ロックマンZXO~破壊神のロックマン~
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第四十一話 少年が選ぶ道
セルパンを倒し、墜落したガーディアンベースの修理が終わるまでガーディアンの保養施設で過ごすことになったヴァン達。
施設内で静かに過ごす者と外で出された料理を摘まみながら騒ぐ者…誰もがヴァンとエールの勝利を喜んでいた。
「賑やかだな…」
「あなた達がセルパンを倒したからよ。」
「プレリー」
声に反応して振り返ると、料理を持ってきてくれたプレリーがヴァンの隣の椅子に座る。
「はい、あなたの分よ」
「ありがとう、わざわざ持ってきてくれてさ」
料理を受け取るとプレリーに礼を言うと彼女は柔らかく微笑んだ。
「この国周辺のイレギュラーは?」
「この国のイレギュラー発生の原因だったセルパンを倒してモデルVを破壊したから徐々に減少傾向にあるわ。アウターがイレギュラーの巣窟なのは変わらないけれど、原因を取り払ったことで少しずつ改善していくはずよ」
「そうか、少なくても十年前の俺達のようなことは無くなるといいな…インナーの方はどうなってるんだ?セルパンの演説のせいで大混乱だったじゃないか」
あの時のセルパンの演説のせいで、セルパンを英雄視していた人々は絶望し、モデルVの覚醒を促すほどの大混乱となった。
「…インナーの方はまだまだ落ち着いてはいないわ。モデルVにエネルギーを吸収された人々のこともそうだけど、この国の中核となるまでに勢力を広めていたセルパン・カンパニーの本社ビルの崩壊……セルパンの企みはどうあれ、人々の精神的支柱であったことは確かだもの」
「カンパニーの機能が止まって国が傾いたりはしないよな?」
「まだ分からないわ…でもあの演説から立ち直った人々が新しい国の運営体制のことで色々と話し合っているみたいだから心配はいらないと思うわ」
それを聞いたヴァンは安堵の溜め息を吐いた。
この国には辛い思い出だけではなく、亡き母親との楽しかった思い出があるのだ。
国が荒れるのだけはどうしても避けたかったが、国の運営に関してはヴァンには何も出来ない。
「セルパンがいなくても国は動くか…ほとんどセルパンの都合の良い箱庭同然の状態だったのに…やっぱり人はそんなに弱くないんだな」
「ええ、その通りよ。私は長い年月を生きてきて…人の弱さや強さを見てきた…だから、簡単に終わったりなんてしないわ」
プレリーは幼い頃からずっと見てきたのだ。
人の強さと弱さを。
弱いからこそ、他者に手を差し伸べることが出来る強さがあることを“お姉ちゃん”達が教えてくれたからだ。
これからきっとこの国はいくつもの問題や試練が待っていることだろう。
それは辛く苦しいことなのかもしれないが、滅びてしまってはそれと向き合うことさえ出来ず、家族や親しい人達、愛する者と手を取り合うことも、笑いあうことも、意見の違いでぶつかることすら出来ない。
「…そうだな」
「きゃはははははっ!!ジルウェ~、このジュース美味し~よ~♪」
「ジュース?………って!?これ果実酒だぞ!?誰だエールに酒を飲ませた奴は!?」
ヴァンとプレリーは互いに微笑み合い、ジュースと間違えて果実酒を飲んで酔っ払ってるエールとそれに絡まれてるジルウェの姿にプレリーは改めて口を開いた。
「あの時に二人をあなたが助けてくれなかったら…きっとあんなに幸せそうな二人は見れなかったと思うわ」
「そっか……エールって酒に弱かったんだな…」
「絡み上戸ね…」
「プレリー、カメラあるか?記念に残しておこう」
「賛成」
二人はカメラにジルウェに絡んでいるエールを映した。
勿論映像にも残しているので、酒を飲めるようになったら笑い話のために隠しておこう。
黒歴史の一つがまたここに誕生した。
「プレリー、しばらく休んだら俺は旅に出ようと思うんだ」
「え?」
予想していなかった言葉にプレリーの目が見開かれた。
「セルパンとの戦いでプロメテとパンドラが出てこなかったのが気になる。それにあいつらのことだからこのままで終わるとは思えない。」
「なら、私達と一緒に…」
「一人の方が動きやすい。それにプロメテ達の言葉を信じるなら俺はかなり警戒されているようだからな…一人で大暴れしてれば向こうから動くだろ。イレギュラーが多く出現している国に行けばいずれ…ガーディアンベースだと他のことにも気を配らないといけなくなるからな…だから……」
決意を固めたヴァンの表情を見たプレリーは少し寂しそうに微笑みながら頷いた。
「分かったわ……でも…無茶だけはしないでね?」
「ああ、俺の帰る場所はお前のいるガーディアンベースだからな。定期的に連絡は入れる」
それだけ言うと二人の間に会話は無くなり、数日後の夜。
エールとかに知られると止められそうなので寝静まった夜に出発することにした。
見送る相手はプレリーだけだ。
「気をつけてねヴァン」
「ああ、プレリーも気を付けろよ…エールがいるから基本的には大丈夫なんだろうけどさ」
「……ええ」
「大丈夫だ。何があっても俺はプレリーの所に帰る。だから、ガーディアンベースで…俺の帰りを待っててくれ」
「ええ…行ってらっしゃい…ヴァン」
「行ってくる」
ダッシュでこの場を去っていくヴァン。
プレリーはヴァンの背中を、今は自分だけが見られる大切な人の背中を誇らしい気持ちで見つめていた。
モデルOの機動力もあってヴァンの姿は瞬く間に見えなくなるが、プレリーは動かずにずっとヴァンが去っていった方角を見つめていた。
「…お姉ちゃん、シエルお姉ちゃんもお兄ちゃん…ゼロがミッションに出る度にこんな気持ちでゼロを送り出していたのかな?」
思い出すのは何時も“お姉ちゃん”が“お兄ちゃん”がミッションに行く際に見せていた不安そうな表情。
幼い頃の自分も“お兄ちゃん”を心配していたが、きっと“お姉ちゃん”は自分より遥かに心配していただろう。
そして不安を抱えながらも誰よりも“お兄ちゃん”を信じていたことも。
「今ならシエルお姉ちゃんの気持ちが分かるよ。世界で一番大好きな人が危険な場所に行くんだから心配で仕方ないよね…本当は行かせたくなくても状況がそれを許してくれないことの苦しさや理不尽さも…でもね、シエルお姉ちゃん…ヴァンのことが心配なのは確かなの…でも、何でかな?私ね…もう不安じゃないの。約束を守って…セルパンを倒して、モデルVを破壊して私の所に帰って私の名前を呼んでくれたヴァンが、イレギュラーなんかに負けるはずがないって信じられるの…根拠も何もないのにね。見てるシエルお姉ちゃん?私の大好きな人はとっても優しくて、少し鈍くてデリカシーがないけど、強い心と勇気を持った人だよ。シエルお姉ちゃんが大好きだったゼロにも負けないくらいに。 」
この場にいない“お姉ちゃん”にプレリーは語りかけ、プレリーは手を組んでヴァンの無事を祈った。
「行ってらっしゃいヴァン…私はガーディアンベースでいつでもあなたの帰りを待ってるからね…何年かかっても…私はあなたを…ヴァンを信じてる…!」
朝になるまでにエール達にどう説明するかを考えながら、プレリーはガーディアンベースでヴァンの帰りを待つことにしたのであった。
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