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星々の世界に生まれて~銀河英雄伝説異伝~

作者:椎根津彦
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疾走編
  第二十五話 やっぱり大事件

宇宙暦791年3月16日02:30 ヴァンフリート星系、ヴァンフリートⅣ、EFSF旗艦リオ・グランデ
ヤマト・ウィンチェスター

 大変な事になった。想像した通りサイオキシン麻薬だ。
この麻薬撲滅に関しては同盟帝国が唯一協力した過去があるくらいの強力な麻薬だ。
同盟軍自体が絡んでいるかも、って言ったらシェルビー大佐がめっちゃ怒ったよ。まあ、怒るよな。ビュコック提督もいい顔はしていなかったし、イエイツ少佐は天を仰ぐし、オットーは真っ青な顔するし…。
味方の悪口は言いたくないけど、みんな想像力を働かせてくれよ…。



3月15日20:15 ヴァンフリート星系、ヴァンフリートⅣ、EFSF旗艦リオ・グランデ
ヤマト・ウィンチェスター

 「軍が密輸密売に絡んでいるというのか?ウィンチェスター、想像の翼を働かせ過ぎじゃないのか?」
「民間船は来ない、となれば可能性は一つではないでしょうか、大佐」
「しかしだな」
「大佐、まあ待ちたまえ。本隊の全艦艇で精密検索させよう、すぐに結果は出るよ」
「了解しました」
「儂とていい気はせん、じゃが大尉とて好き好んで味方が悪さをしとるとは言わんじゃろう」
「仰る通りです」



3月15日23:40 ヴァンフリート星系、ヴァンフリートⅣ、EFSF旗艦リオ・グランデ
ヤマト・ウィンチェスター

 精密検索の結果、潜んでいた同盟軍の駆逐艦がいた。しかも嚮導用に改修された特別なやつだ。
発見した戦艦からの報告によると、こちらが臨検しようとすると発砲して逃走しようとしたらしく、機関部を破壊して拿捕したそうだ。駆逐艦の乗組員は旗艦に連行されるという。
「ウィンチェスター、君が尋問したまえ」
「小官がですか?お言葉ですが大佐、小官は尋問の経験はありませんが」
「今日がその初めてだ。…私がやると、彼らを殴ってしまいそうなのでね。提督、よろしいでしょうか」
「いいだろう。じゃが大尉一人では心許ない。バルクマン大尉、貴官は同期を見捨てるような真似はすまい?助けてやりたまえ」
「了解しました。一つ貸しだぞ、ヤマ…ウィンチェスター大尉」
「エル・ファシルに戻ったらな。…ウィンチェスター大尉他一名、連行中の乗組員が到着次第、尋問にかかります」
「うむ」



3月16日00:45 ヴァンフリート星系、ヴァンフリートⅣ、EFSF旗艦リオ・グランデ
オットー・バルクマン

 「お前といると楽しいよ、ヤマト」
「ああ、楽しいだろう?」
「お前の事だ。どうせ結末はわかるんだろう?今回は俺にも想像はつくけどな」
「そうだな。多分サイオキシン麻薬だろう」
「だよなあ。こんな場所でやるなんて、売り手も買い手も馬鹿だよなあ。もしどちらかが帝国ならだぞ、フェザーン経由でやればいいのに…おっと、俺はサイオキシン麻薬を肯定してる訳じゃないぞ?」
「そんな事は分かってるよ。…フェザーンを通すと確かに楽だろうが利益は減るし、バレる可能性がある。だからこっち側なのさ」
「ああ、賄賂やら口止め料でマージンがかかるからだろう?でも利益は少なくてもそっちの方が安全じゃないか?」
「安全を求めるなら国をまたいで密輸なんてやらんだろうさ。売り手も買い手も、お互い国内では足がつきやすい。俺は卸し元は同盟側で、買い付け業者が帝国側だと思っているよ」
「じゃあ、まさか製造工場がヴァンフリートにあるのか?」
「あるだろう、いや、あるね」
「でも、ヤマトさあ、提督呼び出した時言わなかったじゃないかそれ」
「あの時点でそれを言ったら、シェルビー大佐にもっと怒られるだろうが。嫌だよ、怒られるの」
「お前なあ…」
「多分、提督は工場の場所を知っているよ」
「何だって!?」

 ちょっと飲み物貰ってくるわ、と言って、ヤマトは食堂に向かった。提督が工場の場所を知っている?
そんな馬鹿な、だったら提督が密輸を見逃しているか、一味の関係者って事になるじゃないか。いくらお前でもそれはあり得ないぞ。



3月16日01:30 ヴァンフリート星系、ヴァンフリートⅣ、EFSF旗艦リオ・グランデ
オットー・バルクマン

 「馬鹿な…ヴァンフリートⅣ-Ⅱにサイオキシン麻薬の生産プラントだと?」
「はい大佐。この場合捕虜…と呼称しますが、捕虜の申告によりますと、我々が接近して来たので生産プラントの稼働を停止、全電源をカット。我々がこの星系から去るのを待っていたようです。捕虜の乗っていた嚮導駆逐艦は我々の動向を観測するために潜んでいたようです」
「…稼働停止、電源カットか。そうすれば確かにセンサーには引っかからんな。近付いて目視しないと分からん、という訳か」
「はい大佐。それでですが…」
「…ウィンチェスター大尉、一端止めたまえ。ここからは儂の部屋で話そう。大佐も少佐も来たまえ。バルクマン、しばらく頼む」
「了解しました」
 皆、凹んだ顔して戻って来るんだろうな。楽しいね全く…。



3月16日02:30 ヴァンフリート星系、ヴァンフリートⅣ、EFSF旗艦リオ・グランデ
ヤマト・ウィンチェスター

 大変な事になった。想像した通りサイオキシン麻薬だ。
この麻薬撲滅に関しては同盟帝国が唯一協力した過去があるくらいの強力な麻薬だ。同盟軍自体が絡んでいるかも、って言ったらシェルビー大佐がめっちゃ怒ったよ。まあ、怒るよな。ビュコック提督もいい顔はしていなかったし、イエイツ少佐は天を仰ぐし、オットーは真っ青な顔するし…。
味方の悪口は言いたくないけど、みんな想像力を働かせてくれよ…。

 「では提督はヴァンフリートⅣ-Ⅱに秘密の補給基地が建設される事を知っておられたのですか?」
「大佐、儂だけではない。各艦隊司令官は皆知っておる。儂は正規艦隊司令官ではないが、警備宙域にヴァンフリートも入っておる都合上、知らされておった。まさか麻薬が作られておるとは思わなんだ」
「…では艦隊司令官のお歴々も知らないのでしょうか?この現状を」
「知らんじゃろう。ヴァンフリートⅣ-Ⅱには近寄るな、と口頭で通達されているからな。儂が分艦隊を先に行かせたのもその為じゃ。何もせずに通り過ぎても別に不審ではないからの」
「となると極秘な事をいいことに不正を働く輩がいる事になります。提督、プラントを破壊して、一味を拘束しませんと」
「そうじゃ。じゃがまずは連絡じゃ。大佐、宇宙艦隊司令部にFTL(超光速通信)を。そして…」
「お待ちください」
「何だね、大尉?」
「宇宙艦隊司令部への連絡は控えた方がよろしいかと思われます。宇宙艦隊司令部に一味に通じる者がいた場合、そこから情報が一味に漏れる恐れがあります」
「貴様!軍上層部までもが不正をしていると言うのか!」
「不正をしていると言った訳ではありません。…知り合い、例えば同期や先輩後輩、友人、教え子、お世話になった方々が一味に居て、その人が不正を働いているかもしれない、または関わりがあるかもしれない、となったら、大佐はどうしますか?不正をしている事におぼろ気ながら感づいている場合もあるでしょう、その時、大佐ならどうしますか?何らかの遠回しな忠告をするのではありませんか?ヴァンフリートⅣ-Ⅱに基地が建設予定である事を知っているのはほんの一部なのですよ?上層部と一味が極めて近い所にある、と小官は考えます」
「不正を見逃す、というのか?上層部が?有り得ないだろう!」
「…見逃すとは言っておりません、情報が漏れるかもしれない、と申し上げております」

 完璧に怒らせちゃったなあ。大佐だって知人や友人が宇宙艦隊司令部にもいるだろうしなあ。そこから漏れる、って言ったようなもんだからなあ。不正はいけない事、なんて誰でも分かってるよ。でも極秘の場所で不正が行われている、となったら、そこで不正を行っている人間は、その場所が極秘である事を知っている奴だろう?となるとこの場合、麻薬密売をやっている人間は上層部に近い人間、ということになる。
「大佐、落ち着きたまえ。…どうすれば良いと思うかね、大尉」
「まずはプラントにいる者達を拘束すべきです。麻薬製造にも原材料は必要です。基地の建設資材に紛れ混ませているのでしょう。輸送計画を知る事が出来れば、大元にたどり着くかもしれません。若しくはプラントにいる者が生産の指示を出している人間の名を知っているかもしれません。まずは拘束が先です。本隊にも、拿捕したものと同じタイプの嚮導駆逐艦があったはずです。拿捕したものは機関部を破壊していますから、うちの物を使いましょう」
「なるほど、一味を装ってプラントに向かう訳じゃな」
「はい。一味が我等の動向を観るのにわざわざ駆逐艦を派遣したという事は、観測手段が無いか、センサーの性能が限定されているのでしょう。拿捕した乗組員を装って連絡すれば接近は容易であると思われます。生産プラントの稼働停止、全電源カット、という証言からすると、現在、一味の生命維持は宇宙服に頼っているものと推測されます。彼等が派遣した駆逐艦からの連絡がないと、何をするかわかりません。あまり時間的余裕が無いと思われます」
「分かった。大佐、大尉の推測が妥当だろう。嚮導駆逐艦の準備と逮捕に向かう陸戦隊の準備、指揮は君がやりたまえ。儂も怒っとるが、怒りは君の方が大きいだろう、思い知らせてやりたまえ」
「はっ。シェルビー大佐、これより準備にかかります。準備でき次第、出発します」
「少佐は艦橋に戻りバルクマンと替われ。別名あるまで哨戒第一配備を継続」
「はっ!イエイツ少佐、哨戒第一配備の指揮を代行します」



3月16日02:45 ヴァンフリート星系、ヴァンフリートⅣ、EFSF旗艦リオ・グランデ
アレクサンドル・ビュコック

 捜査やら何やら…こういう任務は苦手じゃな。しかも身内が絡んでおる。後味の悪い事じゃ…。
やはり優秀な若者じゃ。宇宙艦隊司令部から情報が漏れるかも知れんとは中々言えまい。そりゃ大佐も怒るじゃろうて。それはさておき、全くどこにも連絡しないという訳にもいかん。どうするかのう。
「バルクマン、第八艦隊とFTL(超光速通信)を繋げてくれ。シトレ提督と話がしたい」
「了解しました」
「ウィンチェスター大尉、貴官はシトレ提督を信用出来るかね?」
「軍人としてでしょうか?友人として、でしょうか?」
「ふむ…両方かの」
「私などより提督の方が、シトレ提督の人為にお詳しいのではありませんか?」
「ふむ、確かに知っておるがの。優秀で、信頼出来る方だとは思うのじゃが…直接話した事はないんじゃよ」
「…私も話した事はありません。そもそも艦隊司令官でお名前を知っているのはシトレ提督とロボス提督、グリーンヒル提督くらいなものでして」
「ハハハ、皆が知っておる事を知らんとはな。逆に皆が知らん事をよく見ているんじゃろうが…で、どう思うかね?」
「失礼しました。信用すべきだと思います。今からでも遅くはありません、友人になさるべきです」
「友人、か。これまた難しい事を言うもんじゃて…バルクマン、繋がったか?」
「はい。今はヤン中佐が出ておられます」
「よし。極めて重大な内容だから、シトレ提督に自室に移動してもらいたいと伝えてくれんか。ああ、貴官等はここに居って構わん」


 “シトレです。極めて重大な内容と聞きましたが”

「直接お話するのは初めてですな。アレクサンドル・ビュコックです。実はヴァンフリートⅣ-Ⅱで厄介な事が起きております」

”ヴァンフリートⅣ-Ⅱ…ああ。ビュコック提督の横に二人姿が見えますが、よろしいのですか?“

「起こっている事の性格上、話さざるを得ませんでした。どうもサイオキシン麻薬の生産プラントがあるようなのです。というより、あるのですが」

”宇宙艦隊司令部には報告されたのですか?“

「いや、場所が場所だけに上層部が絡んでいるかもしれない、報告すると賊に情報が漏れる恐れがある、とここに居るウィンチェスター大尉に進言されましてな。現在陸戦隊が向かっておりますが、全く誰にも伝えない訳にもまいりません。そこで連絡させてもらった訳です」

”なるほど。私は信頼されている訳ですな“

「はい。小官は現場叩き上げで艦隊司令官の方々とも知り合いがおりません。悩んだ結果、こうしてお話させて頂いております」

”わかりました。ヴァンフリートⅣ-Ⅱの事を知っている者は限られております。現地の情報をいただければ、お力になれるでしょう“

「いや、ありがとうございます。判明しているものから随時、送らせてもらいます」

”期待しております。では“



「…いや、話してみるものだな。ありがとう、ウィンチェスター大尉」
「いえ、小官は何もしておりません、恐縮です」
「よろしいでしょうか、提督」
「何だね、バルクマン」
「今思いますと、小官がヴァンフリートに向かおうなどと進言しなければ、こうはならなかったのではないかと…」
「いや、貴官の進言に間違いはなかった。ヴァンフリートは確かに戦いづらい、誰も足を運ぼうとは思わん。じゃが警備宙域に含まれとる以上、行かねばならんからな。それより儂の頭の中はヴァンフリートⅣ-Ⅱの事をどうやったら悟られんようにするかで一杯じゃったよ」
「ありがとうございます」
「それに麻薬密売などという不正している輩も発見出来たしな。そこでじゃが、売り手はカタがつく。問題は買い手じゃ。やはり帝国かの、ウィンチェスター」
「同盟軍艦艇を使用しているということは、基地建設資材を運ぶ輸送艦に原材料を紛れ込ませている訳です。ヴァンフリート帰りの輸送艦に物を積んでいると不審ですし、だからといって出来上がった麻薬をⅣ-Ⅱに積み上げる訳にもいかないでしょう。ヴァンフリート近傍で麻薬を売れそうな市場となるのは一番近いのはエル・ファシルです。エル・ファシル警察が公表している犯罪検挙のグラフを見ましたが、サイオキシン麻薬事案はごく少数です。他の有人惑星やハイネセンの物も見ましたが、近年はやはりごく僅かです。ということは同盟領域ではあまりサイオキシン麻薬は出回っていない事になります。ということは買い手は帝国、またはフェザーンということになります」
「フェザーンか…この場合、フェザーンは除外しても良さそうじゃの」
「はい。ここから遠すぎますし、官憲に渡すマージンも馬鹿にならないでしょう。直接やり取りした方が利益も大きいはずです」
「となると、商品を受け取りに来るはずじゃな」
「はい」 
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