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戦国異伝供書

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第九十話 尼子家の謀その六

「それに相手もそうしてくることは読んでおる」
「相手の読み通りには動かぬ」
「そうしてはかえってな」
「戦はよくないですな」
「戦は敵に考えを読ませぬことじゃ」
 そうしてというのだ。
「戦うことじゃ」
「だから籠城はせぬ」
「うって出てじゃ」
 そのうえでというのだ。
「我々はじゃ」
「是非ですな」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「そうしますな」
「左様、どちらの家との戦でもな」
「籠城はせず」
「うって出てすぐに終わらせるぞ」
「勝って」
「その様にする、よいな」
 こう志道に話した。
「ではな」
「それでは」
「四郎達がおってよかった」
 ここでだ、元就は元網のことも話した。
「実にな」
「はい、四郎様の武勇があれば」
 まさにとだ、元就は言った。
「大内家や尼子家ともです」
「急襲してな」
「そして勝てますな」
「それが出来る、逆に四郎がいなかったなら」
「力技も出来ませぬな」
「やはり家は一つになってこそじゃ」
 元就はここでしみじとした声になって述べた。
「よいのじゃ」
「内で揉めますと」
「その分力が弱まるわ」
「全くですな」
「わしは源氏の様にはならむ、むしろ主家ではなく敵の家であるが」
「平家ですか」
「あの家の様になるべきだと思っておる」
 こう志道に話した。
「むしろな」
「家の中がまとまっているからですな」
「そうじゃ」
 元就も毛利家の祖先が大江広元であると知っている、鎌倉幕府の重臣であったこの者の子孫であるとだ。
 だがそれでもだ、彼は源氏についてはこう言うのだ。
「あれだけ身内同士で殺し合ってはじゃ」
「どうにもなりませぬな」
「家が弱まって滅ぼされるわ」
「戦国の世では」
「そうでなくとも自滅する」
 そうもなるというのだ。
「誰もいなくなるわ」
「その源氏の様に」
「そうじゃ、それでじゃ」
「平家の様にですか」
「なるべきだと思っておる、そもそも我等は平家と同じく厳島の社を崇めておる」
 元就はこのことについても話した。
「だからな」
「それで、ですな」
「余計にじゃ」
「平家の様になるべきとですな」
「思っておる、入道殿は家をよくまとめておられた」
 平清盛、彼はというのだ。
「あの方が存命の間平家は乱れたか」
「いえ、一度も」
 全くとだ、志道は答えた。
「そうしたことは」
「そうであったな」
「入道殿は平家物語ではとかく言われていますが」
「その実はな」
「平家の家中も家臣もまとめておられました」
「そして優れた政をしておられた」
 このことについてもだ、元就は話した。 
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