。しかし、だからといって目の前にいるコイツが正義を語ることに関しては不愉快に思った。
『どうしてそう言い切れるんですか?』
正直、憧れである1号ライダーだけは変わらないでほしいというのが俺の個人的な願いだからだ。
しかし、高見沢は答えた。
『何故なら、世界が仮面ライダーの敵になったからだ! 今もなお、世界はライダー達を怪人同様の悪として見ている。それは決して否定できないことだ。きっと、君がライダーと知れたら、周囲は君を敵視して戦う者たちは牙を向けるだろう』
『全員が全員、ライダーを敵視しているわけじゃない!』
俺は、それだけは否定した。ライダーは世間から絶対的悪として見られたりはしない。現に、この前のカラスロイドとの戦いでそれは十分に知れた。
『ほう?』
『アンタたちのようなライダーが社会で好き勝手に暴れるせいで、それに巻き込まれた多くの人々がライダーをひとまとめに憎んだりするんだ!』
『いいや、ライダーに善も悪もない。必要ないのだよ』
上目目線で雷羽を見る高見沢もまた、その事実だけは曲げなかった。
『王蛇やシャドームーンがやっていることは決してッ――』
『人はみんな``ライダー``なんだよ!』
わずかに強まった彼の声が根強く雷羽の耳に響いた。
『先ほども言うように、誰しもが信じた道を進み、その道を突き進むことこそが正義というものの本質だ。個々が抱く正義の内容に善も悪も関係ない。王蛇・浅倉威やシャドームーン・秋月信彦も大衆からは悪とみなされるも、彼らには己が信じた道を歩む目的、「正義」が存在する。逆に悪党と呼ばれるものでなくても、自身の道を探さずに迷い、あるにも進もうとしない者には正義なんてものはない。そういう人間こそが力もなく、すぐに蹴り落とされるだけの堕ちるべき弱者だ』
そういうと、再び高見沢は俺にもう一度問う。
『……さぁ、どうだね。私の元でライダーになる気はないか?』
『断る』
俺はきっぱりと返した。
『ほう? 自ら蹴り落とされる道を選ぶか』
『アンタが言うように、俺も自分の信じる正義のために戦わせてもらうさ。悪いが、俺はアンタみたいなライダーにはならない!』
『クックック……口だけは達者のようだ。君は本当にあの「赤い仮面ライダー」の面影とそっくりだな。奴と同じ目で私を睨んでいる――』
面白そうだと、不敵な笑みを浮かべた高見沢はスッとこちらへ背を向けだした。
『では……この話、無かったことに。今度会うときは敵か味方か――いずれにせよ、それまでの間に君が誰かに蹴り落とされていないことを願うよ』
そう言い残して、高見沢は元来た石段を下りていった。
そして今、高見沢との遭遇を終えた彼は境内の掃き掃除を終えて、昼休みに休憩室の和室で湯のみを片手にぼんやりと、しかし先ほどのやり取りを何度も思い返していた。
『人はみんなライダーなんだよ!』
――みんなライダー、か……
確かに、あとで思い返してみれば俺自身もこの世界に対しては不満が山ほどある。それでこの世界を守るために命を張って戦えるか? と言われれば疑問だった。
「九豪君」
「……」
「九豪君ってばっ」
「雷羽君!」
「うわっ!」
とたん下の名前を朱鳥から呼ばれたことにびっくりして、俺はひっくりかえりそうになった。
「んもう――どうしたんですか?」
「ああ、別に何でもねぇよ」
「あの、実はですね」
「ん?」
「――その、お互いこれからも一緒に戦うかもしれないし、同居もしていますしで……名前の呼び方も、下の名前で呼んでもよろしいですか?」
体をモジモジさせながらそう恥ずかしそうに言ってくる朱鳥に、俺もドキッとした。
「あ、ああ――別にいいぞ?」
「じゃあ……雷羽君っ」
「あ、朱鳥――ちゃん?」
「朱鳥ってよんでください!」
それだけはこだわるのか、少しムキになった感じで頬をふくらます朱鳥に、俺は改めて言った。
「あ、朱鳥」
「はい、雷羽君」
「「……」」
途端、お互いそっぽを振り向きながら顔を赤くし合った。
――何なんだよ、この空気!
気まずい、圧倒的に気まずい。この気まずさをどうにかせねばならないのに、思考回路はショート寸前で今すぐどうにかなっちまいそうだ――
「――って、あれ?」
しかし、そんな状況を打ち破る光景が目の前の境内から飛び込んできた。
黒い服を着た、青年が賽銭箱の周りで何かしている……
「お、おい朱鳥」
名前の呼び方なんて忘れた俺は、とっさに彼女へ声をかけた。
「どうしました? 雷羽君」
「あれ、あれだよ!」
「あっ――」
朱鳥も、此方の休憩室から見える境内の様子を見てびっくりした表情をする。
「あれって……紛れもなく」
――賽銭泥棒だ!
俺は物騒だと怖がる朱鳥を前にその場から立ち上がって、その賽銭泥棒らしき青年へ声を駆け社務所から出た。後から朱鳥もついてくる。
近づくこちら側に賽銭泥棒の青年は気づくことなく夢中で腰をかがめながら賽銭箱の周辺を見回している。
「……あの、すみません!」
「ッ!?」
俺の一声に、目の前の青年はびっくりして慌てながらこちらへ振り向いた。
「な、なんだよ――ビックリするじゃねぇか」
「いえ……その、御参拝の方ですか?」
「あ、ああ――そうだ!」
何やら様子がおかしい。おかしすぎる。俺は気になったしつこく尋ねた。
「本当ですか?」
「んだよ! 別に俺は……」
「じゃあ、なんで賽銭箱の周りを?」
「え! ちょ、そ、それは……えっと――物を落としたんだ!」
「それは大変ですね。でしたら一緒にお探しするのを手伝います」
と、真に受けた朱鳥が喋ってきた。
「い、いいよ! 別に大丈夫だから……」
「それはいけません。境内で起こったトラブルは解決しないと――」
そういう朱鳥の気遣いが、青年をさらに焦らせる。
「……」
しばし、間を置いた青年は白状したかと思ったのだが――
「あぁ! あれなんだぁ!?」
「「!?」」
ショッカーか! そんな予感ですぐさま青年の指をさした方向へ振り返った途端、境内の石畳を全速力で突っ走って逃げようとする青年の姿が!
「って逃がすかぁ!」
地響きを上げるがごとく俺は境内を突っ走って青年へ追いつこうとする。
「は、早ッ!」
やせた自分よりも太った人間が、あそこまで走れるか普通!?
「てぃ!」
と、青年のこしにとびかかって境内の地面へ押さえつけることに成功。
……結果、青年は野垂死ぬか否かの瀬戸際という状況下の中で生きるために賽銭泥棒を働こうとしたとのこと。
「――そんで、これが理由?」
俺が問うと、むすっと不愛想に青年は頷いた。見る限り俺たちよりも年上の成人だとおもうけど――
「……えっと、お兄さん名前は?」
次に俺は彼の名を訪ねた。これでも身元引受人がいるかもしれないと思って一様訊ねたのだ。
青年は、しばらく間をおいてからしぶしぶと名乗った。
「乾――乾巧」
「ふーん……」
その名を聞いた途端、俺は真顔で立ち上がると台所の電話へ直行。
「もしもーし、警察ですかー?」
「って待てよ! ちょっ待てよ!!」
焦った青年こと巧は後から立ち上がって必死に止めに入った。
「頼むから警察だけにはやめてくれって……!」
「いやでも、一様未遂とはいえ犯罪だし」
「だから悪かったって! 頼むから警察には通報しないでくれよ!?」
「つってもなぁ……」
そう、腕を組んで唸る俺に、
「雷羽君」
と、朱鳥。つーか、名前で呼ばれるとこういう時でもドキッとしてしまう。
「ん、なに?」
「賽銭箱のお金が盗られずに済んだことですし、許してあげましょう」
「うぅん――」
そういうと、再び俺はこの乾巧とかいう名前の青年にこう尋ねた――というよりも尋問した。
「ところで、アンタどこかで会ったような気がするんだけど」
「はぁ?」
「昔……随分昔の話だ。小学生のころ俺を虐めまくったガキ大将と名前がすっごい被るんだ」
「って知るかッ! 小学生の頃のテメェなんて知らねぇよ!!」
「まぁまぁ、それよりも……」
と、朱鳥は巧にお盆に乗せた握り飯と沢庵を差し出した。
「お腹が空いていらっしゃるのなら、ぜひどうぞ」
「お、おぉ!」
礼を言うよりも前に乾は握り飯を両手に頬張り始めた。
「ちょっと朱鳥……」
「ん?」
俺の呼び声に朱鳥は首を傾げながら振り返った。
二人は巧みに背を向けると、雷羽はお人よし過ぎる朱鳥に呆れながらこういう。
「そう簡単に信用していいのか?」
「だって、お腹が空いて困っている人が居ましたら、私だって……それに」
なにか、感じるようだと朱鳥はこう続ける。
「あの乾さんって方から仮面ライダーの反応が強く出ているんです。種類は人間ライダーにみえるようなんですけど、それ以外にも違う反応も出てるんですよ」
「あのオッサンに?」
「オッサン言うな!」
食い終わった巧は、雷羽の「オッサン」発言にだけ勢いよく突っ込みを入れた。
「あら、もう食べ終わったんですか?」
お盆の上はきれいさっぱりに片付いていた。
「ああ、本当に助かったぜ! ありがとな」
「――で、聞いてたのか?」
と、俺は恐る恐る言い出す。
「え? ああ、さっきのことか。そうだよ、俺『ファイズ』っていう仮面ライダーだ。まぁ、賽銭泥棒に関しては悪かったな。それと、飯恵んでくれたことに礼を言うぜ」
「まぁ、いいけど――っていうか乾さん?」
「あぁ? 巧でいいぞ」
「下の名前は個人的にイヤなんで」
「お前喧嘩売ってんのか……!」
握りこぶしを震わせる彼であるが、そんな雰囲気で再び朱鳥が「まぁまぁ」と苦笑いして間に入る。
「あーあ、やっぱりファイズだったかぁ」
と、此方の居間へ滝さんが上がりこんできた。この人、警察なのに人の家に平然と上がり込んでいく図太さは紙一重だな。
「滝さん――っていうか、社務所へ勝手に上がってこられては困りますよ」
「別にいいじゃねぇか。俺とお前らの仲なんだしよ――それに、ここは朱鳥ちゃんの神社なんだし、バイトのお前には関係ねぇだろ。なぁ、朱鳥ちゃん!」
「でも、雷羽君も一つ屋根の下で一緒に同居しているので、雷羽君のお家でもあるんですよ」
そうニッコリ言う彼女に、滝はニヤニヤしながら「ほぅ~?」とからかうように雷羽を見た。
「なんだ、カラス野郎の一件でさらに仲良くなった感じに見えるじゃねぇか? 最初は『九豪君』だったのが、今では『雷羽君』か」
「や、やめてくださいよ!」
俺は赤くなると、隣に座る巧は……
「なんだ、お前らカップルか? へぇ――」
巧は朱鳥を見た後、次に俺の体系をじろじろ見ながら暫くして「ぷっ!」と吹き出しやがった。
「滝さん、コイツさっき賽銭泥棒をしに来た悪の仮面ライダーです。とっとと務所へ連れてっちゃってください」
「だぁー! ごめんごめん、マジでごめんって! すまんすまん!!」
慌てて詫びる巧に、怪しむように彼を「泥棒だぁ?」とつぶやきながら睨む滝。
「ところで、雷羽と朱鳥よ」
滝さんはそろそろ本題に入った。
「――?」
「ここに、高見沢っていうキザな野郎がこなかったか?」
その言葉に、俺は少し暗い顔をして頷いた。
「……はい、確かに」
「これは、お前達にだけ話すんだが……ファイズっての、お前も聞くか?」
滝は縁側の柱に背を預けて座っている巧みにも聞いた。機密情報とはいえ、ファイズ自身は旅を続ける流離の仮面ライダーだ。どの組織に属しているわけでもない。孤独を好む性質のため、彼の耳に漏れても問題ない。仮に聞くのなら協力してもらう予定であるが……
「興味ねぇな」
と、関心を寄せない彼はその一言で突っぱねた。
「んじゃ、雷羽と朱鳥――聞いてくれ」
「は、はい」
俺たちは真剣な顔を滝さんに向けて、彼の言葉を聞き逃すことなく耳へ入れようとした。なにせ、滝さんの真顔はガチで冗談じゃない。この人は裏表がない人だから。
「……いいか、こいつはV3っていうダチのライダーからの情報なんだがな。お前たちが今戦っているショッカーについてだ。いや、実はショッカー以外にもいくつかの組織がこの世界に存在している。その中核を担っているのが『バダン』と呼ばれる裏組織だ。そして、そのバダンの下で系列しているのが『財団X』と、『高見沢グループ』なんだよ。そのうち高見沢グループと財団Xは自身の膝元に『亡国企業』と呼ばれるISのテロ組織へ物資を横流ししている連中だ」
「亡国企業――もしかして、あの時お店を襲ってきたISが?」
朱鳥は、前回雷羽と共に出向いた店先で起こったISによるテロ事件を思い出した。
「関係はある。亡国企業は自分たちにとって『仮面ライダー』は邪魔ものなのさ。見つけ次第駆逐すると、そう命じられて行動している。まぁ、前回雷羽が返り討ちにしたことで、連中も少しずつ慎重に行動するようになったがな」
「それで、その組織がどういう?」
「亡国企業が狙うは『IS学園』さ」
「ア、IS学園?」
「そう、連中は仮面ライダーの次に障壁となるIS操縦者を襲うか誘拐、そのどちらかを企んでるのさ」
「それで?」
「政府は極秘に『正義派』の仮面ライダー達へ警備員を装いながらIS学園の用心棒を依頼してきた」
「仮面ライダー達を?」
「そうだ、その中にお前達の元にもスカウトが来ている。そのまま放っておいてもらいたいと思うだろうが、無視したら学園側の人間や政府の連中が強引な手を使ってくるに違いない。俺はお前たちの意見を尊重してやりたいが、今回ばかしは大変申し訳ねぇ――用心棒の方、やっちゃくれないか?」
と、胡坐をかきながら俺たちに頭を下げる滝さんに俺たちは断りづらかった。それに、無視し続けたら彼が言うように何かしら政府や学園の人間が強引なことをしてくるっていうのなら、朱鳥の身が危ないという予測に繋がりかねない。
それに、滝さんとは前回の戦いでもお世話になった戦友の一人なんだし、彼の頼みを一つぐらいは聞いてもいいと思っている。もちろん朱鳥もだ。
「いいですよ。詳しい話を聞かせてもらえませんか?」
「私達にできることでしたなら喜んで」
「ああ、本当にすまねぇ。恩にきるぜ……で、ファイズのアンタはどうすんだ?」
一様聞いてみるつもりで滝は巧へ振り返った。
「IS学園って……女子高だろ? 冗談じゃねぇ、男が仕事しに入ってきていいのかよ?」
どうも苦手なのか、疑い深そうに巧はそう訊ね返した。
「ああ、政府容認だ。それとな、給料もいい」
「給料?」
「バッジを付けていれば私服のままでもいいってよ。ちなみに自給三千円」
「乗ったッ!」
巧は迷うことなく滝の誘いを受けた。
その後、いろいろと俺たちは滝さんが持ってきた書類を受け取っていろいろと書かされた。履歴書ではないようだが、やはりライダーでも学園施設内へ入る入校許可書が必要のようである。
「じゃあ、これで俺は帰るわ。それと――巻き込む形ですまないな」
玄関先で帰ろうとする滝は、ふとこちらへ振り返った。
やはり、義理堅い滝にとって罪悪感を感じてしまったのか、うしろめたさがあるように見えた。
「別にいいですよ。俺たちにできることがあれば今後も協力しようと思いますんで、あぁでも俺だけで、朱鳥は別でお願いしますよ」
「ああ、わかってるって。それ以前にできる限り民間人であるお前らを戦いに巻き込ませないようこっちも頑張るから、まぁお前は朱鳥ちゃんを守ることをだけを考えてな!」
「べ、別に……」
赤くなる俺に、滝はすこにニヤッとした顔をして俺の耳元でこうささやいた。
「あのファイズってやつ、意外とイケメンだよな。気を付けろよ――」
「ッ!!」
瞬間、心にガーンッ!! と、とてつもない衝撃が走った。
「まぁ、そういうのはないかもしれないし、あくまでも俺の感だ、感」
そういって滝は立ち尽くす雷羽を背に今度こそ神社を後にしていった。
――ま、ま、ま、まさかな――ははっ
妙に嫌な予感だけが残る。この胸のざわめきは何なんだろうか?
「雷羽君~!」
台所から朱鳥の声が聞こえた。
「あ、どうした」
咄嗟に台所へ振り返る雷羽に、朱鳥はこう続ける。
「ちょっとお買い物へ行ってもらいたいのですが――」
「おう、わかった」
一旦装束を脱いで私服に着替えなおすと、俺は朱鳥から渡されたメモ用紙と財布を持って神社を出た。
「大丈夫、だよな……」
石段を下りていく中、縁側で堂々と寛ぎ続けている巧を思い出しながら近場の、といっても気だしする場所は蓬町である。蓬町の商店街のほうが安くて質のいい食材や生活用品が結構売ってある。それに、前回のことで魚路さんや壮太君は元気でやっているかと気になる。
「なんだ?」
すると、駐輪場に見知らぬバイクが置いてあった。メカメカしい銀のバイクだ。最近の流行りなのか?
「まぁいいや」
俺は、その近くに置いてあるR25――ならぬ「ネオサイクロン号」へ跨った。白を基調としたレーサーレプリカであり、排気量も250から1000CCに格上げされたことでR25よりも二回りほど大きい。カラスロイドの一件以来、敷島博士が俺のバイクをライダー時でも耐えられるよう専用に改造してくれたのだ。
あの人、人間ライダーを嫌っているけど――
心の中で俺はふとあの悲しそうな彼の後姿を思いだした……
蓬町の商店街へたどり着いた俺はバイクを止めて商店街へ足を踏み入れた。
「魚路さん」
「おう、兄ちゃんかい!」
「サンマの開きをください」
「ちょっとまってな!」
どうやら魚路さんも変わりないようだ。
「この前は大丈夫でしたか? 怪人に巻き込まれたって聞きましたけど」
「おう、この前は仮面ライダーの集団が助けに来てくれてな! いやぁ、本当に命拾いしたぜ。特に、あのラージっていうでっかいライダーには借りができちまったなぁ」
「……そうですか、とにかく御無事でよかったです」
「そういや、壮太の奴がアンちゃんをさがしてんぞ? あいつ、ラージのファンになっちまったっていうしな」
「そうなんですか!」
それをきいて、俺は少し恥ずかしくも嬉しくなった。
その後、魚路さんの魚屋を出た後、次の目背へ向かう途中に、
「雷羽兄ちゃん!」
「壮太君?」
はしゃぎながら駆け寄ってくるぽっちゃりした少年が現れた。壮太君だ。もしかして、あの時のことがまだ忘れられないようなのか。だとしたら嬉しい反面すごい恥ずかしくなる……
「……でね! ラージっていう仮面ライダーがさ――」
「ほう?」
俺にこの出来事を話したかったのか、興奮気味で話し続けるのに俺はオウム返しのように返しながら頷きつつ彼の話を聞き続けた。てか、めっちゃ恥ずかしぃ!
「じゃあね! また遊び来てよ」
手を振りながら、壮太は後ろの同級生の子たちと一緒に駆けていった。
「仮面ライダー、か……」
俺は、妙にライダーになって後悔していたことや初めて人を殺したことに対する恐怖心やトラウマから徐々に救われていく気持ちになった。
そう、命をためらいなく奪う悪い奴なら殺す。それが人間だろうが怪人だろうが今の俺には関係ないんだ。ライダーになった以上、俺はそう改めて決心した。
ネオサイクロン号の後のバックに買い物バッグに入った食材や日用品を入れて、元来た道を戻って行った。
「あれ?」
神社に就くと、石段付近にある駐輪場に見知らぬバイクがまだ置いてあった。
「まさか――」
俺はふと嫌な予感を察知してか、ものすごい勢いで石段を駆けあがって行き、すぐさま社務所兼自宅へとドタバタ音を立てながら上がって食卓を見れば……
「おう、お帰り」
やつだ。奴がまだ嫌がった。俺よりも先に茶碗を片手に飯を堂々と頬張りやがっている乾巧の姿が見えた。
「……」
両手に持っていた買い物袋がズルっと手から滑り落ちて畳に落下し、バッグからリンゴや玉ねぎが足元へ転がり落ちる。
「あ、雷羽君おかえりなさい! ごめんね、先にご飯にしちゃって――」
台所から暖簾をくぐって巫女装束越しに割烹着を着た朱鳥が出てきた。
「……ねぇ、朱鳥。どうしてコイツまだいんの?」
ギシギシと体をきしませながら俺は恐る恐る巧みに指を向けて彼女に訊ねた。
「お金がたまる当分の間は、ここで泊まらせてあげようかなって思いまして」
笑顔で答える彼女に、俺は内心恐怖と絶望にかられる。
「まぁ、当分世話になるぞ」
飯を食いながら真顔で言い出す彼に俺は深々とため息をついた。
何やら、面倒で厄介な恋敵にもなりうる? 新たな同居人のライダーがこちらに住み着いてしまったようである。
後書き
次回「IS学園のバイト仲間」
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