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神機楼戦記オクトメディウム

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第4話 舞いの神:前編

 姫子と弾神の力により呆気なく殲滅された三体の怪肢。
 その様子を見ていた大邪衆の一人である『夕陽かぐら』は、意を決したようにある行動に出る。
 それは、懐から道具を取り出すという行為であった。その道具はペンライトのような物である。
 ここまで来ると、次のかぐらの起こす行動は予想がつくだろう。そう、彼女も手に取った道具を天に掲げると、そのまま掛け声を唱えるのであった。
「よろしくお願いね、『イワトノカイヒ』♪」

◇ ◇ ◇

 一方こちらは今しがた先兵の殲滅を終えたばかりの姫子と弾神である。だが、決して姫子は油断などしてはいなかったのであった。
 そのまま、姫子は意を決してどこへともなく弾神を通して声を掛ける。
「さあ、先兵は倒したよ。という訳で、そろそろ本命が出て来てもいい頃じゃない?」
 その声は端から見ると、空しく空を切るかのように思えた。だが、幸か不幸がそれは杞憂に終わるのであった。
「さすがは蒼月の巫女といった所みたいだね~☆ 私の存在に感づいていたなんて」
 そのような台詞が鈴が鳴るような声によって、どこからともなく奏でられたのである。そして、その声の主は姿を現す事となるのであった。
 辺りに光が発生したかと思うと、気付けばそこには機械の巨躯がそびえ立つのだった。
 そう、それが意味をする事は。
「驚いたよ、まさか大邪も『神機楼』を繰り出してくるなんてね……」
「まあね、今後はあんた達巫女の専売特許だとは思わない事だね♪」
 売り言葉に買い言葉。どこか姫子とその大邪の少女は波長が合う所なのだろう。
 そして、その声の主が繰り出した神機楼を見ながら姫子は思う。
 ──これは、まるで中国製のフェニックス……即ち『鳳凰』を巧みに人型にあしらった代物みたいだな、と。
 まず、機体は夕焼け色と言えるだろう見事な橙色と朱色の中間といった感じであり、所々に艶やかな羽根飾りがあしらわれているのであった。
 それが人型をしているのだから、その機体はそこはかとなく『踊り子』を彷彿とさせる産物だったのである。
 ともあれ、姫子が今一番話題に持っていきたいのはそこではないのであり、それを彼女は口にする。
「でも、何であなたは邪神の使いなんて事を進んでやっているの?」
 それが姫子が一番知りたい事項なのである。誰が好き好んで人間の身でありながら邪悪な神の暴挙に手を貸すのだろうかと思う所であろう。
 だが、どうやらその答えは相手からは聞き出せそうにもなさそうである。
「もっともな疑問だけどね。これから私に殺させるあなたが知っても仕方ないでしょう?」
 それは至極真っ当にして冷酷な通告であった。この少女は本当に邪神に魂を売ってしまったというのだろうか?
「でも、どこの誰かも分からない者にそのまま殺されるのも辛いでしょう? だから、少しだけ教えてあげるね?」
 そう言うと、その少女は一呼吸置くと、一気にまくし立てるように口にしていった。
「この(神機楼)の名前は『イワトノカイヒ』っていうからよろしくね。そして、私は『大邪衆五の首 夕陽かぐら』。冥途の土産に教えといてあげたからね」
「『五の首』?」
 その聞き慣れない言葉に姫子は首を傾げるのだった。それは、敵の通り名のようなものであろうか?
 しかし、姫子にはその事以上に頭に引っ掛かるものがあったのである。
「ユウヒ……カグラ……? あれ、どっかで聞いたような……?」
 だが、今は機械の巨躯同士の戦闘が始まろうとしているのだ。そのような状況で頭を捻っていては命取りであろう。
「でもまあ、考えている場合じゃないよね。『迷いは自分を殺す事になる、ここは戦場だぞ』って昔の偉人が言っていたしね♪」
 ……それは少々別次元の話なのであった。
 ともあれ、再び姫子は意識を戦闘に向けると、どうやら敵の方から仕掛けてくるようである。
「ほらほら、戦闘中に考え事なんて余裕ね。こっちから行くわよ♪」
 そう言いながらかぐらは自身の搭乗する巨大な鳳凰を巧みに操る。
 その彼女が操る動きは、まるで踊りを踊るような振る舞いであるのだった。約15メートルのその巨体をそのように操るとは、搭乗者たるかぐらの巧みさを伺い知るには十分なものであろう。
 このような立ち振る舞いは、古来の日本に伝わる舞いの神である『アメノウズメ』を彷彿とさせるものがあった。そして、姫子はそのような動きを見ながらますます既視感を覚えてしまう。
(名前といい、この動きといい……やっぱりどこかで見た気がするんだよねえ……?)
 そう思いつつも、姫子は敵の動きに翻弄されつつあった。
 無理もないだろう。姫子は何度も言うように運動音痴なのである。対して敵の身のこなしは芸術の粋にまで達しているのだ。つまり、これは少々分が悪いというものであろう。
 そして、そんな姫子に追い打ちを掛けるようにそのまま敵は行動を起こす。
「さあ行くわよ。この子は身のこなしだけが取り柄じゃないんだからね?」
 そうかぐらが言いながらイワトノカイヒに行わせた事。それは手に扇のようなものを持たせるというものであった。
 それは一見舞踊に使うようなものであり、断じて今のような戦闘の最中には場違いな代物であろう。
 だが、かぐらはそのようなものを迷わずに愛機に振るわせたのであった。
 端から見ると酔狂なその行為。しかし勿論かぐらは気を違えてなどはいなかったのである。
 それを証明する事が起こるのであった。何と、扇いだその扇から光の筋が走ったのであった。
 それは光線──はたまた別の言い方をすればビームだのレーザーだのと言うような産物だ。それがかぐらの愛機の持つ扇から放出されたのである。
「っ!?」
 姫子はそれを間一髪で弾神に回避させるのであった。それは、敵の予備動作を見た後に無意識の内に行った事である。
 そして、その光線は無事に空を切り、事なきを得たのであった。
「ふう……、危なかったぜぇ~☆」
 姫子は女の子だというのに『ぜ』などと語尾に付けたのであった。別に彼女は男口調という訳ではないのだが、何となくこういう危機一髪な状況では口にしたい所であるのだった。
 だが、こうして余裕をぶっこいていられるのも今の内であるのだった。何故なら、今こうして敵の思わぬ光学兵器による攻撃を回避出来たのは幸運によるものだったからである。
 しかし、幸いな事に敵にはそれを覚られてはいないようであり、かぐらはこう言うのであった。
「さすがは蒼月の巫女ね。この程度の攻撃は避けられて当然って事だね?」
 そうかぐらは憮然とした態度で決め込むのであった。これまた幸いな事に、敵には姫子は運動音痴である事は知られてはいないようである。
 姫子はそんな今の状況をなるべく利用すべく、敵に自分のスペックは知られないように努めようと思い、そう素知らぬ顔で振る舞うのだった。
 しかし、その涙ぐましい努力が、どうやら事態の暗転を導いてしまったようだ。
「そんなあんたには、この子の真骨頂を見せてあげないといけないよね?」
 そうかぐらが言うと、イワトノカイヒは彼女を乗せたまま飛び上がったのであった。
 それは……決して比喩表現などではなく、文字通り機体が空へと舞い上がったのである。当然それを見た姫子は驚愕するのであった。
「嘘ぉ! 最初のボスから飛行ユニットって難易度高すぎるでしょ!?」
 ……これまたメタ発言が入っていたが、取り敢えず彼女の心情は驚きで支配されていた事を分かって貰えればいいだろう。
 そして、度肝を抜かれた姫子を尻目に、瞬く間にかぐらはその飛行高度を上げたのである。
 その後、姫子が安易に手を出せないだろう所まで来ると、彼女はまるで空中に足場があるかのように宙で静止をしてみせるという芸当をこなしたのだ。
 そして、かぐらはその体勢のまま、余裕の態度で以てこう言うのであった。
「どうかな? 自分の手に届かない場所にまで行かれるご感想は?」
「くぅぅ……空から相手を見下ろすって一度やってみたいけど、自分がやられると腹立つなぁ~」
 それは、中二病が抜け切っていない姫子ならではの感想だった。
 そんな姫子に、かぐらは内心「自分もそんな時期があったなあ」と感慨深い気持ちになっていたのである。
 だが、敵は自分の仕える邪神の邪魔立てをする忌まわしき巫女なのだ。故に同情は禁物なのであった。
(もしかしたら、私が大邪に選ばれなかったらいい友達になれてたかも……)
 このようなこそばゆい感情が頭をよぎるも、かぐらはそれを振り払い自分の役目を全うすべく行動に移し始める。
「さっきは同じ地面に立ちながらの攻撃だったからかわされたけど、今のこの状況ならどうだろうね?」
 そう言い切るかぐらが次に起こす行動は読めるというものであろう。彼女は先程と同じように愛機に光学兵器の扇を、空に陣取った状態から振り翳したのであった。
 そして、その光の凶弾は敵の鎧武者を貫──く事は無かったのである。
「一体何が……!?」
 獲物の喉笛に喰らい付いたと思っていた所にこの事態だ。かぐらが驚くのも無理はないだろう。
 そして、自らが下した鉄槌がふいに終わった理由は何であろうかと、かぐらは目を凝らして敵を見据えるのであった。
「そんなので、私の『輝扇』の一撃を防いだって言うの!?」
 そう言いながらかぐらが視線を送る先には、背に纏ったマントを前面に掲げている弾神の姿であった。
 その体勢のまま、姫子は口を開く。
「むぅ……、『そんなの』とは失礼な。このアンチビー──」
「はい、その先はアウトだからやめてよね!?」
 勿論、この弾神のそれはそのようなパクリな名称ではなく、『弾光衣』というれっきとしたものがあるのである。
 ともあれ、今重要なのは弾神にはそのような光学兵器による攻撃を防ぐマントが備え付けられているというものであった。
 この事は前もって和希から教えられていたが為に実行出来たというものである。この弾神にそのような代物がある以上、必ずそれを行ってくる敵がいるだろうと。
 ここでも、姫子は和希に教わると共に助けられるという一面を垣間見る事になったのである。
(やっぱり、あの人には敵わないなあ……)
 そうしみじみと姫子は思うしかなかったのであった。その大神和希という存在は、どこまでも立派な人物であろうかと。
 姫子はそのように和希に感謝の念を抱きつつも、現状は余り好ましくない事に変わりはない事を痛感するのであった。
 それもそうだろう。いくら自分は光学兵器を防ぐマントを要しようとも、敵は未だに空の上にいるのだから。
(やっぱり不利だよね……)
 そう相手に覚られないように、心の中で愚痴をこぼす姫子であった。だが、彼女にこの状況を打破する手がない訳ではなかったのであった。
 しかし、それを確実に決めるには、今はそれを見せるべきではない事を彼女は分かっていたのである。
 なので、ここはジリ貧になる『フリ』を決め込む事にしたのであった。
 そして、どうやら敵は乗ってくれたようである。
「さあさあ、いつまでもそうやって防戦一方なのは困るでしょう? 降参するなら命だけは助けてあげるよ♪」
「……」
 その敵の弁に、姫子は一瞬考え込む。──そのような事を言って、敵はそれを実行した後自分をどうするつもりなのかと。
 だが、それはほぼ一瞬の内に却下に尽きる事となるのであった。
 まず、自分が降参したとして、邪神は邪魔な巫女である自分をみすみす見逃すような事はしないだろう。捕らえたり洗脳したりして、無力化される事は想像に難くないのである。そのような事をされれば、とてもではないが自分はこれから先、健全な女子高生としての生活など約束されないだろう。
 そして、姫子自身が負けず嫌いという事もあった。と、言っても断じて自分より優れた者を認めず屁理屈や不平不満を言うような器の小さい形ではなく、自分が立ち向かった相手には背を向けないという、ほのかな武士道精神のような形のそれなのである。
 これは、伊達に彼女は鎧武者型の神機楼に選ばれてはいないという事であろう。
 それらの理由の元、姫子の口に発せられる言葉は決まっていたのであった。
「だが断る」
 だが、そのような英断もパクリであるのが姫子流であっちゃったのである。当然これには敵もツッコミを入れざるを得ない訳で。
「いや、あんたはどこぞの変態漫画家よ?」
 そう言いながらかぐらは密かに思っていた。──そういえば、『自分の所』にも『漫画家』が確かいたなあ、と。
 その者とは現時点では面識が薄いが、願わくば例の『変態漫画家』のような奇っ怪な趣味嗜好を持っていない事を望むばかりであった。ましてや、蜘蛛を捕まえて漫画の参考材料として「味もみておこう」等と言って舌でなめるような事をするのは言語道断である。
 ともあれ、折角のこちらの申し出は却下されたという事実に変わりはないのだ。故に、かぐらの心はここで決まったのであった。
「残念ね、あなたの事は殺さないでおけばいい友達になれたかも知れないのにね」
「え~、私のお父さんはいい人だよ~?」
「もう突っ込まないわよ?」
「う~☆」
 友人でありながら父親のせいで復讐対象とされて謀殺されたというそういうまた別次元の話には、もうかぐらは耳を貸さない事にしたのであった。何か敵同士なのに緊張感がないのはどうかと思うから。
 そして、かぐらはここから気を引き締める事とするのであった。確かに敵は自慢の『輝扇』による攻撃を防ぐ手立てを持ってはいる。しかし、この空からの攻撃にいつまでもそれが通用しはしないだろうと算段を立てるのであった。
 そう思いながら、かぐらは再び愛機に持たせた扇を振り上げるのであった。
「この、あんたにとって不利な体勢で、いつまで持つかしらね?」
 そして、かぐらのそのような憮然とした態度に乗せながら遂に再び光の弾が姫子とその搭乗機体目掛けて襲い掛かったのだ。
「何の!」
 だが、姫子は弾神に再びマントを前方に纏わせてその攻撃を弾き返す。
 その防御を見てもかぐらは臆する事なく攻撃を続けていった。
「空からの私の攻撃、いつまで防げるかな?」
 そのようにかぐらは自分の優位を感じながら攻撃を続ける。そして、次々に弾神のマントに当たっては光の弾は弾け飛んでいったのだ。
 それは、端から見ると無意味な攻撃に見えるだろう。だが、実際はそうではなかったのである。
 いくら光学兵器による攻撃を弾くといえど、そこに発生する衝撃を完全に殺せる訳ではないからだ。現に、姫子自身が弾神から送られてくる後退りの感覚をしっかりとその足で感じていたのだ。
「このまま押されっぱなしはマズいよね……」
 これでは長期戦になればなる程不利というものであろう。なので、姫子は善は急げという事で『ある事』を決行するのだった。
 そう意気込んだ姫子は両の手をコックピット内で前方へと掲げたのである。
 すると、その姫子の念を受けて弾神の手の平から不可視の波動が繰り出され、それがかぐらの愛機を包み込むように取り囲むのであった。
「一体何のつもりさ?」
 姫子のその突拍子のない行動に、当然かぐらは首を傾げる所である。
 そして、その答えはじきに分かる事となる。
「よしきた♪」
 事がうまくいった姫子は思わずほくそ笑むのであった。そんな姫子の眼前のモニターに変化が見られるのであった。
 そして、そこには土俵のような台と、周りに広がる闇。そう、姫子達の神機楼と同じく『それ』が映し出されようとしていたのである。
 姫子が今しがた行った行動、それは敵機のコックピットの内部の様子を映し出そうとするというものであったのだ。
 そのような事は、現代の技術が生み出した施設等ではプライバシー侵害もいい所であろう。だが、神機楼にはこのように神機楼同士で相手のコックピットの内部をお互いに見る機能が付いているのであった。
 姫子はこの事は和希から聞いて知っていた事なのである。それは、和希が今のように必要に迫られるだろう事を予期しての事であった。
 故に、姫子は和希に教えられた機能を今ここで使わずにいつ使うのだと腹づもりをして決行するに至ったという訳である。
 そして、その姫子の踏ん切りは項を制しようとしていた。そう、姫子が求める、敵のパイロットの視覚的情報である。
 その決定打となる情報を得た姫子は、そのまま驚愕してしまったのであった。 
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