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【完結】RE: ハイスクール D×D +夜天の書(TS転生オリ主最強、アンチもあるよ?)

作者:羽田京
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第3章 奪われし聖なる剣
  第18話 人間的な、あまりにも人間的な

「ん?ゼノヴィアは、どうして駒王学園に残っているのだい?」


 数日前、紫藤イリナは、5本のエクスカリバー――の破片を手に、教会本部へと帰って行った。
 その笑顔は、引きつっており、虚勢を張っているのが丸わかりだった。


 ――エクスカリバーを折られ、神の不在を知らされた。


 熱心な信徒としては、激しく動揺しても仕方ないのかもしれない。
 とはいえ、より強い信仰心を得ることで、無理やり平静を取り戻していた。
 衝撃の余り転生悪魔となったゼノヴィアと比べて、どちらが正しいのだろうか。


「ああ、少し思うところがあって、な。
 学園生活に興味があったから、教会本部に頼んで転校させてもらったのだ。
 いまは、転生悪魔としてグレモリー眷属になっている」

「グレモリー先輩から、話だけは聞いていたが。
 実際、目の当たりにすると、驚くよ。
 紫藤イリナは、そのまま帰ったのだろう?」
「……そうだな。それについては、彼女に申し訳なく思う」


 歯切れ悪くごまかそうとするゼノヴィア。
 ボクたち八神家の面々は、コカビエル戦では不在だった。
 ゆえに、現場におらず神の不在を知らない――ことになっている。
 したがって、『神の不在がショックで悪魔になった』と本当のことを明かせないのだろう。
 実際は、原作知識とサーチャーからの情報で筒抜けだったが、彼女たちが知る由もない。


「そうか。同じ学び舎で生活する仲間だ、仲良くしよう。
 これからもよろしく、ゼノヴィア」
「こちらこそ、よろしく頼む、八神はやて」

(それにしても、貴重なデュランダルの使い手をみすみす手放すとはね。
 天使陣営は、神の不在をよほど知られたくなかったのか?)


 白々しい台詞とともに、ゼノヴィアと会話にいそしむ。
 悪魔となった彼女と親しくするつもりは全くないが、おくびにも出さない。
 不慣れな転校生に優しく接する優等生として、振る舞うことにする。


「いろいろと為になる話をありがとう――八神さん」
「裏の関係で世話になるだろうからね。もちつもたれつ、さ」


(いや、事件を解決した報酬かもしれないな。同盟を組む対価の可能性もある)


 笑顔で別れの挨拶をすませ、次の授業の準備をする。
 まだ出会って数日の仲だ。
 原作の登場人物ではあるが、とくに親しみは湧かない。


――短い間つきあいになるだろうけどね


 最後の小さな呟きは、誰にも聞こえることはなかった。





 そこは、冥界のとある無人地帯の平原「だった」


 だが、いまや見る影もない荒野のごとき有様になっている。
 あちこちにクレーターができ、辺り一面が、むき出しの地面に覆われている。
 近くに寄れば、激しい戦闘の跡が、なまなましく刻まれていることが分かる。


「白龍皇の俺とここまでやりあえるとはな。人は見かけによらない典型例だ。
 口だけの女ではなかったか――八神はやて」
「お褒めにあずかり、光栄だよ。
『歴代最強の白龍皇』という看板は伊達ではなかったようだね――ヴァーリ・ルシファー」


 主の傍らで、会話を聞きながらも、シグナムは先ほどまでの光景を思い出していた。


(凄まじい試合だった……)


 リインフォースとユニゾン――合体みたいなもの―――した八神はやてと、白龍皇ヴァーリ・ルシファーの試合。
 両者の戦いは、熾烈を極めた。


 試合の開始と同時に、はやては、騎士丈シュベルトクロイツを手に突撃した。
 魔道師タイプだと思っていたヴァーリは、一瞬だけ反応が遅れる。
 その一瞬を突いて、全力の突きを放った。
 禁手化した鎧で、跳ね返し反撃しようとしたヴァーリだったが、あまりの衝撃に吹き飛ばされてしまう。
 魔法による身体強化を使った予想外の重い一撃に、驚愕の表情を浮かべていた。


 ヴァーリを吹き飛ばしたはやては、反動を利用し飛行魔法『スレイプニール』を行使。
 射撃魔法をばらまきながら、全速力で、距離を取る。
 しかし、ほぼ無傷の状態で、復帰したヴァーリが、素早く間合いを詰めようとするも――


『クラウソラス・ファランクスシフト』
――『Claiomh Solais Phalanx Shift』


 直射型砲撃魔法を瞬時に大量展開し、数千発にも及ぶ砲撃で面制圧を試みる。
 逃げ場がないヴァーリは、被弾覚悟で、威力を白龍皇の力で半減しつつ進もうとするが、衝撃までは殺せない。


――『Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide!』

『くっ、威力もあるが、それ以上に衝撃が厄介だ!』
――『ここまで苦戦するとは。見かけによらずエグイ戦い方だな』


 このままでは、距離が離されてしまう。
 不意を突かれたが、相手は、間違いなく遠距離射撃タイプ。
 いまのまま離されては負ける、と直感した。
 ヴァーリは、相手を強敵と認め、早々に切り札を使うことにする。


『我、目覚めるは──』
(消し飛ぶよっ!)(消し飛ぶねっ!)

 それは覇の呪文。
 ヴァーリの声と重なって歴代所有者の怨念混じりの声が響く。

『覇の理に全てを奪われし二天龍なり──』
(夢が終わる!)(幻が始まる!)

『無限を妬み、夢幻を想う──』
(全部だっ!)(そう、全てを捧げろっ!)

『我、白き龍の覇道を極め──』

『『『『『『『汝を無垢の極限へと誘おう──ッ!』』』』』』

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!』


 秘められた力を解放した白龍皇は、雨のように降りそそぐ砲撃をものともせず、急接近する。
 しかし、ある程度、距離をとることに成功したはやては、砲撃魔法の嵐の中で、詠唱を開始していた。
 詠唱が完了したときは、ちょうど砲撃が鳴り止んだ頃――だが、ヴァーリは未だ追いつけない。
 

『――響け終焉の笛、ラグナロク!』
――『Ragnarok』


 原作はやての最大魔法『ラグナロク』を展開し、放つ。
 この直射型砲撃魔法は、効果の異なる3連撃を放ち、着弾と同時に周囲を巻き込み破壊をもたらす。
 強力な広域せん滅魔法であり、一撃で駒王町を廃墟にできる。
 それを、直前まで連射された砲撃魔法の影響で、ヴァーリが硬直した瞬間に放った。
 キノコ雲を量産し、土煙が晴れたときには辺りは、世紀末の様相を呈していた――


「まさか、ここまで強いとは思ってもいなかった。
 単純な力比べでさえ、ありえないほどの力だった――ちんちくりんのくせにな」
『しかし、本来の姿は、小学生にしかみえん。おそろしい女だ』

「……ぐっ!人が気にしていることを言わないでくれ」


 戦闘が終わり、いまは和やかに会話している。
 ユニゾン状態では、変身魔法が維持できないため、はやては本来の姿だ。
 つまり、9歳女児にしかみえない。
 主が、ヴィータとよく愚痴り合っている姿を、シグナムは目撃していた。


 結局、ラグナロクを発射したところで、試合はお開きになった。
 あの砲撃の中でも、ヴァーリは無事だった。
 しかし、結界が耐えられなかった。


「主はやて、そろそろ場所を移しませんと、堕天使の連中に気取られる可能性があります」
「シグナム?……ああ、そうだった。結界がもたなくてドローとはね」

「いや、俺の負けさ。実際、あのまま試合を続けていたら、負ける可能性が高かった」
「へえ?『あの状態のまま』だったらそうかも、ね。
 ヴァーリは、まだ切り札を隠し持っているだろう?」

(まさか、『覇龍(ジャガノート・オーバードライブ)』まで使用してくるとは、思わなかった。あれは、かなりのリスクを伴うはずだが……。
 現在の時点で、他に切り札があるとは思えないが、油断はできない)

「そういうはやても、あれが全力ではないだろう?」
「お互い肩慣らしには十分だったな。ヴァーリは、模擬戦の相手に苦労していそうだ」

「よくわかったな。いつも手加減が必要だったから、ストレスが貯まってしょうがない」
「ボクもさ。ちょうどいい練習相手ができて感謝している」

(実際、助かったな。『覇龍』状態のヴァーリ・ルシファーが相手ならば、『本気の3割』くらいで互角か。向こうは本気ではなかっただろうが、こちらも手を抜いていたから、そう的外れでもないだろう)

「ははっ、そうだな。あらためて、ヴァーリ・ルシファー、今代の白龍皇だ。
 これからよろしく頼むよ、八神はやて」
「こちらこそ、世話になる、ヴァーリ・ルシファー。ボクは、八神はやて。
 夜天の王を名乗っている。いつもは、姿を変えているので間違えないようにな」


 お互い笑みを浮かべながら握手を交わす。
 初めて全力で暴れることができて、主は嬉しそうだ。
 笑顔の彼女を見て、シグナムは、こわばっていた肩の力が抜けていく。


(白龍皇の力は凄まじかった。
 こちらと違って、向こうは非殺傷設定などないからな。
 万一に備えていたが、杞憂に終わってよかった)

(わたしもホッとしているよ、烈火の将)

(リインフォースか。実際のところ、主はやては、どこまで全力だったのだ?)
(ほとんど全力ではないな。マスターは、力の半分も出していない。
 おそらく、全力で戦えば二天龍を凌駕できるだろう)

(……っそこまでなのか。
 悔しいが、現在の私たちヴォルケンリッターでは、主を守ることが――)
(いいえ。マスターは、烈火の将たちの考えをお見通しの様子。
 貴女たちの強化計画を考えてあるそうだ)

(ふっ。そうか。主はやてには、敵わないな。
 臣下を――家族を心から大切に思われている。
 ならば、忠義をもって、主の信頼に答えるのみ)


 はやてたちは、ヴァーリの仲間に迎えられ、無事に禍の団に入ることが出来た。
 謎の神器『夜天の書』については、耳ざとい者は知っているようにみえる。
 人間だということで、旧魔王派などは、不快感を示していたものの。
 ヴァーリの仲間ということで、表面上は何も言ってこなかった。
 その一方で、英雄派の幹部たち――とくに曹操――は、歓迎していた。


『彼らと慣れ合うつもりはないよ。どうせ短い付き合いだしね』


 彼女は、なおも続ける。


『ボクたちが起こす戦争は、彼らの望む戦争とは異なる。だって――』


――――戦争ではなくて虐殺なのだから


 主はやては、淡々と無表情で告げた。
 主なりの覚悟の現れなのだろう。
『仇打ち』でも『復讐』でもなく『虐殺』や『浄化』という表現を使うようにしていた。
 しかし、シグナムは見逃さなかった。
 憎悪を燃やす主の瞳に隠れた淡い感情は――苦渋と寂寥。





「どうしたものかしら……」


 リアス・グレモリーは、ため息とともにつぶやく。

 先日、コカビエルたちを激闘の末に打ち破った。
 敵は、堕天使幹部、上級堕天使3名、聖剣使い3名を含むエクソシスト4名、ケルベロス。
 明らかに、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームよりも、数段上の戦力。
 この戦力を、グレモリー眷属のみで、打ち破って見せたのだ。
 しかも、デュランダル使いのゼノヴィアが、『騎士』となり、単純な戦力も向上している。


「最近、激戦続きよね――赤龍帝のせいかしら」


 龍は、戦いの因果を呼び寄せると言う。
 あれから過去の赤龍帝を調べてみたが、歴代たちは、常に激しい戦いの中を生き抜いていた。
 敵は白龍皇のみではない。まるで、何かに導かれるかのように戦いに巻き込まれる。
 最近の出来事を振り返ってみれば、確かに、戦いを呼び寄せているのだろう。
 まあ。同時に異姓も引き寄せるらしいが。


「ふふっ。まさか私が一誠に惹かれるなんて、思わなかったものね」


 実際、一誠は、オープンなスケベだが、女性に細かな気遣いを忘れない好男子だ。
 隠れて厭らしい目で見てくる連中よりも、その堂々とした表裏のない態度が、好ましいと感じる。
 あばたもえくぼかもしれないが、戦いの時の凛々しい姿と普段のギャップが、特に好きだ。


「問題は、ライバルが多くなりそうなことよね。
 やっぱり、悪魔らしくもっと積極的にモーションをかけるべきかしら」


 リアスを含めたグレモリー眷属の女子は、少なからず一誠に興味を持っている。
 彼に気を惹かれるようになって、観察していたから気づけた。
 ただし、向けている感情は、まだ恋には至っていないと、リアスは分析している。 
 たとえば、アーシアに関しては、一誠宅にホームステイしているものの、親愛の感情しかないように思える。
 だが、ゼノヴィアは、極端だ。


「そういえば、昨日は、一誠が、ゼノヴィアに子作りをせがまれていたっけ。
 なんというか、悪魔らしいというか、悪魔に染まりすぎよ。
 教会にいると、よほど欲求不満になるのかしら。
 まあ、彼女は極端だと思いたいわ……いえ、極端で合って欲しいわね」


 紫藤イリナといいゼノヴィアといい、どうも天使陣営の知り合いはイロモノばかりだ。
 あれが標準だとは思いたくない。だって、


「――だって、これからは同盟関係になるんですものね」


 コカビエルの一件を重く見た、三大勢力の上層部は、休戦協定を結ぶことになったのだ。
 堕天使の総督であるアザゼルの呼びかけだというところが、多少うさんくさいが。
 けれども、お互いじり貧で、大戦争を起こそうものなら、滅亡一直線。
 三者の見解は一致しており、驚くほどスムーズにトップ会談が実現した。


「きっかけが、戦争を望んだコカビエルのせいだというのは、皮肉よね」


 堕天使コカビエルは、教会から聖剣エクスカリバーを強奪し、グレモリー眷属に敗れた。
 見事に、堕天使・天使・悪魔の三大勢力が関わっている。
 事件の終息に向けた交流が、呼び水になったのは間違いない。
 会談予定の場所は、駒王学園。
 一連の事件の関係者として、リアスたちも立ち入りするように要請されている。


「戦争の恐れがなくなれば、少子化の問題も解決が容易になることは間違いない。
 悪魔は、さらなる発展の段階にすすめるはず」


 実に、喜ばしいことだ。
 しばらくの間は、ぎくしゃくするだろうがトップが協力すれば何とかなるだろう。
 ただし、やはり反発する者も多い。
 コカビエルが残した言葉は、正しいのだ。
 これからは、戦争を望むものたちの企みに注意を払う必要がある。
 

「どうしたものかしらね……」


 もういちど、嘆息する。
 リアスたちは実力をつけ、悪魔陣営の希望もみえてきた。
 すべては、順風満帆と言っていいだろう。
 だが、ため息が止まらない。なぜなら、


「――――八神はやて。貴女は何を考えているの?」


 レーティングゲームの一件もあり、リアスは、なるべくはやて達と親しくなろうとした。
 ライザー・フェニックス戦で見せた実力。グレモリー眷属を鍛えた能力。
 いまの自分たちの強さは、八神家の協力があってこそ、だとリアスは理解している。
 とはいえ、いろいろと気にかけてはいたが、成果は芳しくなかった。
 不仲というわけでもない。


 ゆえに、時間をかけてゆっくりと仲良くなろうと考えていた。
 しかし、最近、彼女たち八神家の動きが気になる。
 具体的に何が気になるのか、と問われても答えられない。
 どうも胸騒ぎがするのだ。


 とくに、コカビエルの一件の前後から、動きが妙だ。
 意図的にこちらを避けているようにみえる。
 ものは試しと、駒王協定への参加を要請したが。

『客人がでしゃばるべきではない』

 と、にべもなかった。


「そういえば、アーシアが相談しにきたことがあったかしら。
 笑って、気にしないように、と答えたけれど――まさか、ね」


『はやてさんが、急に余所余所しくなった理由に心当たりはありますか?』


 アーシアは真剣な表情で尋ねてきたが、彼女がグレモリー眷属になる前から、はやてとリアスは、適度な距離感を保っていた。
 アーシアを助けるために深く関わったが、これは例外と言える。
 だからこそ、心配ないと諭したのだ。けれども、


――――はやてさんは、わたしたち悪魔を憎悪しています。


 あのとき、アーシアがリアスに放った一言が、なぜか耳に残り頭を離れなかった。
 
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