仮面ライダーLARGE
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第七話「LARGE再び」
前書き
一条さんにマイルドを着せたのは無理やりだったかな?でも、一条さんって結構不死身な肉体だし、射撃技術もあるから尾室君より活躍するかも? っとおもって、別に尾室君も嫌いじゃないけどね。
そのころの新宿の歩行者天国を行きかう人々は、まさかこちらにショッカーの怪人が襲来してこようなんて思ってもみなかったことだろう。
「しってるか? 『仮面ライダー』っていう都市伝説のこと」
二人の青年のうち一人が合い方へ訊ねた。
「ああ、長い間有名になったな例の通り魔のことだろ?」
しかし、ISの到来によってその噂は最近ポツリと途切れてしまった。それどころか、今となって仮面ライダーは凶悪な通り魔伝説という物騒な都市伝説で語り継がれているのだ。
「その通り魔がだけど、ライダーっていうのは結構居て、そのうちの何人かは正義の味方やってたってしってる?」
「はぁ? それは初耳なんだけど」
「よく、女性たちが『仮面ライダーという通り魔は――』とかいってるけど、中には化け物に襲われそうになった人を助けたり、その化け物を倒したりっていろんな活躍もしているらしいぜ?」
「でもさ……それって、所詮は『都市伝説』なんだろ?」
「その都市伝説がさ、この前画像でアップされてんだよ!」
そういうと、スマホの画面から相方へ仮面ライダーと思わしきバッタを思わすような仮面をかぶった男が、黒ずくめの集団を相手に広い裏路地で戦っている写真だった。画質はやや粗い。
「単なる特撮じゃなくてか?」
そんなの単なる特撮の一部画像をそうやって加工しているか何かしているんじゃなかろうかと、相方は疑った。
「でもこれ、一週間前に池袋かどっかで目撃された光景なんだってよ」
「まぁ、そういうのも半信半疑だな。まさか信じてるのか?」
「そういうわけじゃないけど――」
「いいやつも居れば悪いやつもいるってか? ただでさえ世の中物騒なんだぜ。これ以上わけのわからんのが増えてもらっちゃ俺にしては困るんだけどな――」
そうやって、先ほどまで上空を飛び交っていた数機のISを見上げた途端。
「あれ?」
見上げる上空に、こんな真昼間というのに花火でも打ち上げているのか?
……いや、あの煙は黒煙だ。先ほどまで飛んでいたISが黒煙に変わった――
それは信じられない事実を信じられずに呆然と上空を見続けているのだから、そんな相方にさっきまで仮面ライダーの話をしてきた青年が肩をつっついた。
「どうしたんだ?」
「……あれ」
「あぁ?」
刹那、目の前の歩行者天国の中央より降り立った人型の物体と共に周囲に激しい破片の煙が吹き上がり、同時にその煙の中から痛みにもがき苦しむいくつもの悲鳴が聞こえてくる。
周囲は突然の衝撃に足元が崩れて、地面へしりもちをつ人たちで溢れかえった。二人も何が起こったかわからずパニックになりながら煙の奥にいる何かの影を恐る恐る目を凝らしだすと、
「な、なんだ!?」
去った煙から現れたのは、背に生やした黒い翼を左右に広げ、人の体にカラスの頭をもった――化け物だ。
「ひ、ひぃ――!」
周囲はその異形のカラスロイドを前に腰を抜かし、逃げようにも背を向けることすら恐怖であり、動けずにいた。
「た、たすけてぇ……!」
そんなカラスロイドの足元には派手な姿をした若い女性が、カラスロイドが飛来した衝撃で動けない体で泣きながら横たわっていた。
「邪魔だ」
その言葉を最後に、倒れている彼女の頭部をボールのように軽く蹴り上げた。
彼らの頭上を、女性のものだった部位が宙を飛び、それが二人の青年達の足元へ落ちると……
口元をパクつかせながらこちらへ視線を合わせる女の頭部と視線が合ってしまった。
「う――うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
二人は悲鳴と共に他の通行人共にすぐにもカラスロイドへ背を向けて疾走しだした。
「フンッ!」
カラスロイドは、おの片腕から研ぎ澄まされた鋭い刃で次々と逃げ惑う人々を襲い始める。
「戦闘員!」
カラスロイドのその人声に、いつの間にか彼の背後から黒づくめのショッカー戦闘員が奇声を放ちながら群がりだした。
「存分に楽しめッ!」
血塗られた片腕の刃を掲げるとともに戦闘員たちはいっせいに散開し、逃げ惑う人々を捉えては、片手にする剣を振り下ろしてはいたるところで人間達の血しぶきが吹き荒れていく。
ショッカーの一団によって新宿の歩行者天国は虐殺の惨状が広がる地獄絵と化した。
「捕らえろ!」
次に発したカラスロイドの一声に、戦闘員は逃げ惑う人々を追い越すと、彼らの頭上を人並外れた身体能力で飛び越し、次々に目の前に立ちふさがって、逃げ延びようとする市民を次々と捕らえて人質に取ってしまった。その数はおよそ40名。
「なんなんだよ――何なんだあいつらぁ!?」
「化け物だぁ……」
「ISは何してんだよ! 早く来てくれぇ――」
そんな震える市民の中から聞こえてきた「IS」に反応してか、
「ISぅ? ……ああ、こいつらのことか?」
カラスロイドは片手にぶら下げ持っているものを彼らに見せつけた。血まみれになった片腕のアーマー。それは紛れもなく自衛隊のISの残骸で、腕ごと斬り裂かれたISのアームパーツであった。
「う、うそだろぉ……」
周囲は、あの最強とうたわれたISが敗れたことの恐怖と絶望が脳内を駆けまわった。
今の彼らにあるのは人質にされたことによって自分たちのあのISのような有様にされるのかと妄想する恐怖と絶望だけ。
「さぁ、バトルのコマはそろったぞ! ラージ――」
突如、余裕を見せるカラスロイドの声をかき消す複数の声が聞こえた。来るならいつでも来い、そんな余裕を持つカラスロイドであったが……
「「変身ッ!!」」
「――?」
その声の方へ目を向ければ、一台のトレーラーと、トレーラーと共に向かう四台のバイクにまたがた――仮面ライダー達が現れた。
四台のバイクが止まり、その車体に跨っていた四名のライダーがおり、トレーラーからはさらにもう二体のライダーが現れた。
「あ、あれって……!」
逃げ出すもあっけなく捕まった二人の青年のうち相方の青年が目を丸くした。
「……仮面、ライダー?」
青年はふとそう口からこぼした。
「くそっ! 町の人たちを人質とったのか!?」
ラージに変身した俺やナハトの弾、G3Xの氷川さんやマイルドの一条さん達は予想外な展開に対応がついていけなかった。しかし、一方の滝さんだけは例外である。
「やはりな――!」
スコーピオンを両手に構える滝ライダーは髑髏越しの仮面から連中を睨みつけた。
「なんだ、他のライダーどもを連れてくるとは果し合いにならないな」
「ふざけるな! 関係のない人たちを大勢こんなに――」
ライダーの姿で、俺は周りの惨状を見渡した。今にも吐き気を起こしそうなほどに光景に目をそむけたくなるほどの惨状が広がり、生き延びた人たちは人質として戦闘員にとらわれている。
「まさか……お前! 朱鳥はどうした!?」
ここまで残忍な相手を知った俺は、途端に朱鳥のことを叫んだ。
「あの子娘か、心配いらん――ほれ」
そういうと、そこには片腕を掴まれたまま巫女装束に似せた強化人間姿の彼女がボロボロの姿にされて再び雷羽と再会した。
「あ、朱鳥ッ!」
「ふん――」
カラスロイドは掴んでいた彼女をパッと放り投げた。
「朱鳥ッ!!」
急いで彼女の元へ駆け寄り、彼女を抱き上げた。
「大丈夫か! しっかりしろ!?」
「う、うぅ……九豪君――」
弱々しくも彼女はまだ息があった。しかし、奴らから受けたその仕打ちはあまりにもひどい有様である。
露出した白い柔肌は所々に剥げめくれ、多くのミミズばれが浮かび上がってる。口元や頬、額にはいくつもの切り傷が、そこからはふさがり切っていない血がおびただしく流れており、腹部からは大量の血が装束にしみついている。瀕死の状態であった。
そして、何よりも雷羽の心が折れそうになったのは……彼女の片腕、左腕が肩から丸ごとなくなっていたことだった。
「殺してしまったら逆に戦意を喪失するだだろうとおもってな、殺さない程度にじっくりと痛めつけておいたから安心しろ?」
「テメェ……」
仮面越しの両目は鬼のごとき形相でカラスロイドを睨みつける。
「弾――ナハト、朱鳥をトレーラーへ」
「ああ……」
抱き上げた彼女を弾――仮面ライダーナハトへ預けた。
「……俺は今、仮面ライダーになってお前を倒したい気分だ!」
「気が合うなぁ、俺も仮面ライダーにったお前を殺したい気分だ」
そういうと、カラスロイドはこう続けた。
「クックック、桑凪朱鳥――いいや、後方支援型強化人間『アゲハ』をいたぶるのは良い暇つぶしになった。あの白い柔肌をまんべんなく醜く痛め傷つけ、最後のこの俺の刃で細く軟弱な片腕をじわりとじわりと切り落とした。あれは、ハムを切るような感触が刃から全身を駆け巡った。実に良い快楽を与えてくれたぞ」
「だまれぇ――黙れ黙れぇ!!」
俺は地響きを立てるがごとく、拳を掲げてカラスロイドへ殴りかかる。
「この悪魔共ガァ!」
「甘い!」
右腕の鋭い刃が、俺の拳よりも早かった。
腹部のアーマーに火花が散ったと同時に俺は数メートル後方へ弾き飛ばされた。
「かかれ」
つかさずカラスロイドは戦闘員たちに命じると、奴らはそれぞれの剣を手に雷羽達へ襲い掛かった。
「ひるむな! 奴らは怪人以下の雑魚だ。慌てることなく隙を見せるな!!」
滝ライダーを先頭に雷羽達も戦闘員を迎え撃つ。
「怪人以上にもろいな!」
「ああ、これなら百人力だ!」
アギトと共に怪人を掃討していたころよりも、ショッカーの戦闘員相手程度ならG3Xや旧型のG3やマイルドでも十分対抗できるようだ。
超高周波振動ソードGS03デストロイヤーを振りかざして、次々にショッカーの戦闘員をなぎ倒していくG3Xとスコーピオンを片手の一条のマイルド、そして滝の鍛え上げられた格闘とGユニット御用達の武装戦術に次々と戦闘員は呆気なくやられていく。
「所詮は消耗品共か――」
バイオ技術で創り上げた玩具では人間側の戦力に太刀打ちするには厳しい状況である。しかし、今のカラスロイドにとってそれは誤算のうちに入らなかった。
「ラージ!」
「鴉やろう!」
立ち塞がる戦闘員を腕力で殴り倒した俺は、再びカラスロイドと対峙する。
「次は本気で行くぞ?」
「なめるな!」
再びカラスロイドへ構える俺の元から、
「雷羽!」
「九豪君!」
トレーラーから戻ってきたナハトと翔一さん――アギトが加勢に駆けつけた。
「ふん! 何人集まっても同じことだ」
カラスロイドの剣とかした右腕の先が三体のライダーへ向けられた。
「剣には剣――薙刀か!」
アギトは念じる。目の前に生じたリング状の裂け目から現れた薙刀ストームハルバードを左手で握りしめると、その左腕から胸と腹部に駆けてアーマーが青く変色し、肩部の先が突起に変異した。スピード重視の接近戦、ストームフォームだ。
ナハトも両手にクナイ状のナイフを手に構えた。
「雷羽! 俺たちの後に続いてくれ」
「あ、ああ!」
二人の斬りこみの後から俺は続いて、三体のライダーがカラスロイドに向かった。
「小癪な!」
カラスロイドの片腕の刃とストームフォームの薙刀の先が衝突しあうも、一段分があるストームハルバードの後方より切りかかるもう片方の刃がカラスロイドの胸を斬り透けた。
「ッ!」
一発のダメージはそこそこだが、それを連撃で食らえば痛手になる。
「くらえっ!」
さらに背後から回り込んだナハトのクナイがカラスロイドの背を直撃した。アギト同様になんとも鋭い斬りこみだ。つかのまに、隙を与えずアギトのストームハルバードの斬りこみ、そしてまたナハトが後方左右からの素早い連携攻撃に見舞われてしまう。
鋭く、素早い斬りこみにカラスロイドは次々と体の至る個所から発する火花とダメージに突然の苦戦を強いられる。
「ぐぅ――調子にのるな……!」
「雷羽、いけぇ!」
「なに!?」
弾の合図と同時に、カラスロイドの背後から凄まじい威圧感と殺意が襲い掛かる。
「ライダーパンチッ!!」
カラスロイドの腰をラージ渾身の拳が直撃した。そのダメージは当たり所が悪ければ一撃で葬られるだろう。
「ぐあぁ――!!」
その勢いはすさまじく、背後から殴りつけられたカラスロイドはその勢いのあまりに目の前の電話ボックスへ後から衝突した。
「ぐ、うぅ……!」
全開した電話ボックスの場所からよろめきながら立ち上がるカラスロイドに、ふたたび三体のライダーが襲い掛かる。
「ライダー共がぁ――」
カラスロイドは背中の黒い翼を思いっきり広げ始めた。
そんな奴に向かって、ストームフォームのアギトは両手に構えるストームハルバードを左右交互に円陣を描き始めた。
高速で回転するハルバードから生じる風はカラスロイドのボディーに凄まじい風圧を与え、その圧力は怪人である自身の動きを封じ込めたではないか。
その風で動きを封じた自分をその薙刀で斬り裂こうという戦法だろう。その戦法はカラスロイドのデータには既に取得済みであった。
いいや、ショッカーでさえライダーと戦うにつれて数あるライダーから戦闘データを記録して、それを研究しつづけては怪人を強化している。
そう、強化しているからこそ……
アギトがストームハルバードでいざ斬り裂こうとした寸前のことだ。
「……ライダー共が調子にのるなぁ!!」
刹那、カラスロイドは自らが起こした竜巻に覆われて、トドメをさそうとするアギトを外部から竜巻が作る風の壁で弾き飛ばしたではないか。
「うわっ!?」
突然に火花と共に弾き飛ばされるアギトと、そんな彼の元へナハトが駆け寄った。
「ライダーごときがショッカーの怪人を甘く見るなぁ!!」
竜巻から次々に撃ち放たれる目に見えない衝撃波は、ナハトやアギト、そしてラージを吹き飛ばし、戦闘員を全員倒したG3Xとマイルドを纏う氷川と一条、そして滝ライダーにもふりかかった。
「ぐあぁ――!」
G3X以上に耐久率の低いマイルドを纏う一条にはダメージが酷かった。
「一条さん……!」
同じように弾かれた氷川は、近くで自身よりも深いダメージに苦しむマイルドを纏った一条の元へ身を引きずりながらも彼の元へ急いだ。
「だ、大丈夫か?」
ただのプロテクトアーマーを纏うだけの滝ライダーも直撃を受けたが、滝自身が常に鍛えた強靭な肉体によってマイルドに近いダメージで済んだ。
彼らは後方からの距離で直撃を受けたことが幸いだった。もし、雷羽達と同じ距離で直撃をくらったら、命にかかわっていたことだろう。
「氷川君! 滝警部と一条警部補を連れて早くトレーラーへ!!」
G3Xとマイルド、滝ライダーの無線から小沢の声が響いた。
マイルドと滝ライダーのダメージは既に限界に近い状態になっていた。もちろん、G3Xも二人のことはいえないほどのダメージを受けている。ショッカーの怪人がここまで進化していることには想定外であった。
……しかし、
「……いいえ、私はまだやれます!」
一条は、マイルドを纏った体を引きずるように起き上がりながら揺らめくも踏ん張りだした。
「アイツを……これ以上アイツをこんなところで寄り道させないために、もうアイツを巻き込ませないためにも、アイツには今のまま笑顔で旅を続けてほしいから――そのためにも私が代わりに戦わないといけないんだ!」
「小沢さん、僕も――行けます!」
氷川もふらつきながらも立ち上がった。
「僕だって――仮面ライダーじゃなくても、``ただの人間``だから期待されないことは十分にわかってまうすよ。でも――今の僕は……皆の命を守るために戦う仮面ライダーとして此処から背を向けちゃいけないんだ!!」
「へへ……」
そんな二人の後輩を横目に、滝は仮面越しから笑みを浮かべた。
――本郷よ、お前たちの意思はしっかり俺たち人間に受け継がれてるようだぜ。
そして、唸りながらも滝ライダーも立ち上がった。
「ぐ、うぅ――」
なおも痛みに呻きながら横たわるラージは、竜巻が消えて再び姿を現したカラスロイドに見下ろされた。
「いつまでも古臭いメイドインショッカーの怪人と思ったら大間違いだぞ。ありとあらゆる怪人のデータ、グロンギやオルフェノク、アンノウン、そしてアンデッドのデータを徹底的に解析し、その性能をこのボディーに宿しているのだ」
「チッ! 馬鹿の一つ覚えってやつだな――」
さすがにショッカーでも油断ならないとナハトは起き上がった。
「けど、次食らえば――」
横たわった体を必死に起こしあげて膝をつく俺はどうすればいいのか、目の前の強大な壁を前に心が折れそうになった。
アギトすらも予想以上にダメージによって変身が解く寸前までの状態だ。変身バイクのマシントルネイダーを駆使した戦術などできる体力は残されていない。
――やっぱり、俺にはできないのか?
いつもそうだった。強化人間と気づかぬ前の自分はそうやって実力の限界を感じてはすぐにあきらめてしまった。
今、仮面ライダーとしてでも怪人さえ倒せないままこうして実力が証明されてしまったんだ……
「……」
俯き続ける、そんなラージの姿にむかって……
「――がんばれぇ!」
「!?」
その声のほうへラージは振り向いた。戦闘員にとらわれていた人質の中からそれは聞こえた。
――壮太君!?
いや、あの少年以外にも蓬町の人たちも人質となってこの場に取り残されていたのだ。彼の隣には魚屋の魚路もいる。
「仮面ライダーがんばれぇ!」
恐怖におびえながらも、その少年は大粒の涙で泣きながらもラージに向けて必死に叫んだ。
「――負けるなぁ! あんな怪人、やっつけちゃえぇ!!」
「壮太君……」
その言葉に突き動かされるように、俺は無意識に立ち上がって壮太ほうへ体を向けた。
「でぶっちょだからって負けるなぁ! 弱くたって負けるなぁ!!」
恐ろしい怪人の前だというのに、力いっぱい恐怖に負けじと涙をしながら声援を送ってくれる。
「……そうだ!」
すると、隣に立つ魚路さんは壮太の肩に手を添えて一緒に叫んだ。
「頑張れ! 頑張れ仮面ライダーッ!!」
魚路さんの声がその場に響いた。
「頑張れ! 負けないでくれ!!」
そんな彼の輪髭の頬から一滴の露が流れた。
「そうだ……」
「頑張れ!」
「アンタたちだけが頼りなんだ!」
「頼む、勝ってくれ!」
「お願い、負けないで!」
壮太と魚路の声に突き動かされるように周囲の人々も人質である恐怖を払いのけて必死にラージたちへ「頑張れ!」と何度も繰り返しながら声援を送りだした。
――みんな……
「やかましい虫けら共がぁ!」
そんなカラスロイドは、逃げようともせずにライダー達へ声援を送りつづける人質の人間達にむかって左手を向けて衝撃を撃ち放った。
「やめろっ!」
ラージが彼らの元へ走り出す刹那、
「させないっ……!」
彼らへ襲い来る衝撃をシールドで遮り、自ら盾となったその少女は息を切らしながら片腕を失うという重傷を負った状態にもかかわらず、必死にその体で耐え凌いでいた。
「あ、朱鳥お姉ちゃん!?」
巫女の姿に近い姿をしているも、その顔だけは自分が知る大好きなお姉さんの顔であった。
「させない……もう誰も、傷つけさせはしません!」
そのとき、彼女の背に蝶の翼を思わす触角が頭部から生え、背には翼が生え広がった。
泣きそうな感情を抑え、必死で歯を食いしばり痛みと疲労に耐え続ける朱鳥は震えながらもその瞳をラージに向けて微笑んだ。
「頑張って――!」
「ッ!!」
そのとき、九豪雷羽の――仮面ライダーラージの体内で何かの感情がはじけ飛んだ。正義や優しさ、プライド、それらを超越した、目の前の恐怖と絶望に臆すことなく打ち勝つために立ち向かう、覚悟であった。
「デブなんて百も承知――馬鹿でウスノロなんざ当然だ。でも、俺は立ち向かわないといけない! 皆のためにここで……お前に勝たなくちゃいけないんだ、誰かを守るために戦う、一人の『仮面ライダー』として!!」
カラスロイドに向けてラージは構えた。全身全霊、本機を示した構えだ。
「さぁ、みなさん早く!」
戦闘員を倒し切った氷川達はこの隙に人質になって取り残された人たちを連れてトレーラーの方向へ誘導しだした。
「頑張れ――頑張れ! 負けるな``おっきい仮面ライダー``!!」
「ッ!」
そんな逃げながらも最後の声援を送った壮太に、ラージは力強くグッと「サムズアップ」を向けて答えた。
「うん!」
壮太も、そんなラージに鼻を啜りながらサムズアップで返した。
「行くぜ――鴉野郎!」
再びラージはカラスロイドへ突進した。
「小癪だというのがわからんか!」
再び片手をかざしてラージに衝撃を放つが――
「そんな攻撃ィ!」
しかし、それに吹き飛ばされることなくラージは衝撃波の壁を突進で突き破ったであはないか。
「なに!」
驚くカラスロイドの合間にはラージがいた。
「ライダーハリテッ!!」
強靭なラージの掌がカラスロイドの顔面を直撃した。
「ぐはっ!」
「ライダーダブルパンチ!」
両手を組んで振り下ろす、現式的ながらもパンチ力を二倍に秘めたその技はカラスロイドの頭上を直撃。
「やられてばかりだと――」
再びもう右腕の刃が鋭く素早い斬りこみでラージの腹部を斬りつけた。
しかし……
「そんな攻撃効かねぇにきまってらぁ!」
「ばかなっ――」
それに目を丸くするカラスロイドは再び顔面にライダーパンチを食らった。
「ぐぅ――あらゆる怪人のデータを取り入れたこのボディーがこうもあっけなく!?」
それはカラスロイドには信じられなかった。
「グロンギが相手なら、二度と目覚めない様に邪悪なその魂を吹き飛ばしてやる! オルフェノクなんていう人類の進化なんて俺は絶対に認めない! そんな進化、俺の力で灰と共に死後から輪廻転生へ戻してやる! アンノウンなんて幾らでもかかってこい、隕石ごと俺がこの拳で打ち砕いでやる!!」
もう俺は負けたりしない! 誰が相手だろうと、目の前にいる命たちを何が何でも守り抜いて見せるんだ!!
カラスロイドへ蹴り上げて距離を取った。
「ヘヴィーホッパーの一体ごときが調子に……」
再び竜巻を展開しようとした最中、
「そうはさせん!」
G3Xは専用のガトリング式機銃GX05ケルベロスを構えてカラスロイドを真横から射撃。1秒ごとに30発も放たれるその脅威の連射に見舞われ、カラスロイドが竜巻兼衝撃波を発生、放てる左腕は吹き飛んでしまった。
「なッ!?」
マイルドや滝ライダーもそれぞれの武器で応戦し、カラスロイドの動きを止める。
「キサマらぁ――仮面ライダーでもない分際で、何者だ!」
ただの人間ごときが戦闘員を殲滅し、怪人をライダーと共にここまで追い詰めるなどあり得るはずはない。
しかし、そんなカラスロイドにG3Xを纏う氷川は堂々と叫んだ。
「――ただの人間だ!」
「馬鹿にしてッ……ぐぉ!?」
そんなカラスロイドの腹部をアギトのストームハルバードの先が貫き、さらに足のモモ裏をナハトのクナイが突き刺して動きを完全に止めだした。
「今だッ! 最後はお前が決めろ雷羽!!」
ナハトの叫びに俺は地面を強く蹴り上げて宙へ飛びあがたった。
身体を宙で歯車のようにバク転しだし、カラスロイドの頭上へ降下する。回転するその勢いによる渾身の踵カラスロイドの頭部へ振り下ろした。
「ライダー大車輪踵落とし!!」
こうして爆発と共に戦闘は終わった。
カラスロイドは上半身が吹き飛んで下半身だけが地面に横たわっているだけになっていた。
「ライダー!」
トレーラーへ戻るラージたちを壮太は呼び止めた。
「……?」
彼の元へ振り返るラージ。
「――ありがとう、ライダー!」
そんな笑顔を見せる壮太にラージは再び力強くサムズアップを向けた。
「ありがとう!」
「ありがとう――」
「本当に、ありがとう!!」
すると、壮太に続いて周囲の人々も彼らライダーへ感謝の言葉をかけだした。
そんな光景に周囲や、滝ライダーに片腕を担がれた朱鳥もそのほほえましい光景に笑みを浮かべた。
壮太はラージの元へ駆け寄ってくる。
「名前……なんていうの?」
「俺は――」
少年の元へ背を掲げめて、その彼らを守り来た手でその幼い頭を撫でながら答えた。
「ラージだ、仮面ライダーラージ」
「ラージ……」
どこかで聞いた覚えのある声に反応する壮太であるが、しかし大好きな仮面ライダーが目の前で触れ合ってくれたことに今は興奮していた。
「ありがとう、壮太君が応援してくれたおかげで怪人を倒すことができたんだ。本当に、ありがとう――」
「ぼ、ぼくは……」
照れ臭くなる壮太だが、そんなぽっちゃりな少年を白いマフラーが揺れるアーマーの胸へ優しく大きな両腕が包むように抱きしめた。そこから伝わる優しさとたくましさは、まさに誰かのために戦う「正義」を目指す一種の仮面ライダーの人間味あふれた温もりであった。
「この先も怪人と戦うために俺も頑張るから、壮太君も決してつらいことがあったって負けるんじゃないぞ?」
「うん、約束だね」
「ああ、約束だ!」
最後に、もう一度壮太の頭を撫でてやったラージは彼らに背を向け、仲間と共にバイクで去っていった。
*
その後、朱鳥は敷島博士の研究所へ運び込まれ、彼の治療によって元気に回復でき、失った片腕も嘘のように戻って、また神社で奉仕できるまでの身体へ回復することができた。
滝さん達は未だに俺たちライダーを見守るように監視を続けているそうだ。
弾は翔一さんの所へ言ってバイト兼弟子となって今もレストラン「AGITΩ」に身を置いている。
「……最近、不審者が後を絶たないようだな? 駄菓子屋の前で動物の着ぐるみを着た四人組が目撃か」
「へぇ~」
あれから数日後、ようやく元の生活を取り戻すことができた。当初はどうなるかとおもったが、今となっては中途半端な自分を改めて見直すいい反省にも慣れた。もちろん、これ以上朱鳥を傷づけられるわけにはいかない。そのためにも自己犠牲を覚悟で必死に戦い続ける性分だ。
昼休みに社務所の休憩室で新聞を広げながら記事を読み上げる袴姿の俺と隣で巫女装束で座る朱鳥の二人。
「そういえば、このあたりにオートバイに乗った若い男性の方が何度も目撃されたって聞きますね?」
「こわいなぁ――っていうか、近くに滝さんとか居ると思うけど」
「そういえば『風都』っていう地域で噂の名探偵がいるらしいですよ? 誰かが依頼で何とかしてくれるんじゃないですか?」
「あはは、それっていわゆる『興信所』っていうんだろ? ああいうところって何十万もお金がかかるから、そういう事件とかは警察がやるもんさ」
事件を解決する名探偵っていうのはあくまでも推理小説の産物。探偵というのは興信所となって浮気やらいろんな人間関係を調査する仕事が主だろう。
そんな社務所へ、誰かが訪ねてきたことを知らせるインターホンが鳴り響いた。
「ああ、俺が出るよ」
ちょうど休憩も終わったことだしと、俺は腰を上げて玄関へ向かった。
「はい、どちら様ですか?」
ガラガラと引き戸を開けて、目の前に現れた人はスーツを着た男性だった。
「ッ!」
とたん、俺の第六感がこの男から発せらえる異様なオーラを感じ取った。強化人間故の力かもしれない。
――この人、いい人なんかじゃない?
「どうも! 私、『高見沢グループ』総帥の高見沢逸郎と申す者です」
「高見沢って――あの?」
有名な巨大企業だ。それも目の前に立つ男はその企業の総帥!?
「初めまして、仮面ライダーラージ君」
にやりと高見沢の野心溢れる笑みがこぼれた。
後書き
次回
「人は皆、誰もが仮面ライダーさ!」
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