戦国異伝供書
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第九十二話 尼子家襲来その六
「しかしな」
「それでもですか」
「援軍は遅れるとな」
その様にというのだ。
「言う」
「そしてですか」
「油断させる、そして迎え撃つのじゃ」
尼子家の軍勢をというのだ。
「その様にするぞ」
「さすれば」
「ではな」
こう話してだった。
元就は偽情報を流しつつ戦の用意を終えて吉田郡山城とその周りの出城に兵を集めた、それを見て元網は兄に問うた。
「この城までの城は全て空にしましたな」
「出雲からここまでの道にある城はな」
「それはあえてですな」
「無論、無駄に戦って兵を失うよりもな」
それよりもというのだ。
「この度はじゃ」
「あえて兵を置かず」
「敵をここまで来させる」
「そうしますか」
「敵の数は三万」
元就は尼子家の軍勢の数を自ら言った。
「そして先陣は新宮党じゃ」
「尼子家の中で武の柱ですな」
「あの者達が務めておる」
「まさに必勝の布陣ですな」
「尼子家のな、それに対して我等は集めて五千」
元就の今度の言葉は精々といったものだった。
「その程度じゃ」
「普通に戦っては勝てませぬな」
「普通に戦ってはな」
そうなるとだ、元就も笑って答えた。
「勝てぬわ」
「左様ですな」
「しかしな」
「普通には、ですな」
「わしも戦うつもりはない」
最初から、そうした言葉だった。
「この度もな」
「それでは」
「敵は必ず来る、この城の前にな」
「青山に入りますか」
「あの山に布陣するであろうが」
尼子家三万の大軍がというのだ。
「尼子家の誰がこの辺りの地の利に詳しい」
「それは」
元網は兄の問いにすぐに答えた。
「間違いなくです」
「詳しくないのう」
「左様であります」
「江の川のこともな」
この辺りを流れている川のこともというのだ。
「そして周りの道もな」
「そこもですな」
「わかっておらぬ、しかし我等はどうじゃ」
「ここは我等の本拠です」
「代々のな」
「最早遊び場いえ庭も同然です」
元網は兄に答えた。
「この辺りは」
「左様、だからな」
「ここで戦うとなると」
「もうどの様にも戦える」
「そして敵を攻めていきますか」
「そうする、下手な奇襲は警戒されておる」
元就のこれまでの戦を見てだ、尼子家とて愚かではなく彼のことを見聞きしてその戦ぶりも知っているというのだ。
「それならな」
「あえてここまで、ですな」
「誘い込んでな」
「縦横に攻めるのですな」
「そうした奇襲の仕方をするのじゃ」
これが元就の考えだった。
「よいな」
「はい、それでは」
元網も頷く、そしてだった。
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